[オリジナル][ローファンタジー]故郷の空をボクは知らない
ある日、男友達が可愛い女の子になった。
どうしよう……すごく……むかつくw
日が昇れば、どこまでも遠く青い空。
日が沈めば、満天の星。
大気汚染のない空気は、どこまでも透明で、その純粋さが痛いほどだ。
日本という名の土地から異世界に移ってきたらしいボクにはそれが普通の空。
ボクには生まれた土地の記憶はない。
赤ちゃんのときに召喚されたボクはここが普通。
同じ世界から来た人達に元の世界の知識を色々教えてもらったけれど、その感想は遠いということだった。
どこかおとぎ話を聞くのと同じように聞いているボクを育ての親は不憫そうに見つめる。
でも、ボクはなんとも思わなかった。
記憶がないから懐かしむこともない。
そして、ボクがここで育つことになんの疑問も感じていなかった。
転機が訪れたのは数え年、15歳になると行わる成人祭の事だった。
「朝だよ。寝てないで起きろー」
いつもの通り隣に住む友人のフトンを引っ剥がすと、質素なベッドの上に知らない人がいた。
若草色の神をショートに揃えた、耳が長い少女。
俗にエルフという種族だが、何でかは分からないが友人のベッドにいたのはそういうものだった。
じっとこちらを見つめる彼女?の服はいつもの友人の服。
何度も見返し、しばらく悩んだ末に出した結論は……。
「変身魔法なんてどこで掛けてもらったんだ?」
という言葉だった。
この世界には魔法というものがある。
残念ながら人間にはほとんど使えず、一部の種族が使えるらしい。
らしいと言うのは見たことがないからである。
そんな希少種族はこんな辺境の街に流れてくることはないと思っていた。
が、今は信じられる気がする。
それでしか説明出来ないことが起きたからである。
元の世界にはSFXとかあるってホラー好きのお姉さん言っていたが、そんなことがあるわけでなし。
「失礼しました……」
そっと見なかったことにして木戸を閉じる。
やつは居なかった。
イイヤツダッタナー。
可愛そうな目で友人だったものを見ると、彼女?は言った。
「オレだよ。オレ、パニーニだよ」
「そういうのには慣れているんで。サヨナラー」
木戸を閉じきった瞬間。中から勢いよく木戸が開けられ、ボクはしたたかに鼻を打ち付ける。
アウチッっとニーサンから教わったアメリカ式の叫び声を上げるとボクは花を抑えてゴロゴロと転げ回った。
中から出てきた彼女?はボクを片手で抱えると部屋に連れ込み、椅子を後ろ向きにして、座る。
「なにから話したものかな。とりあえず。オレがパニーニなのはいいな?」
「全然良くない」
可憐な容姿に非常に似つかわしくなく、頭をガリガリと書きながらパニーニ(仮)は言った。
「お前は知らないけれど、ウチの村の住人でお前らの言う希少種族ってやつで構成されてる」
「つまり、ニセ美少女……」
「ん?、これは本当の姿だよ」
「いや、今まで男だったろう。それが女になった。信じられるかコノヤロー!」
「驚くのは無理も無いけど、嘘を言ってたわけではない」
「持って回った言い方だな」
「成人の日の朝、変態するんだ。オレ達」
「は?変態なのはわかってる。十分に分かってる」
冷たい目で見るボクにめんどくさそうに彼は言った
「虫とかの変態な。サナギが蝶になって~ってやつだ」
「おかしい、パニーニが知的なことを言ってる……」
ボケるボクをほっておいて彼が話を進める。
「女になったというか、今まで性別が揺れ動いてたんだよ。成人の儀に際して、特別な成長薬が支給されて、性別が決定される」
外見も種族的にかなり美人になるよ。
「てことは村の他の人も?」
「イケメン、美人とかになってる」
「ついていけないんだけど……」
「考えても仕方がない、そういう生き物なんだよ」
したり顔で語る友人がボクの肩を叩いて、いい笑顔で言った。
その笑顔を見て、コイツはボクの友人だと確信した次第。
「それでだ。どこまで話したっけ」
「美人に変態するというとこまで」
「あぁ、そうだっけな。まぁ、外見は変わったけれどパニーニだからよろしく」
「それだけ?」
「特には……あぁ、そうそう。オレ、力が強くなった。STR高い」
「誰に毒されたんだが……普通はエルフってINT高いんじゃないの?」
「オレたちの種族はエルフじゃないぞ?ヴァンって種族」
「魔法は?」
「使えるけれど攻撃魔法は得意じゃないな。回復と自己強化」
あと、MND高い。
ボクは自分の瞳がキラリと光るのを感じた。
(コイツを売れば、一財産と思わなくもない)
が、流石に友人を売るほどボクは人でなしでは無かった。残念。
「あぁ、成人したから森都に移住することになるよ」
彼らは基本的に東の森奥にあるヴァン達の都――森都に住んでいる。
この村は人の国の動向を知るために置かれた村である。
とは言え、森都が攻められたのは、はるか昔だった。
現在ではすっかり平和ボケしている普通の村である。
「ボクは?」
「このまま村に居残るんじゃない?」
平和な村での生活が終わったことを、ボクは知った。
成人祭が行われる広場に行くと、知らない人達があふれていた。
名乗ってもらえば聞いた名前。
でも、知らない顔と声にボクは疎外感を感じた。
広場の真ん中に井桁に組まれた薪に火が灯される。
大きく燃える炎を囲んで、カップルを組んだヴァンたちが踊る。
輪に溶け込めずに居たボクはそれを見つめた。
「成人した若者たちよ」
村長の大きな声があたりに響き渡る。
踊りの輪を止まり、一斉に視線を向けた。
そして、話が始まった。
要約すると、
羽化した若者たちは森都に行くこと。これは希少種族ゆえの身の安全を考えてのことである。
人に紛れる手段を持ったものは例外とし、この村での斥候を続行するということ。
(パニーニは変身の魔法は使えないから森都だな)
一番近い友人が遠くに離れ去る。
意外と心に刺さる自分に少し驚いた。
それは永遠の別れではない。
でも……。
「大丈夫だ」
「ふぁっ!?」
気配を殺して傍らに寄ってきた彼は肩をたたいて、そう言った。
混乱するボクにこう言ったのだ。
「君を守って森都に行くことにした。結婚しよう」
いきなりの申し出に、しばらく呆然として、唖然として、憮然とした。
彼が言うにはヴァンで無くても家族なら森都に連れて行ってもいいらしい。
「女と女では結婚できないと思うけれど?」
「大丈夫だ。心は男。体は女。プラトニックな関係でもいい。かならず尻に敷いてやる」
「んー。それはどちらかというボクがいうセリフでは?」
「お前んとこのニーサンがこう言ってプロポーズすると言ってたぞ?」
「そういうのいらない(プイ)というか、そういう対象じゃない」
「そんな……ヒドい。こんなに思っているのに……」
さめざめと泣きつつ、ちらっとこちらを伺うパニーニ。
うん。とても気持ちが悪い。
「寒気がするから止めて」
「それは冗談として、レンジャー技能が高いので斥候でも良いということになった。これからもよろしくな!」
呵々大笑する自分よりほんの少し小さなきれいな女の子に全く安心感を抱けない。
ハイハイと調子よく合わせつつ、なんとなく苦労しそうな生活になることだけは確信したのだった。
いろいろ詰め込んでみました。
カラーが違いすぎて難しいです。
これを調理できるようになるのは先が長そうですね。