雷のダンジョン制覇
『ズッズッ……ズッ』切り立った崖を、ゆっくりと昇っていく。いつ雷が落ちてくるかわかず、半ばビビりながらなので、手足が震えていてちょっと危ない。
「ちっちっちちちちちっちちちちちちっ!」
『バリバリバリバリッ…………ドーンッ』『カランッ……ガラガラガラッ』頭の上あたりに突然稲光がきらめき、衝撃がびりびりと伝わってくる。ナーミが先ほど避雷針代わりに突き刺した矢が、衝撃で落ちていったところを見ると、そっちに落ちたようだ……避雷針の効果はばっちりのようだ。
『シュッ……ズガッ』すぐに今よりももう少し上に、金属の矢が飛んできて突き刺さる。
「効果がありそうだから、また撃ってあげたわ。金属の矢はまだ在庫があるから大丈夫よ!」
下からナーミの心強い援護射撃が……
「ちっちっちちちちちっちちちちちちっ!ちちちっ!」
『バリバリバリバリッ…………ドーンッ……ドーンッ』「きゃあっ!」
今度は俺達より下側で衝撃音が……慌てて下を確認すると、先ほど立てた避雷針代わりの鉄パイプと刀から煙が上がっていた。こっちも効果がありそうだ……これはいけそうだぞ。
「よしっ……行くぞ!隆起!隆起!」
『ボゴボゴッボゴボゴッ』俺とトオルの足元にまずは足場を作っておく。
『ススッ』「脈動!」
『ザシュッ』さらに少し登って、すぐに脈動を使って大ジャンプ。
『シュシュシュシュシュシュッ』「だりゃあっ!うわっ」『カンカンカンカンカンカンッ』高く飛びあがって一気に斬りつけようと剣をおもいきり振りかぶったら、崖の上にいる魔物の体から無数の飛来物が発射された。兜の面を上げたままだったので、思わず小手で顔をガードしたが危なかった。
『ダタッ』何とか先ほど作った足場に着地できた。バランスを崩して落下位置がずれていたら危なかった。
「どうやらボスはトゲトゲが体中にいっぱい生えた……そうだな、体長5mを越えるハリネズミ系の魔物のようだ。カルネの資料には針山とだけ記載があったので、何のことが分からず雷の避雷針と理解したが違った。
体に生えている針を飛ばして攻撃してくる。しかもその攻撃は呪文がないから厄介だな……雷攻撃は何とか避雷針と耐性装備で防げたと喜んでいたが、針攻撃は針攻撃で厄介だ。十分気を付けてくれ!」
『シュシュシュシュシュシュシュシュシュッシュッ』「うわっ」「きゃっ」「いやっ」『カンカンカンカンカンカンカングザグザグザッ』冒険者の袋から、大きめの盾を取り出そうとしていたら、悲鳴が飛び交う。
他のメンバーのところにも針を飛ばしてきたようだ。慌てて避けたようで、岩に弾き飛ばされたり足場の土に刺さったり、危ないところだった。
「超高圧水流!」
『バシュッ』『シュシュシュシュシュシュッ』『シュシュシュシュシュッ』『ボコボコボコボコボコッ』『タタッ』
「頂いた忍者装束であれば、針攻撃は平気のようですが、こちらの投げたクナイも突き刺さりません。どうやら体表の無数に生えている針が、防御の役目も果たしているようですね。しかも飛ばした針が次々と生え変わっていくようです。」
面体をつけ、飛び上がって攻撃を仕掛けたトオルが、がっかりしたように肩を落とす。ううむ……針のガードで攻撃も通じないのか……厄介な相手だな。
「大炎玉!」
『ボゴワッゴワァッ』直径5mほどの巨大な炎の玉が、ハリネズミ魔物めがけて飛んでいく。
『ススッ』『ドンッ……ボウワァッ……』ハリネズミ魔物は、一つ目の炎の玉は難なく交わしたが、その影を追随してきた2つ目の炎の玉が避けた先に追尾してきて、全身火だるまになった。
「きぃっきぃー……」
『ボワーッ』全身を包んでいた針が、勢いよく燃え上がっている。
「ようしっ今がチャンスだ。脈動っ!」「超高圧水流!」
『ザシュッ』『バシュッ』すぐに脈動を使って大ジャンプする。トオルも同様にジャンプしたようだ。
『シュッパパァーンッパンッ』大上段に振りかぶり、炎が消えかかっているハリネズミ魔物の左肩口から袈裟懸けに斬りつけ、返す刀で胴体を水平斬りする。
『シュシュシュシュシュッバズバズバズバズバズ』『シュシュシュシュシュバシュバシュバシュバシュバシュ』更に、針が燃え尽きた胴体にトオルのクナイとナーミの矢が突き刺さっていく。まさに逆ハリネズミ状態だ。
『ダダッ』『タタッ』そうしてトオルも俺も難なく、元居た足場へ着地できた。
「きゅーむ……」
『ズザザザザザッ……ドッゴォーンッ』ハリネズミ魔物はそのまま落下し、先ほど作ったナーミたちがいる足場に引っかかった。
「おお、ちょうどいいから、そのまま精霊球を回収しよう。俺の見立てでは風と水の精霊球2つ持っているはずだ。」
すぐに精霊球の回収をお願いする。2つの精霊球が出てくるはずだが……。
「わかったわ……この魔物じゃあ食肉には向きそうもないわよね。毛皮も……焦げちゃっているし穴だらけだし……使い道はなさそうね。」
そういいながら、ナーミがハリネズミ魔物の死骸を探る。
「ごめんなさい……。」
ショウが申し訳なさそうに謝るが、毛皮を焦がすくらいの強烈な火炎でなければ、針のガードを無効にはできなかっただろう。どうせ針の山で穴だらけなのだし、毛皮の使い道などないさ。
『ズザザザザッ』トオルも降りていき、ナーミとショウとトオルの3人で、精霊球を確認し始めた。見上げるほどの大きさがあった魔物も、針が燃え尽きてみると前の半分くらいの大さで、ひょろっと細長い体になってしまっている。
「あっありましたよ……ピンク色だから、風の精霊球ですね。A級だけあって結構大きさがありますよ。
ほかには……うーん……なさそうですよ……。」
「そうね……さっきから探っているけど、後は焼けこげた針と骨くらいかな……硬いのは……。」
「そうだね……もうなさそうだよ……。」
どうやら、精霊球は一つしか見つからない様子だ。
「そんなはずはないだろ……いや……ほかの場所に隠れているのかな?ちょっと崖を探ってみてくれ。
あんまり上へ登ってしまうとダンジョンから出てしまうから、注意しながらやってくれ。崖に穴が開いていると、たいていそこには毒蛇がいるからな、まず毒蛇を殺してから手を突っ込むようにね!」
そういいながら、崖の捜索にとりかかる。このダンジョンは崖に穴が開いていて毒蛇の罠があるからな……。
ううん……こっちにはなさそうだな……もうちょっとむこうはどうかな……下の方では、トオルはじめ全員が突き出た岩を足場に、崖を横移動しながら確認して回っている。
うんっ?崖の上のステージの端の方に、ほんの小さなくぼみを発見。蛇穴よりもずっと小さなものだが、それでも蛇が怖いので、短刀でつついてみると『ゴツンッ』何か硬いものが奥にあるのが分かる。すぐに輝照石を冒険者の袋から降りだして中を照らしてみると、光が反射された。
鎧の小手をつけた俺の手では穴が小さすぎるため、短刀の刃を寝かせて奥の方へ差し込み手前に引き、中のものを取り出そうとする。『ゴロゴロゴロッ』『バシュッ』転がって来た球を何とか左手で受け止めた。
「あったぞ……青色の水の精霊球だ。この2つ目を使って雷を引き起こしていたのは間違いがない。じゃあ、戻るか……避雷針代わりの鉄パイプや矢を回収しながら戻ろう。」
そういって少し平行移動して、ナーミが突き刺した避雷針の矢を回収しながらさらに上へ登っていくと、いつの間にか、入り口に柵の中にいた。
『ガチャッ』柵を開けると、梯子を使って下へ降りていく。
「はい……鉄パイプを回収してきましたよ、それと風の精霊球。」
魔物たちの死骸が転がっている崖下で、避雷針代わりの鉄パイプと精霊球を受け取る。
「おお、ありがとう……じゃあ、こっちの水の精霊球はショウが持っていてくれ。やはり俺の想定通りだと思うから、水の魔法に慣れ次第、雷の魔法の特訓だ。」
「うん、わかった……。」
鉄パイプを収納し、水の精霊球をショウに手渡すと、ショウが笑顔で返事をする。
「本当に、2つの精霊球で雷が発生していたっぽいわね……実現したらすごいことよね……。」
ナーミが、落とした弓を拾い上げながら笑顔を見せる。なんにしても無事皆で帰ってこられてよかった。
「では……魔物たちから肉を回収いたします。私はフリーフォールカモシカ2頭を担当しますから、ワタルはツッコンドルの羽をむしって……ナーミさんはこっちの……。」
トオル主導で、恒例の魔物の肉の回収が始まった。肉屋でもないのに、皮を剥いだり肉の部位を切りだしたりするのが、ずいぶんうまくなってきたと最近は思っている。
「おお、これはこれは……A級ダンジョン攻略、おめでとうございます。ショウ君はこれで晴れてA級冒険者だ。風の精霊球もA級のものとなると、他の精霊球とほぼ同額で引き取ってもらえるから、苦労のかいがあったね。泊りで最短ルート踏破しても1日半かかるから、報奨金はB+級精霊球の3倍だよ。
えっ……雷の魔法……?そうか……風のダンジョンは人気がないし、俺たちはまだ挑戦できないから考えていなかったんだが、たまに聞くんだよね……A級以上の風のダンジョンで雷の魔法攻撃を受けたって。かといって、その時に取得した風の精霊球を使っても、どうやっても雷の魔法は再現できないらしい。
まあでも、雷対策グッズは取り寄せておくよ。バルーンとヘリウムガスボンベとチェーンのセットになっていて、バルーンを膨らませてチェーンを結び付けてから、ダンジョン入ってすぐの岩壁に固定用のハーケンを打ち込んで、チェーンをつないでおくらしい。バルーンが上空まで上がってチェーン部分が避雷針の役割を果たすから、ダンジョン中で雷攻撃を無効にできる優れものだ。
ボスステージに向かう時にバルーンを割っておけば、チェーンの重さで落下するから後で回収できる。ボスステージはボスステージで、バルーンの避雷針を上げれいいわけだ。至急発注しておくから、来週には入荷するだろう、悪かったね……A級の風ダンジョンすべてではなく、ごくまれに発生することだからね……。」
ギルドに到着して、清算時に雷の魔法に苦しめられたと告げると、受付係の青年が頭を下げる。そうか……かなり厄介な魔法だと思っていたが、対処方法はあるわけだ。
風のダンジョンは崖を登っていくから、確かに風船にチェーンをつけて地面に突き刺しておけば、すごく長い避雷針として使えるわけだ。ダンジョンの特性を生かした対応策と言えるな。これが水のダンジョンだと、この方法では防ぎきれない。避雷針を常に持ち運んでは設置しなければならないからな。
ああでも……水は電気を通しやすいから、湿った壁などにも吸収されて威力は弱まるかな?それに、水系の魔法攻撃なら十分に冒険者たちを苦しめられるからな。
そうしてボスは大抵の場合は風の精霊球しかもっていなくて、ボスステージのどこかに水の精霊球が埋もれているのだろう。風のダンジョンは、ボスを落としてしまえばダンジョンから出ないと精霊球を回収できないから、精霊球の有無まで確認できないからな。だから雷の魔法が伝わりにくいのだろう。
雷の精霊球もなくて雷の魔法の呪文だけが存在していることがちょっと不思議だったが、まれに雷攻撃を受けるダンジョンが存在するわけだ。偶然風と水の精霊球をダンジョン内で手に入れた冒険者が、2つの精霊球を使って雷の魔法を取得したのではないだろうかな……。
この辺りを説明してやってもいいのだが、まあ、まだ実践できていないし、憶測だけで吹聴するのもなんだから、とりあえず確認してからにしておこう。
かなり苦労したし、かなり危なかったと思う。回復水は俺の冒険者の袋の中に5本だけ残っているだけだ。一歩間違えば……と思うと空恐ろしいのだが、A級はもうこりごりではなく、危険を承知の上で今後も挑戦を続けるつもりだ。
なにせ俺たちは冒険者なのだ。冒険しないのは冒険者じゃない……とは言わないが、俺たちのチームであれば、どんな苦境に立たされても、何とか打開できるのではないかという自信もできてきた。
なにせ瞬く間にA級まで上り詰めたのだ。義賊クエストが運よく成功し、名誉A級なんて分不相応なクラスを頂いたが、今回こそ実力で勝ち取った真のA級だ。これで胸を張ってA級冒険者と名乗れる。
取得した肉類は、移動中の食事分を確保した他は、少しだけ冷凍庫で冷凍することとして残りは清算した。ある程度冒険者の袋に余裕を持たせておく必要があるからだ。今日もミニドラゴンにはホーン蝙蝠の死骸を与えた。何せ大量に始末したから、当然ながら冒険者の袋には入りきらず、油紙に包み全員のリュックに詰めて持ち帰ったほどだ。
当面のえさには困らないだろう。
続く
山奥のギルドへ戻って、クエスト攻略を再開したワタルたち。彼らの冒険の旅は、今後どのように展開されていくのでしょうか。期待の次章は、明日から連続掲載いたします。よろしくお願いいたします。
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