11.独占欲と疑惑
なんて眩しい笑顔ッ! 目に入れても痛くないってこういう子に対して使うものだわ。
五年も経っているのに、可愛さは健在でみたいね。というか、前よりも可愛い。少し大人びたけど、天使には変わりない。うん、ヒロインの攻略対象だ、当たり前か。
「相変わらずね」
相変わらず可愛いわね、とは言わなかった。よく堪えた、私! そうよ、私はもう大人なのよ。言葉遣いも気を付けないとね。
「とっても綺麗だね~」
レオの無邪気さも健在なのか。恥じらうことなくそう言ってくれる。……嬉しいけど、私は彼にみたいに素直になれない。ヒロインならここは「有難うっ」って満面の笑みで返すのかな!? それとも、「そんなことないよ~」って謙遜するべきか? いやいや、私は魔女だ。色気ムンムンの魔女なのだ。
「今頃私の魅力に気付いたの?」
私はそう言って妖艶の笑みを浮かべた。
わ~おッ! 自分で言って思う、なんて可愛げのない返答なんだ。本当にこの乙女ゲームをしたことがあるのか、私。
「美しい声だ」
その言葉と同時に私はギュッと誰かに両手を掴まれた。
……さっきの守衛だ。彼が目を輝かせながら私をじっと見つめている。もしや、私に惚れたとか? 流石に会ってすぐそれはないか~。
「僕の心は貴女に奪われてしまいました」
あったーーーーー! え? さっきまで私に対して叫んでいた人が、いつどこで私に惚れるタイミングがあった? あ、もしや、頬をつまんだ時!?
「えっと……」
「僕も! 僕もリオンと手を繋ぐ!」
そう言って無理やりレオは守衛の手をはがし、私の手を掴んだ。
……幼いながらの独占欲? のわりには一瞬彼の目に殺気が漂っていた気がしたけど。
彼は私と守衛の真ん中に立った。
「リオンの魅力は僕が一番早くに気付いていたんだから!」
うわッ、可愛すぎだろう。彼を抱きしめたい衝動に駆られる。
「誰よりも早く僕が気付いていたんだから、誰にもあげないよ?」
あれ? 一瞬、寒気が……。何だろう。
……レオ? 守衛の方を向いていてどんな表情をしているのか分からない。けど、彼の声は可愛らしかったが、一瞬恐ろしいものを感じたような気がした。
「……申し訳ございません! レオ様!」
蒼白した表情を浮かべて、その場を逃げるようにして離れて行った。
レオが圧をかけたのかな? おもちゃをとられたみたいな子供の独占欲? それとも、守衛とレオの立場があまりにも違うからとかかも……。やっぱり階級って大事なんだな~。
ん? レオも私といてはまずくないか? 私魔女、彼貴族。……今の状況的には私が魔女だとバレない方が良いのか。けど、今の私の外見だけで魔女だと言っているようなもんだ。
うん、出直そう! あまりにも無計画だった☆
「リオン? どうかした?」
クリッとした丸い大きな瞳が私をじっと見つめる。
あっ、そうだ! これだけ聞いておこう。私は少し眉をひそめながら彼に聞いた。
「どうして森に来なくなったの?」
「……え」
どうしてそこで驚いた表情をするんだよう! さっき壁のせいだって知ったんだけど、それでも一応聞いておきたかった……。けど、そんな驚くようなこと? いや、壁のせいじゃなかったのかもしれない! もう私に飽きたからこなくなった可能性も十分あるじゃないか! むしろその可能性の方が高い気がしてきたぞ。まだ私のこと好きかなッ、とか思っていた少し前の私を殴り倒したい。
「もしかして、僕が森に来なくなって寂しかった?」
なんて返すべきか。彼にとっての私の存在の大きさによって返答が変わってくる。ここは素直になるべきかな。
「もしそうなら嬉しい! 僕のこと思っててくれたってことだよね?」
これは……、まだ彼は私のことを思ってくれているという解釈でよろしいかい?
「レオ」
「ん? 何?」
私は片手でレオの顎をくいっと軽く持ち上げた。これは、どの人生でか忘れたが、若い子達の間で流行っていた顎クイというものだ。
私はじっと彼を見つめた。無垢な瞳……、でもなさそうだ。案外腹黒さが感じられる。半透明の薄い紫色の瞳の中に知性がある。
思っていたよりも子供じゃないのかもしれない。……まぁ、何でもいっか。レオ、可愛いし。
「私を落とすのは大変よ?」
私は彼から手を離して、子どもに対してするような笑みを彼に向けた。
レオはきょとんとした顔を浮かべた後、一瞬ニヤリと笑ったような気がした。けど、気のせいな気もする。天使は悪魔みたいな笑みを浮かべたりはしない。
「けど、今は僕に頼らないと大変でしょ?」
彼は嬉しそうにそう言った。頼られるのを待ち望んでいたかのような表情を浮かべている。
……本当に無邪気なままなのか、否か。そこはひとまず置いておこう。




