電撃
駆逐艦「夕霧」の船員たちは非常に奇妙な感覚を抱いていた。輪形陣の真ん中にある奇妙な船の上に、奇妙な服を纏った集団が船のようなものを艦上で準備していた。艦長には「見るな、そして、見ても忘れろ」という厳命受けていたが、それは不可能というものだった。その時、謎の艦隊から発光信号があった。しかし、それは日本海軍が使用するものとは全く異なる、つまり、味方である海軍に対しても暗号化されたものだった。
川崎は特務艦「響」の艦上に、戦闘服に着替えて立っていた。他の者たちも同じ格好をしている。訓練して慣れたからだろうか、装備を受領した時よりも動きが洗練されている。丸腰の時と遜色ないくらいまでよく訓練された動きだった。
12月24日、川崎が呉に着任したその日、井上は川崎と研究部長の宏和、そして、研究副長の橘を連れてきた。川崎は井上に敬礼すると、井上は手招きして執務室へ招いた。
執務室といっても、急造りで下士官の雑居部屋と変わりない殺風景具合、唯一違うのは1人用の部屋であることだけだ。入るや否や、井上が口を開いた。
「川崎君は海兵隊の隊長ということもあって、これからの訓練について説明しておくことが沢山ある。訓練には様々な装備を必要とするから、まずは装備を君に教えておきたいと思っている。まあ、私も全て分かっているわけではないからね、実験台になった上郷君に説明してもらおうか。」
「実験台とは酷い言い方ですな、少将殿。まあ、その通りなのですが…。では装備について説明します。まず個人携行用の装備がこちらです。」
そう言うと橘が台車を押して現れた。
「こんなに必要なのか?」
「はい、まあざっと20キロは超えるでしょうね。」
「20キロだと?!そんなものを持ってどう戦えというのだ?」
川崎は重い装備にビックリしていたが、すぐに正気になって、あれこれと気になりはじめた。
「どうやら、これらの装備を見ると、今まで見たことがないものが多いな」
「はい、恐らくここにある装備の9割は一般兵は装備していないようなものです。」
「まず、疑問だが、この灰色のつなぎのような服はなんだ?」
「それは、戦闘服です。戦場の遼東半島では、残雪の残る4月ですと、紺色の軍服では目立ってしまいます。なので、土や雪に紛れるように、灰黒色系統の迷彩としています。さらに、この戦闘服の上にはこれを着てもらいます。中に鎖帷子が入った鎧のようなものです。これで、胴体への被弾でも即死は避けられると思います。また、鉄帽子も着用します。」
「なるほど、兵士を守るための装備か。それで、この銃はなんだ?この銃は30年式に比べたら、弾倉が大きい。それにもう一つある、銃身の短い銃はなんだ?」
「一応、この部隊は突撃部隊ではなく、敵地制圧及び陽動作戦を掲げていますので、この新しく採用された35年式小銃はもちろん携行武器になりますが、敵地制圧の際、長い小銃を振り回すのが難しい場所があるはずです。また、そういった場所では敵が密集していることがあります。ですから、小隊で二つ小機関銃を配備します。生産が追いつかないので、小隊支援火器という括りになりますが、将来的には個人携行にしたいと考えております。」
「なるほどな。了解した。それでこの武器は………」
新装備ばかりの装備品説明会は昼飯を抜かして、あたりが暗くなるまで続いた。
全武装の装備が終わり、甲板には飛空船の発艦準備が完了した。一度に発艦できるのは5隻の特務艦から4隻ずつ、計20隻で100隻の出陣のためには4回同じことをしなければならない。第1陣では第1軍2個戦闘中隊が先行することになっている。川崎はその後に続く、第3軍
2個支援中隊、第1軍後方支援中隊に随行する。最後に本隊第二軍が2回に分けて発艦し、最終便では航空隊員のみの構成になっている。特務艦隊旗艦「響」から、海兵隊専用暗号発光信号で発艦の最終点検が命じられた。
時刻は午後11時頃、甲板には第1軍全中隊、艦内には他の海兵隊部隊が整列、出陣の時を待った。11時10分。川崎は整列をした隊員の前に立ち、
「俺は訓辞といっても、あまり言葉が浮かばないから、簡潔に伝える。諸君らがしてきたこれまでの訓練は、ただこの日のためにあった。今日戦場に向かうに当たって、死力を尽くして、敵の度肝を抜いてやれ。お前らにできなければ、この帝国にそれができる軍はない。井上少将から伝言を預かっている。『この帝国の帰趨は君達の活躍にかかっている。ただ、戦争に勝つために、命を捨てる覚悟というのは絶対にダメだ。生きて、より多くの敵を倒せ。《死ぬな、生きることを考えろ。》と、航空戦群長からの厳命だ。戦場に送り出しておきながら矛盾するのは百も承知だが、なんとしても、死守せよ。』だそうだ。俺は航空戦群長には会ったことはないが、この考えは賛成だ。君達の装備は国家機密の塊。死んだからといって、そのまま旅順の土になれると思うな!けが人は後送してやるが、戦死者はテルミットで、焼却、二度と祖国の土を踏むことはない。日本に帰りたくば、生きろ!そのために自分を殺そうとする敵を全員倒せ!」
隊員たちは「生きろ」という言葉に驚いていた。しかし、すぐに表情を引き締めて、戦士の顔になっていた。兵士が灰色に塗られたバルーンの中にある4機のバーナーを点火した。
発光信号。〈ハッカンセヨ〉
「発艦!」
「はっかーーん!よーそろーー」
特務艦「響」から次々に飛空船が飛び上がった。飛空船はそのまま、上昇を続け高度が1500メートルに到達すると船首を北西に取った。全艦がプロペラ発動機を回し、威海衛方面へ前進した。
第1軍2個中隊座乗の第1陣は他の艦と歩調を合わせるために山東半島沖2キロの上空1000メートルを漂っていた。軍長の榊原中佐は心配なことがあった。これまで3ヶ月間、呉の山で訓練は重ねてきたが、実戦は初めてなのだ。艦の独特な揺れで酔ったのだろうか?ここまで長時間乗ることは、訓練ではなかったので、あちこちで兵士が潰れていた。戦場に出る前にそれではまずいとは思うが、実際に榊原自身も、朝ごはんがカムバックしそうなのだ。川崎中佐によれば、揚陸部隊を搭載した艦80隻が集結完了するのは、あと30分後。これでも急いでいる方で、実際には多少の遅延が見込まれた。そこへ、従卒兵が駆けてきた。
「中佐、発光信号です。第三陣まで発艦完了。」
「分かった。機関部、操縦部、及び僚艦へ通達。我が海兵隊は針路真北に取り、東に遼東半島が見え次第、東へ転舵。第四陣の作戦開始を持って我々も行動に移す。」
「了解しました。」
伍長は急いで館内に降りると、伝令に走っていった。
旅順港から東に10キロ。露陸軍5万は塹壕を遼東半島を横断するように掘り、遼東半島の入り口を封鎖しジリジリとにじり寄る日本軍に対峙していた。
陸軍中将チェルチェソフはウォッカ片手に、余裕をかましていた。チェルチェソフだけではない。待機する軍団は皆、寛いでいた。なにせ、最近になって満州で露軍を敗走させていた日本軍の動きが急に悪くなったのだ。日本という国は最近になってやっと文明が開いた国だと聞く小国だ。おそらく金やら何やらが回らなくなって、進軍が滞ったのだろう。軍隊というのは人数分の武器弾薬だけではなく、衣服や食料、医薬品などなど金のかかるものが大量に必要なのだ。また、日本は海の向こうの国。輸送もなかなか労力が必要な作業だ。参謀の観測では引き返す可能性はないが、当分戦闘はないとのことであった。
「それにしても、中佐。ヤポンスキーどもは何やってるんすかね?どうせ、俺らの前に来たら、機関銃の十字砲火と手榴弾とか擲弾の嵐で肉片に変わるのは既定路線なんだから。」
軽口を叩いたのは、そばに控える先任伍長のミハイルだった。戦闘中はチェルチェソフの護衛だが、今はチェルチェソフの酒に付き合わされている。
「まあ、ヤポンスキーには我らと戦うには早すぎたって話さ。今は旅順港は日本の艦隊に包囲されてるが、それは我がロシアの主艦隊が極東にないからだ。ウラジヴォストークの艦隊は日本に喧嘩をふっかけさせるためのだし使っちまったが、あと数ヶ月後にはバルチック艦隊が到着するっつう話だ。気長に待とうぜ。」
「そうっすね。日本軍なんてミンチにしてやるんだー」
「貴様、少し飲みすぎではないか…」
ミハイルやチェルチェソフだけでなく、本部にいる兵士たちも「ちょっと体をあっためるだけ、あっためるだけ」と言いながら、ウォッカの瓶を空けていた。
そこへ、伝令兵が駆け込んできた。
「申し上げます。遼陽南西5キロに布陣していた日本軍に動きあり。大連に進行中とのこと。」
「そうか、やっと動き出したか。今出たということは、こちらに到達するのは明日の昼だろう。最近の日本軍は遅くなっているから、もっと後ろにズレるかもしれないな。ミハイル、塹壕にいる各部隊に連絡。会敵は明日の昼頃、今のうちに睡眠を取るようにしてくれ。私は今から3時間ほど仮眠をとるから、起きて来なければ朝の5時までには起こしてくれ。」
「了解しました。」
そう言って、チェルチェソフは最後の一杯と言って、グラス一杯分のウォッカを飲み干して、眠った。
その頃、特務艦を発艦した第四陣は他の艦が山東半島方面に向かったのを見届けると、舵を北東に取った。指揮をする第一航空隊長菅谷中佐は、不安を覚えていた。艦とは違い「飛空」艦は地球と離れてしまっている。何かがあったらどうにかなってしまうのだ。それなりの訓練を重ねてきて自信がないわけではないし、この作戦自体、素晴らしいものだったが、どうしても安心しきれないのだ。
そこへ、前方及び右舷見張り要員の田中一飛曹が駆けてきた。
「報告します。前方5キロに朝鮮半島見ゆ。」
「了解した。全艦に告げろ。旗艦に続き、取舵30度。そのまま巡航速度を保ち、遼東半島の付け根の上空まで行く。遼東半島が見えたら、再度知らせ。」
「了解」
田中は駆けていき、各員に連絡、各艦にも発光信号を打った。高度1000メートルの旅は巡航速度30ノットの飛空船には、長旅だった。菅谷は近くの要員に声をかけて館内に入ると、仮眠を取った。
日本軍乃木隊五万は旅順に向けて進発していた。乃木大将は11月15日に仁川上陸前に情報部が渡してきた命令書を開封した。それを読んで、乃木は理解できなかった。命令書の内容はこうだ。
《28日、信号弾の合図で旅順要塞の露軍攻撃を開始せよ。特務隊の攻撃に乗じて突入せよ。それ以前の攻撃は禁ず。包囲を継続せよ。》
乃木には自信があった。ここまで連戦連勝で一瞬で勝負がついてきた。なのに最近になってから、本土からは進軍を待て待てと言われ、やっと進めると思ったら、包囲を継続せよとのことだ。軍人だから命令には従うが、面倒なことこの上なかった。
そうは言っても、大連を占領した乃木隊は作戦発令の合図を待った。
11月28日の明け方、本陣で寛いでいた乃木は、外が何やら騒がしくなったように思った。せっかく英国の高級な紅茶で戦いの疲れを癒していたのに。
「何事だ。だれか報告せい!」
するといつも落ち着きすぎていることで定評のある参謀長が顔を真っ青にして汗でぐしょぐしょになって駆け込んできた。
「あ、あ、あ、あ…!」
「なんだ?『あああああ』では分からん。落ち着いて話せ」
参謀長は深呼吸を10回ほどしてもう一度乃木に向かって、
「あの、空に船が…」
「何を言っている?!気でも狂ったか‼︎空を飛ぶ船があるわけがなかろう?」
「あるんです。全部で20隻ほど。帆船のように見えます。」
参謀長だけでなく、他の兵士たちも同じようなことを喚いているのを見て、乃木は不審がりながらもテントの外へ出た。
周囲にいた兵士たちは自分たちの作業を忘れて、皆口を開け空を見上げていた。それに倣って乃木も空を見ると、たしかにそこには空を飛ぶ船があった。あれは敵か味方か。味方にあのような代物はなかったはず。では敵か?敵だとしてあの高さを飛ぶ船を攻撃する手段がない。ではどうするのだ?
そうこう考えていると、空飛ぶ船から信号弾が撃ち下ろされ、続いて旭日旗が吊るされ、風にたなびいていた。
田中一飛曹は菅谷中佐の命令で地上にいる味方に信号弾を撃ち下ろした。
「おい、田中一飛曹。信号弾だけでは分からぬかもしれん。だから舵の帆に旭日旗を掲揚しろ。」
「了解しました。」
「さて、味方だと伝われば良いが……。速度を上げよ。歩兵連中より先に行かなきゃならんからな。」
「「よーそろーー」」
第一航空隊飛空船隊は、取舵を取ると旭日旗をしまい、最大出力までエンジンを回した(60ノットまで増速)。
第一航空隊の全20隻の飛空艦隊は、旅順港まで巡航で30分の距離まで来た。先程、信号弾の合図を送った陸軍部隊は遥か後方、地上に黒いゴマ粒のようになっていて、これがかの有名なセリフ、人が何とやら、という光景なのだろう。
飛空艦隊の内部では、船員が攻撃準備に追われていた。船員は10人しかいない上に、6人が操船に追われているので、残る4人の攻撃要員の忙しさは目が回るようであった。もう少し連れてくれば良いと思うかもしれない。実際には、定員は50名であるが、これは完全武装の兵員を輸送する場合である(丸腰の人間なら倍近くは乗れる)。第一航空隊麾下の飛空艦隊は別命を負っていたため、定員は10名に限られていた。
「前方敵陣見ゆ。南北方向に二列。南西の方角に旅順港見ゆ。」
前方見張員が叫んだ。
菅谷中佐はそれを聞くと腰を上げ、自ら発行信号機で他艦に伝令した。
《ワレ、南方ヨリ攻撃ス。旗艦二続ケ。ワレ、南方ヨリ攻撃ス。》
打電し終わると、菅谷は帆走長に命令を飛ばした。
「帆走長!取舵30度、塹壕帯の南端を目指せ。到達後は、塹壕に沿って北進。」
「旅順のロシア艦隊に見つかっちまいますが、よろしいので?」
「構わん。高射砲なんぞ奴らにはないし、艦砲ではどうせ当たらんのだから、見せつけておけ!」
「よーーそろーー」
艦隊は南西に進路を取り、増速して旅順港を目指した。
露軍中将のチェルチェソフは参謀長のアリソフ大佐に起こされた。だいぶ眠っていたらしい。時刻は朝5時、東の空が若干白んでいた。チェルチェソフはまだ眠たい目をこすった。目の前ではアリソフが普段にないほど、忙しない様子だった。
「どうしたんだ、アリソフ大佐?昨日大連を発した日本軍はまだまだの距離だろうに、なぜそこまで忙しそうにしておるのだ?」
「チェルチェソフ中将、悠長なことを言っている場合ではありません。敵です。」
「敵だと?意外と早かったな?斥候が見つけたのか?」
チェルチェソフは敵が頑張って走ってきた程度にしか考えていなかった。
「斥候ではなく、外にいる味方全員が目撃しています。」
チェルチェソフは目覚めのコーヒーを用意していた手を滑らせた。
「何⁈敵はすぐそこというわけではないか?なぜ、そんなに近くになるまで私に報告せんのだ?」
「いえ、急に現れたのです!」
「急に現れるわけがなかろう。相手は陸兵だぞ?海で靄から急に船が現れるなら分かるが、どうして、陸の要塞地帯でそんなことがあるのだ?説明してみろ!」
こんな緊急事態に出鱈目を言うのか!と激昂したチェルチェソフは拳銃を抜き、今にもアリソフを撃ち殺さんばかりだった。
すると、アリソフは人差し指を天に指して、
「空です。」
「言っている意味がわからないな、アリソフ大佐?私の引き金はとても軽いんだ。君は参謀長としてとてもいい働きをしてきてくれたが、どうやらそれは誤解だったようだな。」
そういうとチェルチェソフは引き金に指をかけた。
その時、周囲が光った。そして、爆音と爆風で天蓋が飛んだ。
チェルチェソフは何が起きたのか分からず、仰向けで地面に転がっていた。迫撃砲の発砲音はなく、爆発音だけが次々に聞こえる。そのまま、空を見上げたチェルチェソフは目を疑った。船が空を飛び、自分たちの上から爆弾を落としているのだ。付近から爆発音が消えると、呻き声と絶叫が聞こえた。チェルチェソフは辺りを見渡した。さっきまで居たアリソフ大佐がいない。それだけではない。周囲にいた兵士が跡形もなかった。
少しすると、離れた陣地にいた参謀の1人がやってきた。
「中将、ご無事でしたか?」
「あー、私は生きている。しかし、他のものは皆.…」
「はい、どうやらそのようで。今、被害の集計をしておりますが、おそらく半分以上が戦死傷で動けません。ここは、前線を西へ下げるべきかと。」
参謀は非常に無念な顔だった。チェルチェソフも同じ考えだったようで、すぐに頷くと指示を出した。
「敵はすぐにやって来る。戦死者の遺体回収は後だ。負傷者も置いていけ。捕虜に取らせれば、少しは足止めできる。我々は最終防衛ラインまで撤退する。」
そういうと、生き残った兵力2万は移動を開始した。
チェルチェソフにはもはや戦う術はなかった。第一、自分たちは空飛ぶ船に攻撃する手段がないのだ。たとえ、空に向けて大砲を撃ってもおそらく当たらない。しかも、そんなことをしているうちに背後からは敵が迫ってくるのであって、逃げるほかなかった。
旅順を目指して走ると、向こうから騎馬兵がやってきた。味方の伝令だ。ひどい怪我を負っていた。軍服は擦り切れ、あちこちから出血している。伝令兵はチェルチェソフの前に倒れるように馬から降りると、声を振り絞った。
「申し上げます。旅順港壊滅。旅順港は壊滅。西方から現れた謎の敵により、司令部守備兵は全滅。艦隊も壊滅しました。」
チェルチェソフは戦慄した。まさか、自分たちを壊滅させたあの空飛ぶ船にやられたのか?チェルチェソフは恐怖のあまり打ち震えた。
「敵の数はおよそ千。迫撃砲による攻撃もあったので、数は多いかと思われますが、西から謎の灰色の軍隊がやってきて、全部隊は壊滅しました。あるものによれば、敵は空から降ってきたと。」
そういうと、彼はその場で息絶えた。
チェルチェソフは決断を迫られていた。背後には日本陸軍が走ってきている。しかし、前には旅順港にいたはずの師団クラスの守備兵を壊滅させたдьявол Из серого(ジヤヴォール イズ シェールィ/灰色の悪魔)がいるというのだ。チェルチェソフは立ち尽くした。
川崎与一中佐指揮下の海兵隊を運ぶ飛空船は遼東半島北西2キロ地点にいた。
川崎は、第一軍長の榊原中佐に指示を出した。
「兵の準備は良いな?」
「大丈夫です。」
「よし。では、この後はエンジンを停止。帆を張れ。」
飛空艦隊は主に後部についたプロペラによって推進する気球のようなものだが、両舷に帆を張ることで帆走を可能とする。そうすることで、無音で敵の上空に出られるのだ。特にこの時期はまだ、北西の季節風があり、この侵入方法が可能だった。
川崎は、準備を終えた隊員たちを見渡した。腹に背嚢を抱え、寝そべっていた。
「諸君。やっと我々は実戦に出ることができる。ようやく我々の力を見せつけることができるのだ。これまで鍛錬を重ねてきたことを是非に発揮して帝国を勝利に導こうぞ!では、立てーーー!」
艦隊は遼東半島上空に差し掛かっていた。艦隊の全80隻はプロペラの停止した後部の扉と爆弾倉を開けた。
『一番艦、よーい。続けて二番、三番艦よーい。よーいよし。降下ーー。』
合図は発光信号で打たれると、隊員たちは飛び出した。飛び出すなり、背中の落下傘を展開、風に乗って敵地を目指した。3000名の部隊は地上に降り立つと、進軍を開始。一部部隊(約800名)は迂回して旅順港へと突撃。残り部隊は突撃隊の後方支援部隊を残して、一路東へ向かった。
隊員が降下して軽くなった突撃部隊に追従した。そして、旅順港に着くと停泊中の敵艦の直上につけ、爆撃を開始。その混乱に乗じて突撃部隊が旅順港敵司令部に侵入。殲滅した。
こうして、史実では数ヶ月の攻防ののち、多くの犠牲者を出しながら陥落した旅順要塞は封鎖期間は4ヶ月に及んだが、実質戦闘は数日のうちに終結。露軍は壊滅し、およそ1万が捕虜となった。日本軍は陸軍に3000の戦死者が出たが、航空戦群からは運悪く当たってしまった大砲により撃墜された飛空船を除き、突撃隊では100名の戦死者を出しつつも電撃的なこの作戦は、歴史に残るワンサイドゲームとなった。
なんか、あっさり勝っちゃいましたね。もっと粘らせてあげたかったんですけど、そうするとせっかくの海兵隊の死者が多くなりすぎちゃって、今後の話の展開的にもまずいので、かなり電撃的になっちゃいました。
この後、日本海海戦は起こりますが、海兵隊の出番はないので、パスです(描写はしますよ)。次はほのぼの回?の予定です。あと2、3話乳幼児期編は続きます。




