10.決心
「止まるんだッ!」
誰かの叫び声が僕の耳に響いた。なんだか外が騒がしい。皆が窓の外に目を向けるのにつられて僕は外に視線を向けた。
「……え」
自分の目に入った光景が信じられなかった。どうして彼女がここにいるんだ。
僕の記憶に鮮明に残っている黄白色のストレートの髪、半透明の翡翠色の瞳、凛とした佇まい。妖艶、という言葉がとても当てはまる。大人っぽくなっているが、誰だかすぐに分かった。
こんなにも美しく成長するなんて……。誰をも魅了させる魔女になると分かっていたが、僕の想像を超えていた。本当に僕と同い年なのか?
皆釘付けになりながら彼女を見つめている。これが嫌だった。彼女の美しさに自然と惹かれ、目が離せなくなるのだ。
だから彼女の事は誰にも今まで誰にも言わなかった。彼女に会いたくて仕方がなかった時も、そのせいで酷く落ち込んだ日々が続いても、誰にも相談しなかった。
「……リオンどうやって森から抜け出してきたんだ?」
僕は誰にも聞こえないように呟いた。
あそこには魔女が出てこれぬように壁が作られた。衛兵も見張っている。僕が何度も行こうとしたが、どんなに頑張っても入ることは出来なかった。会い焦がれてももう一度彼女に会うことは不可能だったのに……。まるでいとも簡単に出てきたようだ。
「あの守衛と対立している美女は誰だ?」
「侵入者じゃないのか?」
デュアルとルーカ―の言葉で僕はハッと我に返った。
そうだ、まだ誰も彼女を魔女だと知らないのだ。僕だけが知っているのだ。今のこの状況なら彼女を守れるかもしれない。
「お前は誰だッ! ここに何しに来た!」
必死に叫ぶ守衛に対してリオンは落ち着いた様子で艶やかな笑みを浮かべた。そして、ゆっくりとリオンの方から守衛に近づく。守衛は少し後退った。
「勇敢なのね」
リオンはじっと守衛を見つめる。彼は彼女に見惚れているのか、固まっている。
「いいわね、恐怖に立ち向かうその精神。嫌いじゃない」
そう言って、彼女はそっと守衛の頬を片手でつまんだ。彼女から溢れる色気が周りを魅了させる。
彼女の瞳に吸い込まれていきそうな彼を見て、心が激しく揺れた。嫉妬というものを生まれて初めてした瞬間だった。これ以上彼女の瞳を見るな。僕は心の中でそう叫んだ。
僕は本能に任せて気付けば外へ飛び出していた。一階で良かった。階段を下りる手間が省けた。
校舎を出たのと同時に僕はリオンと目が合った。リオンの瞳孔が大きくなるのが分かった。見開いた目に映る僕は彼女と並ぶのが不釣り合いなくらい幼く見えた。
……可愛い、子ども、甘い、天使、それが僕だ。だからこそこれを使おう。無邪気な僕を彼女は受け入れてくれるだろう。彼女のそばにいて、守ることが出来るのなら、僕の全てを利用しよう。
「リオンッ! 久しぶりッ!」
僕は溢れんばかりの笑顔でそう言った。




