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夢の中の美女の正体?

「トーマ様、お久しぶりでございます。うちの子がどうしてもトーマ様と一緒に旅に出ると言って聞かず、トーマ様のお手を煩わすことばかりしているのだろうと心配しておりましたが、なんとこの度、活躍が認められて貴族の称号を受けたとか。


 王様から直々のお達しがございまして、家族でこちらに住めと広いお屋敷を与えられ、初めて知った次第でございます。それもこれもトーマ様とご一緒させていただき、トーマ様から直々にご指導いただけたゆえの功績と伺っております。本当にありがとうございます。一家総出でご挨拶に参りました。


 あの子が今日あるのも、全てトーマ様のお力添えあってのことと理解しております。本当になんとお礼を申し上げればよろしいのか……。」


 広間で使用人たちともども宴会を催していたら、大勢の美女を引き連れた親父がやってきた。どこかで見た顔だなーとほろ酔い気分で眺めていたら……


「ああ……と……じゃなかったダーシュの……シュプレンサーさん……。」


 なんとトオルじゃなくてダーシュの家族だ……美女は全てダーシュのお姉さんたちだ……本当にため息が出るくらい美しい……ナーミはどちらかといえば、アニメ系のかわいいタイプの美女だが、こちらは正真正銘の美しいタイプの美女たちだ。


「さん付けなんておかしいですよ……使用人なのですからシュプレンサーで結構ですよ。

 トーマ様が子供の時分には、おじさんおじさんと呼ばれておりましたが、今ではトーマ様は公爵様ですからね、シュプレンサーでお願いいたします。」


 そういってダーシュの父親は笑みを浮かべながら頭を下げる。ダーシュの父親はトーマの母方の遠い親戚だ。代々アックランス家に仕えて警備主任をやっていたダーシュの父のところに遊びに来ていた女の子を、トーマの父親が見初めて結婚してトーマが生まれた。つまり遠い親戚で、小さい頃はおじさんと呼んでいた。


「ワタルに何か御用ですか?」

 各テーブルの鍋の調整をしていたトオルが、ようやく席に戻ってきたようだ。


「この馬鹿者!なんという口の利き方だ。ワタル様とお呼びしなさいワタル様と……トーマ様の冒険者名なのだろ?お前の手紙で知っているが、いくら冒険者同士でも主従の関係を見失ってはいかん、ワタル様とお呼びしなさい、いいな!」

 席に着こうとしたトオルに対して雷が落ちる。


「ワタルはワタルとお呼びするしかないのです……そうしなければ逆にお怒りになられるので……。」

 トオルが申し訳なさそうに肩をすくめる。


「トオルには本当に何度も危ないところを助けられ、大事な仲間と思っています。だから主従関係なんてなしに呼び捨てにしてくれと、俺の方からお願いしているのです。決してトオル……じゃなくてダーシュが……ごめんなさい……自分から言っているわけではないわけです……許してやってください。」

 トオルの代わりに弁解しておく。


「そんな、もったいない……そうしてトオルで結構でございますよ……ワタル様に名付けていただいたと手紙に書いてきて、本当に喜んでおりましたので、うちでもトオルと呼ぼうかと考えている次第でして……。


 そうでございましたか……本当にお優しいいいご主人様にお仕えできたのだな……そのやさしさに甘えることなく、今後もしっかりとお仕えするのだぞ。ご主人様の危機の時には、身を挺してお守りするのだ。

 決して忘れるでないぞ……。」


「わかっております。ワタルは私の命よりも大切なお方です。どんなことがあっても、必ずお守りいたします。」

 トオルが真剣なまなざしで答える。


「いやいやいや……そこまでしていただくことはないよ。仲間同士助け合うのはもちろん大事だが、トオルは自分の身をまずは第一に考えて行動してくれ、いいね!」


 最後強く言っておいたのだが、トオルは頑として首を横に振る。ううむ……きりりとした表情は何とも美しく……やはり姉たちに似ているな……サートラも美しいとこの界隈では評されていたが、俺はトオルの姉たちの方が美しいと思っている。


 それは決して年のせいではなく、サートラの場合、顔立ちはきれいはきれいだがどことなく冷たい感じがするのだ。それは形式結婚して、約束を反故にして一切金を出さなかったからというわけではなく、トーマは以前からサートラに心の冷たさを感じていたようだ。


 だが尊敬する師匠の元妻ということと、城の経済状況から泣く泣く結婚を了承しただけで、トーマもサートラのことは、あまり好きではなかったと感じている。勿論娘のエーミは、すごくなついてくれたこともあり、大好きだったし今もそうであることは間違いがない。


 トオルの姉たちを見ていると本当にきれいでため息が出てくる……その切れ長で涼し気な……


「ああっ……」

 思わず口をついて、叫び声が漏れ出る……


「どうかなさいましたか?」

「いっいや……何でもない……。」


 冷や汗が、背中を伝って流れていくのが分かる。それまで気持ちよく飲んでいた、ほろ酔い気分が一気に冷めた。なんと、俺の夢の中に出てくる絶世の美女は、どうやらダーシュの姉……と言っても、長女から順に顔を見回していっても、もろに合致する顔はいないから、長女とか次女とかいう個人ではない。


 つまり俺は無意識のうちにトーマの記憶の中から、好みの美女であるダーシュの姉たちの顔を思い出して、それらを合成して夢の中に登場する美女として作り上げたのだろう。なんということだ……一番の相棒であるトオルの姉たちをおかずに……。


「大丈夫ですか?気分が悪いのですか?」

「いや……そんなことはないのだが……。」

 心配して覗き込んでくる、トオルの顔をまともに見ることができない……まいった……。


「パパ、大丈夫?」

 ショウも心配顔で、うつむく俺の顔を身をかがめて下から覗き込んでくる。


「あっああ……ちょっと疲れたみたいだな……。」

 いまだに心臓がバクバクと言っている。この場からすぐにでも逃げ出したい……。


「お酒の飲み過ぎよ……注がれたらどんだけでも飲むんだから……大人としての自覚がないのよ。」

 俺の様子を見て、ナーミが嫌味を言う。ドレス姿で絶世の美女なのだが、コメントは相変わらず辛口だ。


「じゃあ、もうお部屋へ戻ろう……でもその前にちょっとだけ、僕の部屋へ寄り道してもいいでしょ?」


「ああ……そうだね……何か用事があったんだったね……悪いがちょっと失礼する。」

 トオルの顔もシュプレンサーさんの顔も、もちろん姉たちの顔もまともに見れずに目をそらしたまま一言告げて、ショウに手を引かれて席を立った。


『カチャッ……バタン』大広間から階段を上がって2階へ行き、ショウが泊まっている客間へ入る。


「じゃあ、ちょっとここで待っていてね。」


『バタンッ』2間続きのスイート形式の客間の応接用のソファーに座らされ、ショウだけが一人シャワールームへ入っていく。部屋の隅にはだくさんの箱が積み上げられていて、こんなにたくさんの荷物を持ってきていたのかな?と、ちょっと疑問に感じる。


 王宮から直接ミニドラゴンで飛んできたから、途中で買い物などする暇はなかったはずなのだが、城のものにでも頼んで、ぬいぐるみとか買ってきてもらったのかもしれないな。すぐに住むことはないにしても、これからはここがショウというかエーミの家になるわけだからな。


『カチャッ』30分くらいぼーっとソファーに座っていたら、ようやくシャワー室のドアが開いた。ゆっくり風呂にでも浸かっていたのかと思ったら、出てきたのはものすごい美女だった……。


「ええっ……エーミ……か……?」


 レース地の純白のロングドレスに身を包んだ素晴らしいプロポーションの美女は、どことなく幼さを残していて、はにかみながら笑顔を見せる。

 だれに習ったのか知らないが、化粧もしている様子だ。


「はあー……きれいだよ……。」

 本当にため息が出るくらい美しい。可愛い娘としか思っていなかったエーミだが、いつの間にかこんな美しい女性になっていたのだ……。


「本当?パパのお嫁さんになれる?」


「ああ、そりゃもちろん……パパなんかより、もっとずっとカッコよくて素晴らしい男性と結婚できるさ。

 パパは、こんな美しい娘をもっているって、世界中に自慢して回りたい気分だ。本当にきれいだよ……。」


 思わず見とれるというのはこのことだと思う……ただただずっと、この美しい対象をこのまま目の前に置いておきたいと思う。


「えへへへへ……エーミはずっと前からパパが一番好きだよ……それに、命の恩人だもの……。」


 エーミはいたずらっぽく笑うと、ゆっくりとターンして見せてくれる。本当に、お人形さんというか、アニメの世界からそのまま飛び出してきたような、この世界に存在する同じ人間ということが、信じられなくなる。


 そうして、本当になついてくれていることに対して胸が苦しくなってくる。何せ中身はエーミが思っている、トーマではないのだからな。


「でも……このドレスはどうしたんだ?ナーミに借りたのか?」

 確かにエーミとナーミは体形がすごく似ている。エーミのほうがほんの少し背が低いように見えるが、同じドレスを着られないことはなさそうだ……。


「ううん……エーミも王様にお願いしたの、ドレスをくださいって。


 エーミは悪い人たちから隠れるために擬態石を使って男の子の格好をしているけど、本当は女の子なんですって言ったら、ほお……そうかって言って、じゃあサイズはどうするかって聞かれたので、ナーミお姉さんと同じですって答えたら、じゃあ、ナーミお姉さんと同じく毎年ドレスとお化粧道具をくれる言ってくれたの。


 このお城にいる時だけでも、エーミはエーミでいいでしょ?」


 エーミはそう言って抱き着いてきた。そうだな……ナーミはオーチョコ城での晩餐会からずっとドレスを着てお化粧もして、立派なレディとして参加している。しかし、エーミの場合は素性を明かすことはできないから、ずっとショウのままで男性の格好を続けなければならなかった。


 今日だってそうだ……ナーミは王様から贈られたドレスで着飾っていたが、ショウとして男の格好で過ごさなければならなかった。うらやましかったのだろうな……そうしなければならないことが、頭でわかってはいても、我慢できなくなってきたのだろう。女の子だからな……。


「わかった……ちょっと相談してからになるが、この城の使用人たちは全員気心の知れた、信頼できる仲間たちといえる。エーミの事情を話して、他言無用を約束してもらえれば、この城内ではエーミはエーミとして過ごせるだろう。明日まで待ってくれるかい?」


「やったあ……パパ大好き!」


 エーミは抱き着いているその腕の力を、さらに強くしてくる。こちらからもぎゅっと抱きしめてやると、暖かな気持ちと同時に、ちょっとまずい感情が出てきてしまう。15歳とは言え、出る所はきちんと出ているため、その……胸のふくらみとかが当たってくるし、いい匂いがして、欲情を感じてきてしまうのだ。


 なにせ、本当に俺好みのかわいらしいアニメ系美少女なのだ。そんな子が俺に抱き着いてきて、なおもその体を強く押し付けてきているのだ。しかも、今日は化粧をしていて大人びて見える。いくら娘なんだと心に言い聞かせても、本当に血がつながっているわけではないのだし、興奮しても仕方がない……とはいえ、これはまずい……。


「じゃ……じゃあ……パパはちょっと疲れちゃったから、ごめんな……部屋に戻って休むよ。


 明日はとりあえずショウの格好で起きてきてくれ……トオルとも相談して、どうやってみんなに打ち明けるか決めるからね。だがまあ、明日にはここを旅立つつもりだから、次回この城へ戻ってからということになるけど、それまでは我慢できるかい?」

 前かがみになってしまう前に、早々に退散することにする。


「うん……もちろんだよ……冒険者でいるうちは、ショウのままで平気。だって冒険者名もショウになっているし、装備もショウのサイズだからね。」

 エーミは明るく笑顔で返事する。


「じゃあ、お休み……エーミ、本当にきれいだよ……。」

「うん、じゃあ、お休み……パパ……大好きだよ……。」


 エーミが俺のほほにキスしてくれる。いつもは背伸びするのだが、今日はヒールの高い靴を履いているので、ちょっと身をかがめるだけで十分だった。


 うーん……このまま部屋に帰って、布団をかぶって寝るのもまずいな……今度はエーミをおかずに……なんてことになったら、俺は自分で自分を許せなくなってしまいそうだ。


 俺の部屋には、以前買っておいた酒も運んであるはずだから、意識がなくなるくらいまで飲んで、そのまま寝入ってしまうとするか……部屋で飲み直しだな。


『ガチャッ』部屋に入って明かりをつけようとしたら、真っ白な手が出てきて止められた。あれ?と思ったら、薄暗がりの中にショートカットで切れ長の涼し気な瞳の美女が、いつものようにバスローブ姿で俺の横にいた。


 うーん……トオルのお姉さんたちに申し訳ない……と思ったのだが、絶世の美女は両手を俺のほほに包み込むようにあてて、心配そうに俺の顔を覗き込んだ。そういや俺は、体調を崩して早めに引っ込んだという設定だったな……だが実際は具合が悪いどころか元気バリバリで、さらに興奮もしている。


 欲情を我慢することなどできるはずもなく、そのまま彼女を抱きかかえ駆け出すと、押し倒すようにしてベッドインした。



「ふあーあ……。」

 翌朝目覚めると、いつものように美女がいた痕跡などどこにも感じられず、部屋の中には俺の荷物が置いてあるだけだ。だが一つだけ違うのは、この部屋はトーマがずっと住んでいた居城の部屋だ。今でも信じられないのだが、一度は手放した城に戻ってきたのだ……。


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