救出作戦
「うーん……印のない分岐に出たね……ここまでにもかなりの数の魔物たちの死骸を見たから、追われていたとみて間違いないだろう。印を残している暇がなかったか、あるいは記していた人が怪我をして残せなくなったか……どちらにしても一刻の猶予もないね。
ここからは2手に分かれよう。水飲み場へのルートは、それほど複雑でない場合が多いから、これまでに2分岐あったから、この先分岐があったとしても恐らくひとつくらいだと思う。
分岐があったらまた2手に別れ、その先が行き止まりだったら、急いで戻って反対方向へ進み合流する。そうしてその先がまた行き止まりだったらここまで戻ってきて、他チームを追う……という形だね。
今度は斥候ではないから、この先に魔物がいたら戦ってもいい……なにせ、その先には恐らくジュート王子様の部隊がいるはずだからね。事態は切迫しているだろうから、すぐにでも魔物たちを駆逐してしまう必要性がある。
それでも血の匂いに引き寄せられて、近隣の魔物たちが集合しているだろうから、かなり多くの魔物がいると思うし、覚悟がいるね。無理だと思ったら、仲間が合流するのを待ってチームとして戦ったほうがいい。
有利なのは、魔物たちはジュート王子様たちを狙っているわけだから、僕たちは魔物たちの背後をつくことができる。初手であらかた片付けてしまえば、後は楽だ。
だけど魔物たちの先に王子様の部隊があることを忘れてはいけない。あまりに強烈な魔法攻撃や弓矢の連射など、救うべき味方をも攻撃してしまう可能性があるから、十分注意してくれ。」
水飲み場へのルートで3つ目の分岐に差し掛かったところで、スースーが周囲を時間をかけて見回しながら、腕組みをする。いよいよ待ったなしの状態の可能性が高い、ということなのだろう。
「わかった……じゃあ俺たちは左側のルートを進む。右側ルートはお願いする。」
急がねばならない……すぐに4人で左の分岐を歩き出す。
「こっちのルートの可能性が高いんじゃない?魔物たちの死骸があるし、かなり臭うわよ……。」
「その可能性もありますが、一旦こちら側へ進んでいきどまりだったから引き返して、その時に追ってきた魔物たちと戦闘になった可能性も否定はできませんね。」
トオルが冷静に分析する。左のルートは、そこかしこに魔物の死骸が散乱していた。殺された魔物を後から来た魔物が捕食して食い散らかしてしまうので、何匹分かは分からないが、洞窟の床や壁、至る所が赤や黒の飛沫に染まっている。恐らく血の跡だろう。これが部隊のものでないことを祈りながら進んでいくしかない。
「分岐に出ましたね……では2手に分かれるとしますか……。」
しばらく進むと、洞窟が2方向に分岐している地点に到達した。
「そうだな……じゃあトオルとナーミ、俺とショウの2手に分かれるとするか。この階層からは、魔物たちが魔法を使う可能性があるということだから、念のために盾を出しておけよ。
海系ダンジョンのために揃えた盾があっただろ?あれだって十分役に立つはずだ。トオルとナーミのは装着型だったから、それなりに攻撃はできるだろ?それと……あまりに数が多い場合は、攻撃を待った方がいい。
スースーも言っていたが、チームが合流してから攻撃したほうが、何せ背後からの不意打ちなんだから、一気に倒し切ったほうがいいとは考える。数匹であれば戦って構わないが、群れを成している場合は、合流まで待つように……いいね?」
スースーに指示されたように、分岐を2手に分かれて進むことにする。俺は国宝級の鎧兜を頂いたときに盾も一緒に頂いたからいいのだが、トオルたち3人は職業柄、盾は頂いていない。俺が前衛の時は俺が盾で防ぐことは可能なのだが、2手に分かれることもあり、全員に盾を装着させる。
海ダンジョン用のチタン製盾だが、他のダンジョンで使ってはいけないということはないはずだ。
魔法を使う猛獣の可能性が高いので、用心に越したことはない。ショウたちが冒険者の袋から各自盾を取り出して、装備してから出発だ。
「ありゃりゃ……行き止まりだ……。」
結構10分以上急ぎ足で歩かされたが、その先は行き止まりだった。『ダダダダダッ』来た時の倍以上のスピードで戻り、分岐を折り返してトオルたちを追う。
『ダダ……タタタタッ』ダッシュで急いでいたら、先の方から明かりで照らされたので減速する。向こうも行きどまりで戻ってきたのかな?あれは輝照石の光だろう。
「ど……」
ゆっくりと歩きながら、先へ声をかけようとしたら、前方の光が横に小刻みに振られたため、声をかけるのを取りやめゆっくりと進んでいく。
「どうした?」
「はい……この先に魔物たちの群れを発見しました。何種類もの魔物たちがいるようですが、皆争うこともなく整列していました。水飲み場近くでは、不戦の習慣があるのではないでしょうかね。
いまナーミさんが見張っていますが、こちらには気づいていません。ワタルたちが駆けてきて、音を立てて刺激しないよう、少し手前で待っていました。」
小声で尋ねるとトオルも小声で返す。ううむ……この先に魔物の群れが……。
「どうする?スースー達を待つか?」
「いえ……それでは時間がかかりすぎます。今この時点で別れてから30分以上経過していますから、向こうのチームがこちらへ到達するには、あと1時間以上はかかるでしょう。一刻の猶予もないのであれば、我々だけで戦うしかありません。
スースーさんが言っていたように、魔物たちはジュート王子様の部隊を狙っていますから、背後から一気に攻め込みましょう。」
トオルが覚悟を決めたように打ち明ける。そうか……突っ込むしかないということだな。
「よしっ……わかった……一気呵成に攻め込むとするか。」
トオルと3人で、忍び足で先へ進む。途中から輝照石に青い布をかけ、光量を落とすことにした。
「どうですか?」
5分ほど曲がりくねった洞窟を進んでいくと、前方の様子をうかがっている少女を見つける。
「後ろの魔物たちに動きはないわ……でも、時折遠くから咆哮や叫び声が聞こえる所を見ると、先の方では戦っているみたいね。早いところ助けないと……戦っても戦っても後続の魔物たちがいるから、疲れ切っているはずよ。」
トオルの問いかけにナーミが前を向いたまま答える。そうか……だが、戦っているということは、ジュート王子たちが、まだ生きているということだ。
「よしっ……攻め込むぞ。数が多いのだったら、魔法攻撃もありだろう。但し、目視範囲内の敵に必ず当てること。強力な火炎攻撃がいいのだが、避けられてしまうと、その流れ弾が部隊の方へそれて行ったら大変だ。」
とりあえず、不意打ち攻撃は火炎攻撃が理想だ。
「わかったわ……じゃあ、ショウ……大炎玉はまずいから火弾攻撃よ……。」
「うん分かった……雷系も使っていいんでしょ?」
「ああ、もちろんだ……スースー達の前で使うのも、これからはありだ……彼らは信用できる。」
ショウの雷魔法を解禁する。ここからは禁じ手なんて、格好をつけていては勝てない相手だろう。全力で全勢力で戦わなければならない。それに……スースー達への説明が面倒だから、雷魔法を禁じていただけだからな……見られて困るようなものでもないのだ。
「炎の矢!」
『シュボワシュボワシュボワシュボワシュボワッ……グザグザグザグザグザッ』ナーミの炎を纏った矢が、背を向ける魔物の群れに向けて発射され、
「火弾!火弾!火弾!火弾!」
『ボワボワボワボワッ』更にショウの放つ高速の炎の弾が魔物たちに襲い掛かる。
『シュシュシュシュシュッ』トオルのクナイが放たれ、
「岩弾!岩弾!岩弾!岩弾!」
『ビュビュビュビュッ……ドガボゴドゴドガッ』俺の新魔法、こぶし大の岩が高速で魔物たちに向かって飛んでいく。
「ぐるるるるっ……ぐぎゃぉぅっ!」
背後からの不意打ちに気づいた魔物たちは、うなり声をあげながら、一斉にとびかかってきた。
『ボワッボワッボワッ』「うわっ!」『バスッボスッ……シュッパンパシュッ』魔物たちの口から火弾が発射されたので、焦って盾て防ぎ剣をふるって2頭を斬り捨てる。
「強水流!」
『ブシュワーッ』洞窟の幅は2mほどしかなく、2列で並べないので、俺の斜め後ろで構えるトオルが唱え、強烈な水流が発せられて、魔物たちの火弾が無効化された。
『シュパッパッ』『シュシュシュッ……バスバスバスッ』トオルが長刀でとびかかってきた魔物を斬り捨て、ナーミの矢が魔物の体を突き抜け仕留める。
「かまいたち!」
『バシュンッズバッ』更に、前方で身構えるトラ系魔物の首筋に衝撃が走り、そこから血が噴水のように吹き上がる。ショウのかまいたち炸裂だ。
「ぐるるるるるっ」
魔物たちは、こちらに振り返りうなり声をあげながらも、後ずさりし始めた。先制攻撃成功といったところだろう。最初の魔法攻撃と合わせて、一気に十数頭仕留めた。ちょっと卑怯な気もするが、向こうだって数を頼りにジュート王子の部隊を追い詰めていたんだから、おあいこだ。
すぐに輝照石を覆っていた白布を外して、全開の光量で前方を照らす。
「炎の矢!」
『シュボワボワボワボワッ……バズバズバズバズッ』
「雷撃!雷撃!雷撃!雷撃!」
『バリバリバリバリバリッ……ドゴーンガッガーンドゴンガゴン』攻撃の手を休めず、ナーミの炎の矢とショウの雷攻撃がさく裂する。特に雷撃は強烈で、一撃で大型の猛獣系魔物を葬っていく。
「岩弾!岩弾!岩弾!岩弾!」
『ビュビュビュビュッ……ドガバガドッゴンバッコンッ』こちらに振り返ったので、直接頭を狙うことができ、こっちも一撃ずつで葬ることができた。なにせ、避ける隙間もないくらい狭い洞窟内にびっしりと、魔物たちがひしめいているのだ。目をつぶって石を投げても当たるくらいだ。
「おお……先の方に光が漏れているのが見えるぞ。おーい……誰かいますかー?助けに来ましたー……!」
狭い通路のような曲がりくねった洞窟も、少し直線になって先行きの見通しができるようになってきた。それでも先の方は見通せないのだが、炎のような揺らめく明かりが漏れているような気がするので、大きな声で呼んでみた。
「…………先生?トーマ先生でしょうか?ジュートです!」
すると洞窟奥から、懐かしい声が聞こえてきた……やった……無事だった……。
「よしっ……一気に斬り抜けていくから、仕留めそこなった分は頼む。」
「はいっ、わかりました。十分お気をつけて。」
恐らく洞窟の先は少し広いドーム状になっているのだろう、そこまでが約30mほど。その間をトラやらライオンやらチータやらの猛獣系魔物たちがひしめいている。多分30頭以上は余裕でいるはず。
こちら側から倒していくと、向こう側へ遮二無二突っ込んで逃げようとする危険性もあるから、まずは俺が一気に飛び込んでいくことにする。ショウにクーラーボックスを預け、少しでも身軽にする。
「脈動!」
『バシュッ』クラウチングスタートのように構え、姿勢を低くした状態から脈動を使って洞窟天井すれすれに低く飛び、そこから一気に加速する。
『バシャーンバシャッ……ダダダダッ……シュッパンシュパッダダダッ……シュッパッ』剣を振り回しながら当たるを幸いに、魔物たちを斬り捨て、なおも走っては斬るを繰り返す。
『シュボワボワボワッ……バシュバシュバシュ』『シュシュシュシュッ』『ゴロゴロゴロゴロッ……ドンガゴンッガンッドンッ』後ろでは、ナーミたちの援護射撃が始まった。これで、俺を背後から追撃する余裕はないはずだ。前方だけを見ながら、ひたすら斬り進んでいく。
『シュッパバシュバシュバシュスパッ』途中から魔物たちは背を向けていたので、簡単に斬りこんでいけた。
「先生……。」
そうして入り口をふさぐ大きな盾の隙間から、あどけなさを残す青年の顔が……。
「ジュート王子様……ご無事で何よりです……。」
『シュッパンパンパンッ』入り口を背に振り返り、襲い掛かってくる魔物たちを盾で捌きながら次々と斬り捨てていく。ドーム入口で、ジュート王子自ら魔物たちの攻撃をしのいでいたということのようだ……なんという勇敢な……。




