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海系ダンジョン挑戦Ⅱ

「さて、どうする?まだ3時だ……中途半端な時間になってしまったな。これだったら、ゾーアザの毛皮をあきらめて、2つ目のダンジョンをこなしたほうがよかったか?」


 ダンジョン攻略時点でちょうど昼だったから、急いで昼めし食って2つ目のクエスト申請に行けば、夕方の満潮前には終わることができたかもしれない。これくらいなら、複数件のクエストをこなすというのもありかも知れないわけだ。


「えー……でも……せっかく倒した獲物なんですから、毛皮や肉は利用可能であれば極力回収するのが義務ですよ……利用する気もないのに倒すだけなんて、生き物に対して失礼です。」


 トオルが真顔で説教してくる……確かにそうだな……魔物だって生き物なんだ。ゲーム感覚でただ殺すだけというのは、命に対する冒とくだ。アシカ系魔物をあきらめさせられたことを、暗にほのめかせているのかな?


「わかった……じゃあ明日からもこんなペースで進むことが考えられるが、あまり早くに別荘へ帰っても仕方がないだろ?確かに大浴場があったり景色もいいが、毎日じゃあ飽きるからな。それとも、ショウの体術の訓練を多めにするか?剣術も教え始めてもいいし、ナーミに弓も教えてもらうのもいいな……。」

 余った時間はショウの訓練に使うとするか……。


「えー……うーん……お稽古事は嫌じゃないけど、せっかく雷の魔法がなんとかできかけたところだから、さらにあれもこれもというのは、ちょっと大変かなーって思う。


 それよりも、時間があるんだったら遊園地へ行こうよ!別荘の屋上から観覧車が見えたから、近くに遊園地があるはずだよ!」

 ショウが遊園地をねだる。まあ確かに、これまで娯楽のない生活を送ってきたからな、たまには……とも考えるが……。


「へえ……遊園地か……あたしが子供のころには一度も行けなかったな……ママが仕事で忙しかったというのもあったけど、経済的にもね……。」


 ナーミがさみしそうな笑みを浮かべる。ナーミの子供の頃は、カルネからの養育費が途切れてから特に生活が厳しかっただろうからな……ちょっと場がしんみりした感じになってきた。


「ようし……じゃあ、いっちょ遊園地へ行って楽しむとするか。」

 明るく盛り上げようと、大きな声を出す。

 ギルドの受付嬢に聞いてみると、遊園地は乗合馬車で20分くらいの港の向こう側の端にあるらしい。


 早速4人で馬車に乗って遊園地へ行ってみると、大きな観覧車にメリーゴーランド、ジェットコースターにお化け屋敷と、結構本格的な大きな娯楽施設のようだ。コーボーは恐らく海に面した観光都市なのだろうな。だから王家の別荘もあるというわけだ。


 ジェットコースターは苦手なので、観覧車やゴーカートなど久しぶりに童心に帰って楽しく遊んだ。



 晩飯はゾーアザ肉のシチューだった。毛皮を剥いだ時にはほとんど白身だけにしか見えない塊だったが、30センチほどもある白身の下は、上質の赤身が詰まっていて、その赤身だけを収集してきた。


 少し獣臭いとトオルは評していたが、ワインとトマトで煮込んだシチューは絶品だった。ステーキなどにするには、このまま涼しいところにおいて熟成したほうがいいとトオルがいうので、1週間ほど保存することにした。チートに確認すると、別荘には熟成用の保冷室も完備しているというのだから、さすが王家の別荘だ。


「こ……こんなに頂いてもよろしいのでしょうか?」

 もちろん管理人のチートには、トビッギョやゾーアザ肉を多めにおすそ分けしておいた。何せ食べきれないほど持ち帰ったからな。明日には明日の収穫があるはずだから、余計に持っていても仕方がない。


「ありがとうございます……こんなにおいしそうな肉をしかも大量に……皆も栄養がついて喜ぶことでしょう……ありがとうございます……。」


 そういってチートは、大きなクーラーボックスを抱えてよろよろと管理人室へ戻っていった。皆って……確かチートは奥さんと2人暮らしだったはずだが……親戚でも近くに住んでいるのかな?


 ミニドラゴンには、骨付きのゾーアザ肉を与えた。このほうが栄養バランス的にいいだろう。その後、散歩がてらミニドラゴンと海岸沿いを飛行した。ダンジョンに一緒に行くことは、当面ないだろうからな。ストレス解消のためだ。


 この町に来て何よりうれしいかったのは、調理用ではない飲酒用のワインが、この町では手に入ることだ。この大陸でもワインは醸造しているが、飲用の酒はビールか日本酒で、ワインは料理用の酸味が強いものしか売っていない。


 しかし別の大陸では飲用のワインが主流なようで、そこから輸入しているのだそうだ。こちらからは日本酒を輸出してワインを輸入するという、酒同士の交換貿易のようなことをやっているようだ。


 日本酒ももちろんおいしくて、特にこの地方では熱燗で飲むのだが、ゾーアザ肉のシチューにはパンとワインがよくあった。血の色をほうふつとさせるような黒っぽい赤ワインは、適度な酸味と甘みがあり、鼻を抜ける香りがまた絶品だった。ショウがお酌してくれることもあり、ワインがひたすら進んだ。


「ふあーあ……アルコール分はさほど高くはないのに結構酔ったなあ……。」

 食堂で飲み続けた後、ショウを部屋まで送って自分の部屋へと戻っていく。トオルとナーミはとっくに部屋へ戻っている。


『ガチャッ』部屋のドアを開けると、奥には何やら人影が……もうこのシチュエーションにも慣れた。


 部屋へ入った途端に俺は崩れ落ちるように寝ているのだろう。そうしていつものように夢の中にバスローブ姿の絶世の美女が……コージからはるか離れたこの地までやってきてくれて、心からうれしく思う。

 切れ長の涼し気な目が魅力的な美女に手を引かれて、ベッドまでいざなわれた。



「ふあー……おはよう……。」

「パパ、おはよう。」

「おはようございます、昨日はご機嫌でしたね……。」


「どうしてあそこまで飲んでしまうかなー……健康のためにもう少し慎んだほうがいいわよ……。」


 最近はナーミの口調もずいぶんと優しくなってきた。どちらかというと怒っているというより体を気遣ってくれているような気が……そんな優しい気持ちに答えられるよう、深酒は控えようと毎回思うのだが実現したことはない……。


「ああ、悪いね……以後気を付けるよ……。」

 いつも通りの、平穏な1日が始まる……



「じゃあ、今日は昨日同様海系ダンジョンで、海老・蟹と書かれているのにしよう。このほうが実入りが多そうだし、晩飯も楽しみだからね。」

 朝から乗り合い馬車に乗って繁華街へ向かい、ギルドに到着するとさっそくクエスト票を確認する。


 セラミックの剣を研ぎに出さなくても済むというのは結構楽でいい。切れ味は落ちないということだったが、まあ永久に使えるということではないのだろうがな。硬度が高いので刃がへたりにくいという触れ込みだが、なまくらになったら買い替えだろう。その分値段は手ごろだ。


 受付でクエスト申請して港へ向かう。昨日の今日ということと、格好が海のダンジョン向けの装備をしているのだ、昨日のような確認がいちいちされることはなかった。


 昨日同様、コンクリート製の港の堤防を海側に降りていくと側道があり、そこを奥へ奥へと歩いていく。今日のダンジョン番号は62番だ。


『ガチャッ……ギイッ』扉の南京錠を外して中へと入っていく。ダンジョンがいくつも近場に固まっているというのは、大変便利だ。この洞窟も昨日同様4×2m位の大きさの洞窟で、やはり湿っていてぬるぬるする。


『ドガッドゴッドガンッボゴッ』ダンジョンへ入った途端に、前方に構える盾に衝撃が走った。


「ほおー……跳ね海老だな。後ろ向きにものすごい勢いでジャンプして体当たりしてくるようだから、先頭を歩く場合は要注意だ。生身だと当たり所が悪ければ、一撃で致命傷もありうるとなっている。盾でガードさえしていれば自滅してくれるようだから、楽でいいがね……。」


 気絶しているのか動かない跳ね海老を、収集用の網に入れて冒険者の袋へ収容する。


『シャキィーンシャキィーン』しばらく歩くと、今度は金属の擦過音が響いてきた。


「注意しろ……シオマネキ系の魔物シオマネキングだ。巨大なハサミの切れ味は抜群。人の腕など簡単に斬られてしまうようだ。ゆでてよし、揚げてもよし、鍋にすると最高となっているな。」


 膝の高さ位の巨大な蟹が数匹、行く手をふさいでいる。右のハサミは巨大で、あれにはさまれたら無事では済まないことは容易に予想できる。


『シュシュシュシュ』『キンキンキンキンッ』ナーミが矢を射かけるが、巨大ハサミが盾の役割も果たすのか、全て弾かれてしまった。


「だりゃあっ!」


『シャッ……キンキンキンキンッ』剣をおもいきり振りかぶって斬りつけていくが、巨大ハサミで簡単に防がれてしまう。何せその体の半分くらいの大きさもあるハサミなのだ。ハサミを避けて斬りつけるのが難しいし、ハサミじゃなくても甲羅自体が非常に堅そうだ。


「エビは簡単だったが、カニは甲羅が硬いから結構厄介だね……。」

 さてどうするか……


「突風!突風!突風!突風!」

 ショウが唱えると、強烈な風圧がシオマネキングに襲い掛かり、その体が大きくあおられ甲羅を下にひっくり返ってしまった。


「今だよ……おなか側は多分少しは柔らかいんじゃないかな……。」

「あっ……そうか……よしっ、だりゃあっ!」


『ズゴッズゴッズゴッ』『ズゴッズゴッ』トオルと2人で、シオマネキングの無防備な腹の中心めがけて、剣を突き刺していく。確かに腹側は背側の甲羅ほど固くはなく、剣を突き刺すことができた。


 シオマネキングの少し手前の地面を狙って突風を吹き付けることにより、風であおって体を持ち上げたのだな、さすがショウだ……戦術を考えるのがうまい。


 炎系の魔法を使えば恐らく簡単に倒せるのだろうが、それだと焼きガニができてしまうし、焦げて焼損する可能性もある。炎系禁止といった昨日の言葉を覚えていてくれているのだろう。冒険者の袋の口を目一杯広げて、シオマネキングを詰める。かなり大きいので1ぱいで十人前以上はあるんじゃないかな。



「きゃあっ……いやっ!」

 しばらく進むと、後方から悲鳴が……見るとナーミが右腕を痛そうにさすっている。


「どうした?」

「わからないけど……突然右腕に痛みが……。」


「こいつでしょう……。」

『ガツンッ……ボゴッ』トオルが長刀の柄で洞窟内の壁面を叩くと、ぼろっと壁の一部が零れ落ちた。


「蟹の仲間でしょうかね……甲羅に苔のようなものをまとって壁と同化していて、パっと見分かりませんでした。以後注意いたします。」

 トオルが叩き落した壁の一部は、確かにハサミを持っていて蟹のような形をしている。


「えーと……モズクガニ系の魔物モズッキ―となっている。洞窟内の壁や地面に潜んで突然人を襲う。甲羅に、海藻などを貼り付け擬態する。ハサミは小さいが威力は大きい。身は小さく食用には向かないとなっているな……うーん……厄介な魔物が結構多いな……。」

 しまった……こんな厄介な魔物がいるとは……注意喚起しておくんだった。


「大丈夫よ……昨日買った海ダンジョン用の防具の効果かしらね……少し痛かったけど斬られてはいないから平気よ。」

 ナーミは冒険者の袋から回復水を取り出して、飲みながら笑顔を見せる。被害が小さくて何よりだ。やはり海用の装備を購入しておいてよかったー……。


「まあ、仕方がないですね……こんなの簡単には見破れませんよ……知っていてもどうか……。」

 トオルも自信なさそうに、落としたモズッキ―の姿を眺めている。


 その後も、モズッキ―に注意しながら先へと進んでいく。段々とその隠れ場所に見当がつくようになってきて、途中からは事前に退治することが可能となってきた。一番出現頻度が高いのだが、食用に向かないというのが残念だ。



「さて、いよいよボスステージだ。ロブスター系の魔物が登場するようだ。ハサミを持った巨大エビだな。名付けてオオロブだ。ハサミも注意しなければならないが、やはり甲羅が厚く、なかなか攻撃が通じない相手のようだ。以前戦った手長エビのボス……あれも結構手ごわかったからな。


 危険だと感じたら、近づかないことだ……さすがに素早い動きで襲ってくるということはないだろう。」

 またまた巨大エビのボスのようだ。前回のようにまずはハサミをつぶして攻撃といった形になるかな……とか思いながら、ドーム入口へ入っていく。


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