12.ギャップ
「リオン、何かしたいことはある?」
可愛らしい顔をレオは私の方に向けてそう聞いた。
……まず、ここどこ? いや、分かっている。私にここがどこか分かる。『王子と甘いKISS』愛好家の私にはここがレオ、ルーカー、ジョー、デュアルしか入れない生徒会の特別な部屋だということを。
私みたいな魔女がこんなところに入って良いのか? こんな展開アリなの!? あの四人以外だったらヒロインしか入れない場所だよね? 確か、満場一致でヒロインは特別にこの部屋の出入りが許された。それなのに、レオの独断で私はちゃっかりこの部屋のソファアに座っている。
う~ん、とっても嬉しいんだけど、なんか悪いことをしているような気分にもなる。
「リオン? 話聞いてる?」
私の目の前にレオの顔が現れる。
美少年のド迫力ッ! とか思っている場合じゃない。
「ただレオに会いに来ただけだから特にしたいことなんてないわよ」
「……何それ」
レオは両手を顔に当てている。耳まで真っ赤だ。私の言葉一つでこんなにも真っ赤になる男の子、可愛すぎやしないか?
何故か彼を見ているとちょっと意地悪を言いたくなる。
「レオ、顔見して」
「絶対に嫌だ」
「可愛いわね」
「まただ。また僕のこと子ども扱いしてる」
「別にしてないわよ」
「僕達同い年なのに……」
レオは手を顔から離して、不服そうな表情を浮かべた。
天使降臨!! ああ、神の創造物とは彼のことを言うのだろうな~。
私は魔法でポットを動かしコップに紅茶を注ぎ、手元に持ってきた。その様子を感心するようにレオは見てくれる。そして、一口だけ飲んで私はそれを机の上に置いた。
「私、この学園に転入しようかしら」
「え?」
「そしたらレオと一緒にいれるじゃない」
レオが喜ぶような提案をしたつもりだったが、レオは何故か少し迷っているような顔をした。
あらら? もしや、学園に転入するはやり過ぎだったかな? 束縛きつめの女になった!?
「……他の連中に彼女を見せたくないな」
「え? 何か言った?」
「ううん。何にもないよ」
レオは笑顔で首を振る。何か裏がありそうだけど、それを他人に感じさせない笑顔。私もホテルでCEO勤めた時はよくそんな表情をしたやつにあったな~。人を騙して昇格しようとする奴なんてごまんといたな。
なんか、そんなに遠くない過去の話なのに、もう随分と昔のことのように感じるわね~。
「ねぇ、リオン」
「何?」
「僕はリオンを誰の目にも届かない所に閉じ込めたいくらい君に溺れているんだ」
「……子供のくせになかなか言うわね」
びっっっくりした。心臓が口から飛び出す勢いだった。まさかレオからそんな言葉が出てくるとは思わなかった。というか、そんな台詞をさらりと言ってしまうあたりがやはり無邪気さゆえになのか?
彼の言葉はなかなか心臓に悪い。
「子供じゃないよ、リオン。僕はもう十五歳だよ」
彼の真っ直ぐ私を見る瞳に思わず固まった。彼は異性なんだと意識付けられたような気がした。
「……ウサギのぬいぐるみはもう持っていないのね」
「持ってるよ。あれは絶対に捨てないよ」
レオはとても幸せそうな笑みを浮かべている。
「だって、あれはリオンが拾ってくれたものだから」
うそんッ!? 私が拾ったものだから大事にとってあるの? 私との思いでが詰まっているからそんなに幸せそうな顔をしたの?
私は思わず口元を片手で覆った。
「どうしたの? 紅茶美味しくなかった?」
レオが私の方を覗きにくる。
ああああああ! 今はこっちに来ないで欲しい。どんどん鼓動が速くなる。レオにこの鼓動の音を聞かれるのはなんだか恥ずかしい。私がまるで物凄く彼を意識しているみたいだもん。
「大丈夫?」
「ちょっと近寄らないで」
私は思わずそう言ってしまった。レオの傷ついた表情が私の目に映る。
ちょっと! 私! 何やってるんだよ。天使を傷つけるなんて、私は悪魔か。
「ごめん、あの、ちょっと恥ずかしいの」
「え?」
ああ、色気ムンムンのお姉さんキャラが崩壊してしまう。……最初から無謀だったのかもしれない。
「レオが近づくと、なんか心臓がキュッとなって」
あまりの恥ずかしさにレオが見れない。今、私、どんな、顔しているんだろう。
「それは反則でしょ」
レオがそう言ったのが耳に響いた。私はそっと顔を上げた。彼は口角を上げて嬉しそうに笑っている。
「リオン大人っぽいのは見た目だけなんだね」
「……うるさい」
「めちゃくちゃ可愛い」
……甘い顔でさらっとこんなことを言うなんてやっぱり心臓に悪い少年だ。
私、これからの生活無事にやっていけるのか!?




