貝系ダンジョン挑戦
「じゃあ、俺たちも少しはふかひれを処理しておくか……。」
「いえ……今日のところはサメ肉の煮凝りと、かまぼこを作りましょう。」
トオルの指示に従い持ち帰った大量のサメ肉を、全員で調理にかかった。
細かくミンチにしたり板に盛り付けて蒸したりと、かまぼこづくりも結構面白かった。
この日の晩飯は、サメ肉の刺身とフライだった。新鮮なサメ肉なら生でも食べられるということで、生姜醤油で頂いたら、意外と臭みもなくさっぱりした白身でおいしくいただけた。
ミニドラゴンにも大量の骨付きサメ肉を、生のままで与えた。
「じゃあ今日は貝のダンジョンにしよう。貝のほかにヒトデやウニ系の魔物も登場するようだ。」
ギルドのホール壁のクエスト票を確認して、コーボーへきて4件目のクエストは貝ダンジョンにする。貝ダンジョンと言ってもヒトデやウニなども含めるようで、海底にじっと居座っている系のダンジョンのようだ。
貝はみそ汁や酒蒸しなど調理のやりがいがあると、トオルも張り切っている様子だ。
「いらっしゃいませ。クエストの申請でしょうか?」
ギルドで集貝石ダンジョンのクエスト票を、受付に申請する。相変わらず、俺たち以外に冒険者の姿は見られない。タールーギルドが1ヶ月後には閉鎖予定だから、それまでは仕方がないのだろうな。
多少の責任を感じつつも、毎日クエストをこなすことで勘弁していただこうと思う。
『ガチャッギィー……』堤防の側道壁に作られた、ダンジョンの入り口の南京錠を外し、中へ入っていく。
『ドガドガドガッ』入るや否や、前方に掲げる盾に衝撃が走ると同時に盾がひどく重くなる。
「ああ、やっぱりか。ヒトデ系魔物の子泣きヒトデだな。突進してきて冒険者の顔や体に張り付いて離れなくなる。顔に張り付かれたら息ができなくなって窒息する場合もあり得るし、体に張り付いた場合でもその重みで動きを制限され体力を奪われる。警戒していて正解だな。」
盾には一面びっしりと、50センチくらいの大きなヒトデ系魔物が貼りついていた。やはり今回も、ダンジョン入り口で待ち伏せされた感があるが、まあそれも分かってさえいれば脅威ではない。
『ザグッザグッザグッザグッザグッ』子泣きヒトデの体の中心に小刀を突き立て絶命させてから、盾から引きはがしていく。盾だとこんなことができるが、顔に張り付かれていたら、小刀を突き刺すわけにもいかないからな。結構勢いつけて刺さなければ突き刺せないほど、表皮はそれなりに硬いし……。
子泣きヒトデはロープで結んで一人ひと束ずつ背に担ぐ。いちいち冒険者の袋に入れる大きさにカットしている暇もないし、もっといいものを収集できる見込みが大きいから、そのまま持ち帰ることにする。
『ビュー』『ビュー』『ビュー』『ビュー』歩き出した途端に、今度は前方から強烈な水流を浴びせられて、先へ進めなくなる。
「突風!」
『ビュゴワッ』『シュシュシュッ』『シュシュッ』すぐさまショウが唱えて強烈な水流の方向を変え、水流の源に向けてトオルのクナイとナーミの矢が発せられた。
「大アサリ系の魔物ですね……貝殻は不要ですから、身だけを取り出して収集用の補助網に入れましょう。」
『シュパッ……シュッ』『シュッシュパッ』50センチはありそうな大きな貝殻の貝柱を切り、中身だけをトオルとナーミは小刀で取り出し、網に詰めて冒険者の袋に収納した。
『シュシュシュシュシュシュシュッカンカンカンカンカンカンカンッ』再度歩き出したところ、今度は盾に甲高い衝突音と衝撃が走る。うーん、歩き出すとすぐに攻撃を受けてしまうな。まあ盾を掲げて進む限り、防げてしまう攻撃ではあるのだがな……。
「ウニ系魔物が触手の針を飛ばしてきているのでしょうね。どうやらこの辺りは潮だまりができていますから、干潮時も湿っているので魔物が生息しやすいのではないでしょうかね。」
トオルが半分以上海水に湿った足元を見ながら推測する。そうか……洞窟の入り口辺りは潮だまりができているから、魔物が多く生息している可能性が高いというわけだな。そうすると、今後は足元の水気を見ながら進むことで、魔物の襲撃を予想できるかもしれないな。
『シュシュシュシュッ……キンキンキンキンッ』ナーミが矢を放つが、体を覆う無数のとげが装甲の役目も果たし、全て弾かれてしまう。
「以前遭遇したハリネズミ系魔物と同様ですね。表面からの剣や矢などの物理攻撃はきかないでしょう。かといって炎攻撃をしてしまうと食材としては……焼きウニ程度で収まればいいですが焦げてしまうと……。
下部に足ともいえる稼働する触手があり、体の真下に口がありそこが唯一の急所と言えるでしょう。
何とか下から攻撃を仕掛けることができれば……。」
トオルが、触手まで含めると1mを優に超える巨大ウニ系魔物を眺めながら、悔しそうに歯がみする。
「そうか……よしっ……脈動!脈動!脈動!脈動!脈動!」
『ズゴックルンッズゴックルンッズゴックルンッズゴックルンッズゴックルンッ』巨大ウニ系魔物の地面が瞬間的に盛り上がり、巨大ウニはそのままひっくり返る。中心を少しずらして脈動で地面を盛り上がらせ、ひっくり返した。本来敵に使うべき魔法をいつもは補助魔法に使っているのだが、本来の使い方だって出来るのだ。
『ダダダッグザッグザッグザッグザッグザッ』ひっくり返ったウニ系魔物の体の中心を、剣で一突きしていく。裏側は触手も少なく、ひっくり返ってしまえば触手攻撃もできないので、容易に退治できるようだ。
「やりましたね……ではウニの卵巣と精巣を頂きましょう。」
『グザッ……ドッ、グザッドロッ』トオルが、ウニ系魔物の口に短刀を突っ込んで押し開き、中の身を取り出していく。1mの大物でも食べられる中身はほんの少量だ……とはいっても巨大ウニ……手のひらよりは大きいようだが……。
その後も大アサリ系魔物やウニ魔物など、海鮮食材をゲットしながら進んでいき、ボスステージのドームへ到達した。
「いよいよボスステージだ。ここでのボスはイソギンチャク系の魔物となっている。名付けて大イソギンチャク。軟体で体への矢や剣の攻撃は通りにくいとなっているな。上部には無数の触手を持っていて、触手には毒のトゲあり。トゲを飛ばす攻撃もあるようだから十分な注意が必要。
ただし、その場にくっついていて移動しないから、触手を躱せば逃げることも可能と書いてある。まあ、俺たちは逃げるつもりはないから戦うわけだがね。
取り敢えず、移動できないのであれば崩落が使える。ドーム天井を小さな範囲で落として、うまくいけばその重みでつぶせるか動かなく出来るかもしれないから、やってみる価値はあるだろう。
その後、ゆっくりと胴体へ執拗に攻撃して、何とか切り裂くわけだな……大体こんな作戦だ。」
大まかな作戦をまずは披露しておく。
「イソギンチャク系であれば、その身を天日干しすることで、おいしい珍味になりますから、やはり炎系魔法は厳禁でお願いいたしますね。」
さらにトオルがショウに炎系魔法を禁止する。ここへきてこればかりだから、ショウも結構ストレスが溜まっていることだろうが、仕方がないか……恐らく別荘に押し掛けてくる港湾作業者に、ふかひれ同様天日干しにさせるつもりなのだろうからな……彼らのためでもあるわけだ。
「わかりました……雷系か、かまいたちだね……。」
まあそうか……ほかにも使える魔法は結構多いからな……。
『ダダダダッ』駆け足でドーム内へ入っていく。
「な……なんじゃこりゃあ……。」
まさに見上げるほどの大きさだった……恐らくこのダンジョンも、カルネのチームが攻略したダンジョンではなかったのだろう。攻略したダンジョンの構造図を見せあって写したと言っていたからな。実際に攻略したダンジョンは、全構造図の中の1割にも満たない数のはずだ……。
つまり前回解放時にボスを倒していないから、それだけ大きく成長している。ドーム天井に届かんばかりの大きさで、その直径だけでも十m位はあるのではないだろうか。
クリーム色の巨大な胴体の上には薄ピンクの触手が無数にうねっていて、まさにイソギンチャクなのだが大きすぎるわ……。
「だめだっ……この大きさ分だけ崩落を使えば、ドーム天井が持たずに全体が崩れてしまうだろう。何より天井との距離がほとんどないから、落下の衝撃も使えないし意味がなさそうだ。」
予定していた崩落は使えそうもない。地震を起こしたところで軟体のイソギンチャクはうねうねするだけで効果はないだろうし、落とし穴もこれだけの巨体を落とそうとすればドーム自体が崩れそうなので、使えないだろうな……。
『シュシュシュシュシュシュッ……ボヨーンボンパンボンボヨーンボンッ』ナーミが矢を射かけるが、柔らかい胴体にいったんはめり込むのだが、その弾力で押し戻されてしまうのか刺さりが浅い。矢の先だけ刺さって、だらしなく垂れさがっている状態だ。
試していないが剣も同様だろうな……やはり物理攻撃は効きそうもない。『シュパッパパッパッ』更に、頭部から触手が伸びてきて、矢を払いのけてしまった。
「雷撃!」
『バリバリバリッ……ドーンッ』ショウが雷の呪文を唱えると、大イソギンチャクの頭上に閃光がきらめき、触手の一部がはじけ飛んだ。
『シュシュッ……グルッ』「きゃっ!」やったー……雷攻撃は通じそうだ、と思った次の瞬間、大イソギンチャク頭部から触手が伸びてきてショウの胴体へと巻き付いた。
「だりゃあっ」
『シュッパンッシュパッ』反射的に、伸びた触手を剣で斬り落とす。
『シュシュッ……グルッ』「うおっ!」「いやっ!」「ああっ!」
ところが今度は俺をめがけて触手が伸びてきて、上半身をぐるぐる巻きにされてしまい、身動きが取れなくなってしまった。左右を見ると、ショウもナーミも同じ状況だ。触手は動きが素早く、また薄暗いドーム上方から真正面に向かって伸びてくるので、距離感がつかめずに避けることが難しい。
『シュッパァーンパンッパンッパンッ』すかさずトオルが、長刀を振り回して俺たちに巻き付いてきた触手を叩き斬ってくれた。
「ふうー……。」
『シュシュルルッ』「わわっ!」「きゃっ!」「またっ?」「おっと!」
ほっとしたのもつかの間、今度は4人同時に触手につかまってしまった。斬っても斬っても襲い掛かってくるので、息つく暇もない。
「かまいたち!かまいたち!かまいたち!かまいたち!」
『ズッバンバンッパンッシュパッ』すぐにショウが呪文を唱えて、長く伸びた触手を叩き斬る。魔法を使えなければ、お陀仏だった……ううむ……油断ならない……。
恐らく攻撃を加えると敵として認識するのだ。何もしなければ、そのままここを脱出できたのだろうな……。
とはいっても、すでに戦いは始まっているのだ、今更ごめんなさいしても許してくれないだろうし、何よりトオルが納得しないだろうな……。
『ファサー……』「うわあっ」今度は目の前が薄ピンク色に染まる。何度やっても斬られてしまうので、触手によって捕えるのはあきらめたのだろう。だがしかし……これは……
「にっ逃げろっ!」
『ダダダダダッ』突然の異常事態に、体が警報を発する。一目散に、ドーム入口から洞窟へと逃げ出しだ。
「どっ……どうしたんだ一体……?」
逃げてきたショウの体を見ると、頭から体中までピンク色に染まっている。よく見ると細いとげのようなものが無数に体中に刺さっているようだ。俺は鎧と兜を装備しているので、表面を滑って落ちたようだな。
生身の体だと、こうなってしまうのだ……トオルもナーミも全身ピンク色に染まっている。
「これは……大イソギンチャクの触手の毒のトゲのようだな……。触手で捕まえようとしても全て斬られてしまうので、今度は毒トゲを振りまいた様子だ。すぐに抜いて、解毒薬を飲んでおいたほうがいい。」
『スッスッスッスッ』トゲはそれほど深くは刺さっていないようで、手で払うだけでもある程度は除去できた。
装備の隙間などに残っていないか丹念に確認してから、念のために全員で解毒薬と回復水を飲む。
幸いにも魚系ダンジョンでは全員が盾を装備しているので、顔はカバーできたようで、目に入っていないので助かった。さすがに目をやられてしまったら、解毒薬や回復水だけではすぐに回復できなかっただろうからな。
「さすがにこれはまずいだろ……触手だったら炎系魔法で燃やしてしまってもいいわけだろ?どうせ毒のトゲがあるから、食用には向かないし。」
とりあえずトオルに、炎系魔法の解禁を確認する。かまいたちで触手を切ることも考えたが、かえってトゲを振りまかれてはかなわない。やはり燃やしてしまうのが一番だ。
「そうですね……仕方がありません、触手は燃やしてしまいましょう。頭部の触手に囲まれた中心部分に口がありますから、弱点はそこですね。」
トオルもしぶしぶ納得した様子だ。無傷で魔物を仕留めるというのは、やはり難しいのだ。




