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ボスは巨大エビ

 地上の生物は成長遺伝子とかいう体を大きく成長させていく遺伝子と、それを抑制する遺伝子を持っているようで、一定以上の大きさにまで成長すると、それ以上は成長しないようになっている。身長3mとか4mとかいう人間がいないのはそのためだ。


 ところが海系生物にはその成長を抑制する遺伝子を持っていない生物が多いらしく、十分に食べることさえできればどこまででも大きくなっていくと、以前何かで読んだ記憶がある。海の生物にはクジラとかジンベエザメとか大きな体の生き物がいるのはそのためかもしれない。深海には巨大イカもいるしな……。


 だがしかし……これはやりすぎだろう……


「どうするの……?」

 ショウがドーム入口で固まっている。体長15mというか、腰部分で曲がっているから恐らく20mは優に超えるだろう。ハサミの大きさだけでも4,5mはある超巨大ロブスターは、いつもは広いドームを狭く感じさせた。


 まさか……死んでいることはないのだろ?俺たちが中に入っても、ボス魔物は何の反応も示さない。


「装甲の弱い、関節部を金属の矢で狙うのよ。」

『シュシュシュシュッ……グザグザグザグザッ』ナーミの放った矢が、超巨大ロブスターの背中の甲羅の隙間へ突き刺さっていく。


『ドガーンッ……ドッゴォーンッ……ドッガーアンッ』その衝撃で目が覚めたのか、オオロブはドームの奥で元気いっぱい飛び跳ねはじめた……痛がっているという感じより、俺たちの来訪を喜んでいるのか?こっちは、その振動だけで体を揺らされてしまうくらいだ。


「かえって怒らしてしまったかしらね……。」

 ナーミは自分の攻撃がほぼ空振りに終わったことで、がっくりと肩を落とす。


「とっ……とりあえず……雷の魔法を試してみてくれ。」


「うん、わかった……捷きなる雷の精霊たちよ、友を信じ力を貸し与えたまえ。その術を使い敵をせん滅せよ。雷撃!」

『バリバリバリッ……ドゴォーンッ』稲光が、超巨大エビの頭のあたりにきらめいたが、『ドガーンッ……ドッゴォーンッ』オオロブはその動きを止めない。


「甲羅が固く、その表面が湿っているから電気が表面を伝って地面に落ちてしまうのでしょう。先ほど、ナーミさんが射た矢を狙ってみてください。」

 トオルが、冷静に状況分析する。


「捷きなる雷の精霊たちよ、友を信じ力を貸し与えたまえ。その術を使い敵をせん滅せよ。雷撃!雷撃!」

『バリバリバリバリバリッ……バシャーンッバーンッ』すかさずショウが唱えると、稲光は正確にナーミが射かけた矢に直撃し、白煙を上げる。


『…………ズボッズボッズボッ……ドッゴンバッゴーンッ』一瞬その動きを止めたオオロブだったが、その巨大なハサミで背中の矢を取り除くと、再び元気に跳ね始めた。


「うーん……効いたことは効いたようだが、矢は抜かれてしまったな。」


「しつこく攻撃するのよ……。」

『シュシュシュシュシュシュッ』『キンキンキンキンキンキンッ』すかさずナーミがもう一度矢を射かけるが、今度はその大きなハサミを使って防御され、全て弾かれてしまった。


「前みたいに崩落を起こして、あのハサミを動けないようにできないの?」

 ナーミがほほを膨らませ、不満そうに叫ぶ。


「だめだ!さすがにあそこまで大きなハサミだと、崩落でドーム天井を崩すのは危険だ。ドーム全体が崩壊しかねないからな。今だって、オオロブが跳ねるたびに天井から土や小さな石が落ちてきているから、ドーム天井には亀裂が入っている恐れがある。これ以上刺激を与えるとまずい!」


 出来ればとっくにやっているのだ。最近は崩落範囲をかなり大きくすることは可能となったのだが、それを実施することは自殺行為でしかない。ドーム天井全体が崩落して、自分たちをも巻き込んで生き埋めになってしまう可能性が大だ。


『ブーンッブンブンッ』オオロブがハサミを振りまわし始めたので、近づくのもままならなくなってきている。何せあの巨大なハサミにはさまれたら、鎧ごと胴体は真っ二つだろう。


「トオル!オオロブの目のあたりに集中豪雨を降らせて、視界を奪ってくれ。そのすきに俺はオオロブの背中に鉄パイプを避雷針代わりに打ち込む。それが成功したらショウ……すぐに鉄棒を狙って雷撃を放ってくれ。

 鉄棒を深く差し込めば、雷撃がそれだけ奴の体の奥まで届く。うまくすれば倒せるだろう。


 ナーミも一緒に奴の関節部を狙って矢を射かけてくれ。」

 こうなったら最後の手段だ、一か八かかけてみる。これでだめならショウに炎攻撃させよう。エビ肉はあきらめることにはなりそうだがな……。


「わかりました。集中豪雨!」

 トオルが唱えると、オオロブの目のあたりが猛烈な豪雨で霞んで見えなくなる。ナーミに目を狙わせてもよかったが、恐らく巨大ハサミで簡単に弾かれてしまうだろうからな……雨なら目くらましになる。


『ダダダダダッ』『シュシュシュシュシュッ……グザグザグザグザグザッ』ダッシュで駆けだすと、俺の頭上をナーミの放った矢が追い抜いていく。


「脈動!脈動!」

『ダダダ……ダッ……ダッ』まずは目の前の地面を脈動を使って膨張させ、大きく跳躍。さらにその前方の地面を高く盛り上げそのうえで再度ジャンプして、ドーム天井にまで達するくらいの高さまで大跳躍する。


『ぴゅー……』後は重力に任せて自然落下で加速していく。『グザッ』鉄パイプを両手で逆手に持って構え、オオロブの背中に着地すると同時に膝を折り曲げ、全体重を鉄パイプに預け背中の関節部に突き刺し、さらに一度膝を伸ばしてから再度全体重をかけておもいきり奥まで押し込む。


『ダッ……ゴロゴロゴロッ』その後、すぐさま跳ねて飛び降り地面に転がった。


「捷きなる雷の精霊たちよ、友を信じ力を貸し与えたまえ。その術を使い敵をせん滅せよ。雷撃!雷撃!雷撃!」

『バリバリバリバリバリバリッ……ガァーンガッガァーンドッガァーンッ』俺の転がったすぐわきの上方で稲光がきらめき、衝撃音の後辺りは静まり返った……。


「やったのか……?」

 起き上がってみても、オオロブはピクリとも動かない。


「はあ……なかなか苦労したな……。」

 とりあえず何とか倒せたようだ。


「じゃあ、武器を回収するぞ。脈動!」

『ダッ……タッ……タッ』脈動でジャンプし、後は動かなくなったオオロブの背を、跳ねながら登っていく。


『ズボッ……ズボズボズボ』「あつっ……。」未だ白煙を上げている鉄パイプとナーミが放った金属の矢を抜いて回収する。


「ついでに、そこから剣を入れてください。甲羅が厚すぎて、側面からは何ともなりそうもありません。」

「はいはい……だりゃあっ……」


『ズボッズササササッ』鉄パイプを打ち込んだところに剣を深く突き刺し、そこから横方向へスライドさせ胴体に切り込みを入れていく。とっかかりがあれば、切り込みを入れていくことができるようだ。『ズザザザザッタッ』そのまま剣に全体重を乗せ、オオロブの腹を切り割きながら着地した。


「助かります。」

 トオルはそう言いながら、切り込みを入れたところを何とか両手で広げて、オオロブの解体に取り掛かったようだ。


「今日もここで昼食のようだな……。」


「じゃあ、すぐに準備します。」

 トオルが解体を中断して、昼食の準備に取り掛かろうとする。


「昼食の準備はあたしがやるから、トオルは解体を続けていいわよ。」

 ナーミがトオルから調理道具を借りて、準備をかって出てくれた。ショウも手伝うことになり、俺はドーム奥の壁面を確認して、特殊効果の石を探すことにする。


「これかな……。」

 ピンク色の丸い石が壁面のくぼみの中に入っていた。丸いといっても角がないというだけで、球体ではない。

 ひらがなのつの字のような、細長い丸棒が折れ曲がったような形で、どことなく海老の形を想像させる。


「できたよー……。」

 昼食の準備ができたようだ。昼食はナーミが捌いた跳ね海老の刺身と、跳ね海老の頭でだしを取った味噌汁にご飯で、新鮮な海老の身はぷりぷりで大変美味だった。


 昼食後は全員でオオロブの解体に取り掛かる……が、何せ巨大なのでとても全部は無理だ。


「何とかお願いしますよー……。」

 トオルが拝むようにして両手を合わせる。


 とりあえず冒険者の袋とクーラーボックスに詰めるだけ詰め、巨大ハサミは何とか切り離し、トオルと2人がかりで片方だけを担いで持ち出した。



「ご苦労様でした……清算ですね。あっあの……もしかすると、ボスを倒してきましたか?」

 受付カウンターに巨大ハサミを置いて清算しようとしたら、受付嬢が意外なことを言い出した。


「そりゃもちろんだ……ボスを倒さなければ、ダンジョンを脱出できないだろ?昨日も今日もボスを倒して出てきたが、何か問題でもあるのかい?」

 受付嬢の質問の意図がよくわからないので、質問で返す。


「はあ……海系のダンジョンはボスが強力でして……その割に報奨金が少ないもので……大抵の場合は戦わずにスキをついて逃げてくるのです。海系ダンジョンのボスは寝ている場合が多いので、静かにしていればそのまま通れます。たまに起きている場合でもドームの外で1,2時間待てば寝付くと聞いております。


 目を覚ましそうになって特殊効果石を取りこぼす場合はありますが、その場合は再クエストが発生するだけです。コーボーダンジョンで、ボスを倒して清算されたのは、恐らくここ十数年間で初めてのことです。


 えーと……最後にボスが倒されたのは18年前ですね……この時も久しぶりにボスを倒すチームが現れたのですが……あっ……。」


 受付嬢が絶句する。その先は大体想像がつく、18年前と言えばカルネがこの町に来ていたころのはずで、ナーミの母親と一緒に暮らしていたころだろう。カルネのいたチームがボスを倒してダンジョン攻略していた最後であり、そのチーム名がナーミュエントということだろうな。


 カルネはこの後北上し、モロミ渓谷経由でカンヌールに入ったのだ。


「そうか……でも、ボスを倒してもいいのだろ?」


「それはもちろんです……あまり年数が経過すると魔王化の懸念もありますからね。ですが……なかなか……。

 特に今は他に冒険者の方が見えませんが、いたとしてもボスを倒そうというチームは希少です。」


 受付嬢も困った表情を見せる。戦わないで済むのであれば、無理してまで戦わずに、すきをついてドーム奥の出口から脱出する冒険者が多くても仕方がないわな。


 なにせ、前回攻略時にボスを倒していないわけだから、2倍以上成長しているということだ。だから、昨日はボスが群れでいたし、今日は超巨大ボスにまで成長していたというわけだ。

 下手をしたらB級やA級並みにボスが成長しているのだから、こりゃあ逃げるわな……。


「集甲殻石とシオマネキング3ばいとエビ肉5百キロと巨大ハサミ一つですね……。」

 とりあえず詰めるだけ詰めてきたもの全て受付に提出する。


「清算終了はもう少し待っていてくれ、また来るから。その時にダンジョンのカギも返す。もう一度入ってボス肉を回収してくるからね。」


 そういってギルドを後にする。トオルが熱望するので、再度ダンジョンに入ってボス肉を回収することにしたのだ。これもダンジョンが異常に近いからできることだ。


『ガチャ』ダンジョンに入ると、後はひたすら駆け出す。正常ルートの魔物は倒したはずなので、恐らく問題はないはずだ。そうして30分ほどでボスステージドームまでやってくると、そこでまたオオロブの解体を続ける。詰めるだけ詰めて、さらにハサミのもう片方をトオルと2人で何とか運び出した。


 そうして巨大ハサミだけを受付に出して清算する。


「おお……これはすごいね……。」


 清算の明細書を受け取って驚いた、B級ダンジョンでの清算金額を上回っている。さすが巨大ロブスターのハサミと肉の量も半端なかったからな。特殊効果石よりボス肉の評価が上回っているのだ。ボスと戦わずにそっと逃げ出す気持ちも分らないでもないが、倒せるなら倒したほうがいい。


 2回目に詰めるだけ詰めたエビ肉は持ち帰ることにした。トオルの話では、魚系魔物は冷凍保存しても味は落ちにくいらしい。


「ちょっと寄るところがあるから、付き合ってくれ。」

 ギルドを出ると、そのまま武器屋へ向かう。


「すまんが漁師が使うような銛は売っているかい?」

「はい……騎士用の銛がございますよ。」

「じゃあ、2本ください。」


 トオルも同じことを考えていたようで、2人して長い鉄製の銛を購入した。今日の戦いで、大きな銛があれば投げつけて攻撃できたのではないかと考えたのだ。投げられなくても背に飛び乗って思い切り突き刺してもいいしな。剣で戦えない相手でも、何とか対応できるよう準備しておく。


 ナーミも金属の矢を買い足したようだ。


「じゃあ、もう今日は4時を回ったから遊園地というわけにもいかないし、ちょっと早いが帰るか。」


「そうですね……カニも速めにゆでたほうがいいので、帰りましょう。」

 早々に別荘へ乗合馬車で帰ることにした。


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