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ダンジョンⅠ

「ここだ。」


「えっ?何もありませんが、この草原がダンジョンでしょうか?」

 ミニドラゴン馬車を止めて御者席から降りると、後席のダーシュが辺りをきょろきょろと見回す。


「いや、そうではない。ここの草をかき分けると、矢印が書いた石板が埋め込んであるだろう?」


 出発してから10日間、野宿を行い昼間は馬車で駆け続けようやく到着。カルネに教わった場所で、教わった通りに草原の両脇にそびえたつ大木の中間地点の草をかき分けると、石が埋め込まれていた。


「これからは俺が動く通りに動いてくれ。一つでも間違えるとダンジョンに入れない。

 歩幅も間違えずに、俺の通りについてきてくれ。」


「はい、わかりました。」

 事情をほとんど説明せずに、そのまま付いてくるよう命じる。


 少し大股で5歩矢印の通りに歩き、そのまま直角に左に曲がり3歩進む。そこで足元の草むらをかき分けると、またもや矢印が書かれた石板が埋め込まれていたので、矢印の示す方向へさらに6歩進み、そこを直角に右に曲がって4歩進む。


『カチッ』すると乾いた音とともに、足元にあったはずの地面が消失し、当然のことながら重力に従いそのまま落下し始める。

『ゴゴォー……ズザザザザッ』そのまま滑り落ちるように奈落の底へと通じる地下斜面を落ちていくと、そのうちに傾斜が緩やかになり速度が緩み、やがて止まった。


「いやー……!」

『ズザザザザッ』頭上から悲鳴にも似た叫び声とともに、落下物の気配が……すぐさま跳ね起きて間一髪でかわす。


「こっ・・ここは……どっ……どこれすか?」

 ダーシュが呆然とした表情で周囲を見回す。


 俺のした通りをトレースして、この地下ダンジョンへやってこられたようだ。

 地下ダンジョンを発見したカルネが、目印として埋め込んでおいた石板が役に立った。


『ボワッ』腰にぶら下げた袋から輝照石を取り出す。これもカルネからもらったものだ。

 ほかにもいろいろと便利な冒険グッズをもらっており、トーマはそれを勉強の合間に手にとっては、見たことがない冒険の世界を夢見ていたようだ。


 輝照石はサーチライト並みに明るく、日の光が全く差し込まない地下ダンジョンでも、見通しを確保してくれた。すぐさま輝照石につけた紐で額に取り付け歩き出す。


『バサバサバサッ』『キッキィー』すると明かりに引き寄せられたのか、真っ黒い飛翔体が襲い掛かってきた。


『チャッ』『シュッシュッ』『ピッキィー』腰の剣に手をかけたが、それよりも早く背中から何かが飛んでいき、3つの飛翔体が地面に落ちる。数歩近寄って見るとホーン蝙蝠という魔物で、洞窟に生息し超音波で人の聴力や視神経を麻痺させ気絶させてしまうという恐ろしい魔物たちだ。


 3匹ともに胸の真ん中にクナイが突き刺さっていて即死のようだ。

 振り向くとダーシュの広げた左手には数本のクナイがあり、奴が瞬時に仕留めたのだろう、すごいな。


「おお、ありがとう、助かったよ。ダーシュはクナイ投げが得意なのか?」


「恐れ多い……ワタル様でしたら十分ご対応できたと思いますが、お手を煩わすこともないかと思いまして。

 クナイにナイフ、時には石ころなども武器にいたします。」

 恐縮した様子で、ダーシュが膝をついて頭を下げる。


「まてまて、だからなあ、そういった態度はやめにしてくれといっただろう?

 今はもう伯爵と使用人ではなくて、仲間じゃないか。

 様などつけずにワタルと呼んでくれ。よそよそしすぎて、寂しくなる。はっ!」


『シュタッスバッ……タッズッパンッ』背後に気配を感じたので、振り向きざまに剣を抜き体をかわして袈裟懸けにし、半歩右に飛んでそのまま水平斬りにする。


 さすが王子の剣術指南役を仰せつかっていただけあって、意識しなくても軽快な身のこなしで強烈な一撃を放つことができる。長年のけいこで染みついた一連の動きなのだろう。

 地面には2体のブラックゴリラが転がっていた。


 真っ黒い体毛のゴリラ系の魔物で、知力が高く隙をついて冒険者の背後へ忍び込み、こん棒を手に持ち襲い掛かってくる怪力の厄介な相手だ。


「ほら見ろ、お前が変な態度をとるから、それを咎めているすきを突かれた。ダンジョン内では油断は禁物だ。

 頼むからよそよそしい態度ではなく、信じあえる仲間としてふるまってくれ。」


「ははっ……仰せのままに……」

 襲われかけて一旦身構えたダーシュだったが、再度膝をついて頭を下げる姿勢に戻り答える。承知してはいないな……。


 ダンジョン内の道はいくつも枝分かれして迷路のようになっているが、カルネのを写した構造図があるので迷わずに最深部へ最短ルートで進むことができた。

 途中魔物たちに不意打ちを食らうことがあったが、ダーシュのクナイとトーマの剣術の敵ではなかった。


 忍びであるダーシュは、投げクナイのほかに罠を見つけることができた。

 罠というのは伸びた木の根や地下水脈の流れなどで窪んだ場所で足を取られて転んでしまうような場所のことを指すが、冒険者が仕掛ける罠もあるらしい。


 もちろん魔物や精霊球などのお宝を独占したい目的によるものだが、実に恐ろしきは魔物や自然ではなく人間だとカルネは笑いながら教えてくれた。


 カルネはこのダンジョンには罠を仕掛けなかったようだが、自然にできた罠は構造図に書き込んでおいてくれていた。それでも新しくできた罠などダーシュが見つけてくれて、それはそれなりに有難かった。


「さて、いよいよダンジョンの最深部だ。ここを守るボスがいるぞ。

 これまでの魔物とは比較にならないくらい強いという話だ。気を引き締めていかなければならない。

 ボスを見かけたら俺は一気につっかけるから、後方からダーシュは援護してくれ。」

 最深部への道すがら、これからの作戦を立てておく。ボス戦は単独では勝てないかもしれないからだ。


「御意っ!」

 頭を下げながらうなずくダーシュに向けて、冷たい視線を送る。


「しょ……いえ……わ……わかり……わわわ……わか・・わか・・った……。」

 ダーシュが焦って訂正する。まあおいおい慣れてくると期待しよう。


『グウォー』最深部の通路を曲がると広い空間に出たが、その奥には灰色の巨人が雄たけびを上げていた。

 久々に最深部まで到達した獲物を喜ぶかのように……。

 このダンジョンにふさわしい土と石でできた3mを越える巨人、ハッシェと呼ぶようだ。 


『ダダダッ』『カツンッカツンッ』ダッシュでハッシェに向かって駆けていくと、背後から援護射撃が繰り出されるが、クナイは硬い石に弾かれハッシェには突き刺さらない。


『ダダッ……シャパッ……グググッ』ハッシェの突き下ろすような右手の攻撃をかわして懐へ入り込むと、茶色くなったわき腹を水平斬りで剣を叩きつける、俺の動体視力であれば奴の攻撃はかわせる。

 石部分はあきらめ湿った土でできた部分を狙ってみたのだが、わき腹に突き刺さったまま引いても抜けない。


『ドッゴォーンッ』すぐさまハッシェの左こぶしが襲い掛かってきたので、剣をあきらめ後方へ飛びのくと、石畳がハッシェの攻撃で砕けて飛び散る。

 あんなの一撃でも食らえばお陀仏だ、トーマの実力なら楽勝のダンジョンといった評価ではなかったのか?


 武器である剣を失ってしまったので、脇差である先祖伝来の守り刀を抜く。

(はっ!)眉間だ、そういえばカルネはボスの眉間が急所だと言っていた。


「ダーシュ!膝だ!奴の膝頭を狙ってくれ!」

 膝など関節部分は、わき腹同様石ではなく土でできていて茶色く見え、指示すると同時に俺も突っ走る。


「はっ……はいっ!」

『シュッシュッシュッ……グサッグサッグサッ』すぐさまハッシェの両ひざにクナイが突き刺さった。


『ダダダッ……タッ』ハッシェの拳をかわして、膝に突き刺さったクナイを足場にジャンプ一番。

『ドゴッ』右手を振り上げ逆手に持った脇差を、ハッシェの顔のくぼんだ目の間の少し上めがけて突き刺した。

『ドッゴォーンッ……ガラガラガラガラッ』砂埃を舞い上げながら、仰向きにハッシェは倒れ伏し、そのまま崩れて石と土に還った。


「ふうっ、何とか倒せたな。」

 がれきの山から剣を掘り出し、鞘に納める。


「はっ・・ご無事でな……いえ……申し訳ありません!えーと……やったぜ!……でしょうかね?」

 ダーシュが恐る恐る尋ねてくる。


「おお、それでいい!でしょうかねは余計だが。さて、目的の精霊球はあるかな?」

 ハッシェがいたあたりの壁を丹念に探す。精霊球はおおよそ15年から20年くらいかけて成長し、精霊を宿して持ち主に魔力を付与する。


 掘り出し物のダンジョンには百年物の精霊球が見つかることもあるようで、それらは強大な魔力を秘めており高値で取引される。

 このダンジョンは以前カルネが見つけたもので、できたばかりの新しいダンジョンのためにボスも弱くて、精霊球は幼すぎて回収できなかったらしい。


 それから18年経過していてどうだろうか……若いボスなら楽勝だと言っていたが、他の冒険者に見つかっていなければいいが……おお、あった……壁のくぼみに茶色に光る宝石を見つけた。

 これが精霊球だろう……トーマも見るのは初めてだ。まだ小さな球だが、使い続けていくうちに大きくなっていくらしい。さて、頂くものもいただいたので帰るとするか。


 奥の壁右側に洞窟のような出口を見つけたので、そこからひたすら上り通路を上っていくと、やがていつの間にか先ほどの草原に出ていた。


 ダンジョンの出口も入り口も一方通行で逆戻りはできない。そのため、まれにダンジョンの入り口に誤って一般の旅人が足を踏み入れてしまう危険性もあるため、ダンジョンは見つかり次第届け出をして、レベルに見合った冒険者しか入ることがないよう管理されることが一般的だ。


 何せ出口にたどり着くには、ボスを倒さなければならないからな。


 そうして冒険者が仕掛ける罠でさえも、ダンジョンのレベルに見合ったものでさえあれば、仕掛けられる個数に上限はあるが許されているということだ。


 今回のダンジョンのように、街道筋から外れて一般人が足を踏み入れることがない場合は届け出しなくても許されているようで、見つけた冒険者たちは自分たちにしか分らないような目印をつけておくようだ。

 他の冒険者たちが発見したダンジョンの目印を見つけ出すのも、冒険の醍醐味だとカルネは言っていたな。


 なんにしても初のダンジョン挑戦で、新人冒険者がたったの2人だけで踏破できたのは、詳細な情報やアイテムを与えてくれた、カルネのおかげに他ならない。

 草原を振り返りながら、カルネに届くよう祈りを捧げ、ミニドラゴンの馬車を発車させた。


 残念ながらカルネは一つも精霊球を所持していなかった。取得してもすべて売り払っていたそうだ。


 魔法の呪文を唱えなければならない魔法は、近接戦では役に立つことは少なく、特に狭く入り組んだダンジョン内では、剣や斧などの強力な武器や拳法などの体術が重宝され、飛び道具としては投げナイフやせいぜい弓矢までといつも言っていた。


 呪文を唱えながら剣を振れそうだが、詠唱時間が長い呪文では神経が分散し、剣も魔法もどちらも中途半端になってしまうらしい。


 魔法の威力が発揮されるのは範囲攻撃で、こちらは国同士の戦争などに使用されるべきもので、冒険者向きではないというのがカルネの持論だった。

 戦争であれば一度に広範囲にわたって火炎や地震に洪水などを引き起こして、敵軍勢に大被害を与える魔法使いは重宝される。


 そのため大火力の精霊球は、それこそ軍隊が一つ買えるくらいの値段で取引されることがあるらしい。

 魔物相手の冒険者には不要と考え、彼のチームには攻撃系魔法使いはいなかったようだ。


 代わりに回復系魔法の司教がいたようだが、こちらは精霊球ではなく、寺院などで修業を積んだ僧侶の徳として与えられる技能だ。


 それでもダンジョンによっては広い空間のダンジョンも存在するため、より効率がいいダンジョン攻略をするため魔法使いを含めるチームもないことはないようで、まれに冒険者同士のいざこざから戦いになる場合もあったらしい。


 そんなときどうするのか聞いたら、魔法使いが詠唱している最中に弓矢使いは数撃食らわせられるらしい。


 いくら遠方で控えていても腕のいい弓矢使いがいれば十分で、そもそも唱える呪文で魔法効果が判断できてしまうこともあり、近接戦の1対1の決闘であれば、剣士に魔法使いは勝ち目がないとも教えてくれたが、俺には俺なりの考えがある。


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