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久しぶりのA級ダンジョン

「精霊たちよ力を貸せ、そして敵を埋め尽くせ。大崩落!」

『グラグラガラガラガラガラガラッ』『ダダダダダダッ』目鼻口を持つ顔だけの魔物巨顔岩が唱えると、俺たちの頭上のドーム天井が一気に崩れ落ちて来たので、ダッシュで逃げる。


「危なかったですねえ、これで広いドームの半分近く天井が崩れてしまいました。」

 トオルが後ろを振り返りながらつぶやく。確かに頑丈そうな岩肌であったドーム天井の、半分近くが崩れ落ちて赤土が露出している。同時に天井を支えきれなくなってきて、ついにドーム自体の崩壊が始まった。


 ここは、コーボー北の山にあるA級ダンジョン。久しぶりに土のダンジョンを選択してみたのだが、強敵に悩まされている。顔というか頭部だけの魔物なのだが、素材は岩だ……硬くて剣など全く通用しない。


「このままではドームが崩れて生き埋めにされてしまう。早いところ仕留めなくてはならない。奴の弱点は目となっているから、目を狙って倒すんだ。」


 と口では言ってみたものの、簡単ではない。何せ目と言っても岩が窪んだだけなので、ナーミがずっと矢を射かけたりトオルが水弾を飛ばしたりしているのだが、全く効かない。どこが弱点だ?と聞きたいところだ。


「僕の火弾も全然効果がなかったよー……。」


 ショウもそういいながらうなだれる。雷攻撃も狙ってみたのだが、魚系魔物相手には絶大な破壊力を誇った雷も、この魔物には全く効果が見られない。なにせ岩だから、ほぼ絶縁体なのだ。

 電気は流れやすいほうへ流れるので、近くにいる、こっちの身が危険になってしまうくらいだ。


『フワッ』「危ないっ……逃げてください!」

『ドッゴォーンッ』巨顔岩が、重力に逆らうように音もなく宙に浮かび、俺たちに向かって突っ込んできた。


 ずっとこの調子なのだ……予告なくふわっと浮いては押しつぶそうと急降下してくる。避けても向こうにはダメージはなく、平然としている。高さ5mほどで幅も5mほどの樽状の岩の塊の魔物なのだ。


 危うく避けたが、ドームの地面の岩が砕け散った。『パラパラパラパラッ』そうしてその衝撃で、またもや天井から小石や土ぼこりが降ってくる。もはや一刻の猶予もない。

 ううむ、しかし……火弾も水弾もだめか……突風もだめだろうな……あれ?そういや……


「岩弾!」

 左手の指を一本出して引っ込め、今度は右手の人差し指を伸ばして唱えてみる。


『ビュッ……ゴーンッ』『パラパラパラパラッ』するとこぶし大の石が猛スピードで飛んで行って、巨顔岩の目のくぼみに衝突した。頭上からぱらぱらと、砂が落ちてきたから結構な衝撃だったはずだ。


 水弾や火弾のまねっことなるのだが、地の精霊球で対応するのは石つぶてが初級魔法だった。トオルのクナイと威力的に変わらないので使わないでいたのだ。もっと威力を高めたものが出来ないか思い付きで試してみたが、意外とうまくいった。中級魔法だろうな……。


『ギロッ』「精霊たちよ」

「岩弾!岩弾!岩弾!」

『ビュッビュッビュッ……ゴーンゴンゴンッ』これ以上ドーム天井を崩落させられると困るので、詠唱を妨害するために、連続攻撃を仕掛けてみる。


『ギロッ』あれ?また……なんだか岩のくぼみの一部が一瞬だけ黒くなったような気が……


「目の部分に強い攻撃を受けると、一瞬だけ目のくぼみの形が変わるようです。恐らくその時だけ目を開けていて、普段は閉じているから岩の瞼に阻まれて攻撃が効かないのでしょう。


 どうやら岩弾は効果的ですので、連続攻撃を仕掛けてください。そうして目を開けた瞬間に一気に攻め立てましょう。」

 巨顔岩の様子を注視していたトオルが、岩弾の効果を指摘する。おおそうか……陽動作戦だな。


「よしっ……行くぞっ……岩弾!岩弾!岩弾!」

『ビュビュビュッ……ゴンゴゴンゴンッ』『ギロッ』

 

「今です!」

「炎の矢!

『シュボワボワボワボワボワボワッ……グザグザグザグザグザグザッ』『シュシュシュッグザグザグザッ』


「火弾!火弾!火弾!」

『シュボワボワッ』ナーミの矢とトオルのクナイに加え、ショウが放つ炎の玉が一斉に巨顔岩の開いた眼をめがけて飛んでいく。


「ぐぅぉー……精霊たちよ力を……」


『ダダダダッ』「脈動っ!」

『ダッ』『ズッゴォーンッ』断末魔の喘ぎで呪文を発せられぬよう、脈動を使ってジャンプすると、矢とクナイが突き刺さって閉じることができない目玉めがけ、一気に剣を突き刺した。


「ぐわぉー……」

 悲鳴のような叫び声をあげ、巨顔岩は微動だにしなくなった……倒したのだ。


「ふうっ……何とか倒せたな。目を執拗に狙って攻撃を仕掛け、開けさせることから始まるわけだ……それに気づかないと苦戦してしまうわけだ。今後の教訓だな……。」

 まあでもいいさ……新しい魔法を思いついたのだからな……。


 魚系魔物ばかりでは飽きてきたので、普通のダンジョンにやってきたのだが、出てくる魔物はホーン蝙蝠や猛進イノシシなどおなじみの魔物ばかり。A級ともなると、そのどれもが魔法を唱えるため厄介ではあったが、俺たちチームの敵ではなかった。


 あまりに簡単にサクサク進むので、もう俺たちを悩ませるダンジョンなど存在しないのではないのかとまでうぬぼれるほどになっていた……なにせ泊りのダンジョンであるはずのA級ダンジョンのボスステージ到達が昨日の夕方で、ボスと戦って戦えない時間ではなかったのだ。


 それでも余裕を見るため、わざわざドーム手前で一晩過ごして早朝からドームに入ったのだが、この判断は間違っていなかったと、つくづく昨日の俺に感謝する……なにせ、もうすでに昼を過ぎ3時を回っているのだから。7時間以上、巨顔岩相手に苦戦していたのだ。


 楽勝と考えていたのだが、そうではなかった。あくまでも戦い方というか勝ち方が分かっている相手に対してのみ、楽に戦えているだけなのだ。


 なにせ俺たちには補助魔法があるのだから、一般の冒険者たちよりも攻撃力は格段に高いのだ。戦術さえ間違えなければ、恐らくどんな魔物相手でも簡単に倒せるだろう。


 そのため一度攻略した相手であれば次からは余裕で倒すことができるが、未知なる相手には手こずってしまうのだ。経験を積まなければ……いろいろな相手と戦って、戦い方を学ぶというのはもちろんだが、未知なる相手に対峙したときでも、相手の弱点を推測できるようにならなければならない……。


 カルネたちダンジョンの構造図を残した昔の冒険者たちは、誰も入ったことのないダンジョンに潜入して、初めて会う魔物たちを相手に戦って勝って出てきたのだからな……そこまでの高みを目指したいものだ。


「じゃあ、帰るか……。」


 土の精霊球を巨顔岩の口の中から回収して、ダンジョンを後にする。そのままミニドラゴンの背に乗り、別荘まで飛行して戻る。本来ならば、ここから乗合馬車に乗ってギルドまで行き清算するところなのだが、まあ、どうせ明日もクエストを申し込むためにギルドに行くのだ。清算はその時にすればいい。


 昼食もとれずに7時間以上もぶっ通しの戦闘状態は、さすがに疲れた。ドーム入口の洞窟内へ退避すれば休憩もできたのだが、下手に逃げて土系魔法でドーム全体を崩落されたら厄介なので、退避することもできなかったのだ。常に攻撃を仕掛けている必要性があった。


「お疲れさまでした。宿泊してのダンジョン挑戦、ご苦労様でした。成果はいかがでしたか?」

 中庭に着陸すると、すぐにチートが寄ってきた。泊りがけでダンジョンに向かうから帰ってこなくても心配するなと、昨日の朝に言っておいたのだ。


「ああ、苦戦したけど、何とか勝てました。これはみんなで食べてください。キーチ達はやってきますか?」

 猛進イノシシ肉を、多めに手渡す。広いA級ダンジョンということもあってか、2頭の猛進イノシシに遭遇できたので、十分な肉の在庫ができた。


「ええ……本日昼食後にキーチさん一人だけやってきて、明日の昼にみんなでやってきてくれるということでした。その時には干物を持ってきてくださるということでしたから、明日は皆さんにおすそ分けできるでしょう。頂いたお肉は、その時に皆で頂くことにいたします。ありがとうございました。


 それでですね……本日は王都からホーリ王子様が、コーボーの別荘へいらっしゃっております。先ほど、お付きの者から連絡がございまして、晩餐に皆様方を招待したいと王子様がおっしゃっているようです。


 すでにスーツやドレスなど衣裳類は届いておりますゆえ、お忙しいところ恐縮ですが、今宵は王子様にお付き合いくださいませ。」

 チートがそう言って頭を下げる。そういえば、ホーリ王子がこっちの別荘へ来ると言っていたな……。


「夜の7時にお迎えの馬車が来ますので、それまでにお召し替えをお願いいたします。」

「はっ……はい……わかりました……みんな急いて日課のトレーニングを……。」

『はいっ。』


 取り壊し予定とはいえ、別荘を拝借している身の上。ホーリ王子のご用命であれば、断ることはできないのだ。急いで日課のトレーニングを済ませシャワーを浴びた後に、別荘1階のホールへ向かうと、そこにはモーニングやスーツに加え、きらびやかな女性用のドレスが所狭しと並んでいた。


「サイズや好みがわからないもので、色違いもございますから、お好きなものをお選びください。」

 なんと着替えを手伝う侍女までもが出張してきてくれている。


「ぱっ……パパ……いいでしょ?今日くらいは……。」

 ショウが訴えるような眼で見つめてくる。


「ああ、内輪の晩さん会だろうからいいだろう……ショウはエーミの姿に戻りなさい。」

 キラキラと輝くドレスを見て、自分も着てみたくなったのだろう。お年頃の娘なのだからな、当然だ。

 すぐにショウは部屋へと駆け足で戻っていった。


 俺たちのチームは男3人に対して女性はナーミ一人だけだ。しかし、男性用のスーツの占めるスペースより女性用のドレスや宝飾類が占めるスペースのほうが、はるかに大きいのだ。しかも、全身が映る大きな姿見まで準備されている……まさに至れり尽くせりだ。


 ナーミは2人の侍女に手伝ってもらいながら、ドレスと宝飾品の選択を始めたところだ。


「じゃあ、俺たちも支度を始めるか……。」

「はい、そうですね……。」


 トオルと2人でスーツを選び始める。と言っても、男物のスーツなので選択肢がそうそうあるわけでもない。

 カッターシャツと蝶ネクタイを選んで、ベルトと靴は蝶ネクタイの色に合わせる。蝶ネクタイは俺は結べないので、トオルに結んでもらい準備完了だ。


「どお?」

 真っ赤なワンピースドレスをエレガントに着こなす美女は……何とナーミだ……普段化粧っ気もほとんどないナーミだが、このところドレスで着飾る機会が何度か訪れたせいか、段々と様になってきている。


 最初にドレスアップしたときは緊張していたのか、顔がこわばっていて表情がほとんどなく、美しいが、お人形さんのようにちょっと冷たい雰囲気を醸し出していたのだが、今は正真正銘の生きている美女だ。本当に美しいと思う。


 胸元を飾る大きな宝石が、女性らしさと豪華さを一段と醸し出している。


「おお……いいよ……すごくきれいだ……。」

「本当にきれいですよ……。」

 2人の男が見惚れるくらいに美しい。


「ほんと?よかったー……がっつり食べられなくなるから、コルセットはやめにしたの。これで行けるなら、助かるわ……。」

 ナーミは、まだまだ色気より食い気のようだ……というか、照れ隠しかな?


「パパ……どお?」

 そうして今度はピンク色のスカート部分がおわん型に広がったワンピース姿の美少女がやってきた。エーミだ……これは本当にかわいいというか美しいというか……このまま額にでも入れて飾っておきたくなる。


「うーん……エーミはやっぱりパパの自慢の娘だ。世界で一番かわいいよ……。」

「えへへへへ……。」

 エーミは少し恥ずかしそうにほほを染める。


 親のひいき目でも何でもなく、エーミ以上にかわいらしい女の子は、この世には存在しないだろう。間違いなく、史上まれにみる美少女だ。あと数年もすれば、立派なレディとなるはずだ。


「お迎えの馬車が到着いたしました。」

 チートがホールへ呼びに来てくれる。


「じゃあ、行こうか……相手は王子様だからな……粗相のないようにね……。」

 と言っている俺が一番危ないのだが、迎えに来た大きな2頭立て馬車に乗り込んで、王子のいる別荘へと向かう。



「お久しぶりでございます。本日は、急なお誘いにもかかわらず、ご参加いただき誠にありがとうございます。

 ホスト役を務めます、ホーリ王子も大変感謝しております。ごゆっくりとお楽しみください。」

 馬車の到着した先は、西欧風の大きな三角屋根の洋館だった。日本の城や大名屋敷のような造りの建物が多い中で、かなり珍しい建築物だと思う。


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