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雷のダンジョン

『ススッ』「ちいっ!脈動!」

『タッ』岩を手繰って少し登ると今度は足元の岩場を勢いよく膨張させ、その反動を使って高く飛びあがる。


『バッシューンッ……シュッパーァーンッ』一瞬で目の高さとなったフリーフォールカモシカの首を、剣を跳ね上げ斬り落とし、さらにそこから手首を回転させ刃の向きを変え、左手も添えて一気に剣先を押し付け、前足の根元からその隣の一頭の体を貫いた。


『ズザザザッ』そうして重力に任せるままに落下し、先ほどの足場に着地する。隆起で土くれを残せるようになったから便利だ。


「大丈夫ですか?ナーミさん……。」

 トオルが屈みこんで、下にいるナーミの様子を伺っているようだ。


「だっ……大丈夫よ……。でも一瞬目の前がぱっときらめいたかと思ったら、手の先がびりびりってしびれて……驚いて弓を落としてしまったわ……。」


「ナーミさんの指先が少し焦げて火傷をしているみたいですね。炎は見えませんでしたから、これが雷攻撃ではないでしょうかね。雷で狙い撃ちできるようですね。」

 確かにナーミの指先は、黒ずんでいるようにみえる。ついに雷攻撃か……厄介なダンジョンのようだ……。


「怪我はひどくないのか?」

「ええ……ちょっと指先がしびれただけ。」


「だったら、弓なら予備があるだろ?ダンジョンから出られれば後で回収できるのだから、回復水を飲んで先へ進もう。」

「わかったわ……みんなも十分に気を付けてね。」


 ナーミは冒険者の袋から上級者用の弓を取り出し、リュックから回復水も出して飲んだ。体ほどもある弓で盾の役割も果たせていたはずだが、失えてしまったのは残念だが仕方がない。直撃を食らわなかっただけラッキーだと思ったほうがいい。


「雑魚魔物が魔法を使うのは、今回が初めてではない。雷というのは驚いたが、気を付けていれば何とかなるはずだ。先制攻撃が有効と思うから、出現したらすぐに攻撃を仕掛けよう。」

 要は向こうが魔法を発する前に倒してしまえばいいのだ。



 その後は極力1列に固まりながら、俺を先頭に進んでいくことにした。ツッコンドルやフリーフォールカモシカのほかに、崖の途中の穴に巣くう毒蛇など厄介な魔物は尽きず、かなり消耗はしたが、何とか先制攻撃で倒し続けていった。


「今日はこの辺で野営とするか……ちょっと待ってくれよ……隆起!」


『ボッゴォーンッ』俺が唱えると岩壁が5m角位の大きさでせり出してきた。脈動の発展形だが、大きさを変えて足場を盛り上げてそのまま形成させておけるから便利だ。こしらえた足場に全員寄ってきて野営の準備だ。


 風のダンジョンで野営するときはどうするのかと、ギルドの受付役の冒険者青年に聞いてみたところ、通常はハーケンを数本岩の隙間に打ち付け、そこにザイルを通して寝袋を吊るし、その中で眠るのだそうだ。


 当然、襲われると危険なので、交代で寝袋で吊られたまま警護するらしいのだが、剣士などほぼ役に立たないらしい。それでも上からの攻撃のみなので、数回分の結界香を束にして焚いておけば上に煙が上がるので、野営時くらいはしのげるとも言っていた。風のダンジョンが人気のない理由の一つと言ってもいいだろうな。


「今夜は、フリーフォールカモシカ肉の焼肉ですよ……。」

 いつものようにテントを張りながらふと見ると、トオルの足元にはフリーフォールカモシカの死骸が……皮を剥いで内臓を抜きだそうとしているところだ。


「どうしたんだい?」

「最初にワタルが倒した獲物が、私にいた足場に落ちてきたので、落とさずにロープをつけてそのままにして吊っておきました。今ここに丈夫な足場ができたので、ロープを手繰って持ち上げたのです。」


 トオルが、長く伸ばしたロープを束ねて袋に納める。ううむ……さすがまめだな……。

 この日はフリーフォールカモシカのTボーンステーキだった。肉質の違う2種のステーキは十分食べ応えがあり、今日の疲れも吹き飛ぶほどだった。


「今までもずっと不思議だったんだけど、パパは13歳から22歳まで冒険者として過ごしたわけでしょ?たったの9年間でしょ?毎日クエストこなしたとしたって……1年は365日だから、えーとえーと……」


「3285件ですね。」

 計算の速いトオルがすぐざま答える。そうか……ここの1年は俺のいた世界と同じか……そういや月ごとの季節も日本と変わらない気がするな……。


「すっごく頑張ったとしてもそれだけよね……でも、ダンジョンの数はあたしが以前いたギルドだって4千位管理していたし、コージーギルドだって3千はあるって言っていたわよね。どうしてパパは、こんなに大量にあるダンジョンの構造図のほとんどを持っているわけ?


 そもそも、A級ダンジョンって40から50年に一度しか解放されないんでしょ?パパがこなせたA級ダンジョンはほんの一部のはずなのに、どうして構造図を持っているの?このダンジョンだって、パパが冒険者をやっていた時には解放されていなかったはずでしょ?」


 肉にぱくつきながら、ナーミが突然、思いついたことのように話し出す。確かに不思議な話ではあるのだが、その答えは知っている。


「なんだ、そんなことか……その訳はカルネに聞いて俺は知っている。いつも言っているように、ダンジョンの構造図は、すべてカルネが入って攻略したものではない。


 カルネが作った構造図と、別なダンジョンを攻略した冒険者と構造図を見せあって、お互いに写しあったものだ。金を出して買ったのもあると言っていたが、先輩からもらったA級ダンジョンの構造図とか、自分が冒険者をやっているときに攻略しそうもない年数のものは、さほど金がかからずに見せてくれたらしい。


 だがカルネだって相当数のダンジョンを踏破したと言っていた。C級ダンジョンはボスがいないので、比較的楽に通過できる。そのため1日に数件こなすこともあったようで、最高記録が10件。朝から夜中までぶっとおしで近場のダンジョンを踏破したらしい。魔物の相手もほとんどせずに、ほぼ駆け足だな。


 最初の1年間でカルネのチームは、千件のダンジョンを踏破したと言っていたから凄まじいハイペースだ。

 C+級に上がった後もC+級クエストの合間にC級クエストもこなし、挑戦したダンジョンの数を増やしていったらしい。A級になってもC級クエストは必ずやっていたといっていた。


 ようは、ボスを倒して精霊球を手に入れるというよりも、迷路のようなダンジョンを踏破するのが目的だったようだね……こういった冒険者は、20年程前まではたくさんいたらしいから、ほとんどのダンジョンの構造図が手に入ったというわけだ。


 A級ダンジョンと言えど、攻略されてから10年間はC級ダンジョンでいるわけだからね。C級ダンジョンが一番多いんだから、楽しまなくちゃいけないっていつも言っていた。だがまあ、今は難しいのだろうね……冒険者たちのクエスト回数が減っているから、攻略済みのダンジョンがなかなか増えていかないからね。


 カルネは引退までの9年間で、未管理のダンジョン含めて8千はこなしたと言っていたけど、神がかっているとしか思えないよね……なにせ、俺たちはカルネの構造図を見ながらでようやく道に迷わずに最短で、このダンジョンだって明日にはボスのところに行きつけるだろうが、構造図なしじゃあ何日かかるかわからない。


 神経を研ぎ澄ますと、正しい道の時は臭いが違うとか言っていたけど、そんな境地になってみたいものだ。」

 カルネから聞いたことを、整理して説明してやる。


「ふうん……やっぱりすごい冒険者だったのよね……。」

 ナーミが感心するように頷く。


 改めてカルネのすごさを再認識する。俺は冒険者になってまだ1ヶ月ちょっとだが、攻略したダンジョンはまだ十数件だ。しかもカルネの構造図をなぞっただけという……。さすがS級、さすがカルネ……。


 疲れはあるが日々の訓練は休まずこなし、交代で見張り番について就寝した。結界香も多めに焚いておいた。夜襲を受けないほうがいいわけだからな。



「じゃあ、出発しよう。岩にしがみついてくれよ……沈下!」

 昨日出した足場を戻して、今日もロッククライミングだ。


『バサバサバサッ』「隆起!隆起!隆起!隆起!」羽音がした瞬間に、みんなの足元に足場を出現させる。


「火弾!火弾!火弾!」

『ボワボワッボワボワッボワボワッ』ショウの発した炎の玉が目標に命中し、背後の空間を落下していく。


「ホーン蝙蝠のようですね……洞窟だけでなく、このダンジョンにも存在するようですね。」

 トオルがその落ちていく影を見ながらつぶやく。そうだな、蝙蝠なんだから洞窟のイメージがあるが……。


『バサバサバサバサバサバサバサッ』すると続けざまに、上空が真っ黒になるくらいの影が舞い降りてきた。


「火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!」「水弾!水弾!水弾!水弾!水弾!」


『ボワボワッボワボワッボワボワッボワボワッボワボワッボワボワッ』『シュシュシュシュシュシュシュシュシュッ』『ピュッピュッピュッピュッピュッ』すぐに、ショウの火弾とナーミの矢に加え、トオルの水弾まで発せられたが……『バリバリバリッ』閃光が走り、体に強いショックを感じた。


「きゃあっ……!」「いやっ!」「うわっ!」


 ナーミたちも同様なようだ。さほど強烈ではないが、電気ショックのような衝撃を受けた。ホーン蝙蝠も雷攻撃を発するようだ。こんな攻撃、岩にしがみついているときなら、ショックで手を放して落ちかねないぞ。


『ボワボワッボワボワッボワボワッボワボワッボワボワッボワボワッ』『シュシュシュシュシュシュシュシュシュッ』『ピュッピュッピュッピュッピュッ』何とか呼吸を整え、魔法攻撃とナーミの矢攻撃が再開された。

『シュパッシュパンッズバッズバンッ』俺も剣を振って、近くに飛んでくるホーン蝙蝠を斬り捨てていく。


「はあはあはあ……何とか倒せたな……。」


 辺り一面真っ暗になるくらいの蝙蝠の群れは、何とか倒すことができた。数が多いので、弱いとはいえ雷攻撃を持っているのは厄介だ。こんなことなら褒美で頂いた、魔法耐性効果が強いほうの鎧で来るのだったと後悔している。リュックから回復水をだして飲み、呼吸を整える。


 その後も雷蝙蝠の群れの来襲は続き、消耗しながら何とか先へと進んでいった。



「ようし……ちょっと待ってくれ……隆起!……それじゃあ集合してくれ。」

『ボッゴォーンッ』大きめの足場を作って、全員を集合させる。


「ここからすぐ上が、ボスステージだ。ちょうど今、ステージ入り口に入ったくらいの位置にいる。ボスはまだ顔を見せていないが、このダンジョンの特質から見て、恐らく雷系の魔法を使うだろう。しかもその威力は雑魚魔物よりも強いはずだ。


 そこで綬官の儀で頂いた装備に着替えようと思う。こっちのほうの魔法耐性が、今の装備よりかなり強いからね。国宝級って聞いて、普段はもったいなくて使えないが、こんな時こそ活用しよう。」

 そういいながら装備を外して、いただいた国宝級の鎧兜に着替える。


「えっ?でも……魔法耐性って言ったって、土、火、水、風の4魔法だけなんじゃない?各精霊球を貼り付けているだけなんだから。雷の魔法は防げないでしょ?」

 耐魔法性能に雷は入っていないと、ナーミが突っ込む。


「いや……前にも言っただろ?雷とは水と風が合わさってできるって。だから、十分耐性があるはずさ。」

 あくまでも俺の持論で、証明はできていないが多分あっていると思っている。


「ふうん……そう……じゃあ、着替えるわ……。」

 そういってナーミは、すぐに装備を脱ぎ始める。


「わわわっ……少しは恥じらいというものを持て……テントを張っている暇はないから仕方がないが、トオルも背を向けるように……。ショウも一緒に着替えてくれ。」


「はいっ……。」

 トオルと俺がナーミに背を向けて、周囲を警戒している中で、ナーミとショウが着替えた。


「では、私も……。」

 続いてトオルもいただいた忍者装束に着替えた。


「ようし……俺たちが登っていけば、ボスは顔を出すはずだから、ナーミとショウはこの場から援護射撃をしてくれ。それと……念のために避雷針も設置することにする。」


『ズゴッ』そういいながら戦争時に使った剣代わりの鉄パイプを冒険者の袋から出して、足場の端の方の土に突き刺す。


「こうしておけば電気は流れやすい方へ流れるから、いくら狙っていても強い耐性を持った装備より、こっちへ行くはずだ。」

 更に避雷針を設置することにする。何でも持っていると、使えるものだな……。


「じゃあ、私も刃をつぶした長刀がありますから、柄を外してこっち側に立てておきましょう。」

『シュッ……トントントン……ズズッ』トオルも長刀の刃だけを反対側の土に差し込んだ。


「ふうん……金属製品がいいのね?じゃあ、あたしも金属の矢を持っているから、崖の上の方に突き刺してあげるわ。出る時に忘れずに回収してね。」


『シュ……ズガッ、シュ……ズゴッ、シュ……ボゴッ』ナーミが矢を放ち、上方の崖に突き刺さった。岩だけのごつごつしている崖で、岩と岩のほんのわずかな隙間を狙い打てるのはさすがだ。


「まあ、出来ることはすべてやった。じゃあ行くぞ……。」

 そういいながらトオルと2人で切り立った崖を、突き出た岩を頼りに登り始める。


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