大混雑
「捷きなる雷の精霊たちよ、友を信じ力を貸し与えたまえ。その術を使い敵をせん滅せよ。雷撃!」
『シーン……』
「うーん、何も起こらないよ……あれから毎日練習して、水系魔法は集中豪雨の中級魔法も使えるようになったのに、雷を出そうとしても何も起きないじゃない……。」
ショウが不満そうにほほを膨らませる。雷魔法が一向に実現できないからだ。左手の指によるショートカットは、親指を複数精霊球のためのキーと割り当て、取得順から中指と薬指を立てて表現することにした。伝わっている雷撃呪文を唱えているのだが、2週間経っても何の変化も起きないのだ……。
風のA級ダンジョンで雷系魔法攻撃に出会い、それから2週間。その間に火と土と水それぞれのA級ダンジョンを攻略した。各2日づつ攻略にかかったし、都度剣を研いだり装備を修復したりと、どうしても中1日開ける必要性があったため、これでもほぼ休みなく攻略したほうだ。
ミニドラゴンで飛んで行けるため、遠くのダンジョンでも移動時間短縮して挑戦することはできるようになったが、それだって行き帰りの移動時間はそれなりにかかるし、なにより装備なしでは戦えないのだ。
なにせ山奥のギルドは人手が足りず、防具の修復になると地竜の定期便を待って王都のギルドへ依頼するか、自分で工具を借りて修復するしかない。修理部材はそろっているため、自分で修復すれば不慣れでも半日あれば修復可能というわけだ。その分修復代金はパーツ代だけと格安だから、文句も言えないか。
A級ダンジョンとなると雑魚魔物も強力な魔法を使ってきたり、ボスも超強力であったりと、危ない場面もあったが何とか攻略できた。
それでも輝照石や擬態石も一緒に見つかったり、火のダンジョンではダイヤモンドやサファイヤなどの原石が見つかり、輝照石と擬態石は売らずにとってあるが、原石は金に換えたので結構な収入となった。以前ダンジョンで手に入れた輝照石は小さめで光量が乏しかったので、こちらは予備とし、トオルが新しく取得した分を所持することとした。小さいのは装甲車の荷台の照明用だな・・・。
ギルドの受付担当者に聞いたら、特殊効果石が一緒に見つかるのはA級ダンジョンでも非常に珍しいらしく、こんなに連続するとは運がいいねとうらやましがられた。
順調に進んでいるようだが一つだけ順調ではないことが……取得した水の精霊球でショウがようやく中級魔法までこなせるようになり、雷の魔法に挑戦しているのだが、何も起きないのだ……。
ショウが持っている精霊球は3種類。火と風の魔法だって毎日訓練しないと魔法効果が薄れるので、継続する必要性があり、水の精霊球の取得には結構時間がかかった。魔法使いが複数の精霊球を持つことが難しいという理由を痛感する。安定した魔法効果を維持するのは大変なのだ。かといって、精霊球を減らすつもりはない。
ショウは魔法使いとしてチームに参加しているからには、すべての精霊球を扱えるようになってほしいとまで思っているくらいだ。そのため、まだ途中経過でしかないのだ。大変だが頑張ってもらうしかない。
「いや……必ずできるはずなんだ……パパを信じてくれ。できるかなー……どうかなー……なんてちょっとでも疑っていたらダメだ。必ずできるって信じて唱えるんだ。もう一度やってみてくれ。」
「わかった……出来る……必ず出来る……絶対雷魔法は使える……出来る……捷きなる雷の精霊たちよ、友を信じ力を貸し与えたまえ。その術を使い敵をせん滅せよ。雷撃!」
ショウが念仏のようにつぶやいてから唱えると『パリッ』どこかでかすかな音が……
「おおっ……かすかだが、効果があったようだぞ……この調子だ……頑張って何度も……。」
「うん……捷きなる雷の精霊たちよ、友を信じ力を貸し与えたまえ。その術を使い敵をせん滅せよ。雷撃!
雷撃!雷撃!」
『パリパリパリッ』ほんのわずかだが……的である竹竿が青白く光ったような気がする……。
「おおいいぞ……やっぱり信じる心だ……信じて唱えれば、叶うんだ。もう一回。」
「うん……捷きなる雷の精霊たちよ……」
『わいわいガヤガヤ……』「おーいまだか?まだ受け付けは進まないのか?」
「ああっと、申し訳ないね……混んでいるものだから……。」
うん?ダンジョン攻略と訓練の日々が続く中、朝食後ギルドへ向かうとなぜか黒山の人だかりができていた。ここは山奥の、冒険者ですらやってこない寂しいギルドではなかったのか?
「一体どうしたんだい?」
「おーい……横入りすんなよ横入り……こっちは夜明け前から並んでんだぞ……。」
「ああ……俺は別に横入りして、先に受け付けしてもらおうとした訳じゃない。突然の状況が分からずに確認したいだけだ。悪いが通してくれ……。」
受付の列を素通りして、受付係の青年に話を聞こうとしたらクレームをつけられた。とりあえず事情を聞くだけだと、断っておく。
「どうもこうもないよ……どうやら、すぐにレベルが上がるギルドってことで、大評判になっているようだね。C+級の冒険者が、ひと月ほどで名誉A級になったと噂になって、コージーギルドは今冒険者であふれかえっているらしい。
その評判は聞いてはいたんだが、ここタールーギルドに至っては冒険者になりたてのC級冒険者が、わずか1ヶ月でA級になったばかりか、戦争で武勲を上げて貴族にまでなったっていうんだから、それにあやかろうといった冒険者たちが、今度はここまで押し寄せてきた。
ここは冒険者登録しないと宿も割り当てられないから、夜明け前から大騒ぎさ。」
「えっ?どういうことだい?そもそも、どうしてそんな情報が?」
「ああ・・・各地にあるギルドでは、そのギルドへのアクセスの容易さなど地理的要素に加え、管理している施設状況などを毎週まとめてランク付けしている。受付嬢の人気ランキングなんて言うものもあるくらいだ。
その中で個人名は出さないが、レベルアップした冒険者の前後のレベルと経験年数もランク付けしている。
よりレベルアップしやすいギルドはどこか?なんていうことが容易にわかるようになっているわけだな。各ギルドを競わせて、より良い運営をしようという狙いだから、これは勘弁してほしい。
そのトップに、ショウ君のことが載ったというわけだね、2週間ほど前のことだ。貴族云々というのは、後から尾ひれがついた情報のようだが、ともかくそんなギルドで活動したいといった冒険者が多数いるわけだ。
登録受付時間が始まったから受付開始するところだけど、一体何人いることやら。悪いが、手伝ってもらえないか?ここもそうだけど、宿と道具屋と武器防具屋も恐らく大変なことになりそうだ。
すぐに電信で本部に応援要請したんだが、後2週間はこの状態になる。取り敢えず相棒のチームが明日には戻ってくるはずだから、今日だけでもお願い……。」
受付係の青年が泣きついてきた。
「仕方がないな……ナーミ……受付を手伝ってやってくれないか?」
「いいわよ……何をすればいいの?」
「助かるよ……じゃあまずはタールーギルドの登録用紙に記入してもらって……。」
ナーミが受付係の手伝いをすることになった。
「じゃあ、ワタルは料理とか得意だから宿の手伝いがいいかな……。」
「はい、わかりました。」
「ショウは道具屋を手伝ってやってくれ。俺は武器防具屋を手伝う。」
「うん、わかった……。」
この日は1日中大忙しだった。武器の研ぎだしや防具の修復は、このところ自前でやり始めたところだから、手順もわかっているのでずいぶんと助かった。
「いやあ悪かったね……お礼に極上の酒と、入荷したばかりの高級洋菓子……俺たちのおやつのはずだったんだが、進呈するよ……。」
晩飯も遅くなってようやく解放されたが、受付係の青年が4合瓶とケーキの入った箱をもって、食堂の俺たちのテーブルにやってきた。食堂も満タン状態で、俺とショウは皿洗い、トオルとナーミは料理の手伝いをずっとさせられていた。人が多いのは活気があっていいことだが、さすがに大変だった。
「うわあ……きれいなお菓子……。」
「本当ね……キラキラしている……。」
ナーミもショウも、持ってきたケーキをうっとりとした表情で眺めている。今日1日貢献した甲斐があったというわけだ。
「かえって悪かったね……。」
頂いたお酒を一口飲むと、きりりとしまった辛口で最高だ。
「いやあいいんだ……僕たちの任期も早々に終わりそうだからね……。」
青年はちょっと寂しそうな表情を見せる。
「どういうことだい?用事が出来て、代わりの冒険者が来ることになったのかい?」
「いやそうではないさ、いずれ攻略すべきダンジョンがなくなってしまうのさ。タールーギルドは山奥にあって、冒険者がめったに来ないところだから、ダンジョン管理のために1年交代で2チームの冒険者が来てダンジョン攻略を行っている。だから、1年で公開されるダンジョンは100くらいしかないんだ。
冒険者たちが押しかけてきて、宿の部屋に入りきれないくらいで、チームごとに1部屋割り当てにしている状態で、全部で40チーム来ている。みんなC級かB+級冒険者だ。
C級ダンジョンは本来開放していなかったんだが、本部の許可をもらって開放することにした。こちらは対象ダンジョンが多いから問題ない。B+級のほうが問題で、20チーム来ていて、遠くのダンジョンの場合は複数件申請するから、昨日時点で今年の割り当ては終了した。B+級クエストは残っていない。
仕方がないので本部で検討してくれて、2から3チームでパーティを組んで、上位ダンジョンであるA級クエスト挑戦の許可が下りた。はるばる2週間も山道を登ってきて、1、2件クエストこなしたらもう次はありませんなんてことになったら、ギルドの面子丸つぶれだからね。
それでも1ヶ月も持たないだろう。なにせ、ここには娯楽など全くないから、ほとんど休みなくクエストをこなそうとするだろうからね。
クエストがなくなり次第、このギルドは今年の活動を休止する。僕らはお役御免だよ。C級ダンジョンのおもりで、管理者を派遣することはあり得ないからね。僕らはあくまでも精霊球を回収するためにいるわけだから……。また来年、別の管理者が来るはずだ。」
何とも恐ろしい現実を告げられた。
「そうなると今残っているA級クエストも俺達がこなしてしまったら、せっかくこの地まではるばるやってきた冒険者たちが困るということになってしまうのか?」
「そういうことになるね。」
受付係の青年はさらっと答える。
「だったら来年分としてキープされているダンジョンを、今年開放すればいいんじゃないのか?40年経過したらすぐにA級として開放するというわけでもないのだろ?適当なダンジョンはまだ残っているはずだ。」
「その通りなんだけど……トータルのダンジョン数には限りがあるのさ。だから、今年だけ無理をして多く開放してしまうと、来年とか再来年に開放できるダンジョンの数が減ってしまう。この調子だと、数年分のダンジョンを開放しなければならなくなってしまいそうだからね。
無理をすると、このギルドは管理者不在で何年も放置されてしまうことになるわけだ。建物は痛むし、施設の管理だって何もしないと雑草は生えるし、ダンジョンまでの道だってなくなってしまう。やはり毎年一定数はダンジョン攻略しながら、この施設を運用していくしかないのさ。
今年はイレギュラーな事態が発生して、もうダンジョンがなくなってしまいそうだから仕方がないけどね。来年以降は入山前に申請制にして、このギルドで活動できる冒険者数の制限をすると言っていたね。」
青年は少し肩を落としながら、それでも仕方がないとばかりに寂しい笑みを浮かべた。そりゃそうだろうな……ここで1年ギルドの管理業務をしながらクエストして、A級に上がるはずだったんだものな。悔しいだろうけど、感情をあまり表に出さないようにしているようだ。
なにせ、この混雑の原因は俺たちにあるのだからな。俺たちのチームがあまりにも常識破りのレベルアップを繰り返すものだから、それが評判になってあやかろうとする冒険者たちが詰めかけたというわけだ。
だが、俺達だって望んでこの状況を招いた訳でもないし、今のこの状況は俺たちにも大きな影響を与えている。なにせ攻略出来るダンジョンがないのだからな。彼もそのことは分かっているようだ。
「そうか……ありがとう……明日からの予定を組みなおすよ。」
「うん……頑張ってね……。」
そう言い残して、ギルドの受付係の青年は食堂を出ていった。1年間の長期滞在予定が、数ヶ月で終わってしまったのだから、俺達よりも彼のほうがショックを受けているだろうに……。
「参ったな……ここを移動してよそへ行くしかなさそうだ。と言ってもどこへ……まさかノンフェーニ城に戻るわけにもいかないし……エーミの顔見知りが多すぎて、長い滞在は危険が大き過ぎる。
かといって、コージーギルドは余計だめだし……。」
「そうですね、カンヌールはワタルの知り合いが多いですから、やはり避けたほうがいいでしょうね。」
「ごめんね……僕のために……。」
ショウが、申し訳なさそうにうなだれる。
「ショウのせいではないさ。ここだったらクエストに専念できるっていう、最高の環境だったんだが、ほかにここに近い場所がないか、考えているだけだよ……。」
参った……どこでもいいというわけではないし、また他国のことなどトーマの記憶にもほとんどないから、どこへ行こうか決めかねる。
「この国だと、アーツとかコーボーとかよね。アーツのギルドは、あたしも行ったことあるけどC級やC+級主体の、比較的初級者向けのクエストが多かったわね。大きなギルドだったから、B級以上のクエストもそれなりにあったはずだけど……。」
ナーミが口を開く。
「なっ……ナーミはアーツのギルドに入ったことがあるのか?」
「そりゃそうよ。パパの妻を見初めてパパをだまして毒殺した奴の情報をつかんで、カンヌールを目指していたから、チームメンバーを何とかだましてコージからモロミ渓谷経由でカンヌールに入るつもりでいたの。
アーツのギルドで少しクエストをこなしてから、コージを目指している途中で、なんとそいつがコージで冒険者登録をしたって聞いたから、いてもたってもいられなくなって、借金して早馬でコージへ駆けつけたってわけよ。実際はパパは病気で亡くなったってわかったけどね。
チームメンバーはみんな馬鹿なことはするなって言って引き留めるだけだったから、けんか別れしたんだけど、もしかすると今もアーツのギルドに滞在しているかもしれないわね。もう何の未練もないけど。」
ナーミが思い出話のように話す。そうか……俺たちを襲いに来た時のことだな……。
「うーん……都市部のギルドは人が多いから都合はいいんだが、ミニドラゴンがいるからな。さすがに町中どころか、近くに降りることも難しいだろう。」
木を隠すなら森の中ということなのだが、他の要因もあって難しい……。




