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再び冒険の旅へ

「おはよう……。」

「パパ、おはよう……。」

「おはようございます。」


「呑兵衛さんがようやく起きてきたわね……本当に……どうしちゃったのよ……気持ちが悪くなるまで飲まないでよね……ちょっとは心配しちゃったじゃないの……。」


 ナーミが心配そうに俺の顔をしげしげと眺める。今日はドレス姿ではなくいつもの私服だ。なんだかちょっと印象が異なるのは……そうか今朝はお化粧をしているのだ。と言っても昨晩のドレスアップ時のような濃いめの化粧ではなく、本当に薄化粧といえる程度のようだが、いつものかわいいというよりきれいといった感じだ。


 昨日の宴会用の広間ではなく食堂に朝食が準備されていて、食べているのは俺達だけだが、ちょっとだけよそ行きの気分だ。


「ああ……悪かったね……もう大丈夫だ。それで……綬官の儀も終わったし、いつまでもこの城にいるわけにもいかない。何せ俺たちは冒険者だからね。朝食後にはここを出るつもりだが、何かやり残したこととか、もう少し滞在しないといけないとか、そんな用事があるかい?


 あるいは折角手に入れた城なんだから、もう少しここで過ごしたい……とか言った気持でもいいけど。」

 がつがつとクエストをこなす必要性もないのではあるが、それでも山奥のギルドへ戻ったほうが、いいように感じている。この城は居心地はいいのだが、何もすることがないのだ。


「私はワタルと一心同体ですから、ワタルが行くところへ一緒に行くだけです。この地にやらなければいけない用事もありません。」


「僕も……パパと一緒にいられればいいから、一緒に行く。」


「あたしもいいわよ……昨日はせっかく頂いたから、張り切ってドレスを着てみたけど、肩がこっちゃったから、もう当分はいい。ダンジョンに潜っていたほうが、性にあっているわね。」

 全員ここを旅立つことに不満はなさそうだ。


「じゃあ、トオル……ちょっと相談に乗ってくれないか?」

「はい、どういったことでしょう。」


「エーミのことなんだが、この城ではエーミで過ごさせてやりたい。もともとエーミが育った実家のようなものだしね。エーミは人買い組織の問題があるから、人前ではショウでいる必要性があるが、この城の使用人たちは全員信用できるから、エーミの事情を打ち明けて、他言しないようにお願いすれば、何とかならないか?


 今日はこれからすぐに出発してしまうからいいのだが、次回来た時からでもエーミの格好で過ごせるよう、根回しができないだろうか。」


 エーミの件をトオルにお願いしてみる。なにせトオルの父親が、この城の警備主任なのだ。彼を通じてエーミの情報を流せば、うまくいくのではないかと考えている。


「そうですね……この城に勤めている者は、全員代々アックランス家にお仕えしていた信用できる身内ともいえる方たちばかりです。ですから事情をお話すれば、情報が漏れることはないと考えます。


 エーミちゃんも不自由でしょうから、この城にいる時ぐらいはといった気持ちはわかります。父に話してみましょう。」

 そういってトオルは朝食を早々に切り上げ、席を立って食堂を出ていった。


 今日はトオルの顔もまともに見られる……というか、昨晩夢の中の美女が出てきてくれて、ある意味有難かったのだ。


 あのまま行くとエーミで……と思っていたところだったので、トオルの姉とはいえ関係性の薄い、しかも身内以外の美女であるため、罪悪感は小さいと気づいたのだ。これがエーミやナーミの場合だと、一緒のチームにいて毎日顔を合わすことが辛くなってしまう。


 それよりもトオルの姉たちの……しかも直接長女とか次女とか個人ではなく、姉たち全体のイメージと感じられるため、このほうがはるかにましだと自分で自分を納得させたのだ。


 もし俺が本当にトオルの姉たちの誰かが好きなのであれば、それは俺が冒険者を引退したあとで、その気持ちを確かめればいいわけだし、その時点で彼女が人妻であれば潔くあきらめればいい。

 そう考えることにした。


「父に話してきました。父は、ショウ君が擬態石を使ったエーミちゃんであることには、気づいていた模様です。ただし、この城に仕えている者たちは、エーミちゃんの顔をよく知っているためであって、ショウ君の擬態が不完全といったわけではないとも言っておりました。


 逆に隠し通そうとすると、かえって城外で噂したりする可能性もあるため、打ち明けたほうがいいとも言っておりました。本日から、さりげなく皆に知らせて徹底させていくということでしたから、次回戻ってくるときには、この城内での情報管理は徹底されているはずです。」


 トオルが戻ってきて、エーミの件について説明してくれる。そうか……否定するとかえって怪しいんじゃないかといったうわさを、城外でしてしまう恐れがあるということね。まあ、次回までに徹底されるのであれば、有難い。


「じゃあ、出発するか……荷物をまとめて、中庭に集合してくれ。ナーミもエーミも今後も今回割り当てた部屋を使えるはずだから、ドレスなど、もっていかなくてもいい荷物はそのまま置いておけばいいぞ。」


 トオルの場合はすぐ隣に広い実家ができたのだから部屋の割り当てがなくてもいいはずだが、それでもほしいというので俺の隣の部屋を割り当てている。だがまあ、今のところ置いておく荷物などないはずだ。



「あれ?なんかきれいになっているわね・・・。」


「ああ・・・銃撃などでかなり痛んでいたからな、外の鉄板を張り替えておくよう頼んでおいたら、ペンキまで塗ってくれたようだ。」

 昨日爺やについでに装甲車の手当てを頼んでおいたのだが、真っ白いペンキで塗られ、まさに新品状態だ。


「よしっ、出発だ。」

 ミニドラゴンの背に乗り出発する。すっかりきれいになった装甲車の荷台は、ミニドラゴンが足でつまんで運んでもらう。


『バサッ……バサッ……』眼下の建物が、みるみる遠くに小さくなっていく。ほんの2ヶ月ほど前とは、移動方法も違うし、同行するメンバーも異なる。なんだかこれまでのことが、本当に短期間で起きたということが今でも信じられない。


 これからも含めた半年や1年間で、恐らく俺はこれまでの人生分よりも濃い経験をするのではないかと思えてきた。



「じゃあ、今日はここで野宿だ。今回は俺は予定はないからここで番をしている。せっかく町に近いのだから、何か買いたいものがあれば、買い物をしてきてもいいぞ。ヌールーでは自由な時間も、ほとんどなかったからな。ナーミとショウとトオル3人で、町まで行ってくるといい。」


 今回もグイノーミ郊外の草原で野宿とした。飛竜は町中へ入ることはできないからだ。明日には山奥のギルドへ行くので、買い物をするならば今しかない。何せ山奥にはギルド以外の施設はないのだ。


 俺は別に買いたいものもないので、ミニドラゴンと一緒に留守番だ。冒険者の袋にため込んだ食材も、全て昨日の宴会に拠出したため、ミニドラゴン用のモモ肉しか残ってなく、ミニドラゴンはうまそうにゆっくりと食べているところだ。


 俺たちはギルドの道具屋で購入しておいた、弁当で晩飯を済ませた。まあ、ギルドへ戻ってクエストすれば、嫌でも魔物に遭遇できるので、食材調達は可能だ。なんだかダンジョンへ潜るのが、待ち遠しくなってきた。


「うーん、まあこれといって買いたいものは何もないけど、山奥へ行って後悔したくはないから、ちょっと町まで行ってこようかしら。注文すれば取り寄せるって言っていたけど、1週間以上かかるんだものね、あそこだと……行きましょ。」


 ナーミたちが、徒歩で町まで向かった。トオルは残ると主張したが、ナーミたちのボディガードを兼ねてついていってもらうようお願いした。ナーミは十分強いが、ナーミもショウも女の子なのだ。


『ブンッ……ブンッ』ただ待っていても暇なので、木刀をもって素振りする。店が閉まる前に買い物に行く必要性があったため、皆が戻ってきてから日課の訓練を行うつもりなのだが、その前にもやっておく。



「ただいま戻りました。」

 型錬を続けていると、後方から声が……


「もう戻ってきたのか?」

「とりわけほしいものもないから、お菓子類と雑誌だけ買って来たわ。」


 ナーミたちが買い物袋を見せる。今回は町まで徒歩15分くらいの場所に野営しているのだが、1時間も経過していない。行ってすぐ帰ってきたようなものだ。買い食いとかもして来ればよかっただろうに……。

 皆で日課の訓練をして、やはり交代で見張り番をして就寝。



「じゃあ、今日からまたクエストをこなす日々だ。どうだろうか……A級のダンジョンに挑戦してみないか?

 B+級も何とか攻略できたし、恐らく大丈夫じゃないかと思っている。」


 グイノーミ経由で山奥のギルドタールーへ昨晩戻ってきて、久しぶりのクエスト申請となった。もう少し経験を積んでもいいのかもしれないが、みんなの目覚ましい成長ぶりを見ると、A級ダンジョンですら行けそうな気がしてきた。


「いいわね……せっかく名誉A級なのにB+級クエストを続ける必要はないものね。ショウだってずいぶんと魔法に慣れてきているみたいだし、行ってみる?」

 ナーミは速攻で賛成した。上位クエストに興味津々といったところだ。


「私はどちらでもいいですよ……確かにA級クエスト申請可能なのですから、しないのもなんだと思いますしね。」


「僕もいいよ……強い魔物がたくさん出てきても、十分戦える!」

 トオルもショウも賛成してくれた。


「ようし……じゃあ……。」

 ギルドのホールの壁からクエスト票を確認して、なるべく近場のA級クエストを選択する。風系のクエストで、徒歩で半日くらいの近場のダンジョンのようだ。


 なぜ風系かというと、このギルドの周りには風系ダンジョンが豊富なことと、脈動の発展形の隆起で足場を作れば意外と簡単に攻略できるのではないかといった、半ばインチキ的な目論見があるからだ。


「このクエストを申請したい。」

 すぐに受付役の青年のところにもっていく。


「おやおや……Aクエストをこなしていただけるとは有り難いね。僕たちはまだこの地に来たばかりで、B+級だからね。半年かけてクエストをこなしてA級に昇進する予定だけど、その前にある程度攻略していてくれるとありがたい。


 何せ放っておくとエクストラクエストになってしまうが、こんな山奥までエクストラをこなしにやってくるようなもの好きな冒険者は、まずいないからね。複数の冒険者チームがパーティを組むことなんて、お祭りがらみの百年ダンジョンの催しものくらいさ。


 だが、君たちのチームには回復系の僧侶がいないだろ?どうするんだい?A級クエストになると魔物が多くてボスも手ごわいのは当然だが、中で泊りになるよ。宿泊道具は冒険者の袋に入れられるし弁当も足りるだろうけど、回復水や解毒薬などの消耗品は変わらずに10本ずつしか冒険者の袋には入れられないからね。


 別途一人当たり10本ずつくらいは、持って行った方がいいかもしれないね。」

 受付役の青年がアドバイスをくれる。そうか……A級になると中で泊りか……戦いが長時間に及ぶとなると、回復系が必要になるということだ。傷ついたままでは戦えないからな。


「わかった……教えてもらった通り、道中が長い複数ダンジョン攻略時には、回復水をクーラーボックスに入れて持ち運んでいたから、今回からはダンジョンにも持ち込むよ。ありがとう。」


 言ってもらってよかった……ダンジョン内で回復水が尽きるということは、全体の安全に直結するからな。

 すぐに道具屋で回復水を買い足し、ついでにリュックも購入して各自背負う事にした。


 カルネから写させてもらった構造図で確認すると、途中で一泊するための野営地が記入されているだけだから、回復水は2日分を考慮して予備は10本づつあれば十分だろう。



「じゃあ出発だ。」


 ギルドから半日ほど山道を進むと切り立った断崖絶壁が見えてきて、その崖の中腹辺りに鉄格子でできた柵があり、そこまで鉄製の梯子がかかっているのが見える。あれがダンジョンの入り口だ。


 梯子を上って南京錠を開けて柵の中へと入る。最後にトオルが柵の入り口を閉じてロックしたら、岩壁を突き出た岩を頼りに上に向かって登り始めると、すぐに周囲に見えていた木立や、はるか後方にあったはずの山並みなどが見えなくなる。ダンジョンに入ったのだ。


『カッカッカッ』すぐにフリーフォールカモシカがやってきたようだ。


「隆起!隆起!隆起!隆起!」

『ボコボコボコボコッ』すぐさま隆起を使って、皆の足元に1m程度の土の盛り上がりを作る。足場があれば、さほど恐れるに足らないダンジョンだ。『シャキィーンッ』腰に下げた剣を抜いて身構え見上げる。


「めぇー!」

『バリバリバリバリッ……ドンッ』次の瞬間、閃光が頭後ろ側できらめいたような気がした。

「きゃっ!」

『ガランゴロンッ……』下の方でナーミが悲鳴を上げた。


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