空研
20xx年。大学3年の秋。俺、一ノ瀬浩太は毎日が楽しかった。
経済学部に通い、毎日が飲み会(言いすぎか)、サークル活動では航空研究会に入っていた。
空研とは、何もまじめに航空工学を学ぶための同好会ではない。メンバーは10人ほどいたが、ほぼ全員が極度のミリオタ。この同好会の真の活動内容は、ラジコン作り、しかも、エアガンとかが打ててしまうような、まるで戦闘機のような代物を作って空戦ごっこをすることだ。
側からみれば、大学生にもなって何やってんだと思われても仕方ないが、これはこれで充実した毎日だ。
「こーた、今度何作んの?戦闘機?あー、それともこないだ公開されたC2?ヘリも作ってみたいよなー。」
この呑気なやつ。コイツは三崎哲太。同じ大学の工学部航空工学科3年、入学して以来の親友だ。もともと、ミリタリーとかには全く興味はなかったが、俺と友達になってしまった(空研立ち上げるため)ばっかりにそれ以来のめり込んでしまった。
今では、主要メンバーにして、設計担当。去年の夏は一式陸攻作ってた。(まぁ、俺の三式戦闘機のおかげで火だるま(穴だらけ)にされて荒川に落ちたけど)
「え、こうちゃん。もう次作るの?去年戦闘機作ったじゃん。学校に泊まり込んでやっと完成できたやつなのに。もーやだー」
えー、今のは、神崎聡美ちゃん。空研唯一のマドンナにして、俺の彼女(みんなからはまじとも受け取れる殺害予告が来たものだ。あー、懐い)。みんなからはさっちゃんと呼ばれている。同じ経済学部に通う、高校時代からの同級生で、大学生になってからの交際スタート。「いつも一緒がいい」とか(可愛いこと)言って、空研に入ってきた。コイツもそれなりにはまって、設計は出来ないけど、さらにミリオタでもないけど、ドローンの操縦の仕方を少し教えただけで、簡単に操縦してみせた。これ以来、てっちゃんと俺が作るラジコンのテストパイロットになっている。本人も楽しんでいたようだが、制作欲の方は燃え尽きかけているらしかった。
「まあ、もう3年だからね。来年は就活もあるし、実質、俺たち3人にとっては最後の機体になる。」
「はいはいはい、こーた!俺は今まで大きくても一式陸攻だったから、富嶽とか作ってみたい!」
てっちゃんが言う富嶽とは、旧日本軍が大戦で米本土爆撃を目論んで設計した、B29に匹敵するほどの超重爆撃機。たしかに、でかいから、飛ばせた時の感動はあるかもしれないし、爆弾倉開いて何か落としたり花火つけてロケットに模しても楽しそうだけど……
「えー、何言ってんの、てっちゃん。富嶽じゃ、ただ飛ぶだけじゃん、アクロバットしたら羽がもげそうじゃん。やっぱ戦闘機がいいなー。例えば、なんだっけ、ほらほら、自衛隊のF15だっけ?あれかっこうぃーじゃん」
「いーや、わかってないな。戦闘機は『キィーーーィィーン』だろ?重爆なら『ドドドドドドドド』て感じで心に響く達成感つうの?そう言うのがあるんだよ。第一、うちの予算で、ジェットエンジンは買えませーん。だったら、今まで作ってきた機体からレシプロ用エンジン借りて新機体作って編隊飛行した方が楽しいはずだよ」
そんなこんな、色々な意見が飛び出た。一年生からは特に零戦がいいとか、アメリカのぺろはち(P-38)がいいとか色々な意見が出た。そんな中でも一番、多かった意見は
「昔の飛行機の完コピじゃなくて、いいとこ取りした新しい飛行機作りませんか?」
という、言うは易しなことを言ってきやがった。テストパイロットもなんか納得したようで
「もちろん戦闘機動とかエアガンとか撃てるよね?(撃たせろよ)」と。
結局、多数決で新型戦闘機の作成という方針が決まった。
(これは去年以上に家に帰れないなー)
目標は来年の4月完成。残り6ヶ月。
基本設計は決まっている。シルエットは「震電」に近い。
震電とは、旧日本軍の局地戦闘機。高高度1万メートル以上を悠々と飛んでいる、空の要塞 B29撃墜のため作られたものだ。現代の戦闘機はジェット機が主流で、エンジンを後部に積み、推進力を得る推進方式であることはミリオタでなくとも大体の人は知っているだろうが、この震電が作られた大戦中の戦闘機といえば鼻にプロペラが付いている零戦が想像されるはずだ。しかしこの震電は、先ほども述べたように、空の要塞と呼ばれ、武装のみならず堅固さも誇ったB29の撃墜を目的としていたため、重武装である必要があった。一撃離脱戦法を取るために、照準を合わせやすくしてある必要があった。そのため、武装を全て機首配置、邪魔なプロペラを後ろにしちゃおうという、なんとも画期的な戦闘機だった。
しかし、開発は難航。初飛行は1945年8月。終戦を目前にしてだった。
そんな戦闘機を作ろうというのだから頭がおかしい。さらに
「これじゃ丸パクだからさ、心神の爆撃型みたいな垂直尾翼なしの機体にしない?レーダーから捕捉されにくいみたいな」
頭のおかしいやつ(てっちゃん)が何かいってる。心の中でふざけんなと絶叫した俺は、泣く泣く、その線で設計することになってしまったのだ。
2週間が立った。あれから、何度か設計メンバー(俺とてっちゃん)で合宿して、設計図はできた。飛ぶかは知らないけど。
その日の帰り道、てっちゃんと聡美と一緒に「設計完成おめでとう会」を開いた(聡美が無理矢理に)。設計完成で飲み会してたら、完成までに何回、飲み会が発生するのだと思った。おそらくは聡美のことだ。模型完成おめでとう会、骨組み完成おめでとう会etc、想像はつく。
「いーやー。設計完成おめでとーーう!いやーー、おめでたいおめでたい。おめでたい日にゃー、飲み会だよねー」
「おい聡美、お前は何もしてないだろ!むしろ、仕事増やした張本人だろうが!!!なーにが『機首の機銃は5本はいるよね』『ネットで見ちゃったんだけど、無尾翼デルタ機ってステルス機によくあるだってさー』だ!おかげで、どれだけ大変だったか(しくしく)」
「まあまあ、さっちゃんは、より素晴らしい機体を作るための提案をしてくれたんだよ?おかげで良い設計図が出来たじゃん?」
「そうだぞ、こうちゃん。聡美様のおかげで良いものができたのだぞ!感謝したまえ。」
胸を張った(平ら)聡美は尊大にそんなことを言った。
「あーー、いま2人とも平らって思ったでしょ?すべーーんって。ぺたんぺたんって!!」
(いや、あんたが見せつけるような姿勢をとったんでしょうが)と思ったが、口にしたら、
「そうだよね、彼女なのに、シルエットが女の子のそれじゃないんなんて、彼氏からしたら苦痛以外の何物でもないよね?分かってるわよ……」
てな感じでかなり大げさにしぼむ。
まあ、確かに今回の設計は聡美のおかげで面白い形になった。
基本設計は震電を引用したけど、無尾翼の全翼デルタ機で、ロール性能向上のために後部プロペラは二重反転にした。ステルス性能あるようにしていたら、見た目は、F35にプロペラが付いたような姿になった。てっちゃんの計算では飛ぶことは飛ぶらしい。とりあえず、模型の製作を明後日から作ることになっていた。
おめでとう会(飲み会)がお開きになり、3人とも千鳥足で駅に向かう。
これからの4月までの苦難を思うと、胃の中が暴れまわったが、楽しみでもあった。これが最後の製作、良い作品を作ろうと決意した。
その時、
「パァーーーーーーっ!!!!」
目の前が真っ白になったかと思うと、「ドン」という音が聞こえて、身体が浮き上がった。
一瞬何が起きたか分からなかった。
呻き声が聞こえる。聡美か?周りが見えない。
そうか、事故に遭ったのか?人間ってこんなに呆気ないものなのか?今日、設計図完成したばかりだったよな?最後の機体、完成させたかった………
そこで、俺の意識は途切れた、途切れたはずだったのだった。
次回から、幼年期編です。
投稿は週明け