2階層目
「まあ僕たちもいい歳だから、今更補助魔法を覚えるなんて戦術変更などやる気もないし、そもそも高価な精霊球を清算しないでとっておくなんてもったいないことはできないさ。なにせ、C+級だって1ヶ月半……B級だとメンバー全員が半年間は楽に暮らせるんだよ……今更だから絶対に清算するさ。
だから詳細は聞けなくても全く構わないよ。いい機会だから、僕たちもチームメンバーを紹介しておくね。
僕はスースー……A級騎士だ。ランスによる串刺し攻撃を戦法としている。
こっちの彼はチーチー……A級の剣士だ。抜刀術を得意戦法としている。
こっちがミーミー……A級の弓使いだ。精密さはナーミには劣るけど連射のスピードと威力が自慢だ。
最後がケーケー……A級僧侶だ。彼だけが僧侶の修業のために4年遅れで参加してきた。
僕らは幼馴染さ。そうして冒険者になろうと決めて、各自小さな時から修業していたんだ。」
チームナーミュエントメンバー紹介の後、スースー達チームの簡単な紹介をしてくれた。そうか……全員幼馴染ね……。
「そっそうか……僕はずいぶんとみんなに迷惑をかけていたんだね……そんな高価な精霊球を僕だけ何個も持って……。」
ところがスースーの言葉を聞いて、ショウがうなだれてしまう。
「そっそんなことはないぞ……ショウは立派に魔法使いとして、チームに貢献しているんだ。迷惑どころか、すごく助かっているんだぞー……。」
すぐにショウをなだめて元気づけようとする。うーむ……余計な一言が……スースーをにらみつける。
「けっ決して魔法使いを否定したり、補助魔法という戦法を否定したわけじゃないんだ。その……長年培ってきた戦術というものがあるから、僕たちのチームには魔法という戦法は取り入れないと言っただけで……。」
スースーが焦って言いつくろい、申し訳なさそうに頭を下げる。
「そうだよ……俺なんて回復系だけで全然戦えないけど、チームメンバーとしてダンジョンに入って、報酬は均等割りさ……魔法を使って戦えるだけで充分貢献しているさ……。」
「そうそう……ケーケーは僧侶で戦えないけど、回復魔法を使うことでチームに貢献している。百年ダンジョンを攻略するパーティには必須だと、僕は考えているくらいさ。同じようにショウ君のような魔法使いだって、そのチームの戦法によっては必須な仲間となるわけだ……だから決して魔法を否定したわけでは……ごめん。」
ケーケーまでが加わり、スースーが必死でショウをなだめ始めた。
「うーん……そうだよね?僕は体力もそんなにないから、一緒に戦うには魔法で貢献できるだけでいいと思わなくちゃいけないよね……明日からも頑張る……。」
ようやくショウは納得してくれた様子だ。
ダンジョン内なので当然酒は飲めなかったが、締めの雑炊が最高だった。米はリュックに一人5キロずつと、水も煮沸したものを10Lずつ入れてあるし、白菜、キャベツに人参、玉ねぎにジャガイモなど、日持ちする野菜も持ってきている。荷物の重さもトレーニングの一環と考えれば、何のことはないのだ。
俺とトオルはこのほかに、回復水や食材を入れたクーラーボックスを持っている。
更におかずなしのご飯だけを道具屋で購入することができることに気づき、この場合は3食分のご飯が弁当1食分として冒険者の袋に入れられることが分かったので、各自30食分は白米だけにしてある。肉などは大抵のダンジョンで手に入るので、このほうがいい。
ちなみに白米だけだと栄養価が偏るため、ギルドではあくまでも野菜に肉などバランスよく詰められた、弁当の持参を推奨している。
「今日は君たちの戦いっぷりを見せていただいた。1層目だから魔物もさほど多くはなさそうだったから手を出さなかった。明日からは斥候を除いてメインは僕たちが戦うことにするよ。それで各自の紹介に当てるとしよう。食事後、腹ごなしにトレーニングするだろ?それが済んだらチームごとに交代で見張り番をしよう。
急がなければならないから、3時間交代とするけどいいかい?」
「ああ、構わないよ。最初は俺たちが見張り番でいいかい?ショウは子供だから、一度寝ると朝まで起きないのでね……。」
「OKーじゃあ、後片付けをしてからトレーニングだ。」
全員で食器を片付け始め、トレーニング後交代で見張り番、スースー達もトレーニングを欠かさないというのを聞いて、ちょっと感心した。
「おいしいっ……へえ……ハムっていうお肉……おいしいね。」
朝食はハムエッグにパンだった。小麦粉を持ってきていて、見張り番しながら準備して発酵させていて、朝焼いたというから本格的だ。
「ハムというのは、南の大陸からワインとともに伝わった加工食品で、保存食の一種ね。マース湖のほとりでは、湖からの涼しい風を利用した生ハムっていう食べ物も作られているって聞いていたわ。高級食材で、あたしは食べたことないけどね。」
おいしい朝食を食べながらナーミが解説してくれる。トオルは興味津々で、調理担当者にパンの焼き方やハムの作り方など教わっている様子だ。トオルが知らない料理があったことの方が意外だが、俺はハムにベーコン、ウインナーなど転生前の日本で食べたことはあっても、作り方などもちろん知らないからな。
「じゃあ、今日は僕たちチームが前衛をするね。後衛は任せるよ。あと、分岐に出たら斥候をお願いする。」
「了解した。」
朝食後、スースーとチーチーが先行して進み始める。2層目というから階段か何かでつながっているのかと思ったけど、そのまま進んでいくだけだ。ここからしばらくは緩やかなスロープになっていて、少しずつ下がっていっているらしい。暫く進むと天井も少し高くなって、洞窟の幅も広がってきたように感じる。
「ぐるるるるっ」『シュタタタタッ』『バスバスバスッ』『シュパッパンッ』少し進むと、獣のうめき声が聞こえたかと思ったら、スースーたちがすぐさま反応していた。
スースーの長い槍先には、犬のような小型の獣が3匹も串刺しにされていて、さらに地面には2匹の魔物が息絶えていた。
「すごいですね……スースーさんの槍は一突きで3匹仕留めましたが、チーチーさんの方は抜き手を見ることもできませんでした。」
その戦闘を後ろから見ていたトオルも感心したように、ため息をつく。確かにチーチーの抜刀術はすごかった。剣を鞘に納めたままで構え、獲物が近づいてきた瞬間に抜いて一振りの連続動作で2匹仕留めた。
鮮やかな手さばきだった……何とか目で追うことはできたが、暗い洞窟内で輝照石の光を刀が反射して軌跡が残っただけで、昼間の外だったならどうだったか……。
2人ともすごい腕前だ……あれなら補助魔法など必要としないだろうな……。
「ハイエナ系の魔物だね……残念だけど、毛皮の回収には向きそうもない。もちろん食肉にも向かないよ。」
スースーがトオルに向かって残念そうに首を振り、そのまま進んでいく。
「じゃあ、分岐に来たから斥候をお願いする。
斥候の役割を説明しておくね。斥候は分岐のどちらかを進んでいき、行き止まりだったらすぐに引き返してくる。本隊はその反対側を進んでいけばいいわけだ。
斥候が進んだ先が分岐になっていた場合は、再度一方を進んでみてその先が行き止まりだった場合はもう一方へ進み、再度分岐だったらすぐに引き返して本体に合流する。そこから進んでいないほうへ確認のためにいくことになる訳だね。要するに、先の状況を把握して本体を誘導する任務だね。
2人とも機動力が高いということだから、一度に2方向の斥候ができるので、かなり時間短縮ができる。
斥候の役割は、先行きを確認するだけだから魔物と遭遇しても決して戦ってはいけない。戦っていると時間ばかりかかってしまうから、機動力を駆使して何とか逃げて、先の状況を把握して戻ってきてくれ。
その時に魔物たちに追われていても構わない。こちらで処理するからね。多くの魔物を引き連れてきてくれた方が、その後の展開が楽になるからいいよ。」
しばらく進んで、洞窟が2方向に分岐する場所でスースーが振り向いた。いよいよ斥候の出番だな。俺たちは、常に構造図のあるダンジョンしか挑戦したことがなかったから、斥候なんてしたことがない。
それもこれもトーマの師匠であるカルネのおかげなのだが、構造図のないダンジョンをどうやって攻略するのか興味はあった。スースーという先輩冒険者に、その手ほどきを受けられるというのは大変に幸運だと思う。
「わかった……とりあえず行き止まりでない限りは、2つ目の分岐の先がどうなっているかまで確認すればいいのだね。そうして戦わずに逃げ回って戻ってくると……了解した。何とかやってみよう。」
「パパー……頑張ってね……。」
ショウの声援を受けて、左側の分岐の前に立つ。トオルが右側担当だ。
「じゃあ行くよ……。」
『ダダダダッ』トオルがうなずいて、2人同時に駆け出す。輝照石が複数あることは本当にありがたい。
「ぐるるるるっ」
「脈動!」
『ダッ……シュダダダダッ』前方に猛獣の気配がしたので、すぐに脈動を使って大跳躍して飛び越えて駆け出す。そのまま駆けていくと分岐に出たので、まずは左に曲がる。背後を追ってきた魔物も、分岐前で気配が消えた。そうしてその先は、行き止まりだ……ダッシュで戻り、分岐を今度は右へ進む。
「うぅぅぅぅぅっ」
「脈動!」
『ダッ……シュタダダダッ』またもや猛獣の気配がしたので脈動で大ジャンプして、着地後一気に駆け出す。日々のトレーニングで、それなりに走りこんでいたからよかったが、何もしていなければ恐らく猛獣系魔物たちに追いつかれて、戦いになっていたか下手をすれば餌食になっていたかもしれない。
地道な毎日のトレーニングは必須だと、改めて認識した。
おわっ……また分岐だ……えーと……2つ目の分岐に出くわしたら引き返すんだったな……しばらく走ると2股に分かれていたので、ダッシュで戻ろうと振り返る。
『シュタタタタッ』「おわっ!」
慌てて身をかがめて避けたが、さっきジャンプして避けた猛獣系魔物が追ってきていたようだ。『ダダダダッ』ひえー……なんとかダッシュで駆けだし、逃げまくる。
「脈動!」
『ダッ……ダダダダダッ』更に最初に出くわした猛獣系魔物も大ジャンプで躱し、ひたすら加速する。
「ぎゃうがうぎゃぎゃっ」「くわぉぎゃんぎゃんぎゃんっ」
後ろがすごく騒がしくなる。2頭の魔物同士が鉢合わせしたのか、縄張り争いが繰り広げられているようだ、ようし、今のうちに……『ダダダダダッ』ちょっと安心するがスピードは緩めない。
「ようし、ご苦労さん……あとは任せてくれ。」
しばらく走ると、重厚な鎧に身を包んだ騎士が見えてきて、ようやく生きた心地がした。騎士と剣士の間をすり抜けて、駆けていく。
『ズボッ』『シュッパァーンッ』振り返ると、後方では血しぶきが上がっていた。スースーとチーチーにより、俺を追っていた2頭の猛獣系魔物は、一瞬で始末された。
「トラ系魔物が2頭だったね……チーターとか足の速い魔物でなくてよかったね……。毛皮を採取するならどうぞ……。」
スースーが、大きな獲物を確かめながら笑みを浮かべる。なんだって?チーター系なんて足の速い魔物もいるのか?そいつらから逃げ帰れと言っているのかな?さすがに無理だろ……。
『タタタタッ』『シュッパァーンッ』スースーの許可を頂き、トオルが喜んでかけていき、鮮やかな手つきで皮を剥ぎ始める。待たせると申し訳ないので、もう一頭は俺が皮を剥いでやる。トオルと一緒にいると、こんなことが器用になってくるな……。
そういえば、トオルの方が先に戻ってきていたんだな……。
「では、報告をお願いするね。」
「ああ……行った先は2股に分かれていて、左は行き止まりだった。右へ行くとさらに2股に分かれていたから、引き返してきた。これでよかったかな?」
「上々だよ……トオルが行った方も2股に分岐していたようだけど、その先は両方とも行き止まりだったようだ。だから、この先は左へ進んでさらにその先は右だね……。」
スースーがA4の用紙にペンで書きこんでいる。おおそうか……ダンジョンの構造図を作っているわけだな……そうだな……このダンジョンの2層目以降は構造図がないんだものな……よし……俺も……。
「ああ……君たちには斥候をお願いしているんだから、構造図は僕に任せてくれればいいよ。今はコピー機っていう便利なものがあるから、いちいち書き写さなくてもいいからね。僕が作ったのを清書して、コピーさせてあげるから心配しないで……。それと、ケーケー……回復魔法をかけてやってくれ。」
俺もトオルも一緒に紙を取り出したところ、スースーに笑顔で止められた。よかった……彼に任そう。
「わが術をもってこの者を救う。この地のすべての活力を集め、そうしてこの者を癒せ……。」
そうしてスースーのチームの僧侶に、回復魔法をかけてもらう。なんだか体の芯からぽかぽかとしてきて、疲れが一気に吹き飛んだ感じがする。回復水でもある程度疲れは取れるが、基本的に外傷など魔物との戦いで傷ついた体を癒すことが目的のため、自然治癒力は高まるが疲れが完全にとれるということはない。
ところが僧侶に回復魔法をかけてもらうと、なんだか斥候に出る前よりも元気になったような気がする。
冒険者チームに、回復系が使える僧侶が必要と言われる意味が分かったような気がする。今回のように階層の深いダンジョン攻略には、必須と言える。
取り敢えずの道筋は分かったので、皆で分岐を左に折れてその先の分岐は右に折れる。魔物は追いかけてきたのを倒してしまったので、襲ってくることはなくスムーズに進めた。
「じゃあ、俺とトオルは先に行って分岐の先を探ってくる……。」
スースー達に声をかけながら、トオルとともに駆け足で追い抜いていく。僧侶の魔法で元気になったこともあるし、早いところジュート王子たちに追いつかなければならないのだ。のんびりしてはいられない。
トオルも回復魔法をかけてもらって、元気いっぱいの猛スピードで駆けて行った。
またもや俺が左へ進み、トオルが右方向へ。俺が行った先は2股に分岐していたが、その先は一方はすぐに行きどまりで、もう一方はかなり進んでようやく行き止まりだったので、ちょっとショックだった。
それまでに魔物たちを大勢連れてきていたので、Uターンした後すぐに脈動で2回連続ジャンプして追っ手をかわしながらダッシュで戻る。そうして、戻った先でスースーたちに救われた。
さすがに今回は引き連れてきた魔物たちが多かったので、ミーミーとナーミの弓も加わって倒しきった。ハイエナ系魔物なので、群れで襲ってくるようだ。それからまた、僧侶に回復していただく。
そんなこんなを繰り返して、分岐を6つほどクリアしたところでスースーが立ち止まった。
「ふうん……頭がいい人が一緒にいるようだね……。」
新たな分岐のところで、地面をじっと見ながらつぶやく。
「どういうことだい?」
そりゃまあ、ジュート王子とともに行動するくらいなんだから、エリートバリバリの兵士であることは間違いがないはずだがな……。
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