干物づくり
「はーい……じゃあ、あまり大きくならないように調整して、炎の玉で魔物の頭を攻撃だね。」
ショウが小さくうなずく。
『ダダダダダッ』作戦も決まったので、全員でダッシュでドーム内へ入っていく。
「中炎玉!」
『ボワボワッ』大きさをセーブした直径2mほどの炎の玉が2つ、一直線に大イソギンチャクの頭部に向かって同時に飛んでいく。
『ボウワーッ』炎の玉を防ごうとする触手を燃やしながら大イソギンチャクへ達し、大イソギンチャクの頭部が巨大な炎に包まれた。
『ゴワッ』『ゴボワッ』『ボワッ』「わわわわっ!」「いやーっ!」「とうっ!」うわーっ!」
『タッ……シュタッ』やったと思ったのもつかの間、燃え盛る触手を平然と大イソギンチャクは振り回してきた。さすがに炎に包まれているせいか動きは鈍く、避けられないことはないのだが、かえって恐怖感は増した。
『ボッ』『ボッ』『ボッ』『ボッ』『ボッ』更に上方から無数の炎の玉が降ってきた。燃え盛る毒トゲも一緒に巻き散らかしてきたのだ。
「もう一度逃げるんだ!」
『ダダダダダッ』ダッシュでドーム入口から洞窟内へと逃げ込む。
「はあはあはあ……ううむ……参ったな……だがまあ触手が燃え尽きてしまえばこっちのものだ。火がある程度収まったらドーム内へ入って、止めを刺そう。」
『はいっ!』
なんだか攻撃を仕掛けることよりも逃げ回ってばかりで、息が上がってきた。ドーム内を眺めてみると、無数の火炎がドーム中至る所を舞っている様子だ。これじゃあ近づけない……。
「ようし……だいぶ良くなってきたぞ……早いところかたをつけてしまおう。」
昨日キーチ達に今日は早く帰るとトオルが約束したから、いつまでもぐずぐずしてはいられない。まだ頭部の火は燃えているし、ドーム内は白煙に包まれてはいるが、ある程度のところで見切りをつける。
『ダダダッ』「脈動!脈動!」『ダッ……ダッ……ダッ』
ドーム内に入ると急いで駆け出し、目の前に脈動を使って地面を隆起させ、それらを使って3段階跳躍してドーム天井にまで届くくらい飛び上がる。
「超高圧水流ハイパー!」
『スタタタタタッ』『ズゴワァーッ』同時にトオルも足元からものすごい水流を発射させ、ドーム天井に届くくらいまで跳躍した。
「だりゃあっ!」
『ヒュンッ……ズッゴォーンッ』『ヒュンッ……ズッゴンッ』天井近くまで達したときに、トオルとタイミングを合わせ、銛を思い切り大イソギンチャクの頭部中心の口めがけて投げつけた。
焼けこげて黒くなった触手の下から、新しいピンク色の触手が伸び始めてきている。いつまでもぐずぐずしていたら再生されていたところだ、危なかったな……。
『ズッゴォーンッ』『バッガォーンッ』『ブッシューッ』2本の銛が深々と突き刺さると、大イソギンチャク頭部から、噴水のように水が吹き上がり、やがて動かなくなった。
「はあー……何とか倒せたようだな……。」
水分を放出したためか、少ししぼんだように斜めになった大イソギンチャクを見て、ようやく一息つく。
やはり長年生きてきただけあって、簡単には倒せないようだ。炎系の魔法を使えるショウがいたからよかったが、いなかったらどうなっていたのか……恐らく25年周期で倒してさえいれば、胴体の表皮だってこれほど分厚くはなっていなかっただろうになあ……。
いや……あきらめてそっとしておけばよかったのか……ううむ……何とも言えないな……。
「胴体を切り裂きますよーっ!」
『ズザザザザザザッ……ザッパァーンッ』攻撃で跳躍したまま頭部に飛び乗ったのだろうトオルが、長刀を使って頭部の口から一気に落下しながら斬りこみを入れて降りてきた。
弾力のある皮も、内側から斬りこみを入れれば何とかなるものだな。絶命して張りがなくなったせいかもしれないしな。じゃあ俺は特殊効果石でも探すとするか……。
燃えカスや灰などが結構積もっていたので、ドーム奥の壁をまさぐるようにして確認し、ようやく褐色で貝殻の形をした特殊効果石を見つけた。
「集貝石の清算ですね。他にも多くのアイテムを持ち帰ったようですが、清算しなくてもよろしいのでしょうか?」
ギルドに戻って特殊効果石を提出すると、受付嬢が首をひねる。それはそうだろう、一人2つづつのクーラーボックスにも入りきらなかった、大イソギンチャクの肉塊を油紙に包んだものを、それぞれひとつづつ抱えていて、その上背中には大ヒトデをロープで縛って担いでいるのだ。
「ああ……まだ清算はしない。持ち帰るつもりだ。」
「そうですか、では明細表をご確認ください。」
受付嬢から明細表を受け取り清算終了だ。そのままギルドを後にして、トオルがどうしても寄りたいというので道具屋により、いろいろな道具を調達してから馬車をチャーターして別荘へ戻った。
「よう、ずいぶんと大漁の様子だな……。」
別荘に到着すると、待ちかねていたようにキーチと数人の日焼けした男たちが、門のところに立っていた。
「お待たせいたしました。ではふかひれの作り方と、干しイソギンチャクの干し方を説明します。ナーミさんショウ君手伝ってください。」
トオルが笑顔で、ナーミたちとともに彼らに食材の加工方法を説明し始めた。帰りの馬車の中で、トオルがナーミたちにイソギンチャクの切り分け方と天日干しのコツなどを説明していたのだ。
効率よく手分けして行うつもりなのだろう。クーラーボックスをもって中庭のテーブルへと向かっていった。
昼食も取らずにそのまま急いで帰ってきたのだが、何も言わずにこのまま継続する様子だ。まあ、ダンジョン内では魔物たちが襲ってくるから、昼食をとれないことはよくあるからな、昼飯抜きでも仕方がない。
「よいしょっと。」
俺は大ヒトデを担いでミニドラゴンのところへ行き、ミニドラゴンに与えてやった。こっちは1日1食なので、抜くのは気の毒だ。ヒトデの卵はゆでることにより食用になると聞いたことがあるが、まあミニドラゴンならヒトデ自体ごと食べてしまうだろう。
瞬く間に8枚食べてしまい、残り8枚は明日の分だと言い聞かせ、お預けして散歩させる。
『ギュイーンッ……シャーッ』『カンカンカンカンッ』『ザバッ……ザバッ』ミニドラゴンがいる馬小屋から戻ってみると、中庭は建築現場のようになっていた。
電動の丸鋸やノミやハンマーなどが振るわれている。
「な……なんじゃこりゃあ……。」
思わず絶句する。
「子ざめやハンマーシャーク系の魔物の皮は、包丁でも捌けますのでキーチさんのお仲間の料理人さんにお任せしましたが、ホオジロの皮は厚くてかたいので、人手で解体するのは困難です。何より巨大ですからね。
道具屋さんに確認したところ、魚の解体用の丸鋸などレンタル可能ということでしたので、本日1日レンタルいたしました。もちろんノミやハンマーにのこぎり刃のついた、刀のような包丁もレンタルです。
魚の解体というより建築現場作業なのですが、キーチさんのお仲間はかえってこのほうが慣れているというので、解体をお願いしております。分厚い皮を外してしまえば、後は料理人さんに切り分けていただき、それを天日干しにしていくのです。
大イソギンチャクも、この解体方法で皮を剥がせそうですから、今日中に前処理は終了するものと思っております。」
俺があまりにも驚いた表情で中庭の様子を見て回ることに気づいたのか、トオルが寄ってきて笑顔で説明してくる。はあーそうか……さすがトオル、抜かりないな……道具屋で解体道具をレンタルしてきたのか。
まあそうだよな……俺たちは魚屋を開業するわけではないから、あくまでも1時借用で十分だ。
皮を取り除いて切り分けられた、ふかひれやいそぎんちゃくの身がすのこの上に並べられていく。しゃれた外観の別荘の中庭が、海産物工場に様変わりしたような感じだ。
チートに聞いたところ、港湾作業にありつけた者もおいしい昼食が食べられるというのでやってくるようだが、そういったものたちはそれなりに礼金を置いていくようになったらしい。一人一人が置いていく金額は少ないが、今後もため込んでいけばそれなりの蓄えにはなりそうだ。
港湾作業というのは、主に漁船の水揚げの手伝いなので日が登る前の早朝から始まるが、午前中で終わってしまうらしい。だから俺たちの昼飯が晩飯のような感覚らしいのだ。
俺たちがこの善行にいつまでかかわっていけるかはわからないが、いなくなった後までも継続できるような礎が出来たらいいなとつくづく思う。
この日の晩飯は、生ウニとアサリの酒蒸しと昨日作ったサメの煮凝りだった。生ウニはわさび醤油で頂くと、わずかな苦みがあるがコクと深みが感じられ、日本酒が進んだ。ショウやナーミは苦手と言ってあまり食べなかったが、アサリの酒蒸しや煮凝りは喜んで食べたようだ。
煮凝りはその深みのある味わいがたまらなくおいしいだけではなく、ゼラチンが肌にもいいとトオルがいうと、ナーミが毎日でも食べたいと主張。量的には十分あるので、これから当面は煮凝りが夕餉の一品として登場することになりそうだ。
かまぼこは家飲みように、キーチ達に一部を持ち帰らせたようだ。つまみがあれば居酒屋に行かなくても、簡易宿でも飲めるというので喜んでいたらしい。
「アサリの一部も天日干しに回しましたし、佃煮も作る予定です。佃煮は焦がさないよう常に火加減を見てかき混ぜる必要がありますが、天日干しはまめに見てひっくり返していれば、料理人でなくてもできますので、明日からはもっと人手は増えると聞きましたから、魚介類の干物も検討したほうがいいですね。
日持ちしますから、そのまま食べるよりもいいでしょう。」
トオルがご機嫌な様子で笑顔を見せる。奴は食材集めが好きというより、料理が好きなのだろうな。自分が食べる分だけではなくて、人に食べさせる分も含めて料理しているときが幸せなのだろう。
引退したら小料理屋でも開けばいいのではないのかと思う。
「じゃあ、今日はイカタコ系のダンジョンだ。タコ系魔物は擬態が得意なようで、洞窟壁面に擬態していて突然襲い掛かってくることがあるそうだから、十分注意するように。注意といっても、まず見分けはつかないので、突然襲われても慌てないよう心構えをしておくようにと、カルネの別添資料に注意書きがあったね。」
『ガチャッ……ギィー』ダンジョン前で簡単な注意事項を伝達して、ダンジョンへ入っていく。
『ドガドガドガドガッ』やはり今回も、入り口に入った途端に、突進系の魔物の洗礼に会う。だがしかし、盾を前面に構えておけば勝手に自滅してくれるというのに、こんなのでいいのだろうか?
「えーと剣先イカ系の魔物、剣突イカだな。刺身にしてもよし、イカ焼きもリングフライもよし、塩からも良しとなっているぞ。」
初っ端から、いいものが手に入った。魚系ダンジョンに来てから、そりゃ確かにボス魔物は強敵ばかりだが、ダンジョン内は非常に楽ばかりしているような気がする。まあ、実際のところB級ダンジョンだからな。A級冒険者の俺たちにとっては、楽勝でも当たり前なのかな?
『ビュッ』「うわっ!」
突然目の前が真っ暗になる。慌てて吹きかけられたものをぬぐうと、真っ黒な墨だ。きょろきょろとあたりを見回すが、魔物の姿は見られない。
『ビュッ』「きゃあっ!」
『ドガッ』ナーミが悲鳴を上げたとたんに、トオルが洞窟壁面を短刀で勢い良く突き刺した。
「なっ……なんなのよ……一体……。」
ナーミは頭から真っ黒い墨を掛けられ、それをぬぐいとるのに必死な様子だ。
「こいつのようですね……。」
トオルが先ほど突き刺した短刀を揚げると、洞窟の壁面も一部くっついてはがれた……が、すぐにしなだれて動かなくなる。
「タコ系の魔物でしょう……擬態で洞窟壁面になりきっていましたね。墨を吐くところを見なければ、とても擬態とは分からなかったでしょう。輝照石で照らしているとはいえ、薄暗い洞窟内ですからね。」
トオルが短刀に突き刺された獲物の、細長く吸盤のついた足を延ばして見せる。
ほおそうか……これがカルネの資料に書いてあったタコ系魔物の擬態というやつか……かなり厄介だな。全然楽なダンジョンではなさそうな予感……。




