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開戦してから、5ヶ月。連合艦隊は公海上を遊弋していた。開戦後、連戦連勝を進め日本軍は露軍を遼東半島に押しとどめ、旅順包囲を完成させつつあった。



5ヶ月前の11月24日日本政府は東京湾に突如現れ、市街地に向け砲撃を行ったロシアに対して、宣戦を布告。敵艦は全て撃沈したが、いきなりの帝都奇襲に対して民衆は戦慄していた。日本軍はロシア艦がどこの所属かは断定できず、ただ、同盟関係にある英国からバルチック艦隊の出航が確認されたとの電信があり、早期決着を望んでいた日本政府は当初の作戦通り旅順艦隊殲滅のため、連合艦隊を公海上に浮かべていた。



駆逐艦『雪風』の艦長安芸弘少佐は今の任務に疑問を抱いていた。秘匿任務だとだけ呉の軍令部で言われたのみで見たことは内地に帰ったら全て忘れろと言われた。何か特別なことが起こることは誰にもわかることで、実際20隻の戦闘艦の輪形陣の真ん中には5隻の異形の船が浮かんでいた。駆逐艦よりも2倍近く船体が長く、ただ、艦橋がない。と言うよりも船の縁よりも上側にはなにも構造物が存在しない。まるで、お好み焼きの鉄板のような、平らな空間が広がっていた。そして、そこには見慣れない服装をした兵士がなにやら準備を進めていた。




特務艦『響』では、粛々と準備が進められていた。海軍航空戦群海兵隊所属 川崎与一中佐はこの時代には珍しい全通甲板の上で一般海軍兵の服装とは全く異なる灰色の服装をした隊員たちを眺めていた。


4ヶ月前、川崎は横須賀鎮守府に召集された。所属部隊は陸軍だったが、至急横須賀へ行けと上官に言われるまま出向いたのだ。横須賀へ到着すると門に少佐の階級章の付いた男が立っていた。

「陸軍第一師団少佐の川崎少佐であります。」

「少将がお待ちです。ご案内します。」

川崎は栗原と名乗る海軍軍人に促され、執務室へ向かった。中に入ると、なかなかダンディな男性が握手を求めてきた。

「私は海軍少将井上だ。」

「私は陸軍少佐の川崎であります。それで、ご用件はなんでしょうか?陸軍の私がなぜ海軍の軍令部まで派遣されたのでしょうか?」

井上は、まあまあと落ち着けと言わんばかりにソファを勧めた。川崎は勧められるままに座って、姿勢を正して問い直した。

「して、ご用件は?」

「これを見てくれ。」

そう言って、井上は川崎に紙を渡した。

『通知

陸軍第一師団所属川崎少佐。貴官を除籍する。

陸軍大臣 西郷隆盛』

命令書を受け取った川崎はわなわなと両手を震わせて、言葉を発しようにも言葉にならない様子であった。

「落ち着きたまえ、川崎くん。本題はこの命令書ではない。」

「なにをおっしゃっているのか、私には分かりません。軍人ではなくなった。日清戦争の頃から奉仕してきた国から見捨てられたと言うのに、本題ではないというのは、いくら貴方様が少将であっても、失礼極まりない。」

「だから、落ち着けと言っているではないか。君には、これも出ているんだよ。」

そう言って、井上はもう一枚の紙を手渡した。

『通知

貴官を海軍所属とし、階級中佐に任ず。以後、井上少将の命令に従え。』

「君はこの命令書通り、今日から海軍軍人だ。役職としては、1週間後に改組される試空戦改め、航空戦群海兵隊の隊長をしてもらう。質問は受け付けるが、あるかね?」

川崎の顔に?が見えたのだろうか?

「海軍への転属は理解しました。しかし、航空戦群とは何でしょう?海兵隊はロイヤルネイビーのようなものでしょうか?」

「航空戦群とはその名の通り航空戦群だ。言葉で説明するのは難しくてな、詳細はここでは言えないが1週間後の改組の際、群司令部は呉に移設になる。海兵隊は英国海兵隊そのものだ。だが、違う点は多少あってな。それを呉で説明することになる。君の部下には全国から集められた5000名がつくことになる。とりあえず、君は呉まで飛んでくれ。」

「了解しました。」

「あー、あとこの航空戦群は特務機関中の特務機関だ。完全な軍機。バラしたら、死罪になった上で売国奴と罵られ、国籍剥奪まで受ける可能性があるから、気をつけてくれ。」

「はー。心得ました。」

川崎はこの時期に開設される海兵隊なのだから、日露戦争に投入される揚陸特攻部隊としか考えられなかった。旅順要塞は前後を海に囲まれているが、要塞はかなり堅固で強襲揚陸となれば、必死の特攻となることは目に見えていた。自分は海軍へと飛ばされた挙句、死地に向かうのが最期の任務、そう心に川崎は決めたのだった。





翌日、川崎は横浜にいた。海軍が一等車を用意してくれていた。十死零生の死地に向かう軍団の司令官には、最期くらいいい思いをさせてやろうという配慮なのだろうか?呉に着くと迎えの車が来ていた。運転手の曹長は直立不動で敬礼している。ああ、この先のある若者も俺と同じ運命を辿るためにこの場所にいるのだな。そう思うと、戦争とは何と無意味なものだろうか。国家を取り仕切るお偉いさん方が勝手に始めた戦争で死ぬのはこういった若者たちじゃないか。

「川崎中佐でありますか?私、海軍呉軍令部第104整備大隊所属飯塚曹長であります。中佐をお迎えに上がるように仰せつかりまして参上しました。」

「私が川崎だ。飯塚君宜しく頼む。」

川崎が敬礼すると、車へ乗り込んだ。



車は走り出すと、呉の基地とは反対の山へ入っていった。市街地から、走ること20分程で目的地に到着。そこは山の一部を切り開き、造成された学校のような建物のある場所だった。門には「海軍施設」とだけ記され、両脇には2人ずつ武装した守衛が立番していた。

車は誰何されることなく中へ入っていく。建物の入り口に、誰か立っていた。海軍の白い制服を着た紳士然とした男が。川崎が降りると、その男、井上少将が話しかけてきた。

「いやいや、長旅ご苦労であった。呉はいい街だな…といっても、我々が街へ下りるのは戦争に行く時だけだがな。戦争のための秘密道具なのだからしょうがないのだがね。」

「少将、これは何をするための施設ですか?私はただ呉に行けと言われて来ましたが、来るなり運転手は整備大隊の人間、基地には向かわず山の謎の学校へ連行。説明いただきたく、」

「まあ、そう急くな。明日には司令官級の士官が全員着任する。その場を借りて全ての詳細を説明する。着任する人間で、この部隊の詳細を知っているのは私と以前からの部下数名だけだ。心配することはない。」

「はあ、そうですか」

川崎は納得が行かない様子ではあったが、井上に促されるままに校舎へと入っていった。




翌日、起床ラッパの音で目が覚めた。こう出張が続くと基地の宿舎で寝起きすることが多くなるので、ラッパへの反応にはいい加減慣れたが今回ばかりは横須賀からの完璧な異動。しかも、試空戦改め航空戦群は特務機関中特務機関だというから、家族を呼ぶのは戦争が終わってから、さらにはハガキや電話でのやり取りは厳禁だと井上少将に言われた。海軍少佐上郷宏和は自分が帰ることができるのは、おそらく2年後だと思うと、息子の和也が自分のことを忘れてしまうのでないかと思い、身体中から汗が吹き出た。布団を噛んでベットの上でゴロゴロ気持ち悪く悶えていると、ドアを叩く音がした。


宏和は朝食を士官食堂でとったあと、会議室へと向かった。会議室には、様々な制服の人間が入り乱れていた。併せて100名ほど。階級章を見ると皆、中尉以上。海軍と陸軍が半々というところだろうか。中にはスーツ姿の人間が10人ほどいた。

宏和が挙動不審でいると、会議室の前の方にいた井上が手を振っていた。

「井上少将、これはかなりの大部隊ですね。」

「当たり前だ。今はまだ清朝と朝鮮の国境で戦っているくらいの頃だ。この部隊が活躍するのは今、海軍が封鎖している旅順港に大陸側から陸軍が包囲出来たらの話だ。飛空船が出来たって言ったら、海軍省の奴ら『実戦投入は可能か?』とかほざくんだ。今、未熟な奴らを使って飛空船を使ってもいいことはないからな。『部下を5000人くれ、陸軍からも司令官クラスの人間が欲しいな。訓練場も欲しいかも。そしたら4ヶ月後には戦争に勝ってやる』って言ってやった。」

「まあ、確かにそうですね。実験準備して来た試空戦の連中でさえ、あれを動かすのは一苦労でしょうし。」

「まあ、そういうことだ。ところで、装備品の調達は大丈夫か?」

「いや、なかなか大変ですね。我が国の工業力では5000名分の装備を揃えるのは。4ヶ月後までには少なくとも戦闘員分は確保できるかと思いますよ。一応、現時点では500名分は確保してあります。その他備品の方は一応はそれなりに集めたので、足りないのは予備くらいでしょう。」

「うむ、わかった。君は一応技術班長だから、前列にいてくれ」

「了解しました。」

宏和は周りのガタイのいい陸軍人に囲まれて座った。



9時になった。

会議開始時刻だ。

井上少将が壇上に立つと、騒つく会場は静まり返り、そして、全員が一斉に起立し、敬礼をしていた。井上が手を挙げると全員が姿勢を楽にして着席した。

「私は海軍航空戦群司令長官の井上少将である。此度、ここ呉……から少しばかり離れた山間部の演習場に貴官らに集まってもらったのは、内々に伝えていた通り、ここに航空戦群が開設されるからである。そして君達は初代隊員として活躍してもらうことになる。」

井上は会議室を見回すと、納得したように頷き、

「うんうん、良いの目をしておる。では概要を説明しよう。」



「航空戦群、その名の通り『空』が我々の戦場である。しかし、敵露国は航空兵器は一切持っていない。つまり『空』が戦場だが、『空』で戦うのではない。」

中央右寄りにいた少佐が手を挙げた。井上に差されると、起立した。

「私は元陸軍第5師団の柿沼少佐であります。質問があります。なぜ陸の我々が航空などというものに集められたのでしょうか。空にいては今までのように敵を撃ち、銃剣で刺し殺すというような仕事はありません。」

「まあまあ、そう急くな。航空戦群は『空』が戦場だが、『空』で戦うわけではないと言ったであろう?既に司令官をしてもらう人間には声をかけて詳細は通達済みだが、この航空戦群は『海兵隊』揚陸部隊だ。つまり、航空戦群の本隊は海兵隊である。そこで揚陸部隊の指揮を陸の君たちにになってもらいたい。」

「なるほど。理解しました。しかし、揚陸方法が全く分かりませんし、今現在陸軍部隊が仁川から上陸して敵を遼東半島に追い詰めようとしている最中と聞いております。我々は聞いたところによると5000人の部隊。さらに航空戦力なるものを使うとなれば戦闘員はもっと少なくなってしまうことになりますが。」

「うむ、良いことを聞いてくれた。我々は噂の通り5000名の小部隊で実際の戦闘員は3000名程度になる。だから包囲殲滅作戦は不能だ。我々が包囲されてしまう。そこで我々が行うのは、特殊作戦だ。概要は訓練を見れば大方予想はつくだろう。小規模部隊による陽動及び、露軍の背後から奇襲をかけ本部の占領、敵司令官の逮捕を目的としている。君たちに求めるものは決して簡単なものではない。もしかすると4カ月という期間は短いかもしれない。しかし、旅順閉塞作戦は既に進行中であり、その期限は早くすることも遅くすることも叶わないのだ。よって君たちには懸命に訓練に励んでほしい。」

全員の顔が引き締まった。

「良い顔をしている。では、軍団編成発表をする。これは臨時的なもので、もしその人物が司令官に足るものでなければ階級問わず、配置を変えることがあるからな、肝に命じておけ。では、発表する。海兵隊隊長

川崎中佐(元陸軍)、第一軍軍長榊原中佐(海軍)、一軍第一中隊隊長三条少佐(海軍)、第二中隊隊長上田少佐(元陸軍)、第三中隊隊長神田大尉(元陸軍)、以上1000名、第一、二中隊各400名は戦闘集団、第三中隊は後方支援集団だ。続いて、第二軍軍長青山中佐(元陸軍)、第一中隊隊長落合少佐(海軍)、第二中隊隊長真下大尉(元陸軍)、第三中隊隊長尾上大尉(元陸軍)、以上1200名。全中隊各400名が戦闘軍である。次に第三軍軍長小野中佐(元陸軍)、第一中隊隊長柿沼少佐(元陸軍)、第二中隊隊長猪狩少佐(元陸軍)、以上800名、各400名で第一中隊は後方支援部隊、第二中隊は隠密部隊だ。以上が3000名が海兵隊だ。続いて第一航空隊1000名。隊長は海軍菅谷中佐とする。10隻の飛空船に8人ずつ座乗し、残る200名は艦上整備員となる。あとは特務艦の操船員に800名。次に航空戦群は他の軍と別働隊であるため、また秘匿機関であるから別個の参謀本部を設ける。参謀部長は板垣大佐とし、100名をここに配置する。残る100名の要員は研究部だ。研究部長は海軍上郷少佐とし、副長は外務省から出向した橘大尉とする。研究部は主に装備開発及び調達を頑張って欲しい。以上が現状の編成だ。では明日から訓練を開始するが、現在、フル武装のための装備が調達できているのはどれくらいになる、上郷少佐。」

宏和は、急に集まった注目にビビりながらもおずおずと立ち上がって、壇上へ立った。

「私が只今、航空戦群研究部長を拝命した上郷であります。今現在の武器調達状況は飛空船は4隻、特務船は2隻、1人用装備は1560名分が確保されています。糧食については調達には問題がないかと思われます。井上少将によりますと、本隊は第二軍であるとお聞きしましたので、まず優先的に第二軍配備、続いて第一軍の第一、二中隊、第三軍の順に装備を揃えていきます。現状の調子ですと、来月中頃には全ての装備が揃えられる予定です。予備も含めて、合戦までには間に合うでしょう。」

「ちょっと待ってください。」

そう言って立ち上がったのは、第一軍軍長の榊原だった。

「我々が本隊でないのは、第二軍が全部隊戦闘員であることから理解できます。第一軍には川崎中佐の護衛的意味があることも。しかし、なぜ、そんなにも装備の配備に時間がかかるのか?30年式小銃と銃剣、そして軍服と軍帽があれば十分なはず。」

「あーー、それはー、ですね。それだけではないともうしたらよいのか、なかなか説明が難しいもので、明日の訓練開始に合わせて、第二軍には全員に、第一、三軍には中隊長級へ配布いたします。訓練内容及び方法は後で軍長及び中隊長会議で井上少将からありますので、その際確認をお願いいたします。」

「そうなのか、ならいいが……」

「では、この後、中隊長以上は集まってくれ。あとは研究部と参謀部からは部門長のみ集まってくれ。では解散とする。」

こうして、海軍内に新たな組織である航空戦群が設立されたのだった。


今回は少し中途半端に終わります。


今回の話で試空戦が何を目的としていたか、察した人は多いかもですね。うまく隠したつもりですが(これでも)

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