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猛獣系ダンジョン

「ぐるるるるっ」

 歩き始めてすぐに、動物のうなり声のようなものが聞こえてきた。少し先の洞窟の暗がりの中で、きらりと光る点が2つ……あれは目なのか?


『シュシュシュシュッ』『タタタッ』すぐさま後ろから矢が射かけられたが、黒い影は簡単にかわして猛スピードで迫ってきた。


「落とし穴!」


『タタ……ドーンッ』『ダダダダッ……グザッ』一直線に駆けよってきたので、進行方向に落とし穴を仕掛けると、まんまとはまってくれた。躓いて転んだショックで動けなくなったところをダッシュで駆け寄り、剣を突き刺して絶命させる。


「真っ黒い……ヒョウか?黒ヒョウ系の魔物のようだな……。」


「そうだね……ここは猛獣系ダンジョンのようだ。ダンジョン入り口を隠して、百年ダンジョン化させたのは、意図的のようだな……。」

 スースーがすぐによってきて、しなやかな丸みを帯びる猛獣の死骸を見ながらつぶやく。


「どういうことだい?」


「猛獣系のダンジョンというのは非常に珍しくてね……この大陸内にも数えるほどしか見つかっていない。このダンジョンの特徴は、必ず複数個の精霊球が宿るということだ。つまり、全種類の精霊球が一度に回収できるとか、最低でも2つ以上の精霊球が宿る。


 普通のダンジョンでもまれに複数個の精霊球が発見される場合はある。特殊効果石が精霊球と一緒に見つかる場合が多いけどね。だけど同じダンジョンで常にということは無いようだ。たまたま偶然というか、双子の赤ちゃんが生まれるみたいな感じだろうと考えられているが、猛獣ダンジョンだけは別だ。


 だから球になれなかった特殊効果石も、その分多く発生するわけだ。それなりに年数はかかるけどね。


 より魔力の高い精霊球を作り出すために、精霊球の成長が早いダンジョンを百年ダンジョンにするのが一般的だけれど、猛獣ダンジョンのように、一度に複数の精霊球が宿るダンジョンを百年ダンジョンにするのはより効果的と言われている。


 僕たちのパーティが先日攻略したグイノーミの百年ダンジョンも、猛獣ダンジョンだった。だからこそあんなに大量の特殊効果石と、さらに生命石や魔導石が回収できたわけだね。精霊球として回収される数は減ってしまうけど、生命石と魔導石のような本当に希少な特殊効果石は、精霊球よりも価値があるからね。


 恐らく、そういった希少な特殊効果石を回収するために、ここを百年ダンジョン化したかったのだろう。だけど、当時はまだ戦国時代だったしギルドの活動も不安定で、ダンジョンを登録しても守れるかどうかわからなかった。


 さらに一般冒険者に攻略を任せた場合は、回収した精霊球や特殊効果石を、自国のものとできるかどうか流動的だ。だから、この地に王宮を建て、ダンジョンの上に離れを設置してその存在を隠した。


 そうして百年以上経過したら、精霊球を回収する部隊を派遣しようと考えていたのだろうけど、理由はよくわからないが、このダンジョンの情報が伝わることはなく忘れ去られていたか、伝わっていたけど、その重要性までは伝わっていなかったと考えるのが妥当だろうね。


 まあ今回、精霊球の回収で部隊を派遣したということだから後者ということなのだろうね。ダンジョンというものに詳しい人が、この国の重鎮にいなかったということが残念だよ……。」


 スースーがため息をつく。ほほう……ダンジョン内に入って襲い掛かってきた魔物一匹に対して、ここまでのストーリーを組み上げるとは……しかもその内容が、どれも妥当で納得できるときている……さすがスースーだ……半端ない……。


『ズズズズズッ……バサバサバサッ』足元では、トオルが小刀を使い、鮮やかな手並みで黒ヒョウ系魔物の皮を剥いでいく。ううむ……肉は食えそうもないから、毛皮目的か?


「わかった。猛獣が多いダンジョンということだね。普通の動物はいるのかい?イノシシとか牛とか。」


「ああ……いるはずだよ……数は少ないし、そいつらは猛獣系魔物から身を潜めているから、人が近くを通っても自ら襲い掛かってくることは、まずない。向こうが移動途中でもない限りはね……だから見つけたらこちらから仕掛ける必要性があるけどね。


 そうだね……このダンジョンはそういった点では、食材調達が非常に難しいダンジョンと言えるだろうね。多少遠回りしてでも、食料になりそうな魔物を狩っていく必要性はあるんじゃないかな……どうせ、ジュート王子たちの部隊の捜索もしなければならないから、ついでに……ということだね。


 後は洞窟内の水飲み場などに自生する、洞窟キノコとか、もやしやアスパラなどかな……草食系魔物たちの普段の食料になるものだけど、それらを見つけ出すのも有益だね。」

 相変わらず勘の鋭いスースーは、俺の短い質問内容の奥まで理解して回答してくれるから楽だ。


「了解。1層目は構造図があるのだから、脇道には入らずに最短ルートで進もう。2層目からは機動力を使って脇道の捜索もしつつも先を急ぐということだね。」


「そういうことだね、よろしく頼むよ。それよりも……さっきのはすごいね……君は地の精霊球を持っているのかい?ナーミは火の精霊球だって言っていたね。じゃあ、忍びと紹介された彼も?」


「ああ……トオルは水の精霊球を持っている。魔法専任のショウは火と水と風の精霊球を持っている。」

 突然スースーが、俺の発した落とし穴に対して興味を持ち始めた様子だ。


「ふうん……すごいなあ……複数個の精霊球を持つなんて、豪華だね……。しかもそれを個々にも使うというのはユニークだね。まあ急ぐ必要があるから、後で休憩の時にでもゆっくりと聞かせてくれるかい?」


「ああ、そのほうがいいな。」

 とりあえずこの場は、そのまま先へと進むことになった。


『ぐるわぁーっ』少し歩くと、今度は3つの大きな影がいきなり襲い掛かってきた。

「炎の矢!」

『シュボワッ』「きゅんっ!」

 先頭の一頭は、ナーミの炎の矢の一撃で沈む。


「脈動!」「超高圧水流!」

『ダッ……シュッパンッ』『タッ……シュパッ』落とし穴を使える距離ではなかったため、飛び込んできた敵と間を詰めるために大きく跳躍し、いわゆる懐に飛び込んで袈裟懸けに斬り捨てる。トオルも喉元を一気に長刀で突き立てた様子だ。


「先ほどの黒ヒョウ系魔物を倒した一撃には感動しましたが、今回のはがっかりです。切り口が大きすぎて毛皮を回収しても高く売れません。ナーミさんの炎の矢も毛皮が黒焦げですし、矢も体を貫通していますので、毛皮としての価値が相当落ちます。」


『ズズズズッ……バサササッ』トオルがぶつぶつと文句を言いながら、自分で仕留めた猛獣の毛皮を剥ぎ始める。3頭とも鬣の大きなライオン系魔物のようだ。


「ごめんなさい……一撃で倒そうと思って……でも、この弓はそれほどテンションが高くはなくてあたしでも弾けるのだけど、威力は上級者の弓よりはるかに大きいわ。これなら魔法付加はなくても行けるかもね。以後気を付けるわ。」


 ナーミが、申し訳なさそうに頭を下げる。そうはいっても突然襲われたんだし……一撃で倒せたんだから仕方なしとしてくれ……と俺は思う。確かにナーミのいう通り、カンヌール王から賜った宝剣は切れ味鋭く、あの大きな獅子を一撃で斬り捨てた。もう少し余裕をもって、毛皮を痛めないように加減をするか……。


「猛獣ダンジョンは、かなりの数の猛獣が襲い掛かってくるから、毛皮回収には困らないと思うよ。もっと沢山出てくるから安心して……。」


「そうですか……よかった。」

 スースーの言葉に、トオルの表情が明るく変わる。現金なものだ。


 その後も補助魔法を駆使して、襲い掛かってくる猛獣たちを駆逐しながら数んでいき、1層目の終点までたどり着いた。ダンジョンに入ったのは昼を大きく回っていたから、今日はこの辺りで野営だな……スースーの方へ振り返ると頷くので、なるべく平地で土が露出している部分を選んで野営する。


 恐らく1層しかなかったときにはドームを形成していた場所なのだろうな。ドームほどではないがそれなりに広く、余裕でテントを4つ張ることができた。


「じゃあ、すぐに夕食の支度にとりかかります。魚系ダンジョンのシオマネキングとオオロブなどまだ大量に所持していますので、それを用いて鍋にします。8人分ですよね?」


 テントを張り終えトオルが簡易調理器具を取り出して、夕食の支度にとりかかる。冒険者用のものを購入したので、冒険者の袋にアイテムとして入れられるので便利だ。


「ああ……スースーに言ってくるよ……人数が多いほうがうまいからな。」

 そう言い残してスースー達のテントへ向かう。


「これまでコーボーのダンジョンで、魚系のちょっと変わったダンジョンをこなしてきた。その時の獲物がまだあるからそれを鍋にしているところだ。十分な量あるので、一緒に食べないか?」


「へえ……素晴らしいね、じゃあごちそうになろうかな……。僕たちのチームはどちらかというとハムとかベーコンにウインナーという加工食材を多く持ってきているから、朝食を担当することにするよ。

 交代で炊事すれば、調理担当者の負担も減るだろうからね。ありがとう、いい考えだね。」


 スースーは笑顔で申し出を受けてくれた。別に交代制でなくても、こっちが炊事担当で構わないと思っていたのだがな。トオルがいるしナーミとエーミもいるのだからな……女性だからということは決して思ってはいないのだが、やはり結婚してからのことを考えると、ナーミにもエーミにも料理の腕を磨いてもらいたい。


 トオルは男だが料理の腕はコック並みに抜群なので、奴の手ほどきを受ければいい嫁さんになれるだろう。食べるメンバーが変わればそれだけ一生懸命作るだろうから、こういった刺激は必要なのだ。


 この日の晩飯はエビの刺身とカニ鍋だった。別荘で大量に冷凍していたのを持ってきたのだが、プリっぷりのオオロブの刺身は冷凍ものを感じさせず、鍋にしたシオマネキングの身のうまみは絶品だった。殻を外して身だけを取り出しているのだが、崩れることなく蓮華ですくって食べることができ、噛むたびに口の中に広がるそのうまみと言ったら……。


「そうそう……急いでいたからダンジョン内では余計な話はしなかったけど、君たちのチームの戦い方はすごいね。魔法を補助として使っているのと、本格的に魔法のみを使って攻撃するのと分けているようだけど、どちらの攻撃も一級品だね。


 ナーミの炎の矢っていうのかい?竹製の矢に炎を纏わせて威力を高めるなんて……言われてみれば納得だけど、ちょっと考えつかないね。それからあの大跳躍……あれも魔法なのかい?


 それと……魔法使いは風系魔法を使うんだね。戦闘時にあまり効果がないと言われているけど、かまいたちっていうやつはすごい……あれはどうやっているんだい?


 そもそも、あるべき詠唱が聞こえなかったようだけど、早口にしても不思議だよね……一体どうなっているんだい?」


 とりあえず食事時を待っていたのか、スースーが矢継ぎ早に質問を仕掛けてきた。俺たちの戦いっぷりを見て疑問点をまとめておいたんだろうなー……俺だったら箇条書きのメモを読み上げる所だ。


「ああそうか……まずは俺たちのメンバー紹介からしておこう。


 俺はワタル……剣士で土の精霊球を持っている。瞬間的な跳躍や落とし穴などは、土系魔法だ。

 彼はトオル……忍びで水の精霊球を持っている。瞬間的な跳躍は水系魔法で実現している。


 ナーミのことは知っていると思うし先ほども言ったが、彼女は火の精霊球を持っている。土と水の魔法はどちらかというと戦闘時に補助的に使っているが、ナーミの火の魔法はそれだけでも破壊力があるので、使うこともある。


 最後にショウだ……彼は火と水と風の精霊球を持っている魔法使いだ。魔物の特性を考慮して、最適な攻撃魔法を使える。魔法効果はある程度カスタマイズできるので、かまいたちもその一種だ。


 俺たちの魔法の呪文の詠唱が短いのは、中級魔法になると呪文を短縮できることは知っていると思うが、同じような手順を用いて短縮しているからだ。もし、君たちも利用したくてその手順を知りたいのであれば、精霊球を取得したのちに、いつでもいいから学びに来てくれ。取得できるようになるまで教えることを約束する。」


 とりあえずメンバー紹介と、各自の特性を簡単に述べておく。一緒に義賊クエストをこなしたというのに、考えてみれば互いのメンバーのこともよく知らないのだ。


 ショウには、トオルが小言を言うので火炎系魔法は使わないように言っておいたからな。雷系も他のチームの前では控えておくようにと、ダンジョンに入る前に言い含めておいたから、風系魔法がどうしても多くなってしまった。使える魔法が少なくなりすぎているようで、どうにもショウには申し訳ない。


「ああそうか……呪文の短縮ね……ぼくたちも冒険者をやっていて結構長いけど、中級魔法の呪文の短縮だって、あそこまで短くしているのは魔物でもいないと思うよ。まあでも、今では冒険者側に魔法使いなんてほとんどいないからね。事例がほとんどないというか……改善されることもなかったんだろうね。


 魔法の呪文の言葉の意味にいち早く気づいて、短縮に成功したというわけだ、すごいね。君の発想なんだろ?まさに異次元世界の発想だよね……。」

 スースーはそう言いながら俺の顔をまじまじと見つめる……ううむ……気づかれているのか?


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