帰還
精霊球は使い慣れていないと魔力が枯渇して、途中から魔法効果が発揮できなくなる。しかし使いこなしていくに従い、魔力が上がり魔法効果が向上するとともに、発揮できる回数も増える。
使い過ぎて魔力がなくなって効果が発揮されなくなっても、8時間以上そのままにしておけば魔力は回復するから、永久に使えそうな気はしていたのだが、確かタールーギルドでは精霊球はダンジョンから取り出してから50年間で使えなくなるといっていたはずだから、更新は必要なわけだな・・・。
「その……精霊球は、使い続けた魔法使いが退役した後は、他の魔法使いへ引き継ぎことができないのです。
使用者が退役すると同時に輝きを失ってしまうため、一部はそれを利用して上級将校用の防具制作に当てておりますが、大半は廃棄しております。
そのため毎年新規で購入して、新人兵士に割り当てている次第でして……。」
魔法軍のえらいさんが、汗をふきふき言い訳をする……あれ?
「おかしいですね……我々の所有していた風の精霊球ですが、中古で高く売れましたよ。ある程度使っていたほうが魔力が上がっているし、呪文も人語になれているからすぐに使えるようになるからって、人気がないといわれている風の精霊球であるにも関わらず、高値で購入してくれました。
輝きが違うから、人が使っていた精霊球かどうかは一目で分るとも言っていましたね。確かにダンジョンから取り出した精霊球は、50年でその効力を失うとはギルドの担当者に聞きましたが、まさか50年間も一人の魔法兵士が務めているということですか?何かの間違いではないでしょうか?」
取り敢えず、この間ギルドで高値で中古の精霊球を購入してもらった経緯を説明しておく。
「そ……そんなことは……あれ?えっ……おかしいな……。魔法軍は兵士としての役目を終える25年間で、精霊球は使用不可になると……???」
魔法使いの軍のえらいさんは、とめどなく吹き出てくる汗を必死で吹きながら、首をかしげる。おかしいのはそっちの態度だろ?
カンヌールは弱小国だから、恐らく購入する精霊球は数も少ないだろうし、初級の物ばかりだろう。魔法部隊の訓練が単純作業の繰り返しで、魔法効果発揮までに苦労するといっていた意味が分かる。しかし、何年も使い続けてようやく中級相当にまで成長した精霊球を廃棄しているとは……一体どういうことなのだ?
「中将……この件に関しては十分な調査をお願いする。」
「はっ……承知いたしました。」
王様は少し不機嫌になり、陸軍中将に調査を命じた。
「それはそうと……トーマ先生、昨日お約束頂いた、大きな火球に関してはどうなりましたか?別宅では狭すぎて、発することができないと中止されましたが、ここならどうでしょうか?」
するとここで王子が口をはさんできた。まあ、この場で魔法部隊のえらいさんを攻め続けたところで、何が分かるわけでもないだろう。俺が知っている程度のことは、魔法軍関係者であれば知っているだろうし、何だったらギルドに問い合わせればいいわけだ。そのうえで、現状が適当であるかどうか判断すればいい。
昨晩中級魔法を披露しようとしたが、大炎玉やつむじ風など効果範囲が大きすぎて、トークリの別宅は中庭の長さはあったが幅が狭く、お見せできなかったので、この場で催促してきたようだ。
ここなら中庭の幅は200mはあるし長さも300m近いから十分な広さはあると言える。
「ああ……そうでしたね……ショウ……行けるかい?」
「はい、わかりました。目標はどうしますか?」
「この先にある、立ち木にしてください。」
王子は300m先の王宮の外壁手前に並ぶ、銀杏の植木を的にするよう指定した。
「じゃあ、銀杏の葉を落とすくらいにしておくように。木まで燃やしてしまってはかわいそうだ。」
「はい、わかりました。まずは、つむじ風!」
『ブゴワーッ』ショウが唱えると、はるか向こうの銀杏の木の葉が一瞬で渦巻き状に巻きあがり、その後ゆっくりと上空から舞い降りてきた。
「大炎玉!」
『ボワッボゴワッ』直径5mほどの巨大な火炎が2つ、一直線にはるか向こうの銀杏の木上部に衝突し、その葉を瞬く間に燃え上がらせた。
「おお……やはり2つの精霊球を持っていらっしゃるから、大火球も2つ同時に……素晴らしいですな。
どうですか?2つの的を同時に狙えるようですが、2つの玉を合わせてより大きな玉にできますかな?」
突然王様が、とんでもないことを要求してきた。確かに魅力的だが、試したことはない。
「はい、可能ですよ。2つの玉を合わせると、より大きな炎の玉を作る事ができます。大炎玉合体!」
『ボワワァッ』ショウが唱えると、なんと直径十mはありそうな巨大な炎の玉が発生し、はるか先の銀杏並木の銀杏の葉3本分を一気に燃やし尽くした。ショウの奴、いつの間にこのような効果を試していたのだ?
しかしこれはおかしい……5mの玉と5mの玉が合わさったとしても十mの玉にはならない。なぜなら球の容積は半径の3乗に比例するからだ。
5mの玉の半径だと2.5×2.5×2.5=15.625で、10mの玉だと5×5×5=125であり、実に8倍もの容積差となる。そのままだと直径6.4m位の球にしかならないはずだ。(必死で城の中庭の土に木の枝で書いて計算している。……これに円周率をかけて4/3倍すると容積となる。)
それなのになぜ……?精霊が数学が苦手だからと言ってしまえばそれまでだが……ショウのために頑張ってくれているとしか言いようがないのだろうな……。
「おお凄まじい威力じゃな……これじゃと、上級精霊球の火球の威力を越えているのではないのか?」
「はっ……仰せの通りでございます……。」
陸軍中将が、王様の隣で同様に驚愕の表情を見せる。
「私もこの効果に関しては初めて見ましたが、恐らく火の精霊球の一つはショウと一緒にダンジョンに潜って取得したものであることが原因であると考えます。
昨日申し上げました通り、ダンジョンのボス魔物は精霊球を取得するのにふさわしい相手かどうか判定するために存在すると言っておりました。つまり購入したものではなく、直接ダンジョンに潜ってボスと戦い、取得したものであることが重要と考えております。
もう一つの精霊球は、ショウがわがチームに入る前に取得したものであり、当初ショウが唱えると魔法効果は得られましたが、元の持ち主ほどの威力はありませんでした。そのため、新たに取得してみたのですが、2つ所持して使って行くうちに、持ち主が変わったほうの精霊球の威力も増してまいりました。
つまり一方が認めたことにより、つられてもう一方の精霊球もショウが真の持ち主であると認めたものと考えております。そのため魔法効果は最大まで得られているでしょうし、2つの精霊球を合わせることにより、より大きな威力を生み出しているものと考えられます。」
今のところ想定される要素をつなげて、今起きている事象に関してできるだけ説明してみる。まあ、取得した精霊球と、そうでない精霊球の魔法効果に関して、このところショウの訓練の様子を見ながら、自分なりに想定してまとめておいたのが幸いした。
カンヌールの軍が、自分たちで実験してみてできなかったときの参考になればと思い、メモしておいたのだ。
「おおそうでしたか……精霊球の特性に関しまして、そのようなことまでお聞かせいただけるとは……本当にありがたいことです。このことを踏まえて、わが軍でも精霊球の取得方法から検討していくのがよろしいようじゃな……中将、わかったかな?」
「はっ……重々、理解いたしました。」
陸軍中将は、直立不動の姿勢になり敬礼して答えた。
「では、本当にありがとうございました。このままこちらに留まっていただきまして、わが軍へのご指導願えれば幸いなのですが……。」
王子がやってきてへりくだって、俺の顔をじっと見つめる。
「そんな……もったいない……私などでなくとも、もっと最適な指導者は、この国にはたくさんいるはずです。それに……私はとある事情を抱えておりまして、この地に長くとどまることはできないのです。せっかくのお言葉、光栄至極なのですが、どうかご容赦願います。」
王子には申し訳ないが、丁重にお断りする。さすがに地元ではエーミの顔を知っている者たちが多すぎる。
人買いたちにそのことが伝わったら、大変なことになってしまうからだ。
「そうですか……何かご事情がおありなのですね……私たちでお力になれることがございましたら、どんなことでもさせていただく所存ですので、ご遠慮なくお申し付けください。
本日は王宮の離れに、お泊り頂けるのですよね?」
「それがその……言いにくいのですが、ソーペラ公爵がですね……以前わが居城を引き取っていただいていたのですが、これを機に私に返却すると言い出しまして、有難い申し出であり受けることといたしました。
そのため、本日は居城へ戻ろうかと考えております……重ね重ね、申し訳ございません。」
ううむ……今日も冒険話を楽しみにしていらっしゃったのだろうか、大変申し訳ないが、ソーペラからは今日にでも挨拶に顔を出してやってくれと頼まれてしまっているのだ。深く深く頭を下げてお詫びする。
「そっそうでしたか……そのようなご事情であれば仕方がありませんね。トーマ先生はいつまでも私にとっては先生で変わりませんので、冒険の旅の合間にでも、もし近場に来られました際にお立ち寄り願えましたら幸いです。」
ジュート王子はそう言って、深々と頭を下げる。本当に王様ともども腰が低いというか、親しみが持てるな。
「はい、その節はぜひ、王子様のお顔を拝見に参ります。では、これにて失礼いたします。」
名残惜しいが、ミニドラゴンの背に乗って王宮を後にする。居城であれば十分な広さがあるので、ミニドラゴンごと降りることができるのだ。
「お久しぶりでございます、旦那様……。」
ノンフェーニ城へ到着すると、中庭には使用人や小作人たちが家族ともども待ちかねていて、あふれかえっていた。
「突然冒険者になるなどと言って、この城を売り払い、皆の生活をないがしろにしておいて、もう一度舞い戻ってくるなど、どの面下げて戻ってくるのだと、あきれておったのだろう?もう、この城の主と名乗れるような立場ではないと自覚している。だがソーペラから説得され、恥を忍んで舞い戻ってきた。
本当にすまなかった。」
自分勝手に去っていった俺に対して、恨みつらみが溜まっていることだろう、まずは深く深く頭を下げて詫びる。正直、この城に戻ってくることは怖くて仕方がなかった。
「とんでもございません、ソーペラ様からは常々、自分はたまたま今この城を預かっているだけだ。いずれはトーマ様がこの城へお戻りになるのだから、トーマ様がいらっしゃったときのままにして、いつもで戻ってこられるよう日々管理を続けていろと申しつかっておりました。
その日がこんなに早く訪れるとは思ってもみませんでしたが、本当にうれしゅうございます。この城のすべての使用人を代表いたしまして、ご挨拶させていただきます。トーマ様、おかえりなさいませ。」
『おかえりなさいませ!』城中に響き渡るような大きな声で、皆が迎えてくれた。なんとまあ……さすがトーマだ……本当に皆に好かれていたのだな……。なんだか目頭が熱くなってきて、涙がほほを伝う……。
「一緒にいらっしゃるのはダーシュと……そのほかの方たちは、お仲間でございますか……?えっ……エーミさま……?」
爺やが、ショウの顔を見て驚いた表情を見せる。
「あっああ……ダーシュのことはいいとして、こちらはナーミとショウと言って、俺の冒険者仲間だ。ショウは……どことなくエーミに似ているだろ?だがこっちは男の子だ……エーミは元気かな?」
すぐに焦って涙をぬぐいながら否定する。エーミのことが漏れたら、人買い連中と一大決戦になりかねない。
「ああそうでしたか……エーミ様はサートラ様と一緒に実家に戻られましてからは連絡がございませんもので、こちらでもわからないのですよ。お元気でいらっしゃるとは思っておりますが……。」
爺やが、頭をかく。そうか……エーミが人買いに売られてしまったことは、伝わってきていないのだな。
人知れず、人買いに渡したということだろう……そりゃそうだ。
「そうだ……今晩は皆で宴会を開かないか?皆との再会を祝って……俺たちは冒険者だから貴族も何もない。使用人たちもその家族もみんなで、大広間を使えば入りきるだろ?目一杯飲んで食って、再会を祝おう。
トオル……まだ炎牛の肉とか残っているよね?」
「はい、炎牛肉もフリーフォールカモシカ肉も手長エビ肉も更にはツッコンドル肉も在庫がございます。」
「ようし……高級食材を使って、盛大なパーティを開こう!」
「かしこまりました……直ちに準備いたします。」
トオルはナーミとショウを連れ、城の中へと入っていった。
「カンパーイ……。」
爺やの乾杯の音頭とともに、大宴会が始まった。俺の手持ちの炎牛のもも肉はミニドラゴンに与えたが、その他の食材は全て拠出して、宴会用にトオルが先頭に立って調理してくれた。
ダンジョン肉に城でとれる野菜はずいぶんマッチしているようで、宴会だからと鍋をメインに仕立てている様子だ。肉鍋にエビ鍋に続きツッコンドルの鳥鍋は、最高のだしが出ていて、酒が進む。
何よりナーミが希望したドレスは、同型同サイズのドレスをすぐさま届けてくれたようで、ナーミの美しさは宴会場でもひときわ際立っていた。さすが王様の気遣いの深さには頭が下がる。
だれも彼女がダンジョンで、日々魔物相手に戦っていることなど、想像できないだろう。
「悪いな……ナーミばかりがドレスを着られて……ショウは申し訳ないが、我慢してくれ。」
本当にショウには申し訳ない。ナーミに勝るとも劣らないくらいにかわいいエーミなのに……その美しさを披露できないなんて……本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「ううん……全然平気だよ……あとで宴会が終わったら、僕の部屋に来てね……。」
俺の隣の席に座るショウは、笑顔を見せながら俺に酒を注いでくれる。ううう……いい子だ……。
ショウの部屋は、シャワー付きの客間を割り当てている。共同風呂だと、女の子の姿に戻れないからだ。




