有難い申し出
「おお、久しぶりだね……やっぱりナーミたちだったね……。」
翌朝の朝食も離れで済ますことができ、支給された軍服に身を包み、案内人に従い中央の玉砂利が敷かれた道を通って王宮へと向かう。王宮に入ってすぐの待合室に入っていったら、そこにいたのは誰あろうA級冒険者のスースーたちだった。
長身で大柄な体の割に、きめ細かな性格のようで、人当たりの良い口調は軍服姿でいても優しさを感じる。
「スースーも一緒なの?」
ナーミが驚いた表情を見せ、懐かしい旧友のところへと歩み寄る。
「そうだよ……もともとは僕たちのための綬官の儀式だったはずだよ、何せ百年ダンジョンを最短の3日で踏破して、さらに精霊球のみならず多くの特殊効果のある石を持ち帰ったんだからね。しかも手に入れた精霊球も生命石もグイノーミギルドで精算をした。これによりカンヌールが優先購入権を主張できることになった。
おかげでカンヌールへの貢献を認められて爵位を賜ることになり、グイノーミからトークリ経由で祝典のパレードをして王都へ向かっているところだったのさ。
ところが突然、サーケヒヤー国に宣戦を布告されたとの連絡が入り、パレードは中止され王都から飛竜隊がやってきて急ぎ王都へ迎えられた。
戦線がはっきりしてから爵位を賜ると聞かされていたのだが、その翌日には北方の港町であるオーチョコが敵戦艦部隊によって占領されるかもしれないとの一報が入り、この国は消滅するかもしれないとも聞かされた。
王子様が精鋭部隊を引き連れて、間に合わないかもしれない戦線へ向かったのだが、なんとオーチョコではたったの1チームの冒険者が救援にやってきて、城のわずかな手勢を引き連れて敵旗艦に突入し、制圧してしまったとの一報が入った。おかげで敵船団は全て拿捕出来て、国の危機は去ったとも。
その、まさに英雄と一緒に爵位を賜ることになったと聞いて、僕たちの功績の影が薄くなったと嘆いていたのだけど、その素晴らしい功績をあげた冒険者チームというのに対して、少し心当たりがあった。
4人組と聞いて違うのかとも思ってがっかりしていたのだが、やはり君たちだった。一人メンバーが増えたんだね……さすがだよ……君たちには本当に感動する。」
スースーが、笑顔を見せながらナーミを称える。
「そんな……あたしはそんな大したことをしたわけじゃないわよ……少なくともあたしはね……なにせミニドラゴンの背に乗って、援護射撃をしていただけだから……。」
ナーミはそう言って謙遜しているようだ。スースー達に比べて、爵位を賜るほどの働きをしていないとでも思っているのだろうか。
「いやいや……ナーミとショウの援護射撃があったからこそ、俺たちは甲板に群がる兵士の群れの中に突っ込んでいけたんだ。ナーミとショウだって立派に一緒に戦ったんだぞ。」
すぐにナーミの傍らに行って弁護してやる。言ってみれば、この国を救った英雄の一人なのだ。爵位を賜るくらいの功績は十分にある。
「そんなことないわよ……あたしはただ言われた通りに……」
「いや、だからだな。言われた通りにしっかりとやるということが、どれほど難しいことか……」
「その通りです。私たちは後ろに目がありませんから、バックアップというのは非常に重要なのですよ……。」
トオルもやってきて、一緒にナーミを勇気づける。
「いいチームだね……。」
「へっ?」
あくまでも謙遜を続けるナーミに対して、どれほど助かっているか力説しようとしていたら、スースーがつぶやくように言葉を発する。
「すごいよ……息もあっているし、本当に長年連れ添った夫婦というか……家族というか……最高のチームだね、君たちは……。でも、僕が所属するチームだって、結成して13年間も経っているチームで、しかも幼馴染……チームワークは負けないさ……。」
スースーが、ちょっと寂しそうな笑顔を見せる。まあ、チームワークの競技会ではないしな……。
「おお……ここにいたか……ちょっと話があるんだ……。」
スースーと話をしていたら、背中をつつかれた。見るとソーペラだ。まあ、奴も一緒に公爵になるのだからな、お仲間だ……。
「じゃあ、またね……。」
スースーは遠慮したのか、自分のチームメイトの方へと歩いていった。
「一昨日の晩も昨晩も話すことができなかったので、今ここで伝えておく。今回のオーチョコ城の危機を救ってもらった礼というのもなんだが、ノンフェーニ城をトーマに返却したい。」
突然、ソーペラがとんでもないことを言い出した。
「いや……ノンフェーニ城はソーペラに売り渡したものだ、それを買い戻すだけの財力は俺にはまだないし、仮にそれくらいの金が出来たところで維持管理することなどできやしない。
どうせ赤字で借金を作り、また売りに出さなければならなくなる。それよりも、ソーペラに維持管理していてもらったほうがよほどいい。」
すぐにお断りする。爵位に関しては皆が勘違いしていたせいもあるが、ソーペラが願っていたから受けることにしたが、城の維持管理となると全くの別問題だ。その費用を冒険者の稼ぎから捻出することは不可能とは思わないが、それこそ休みなくクエストを継続する必要性が出てきてしまう。
なにせ城の維持費だけではなく使用人たちの給金が必要なのだ。かといって使用人がいなければ、雑草は生え放題だし、外観体裁を保つことさえままならなくなってしまう。それくらい広大な土地を持っているお屋敷なのだ。それなりに人が毎日手入れしなければいけないのだ。
そんな苦労してまで、城を所有するメリットは何かと問われれば、そんなことはどうやっても思いつかない。
つまり、城は不要なのだ。
「いやあ……トーマからの打診を受けて、城を引き受けることにしたのだが、どうせまたすぐに買い戻したいと言ってくると考え、かなり買いたたかせてもらった。そのほうが、買い戻すときに楽だからな。
ところが、トーマから買い戻すという連絡はない。よほど冒険者というのが楽しいのだろうと思っていたのだが、それでもずっと冒険者を続けるというわけにもいかないのだろ?いい機会だから、城を取り戻したらどうだ?使用人は全てそのままの待遇で残してあるし、小作人からも税は取っていない。
トーマがやっていた頃のままにしている。小作人に話を聞いたところ、税を治める代わりに、近隣の孤児院や養護施設に無償で野菜や果物を納めていると聞き、それはいいことだと思い、わが家の王都での本宅であるオーチョコハウスの小作人からも税の徴収を取りやめ、近隣へ配布を始めたところだ。
うちは親父も貴族でこの国の元老だし、俺はオーチョコ城で軍の新人教育係を仰せつかっているから、城の一つや二つの維持管理は小作人からの税の徴収などなくても全く問題はない。
トーマだって貴族に戻るわけだし、公爵になればその分の手当ても上がるはずだ。そうすれば城の維持管理くらいは何とかなるんじゃないのか?
もちろん、城の代金を返してくれなんてケチなことは言わない。何せ我が国の危機ばかりか、わが居城を救っていただいたわけだからな。親父にだって、この恩義に対して必ず礼は尽くせと命じられたし、城を受け取ってもらわないと、俺の顔がつぶれてしまう。だから頼むよ……。」
またもやソーペラは、顔の前で両手を合わせ、拝むようにしてくる。
「うーん……そうはいっても俺の公爵の手当だけでは、維持管理が難しい……。」
それこそクエストをさぼらずにきっちり行えばいいのではあるが、いつまでも冒険者を続けてはいられないのだ。引退してからどうする?すぐに借金まみれになってしまいかねない。
「その……手当というのは、男爵でもつくのでしょうか?」
「そりゃあもちろんさ……男爵だって貴族の一員だし、それなりな手当てが毎月支給されるさ。そのほか、外国へ出国するときの通関手続きは免除だし、さらに定期馬車などの公共交通機関も無料だ。まあ、飛竜を持っているようだから、この辺りは君たちには関係がないだろうがね。」
トオルの質問に対して、ソーペラが答える。
「私の手当てを使えば、ノンフェーニ城の維持管理費の一助になれませんか?」
「はあ……?」
「僕の手当ても使ってください、お願いします。」
「あたしのもいいわよ……どうせ使い道なんて、全然ないんだから……。」
ショウとナーミも続く。
「公爵一人と男爵3人の手当てか……それだけあれば個人の城の維持管理には十分だ。これで決まったな。
じゃあ今日中にノンフェーニ城はトーマ名義に書き換えておくからな……いやあ助かったよ……親父にどやされないで済んだ……。」
そういいながら、ソーペラは意気揚々と消えていった。
「おいおい……せっかくの貴族の手当てなんだぞ……。」
「いいじゃないですか……元居た城が戻ってきたんですし、それに帰るところがあったほうが、冒険の旅に出ていてもやりがいがありますよ。」
「えっ……そうか?何もかも捨てて旅に出る。帰るところがないというほうが、必死になって頑張れるんじゃないのか?」
いわゆる背水の陣だ。戻れる場所がなければ、今頑張らなければならないわけだ。
「そうですかねえ……私は、帰る場所があるからこそクエストを頑張ってこなしていける……先のことへの不安感がないほうが、より頑張れると思いますよ……。」
「僕もそう思うよ……冒険者だっていつまでも続けていられないって、パパが自分で言っていたんじゃない。
冒険者を辞めてから道場を開くんでしょ?ノンフェーニ城だったら広いし、道場を開くにはもってこいと思うよ……だから、せっかくああいってくれたんだし、有難くいただいておくのがいいと思う。
僕が開く魔法教室も十分できる広さの道場が、作れると思うんだ……。」
維持費や手間などを考えると、負担でしかない城の維持に関して、帰るところの安心感だの、冒険者をやめてから開く道場のためだと言い出す。そりゃあ俺が冒険者を辞めた後でも、ショウたちが安心して生活できるような基盤を作っておきたいとは考えていた。何せ家族同然と思っているからな。
だからこそ、先行きのことを確認して回っていたのだが……だからと言って……。
「へえ……花屋を出せるようなスペースはあるかしらね……。」
さらにナーミまで加わってきた。
「そりゃもちろん……ナーミお姉さんの部屋だってあるし、お店を開くスペースだって十分あるよ。お城では野菜や果物のほかにお花も栽培しているから、直接そのお花を販売すればいいと思うな……。
ノンフェーニ城は王都の郊外にあるけど、周りは住宅街だから、お花屋さんを開けばはやると思うよ。絶対いいよ……。」
「へえ本当……いいわね……。」
ショウの言葉に、ナーミも大喜びだ。
「はいはい、わかりましたよ……じゃあ、ソーペラには後で、しっかりと礼を言っておくことにするよ。」
「やったあー……。」
ショウが一番飛び上がって喜んだ。まあ、エーミが生まれた時からずっと生活していた、いわば実家であるからな。思い入れも深いはずだ。
それよりも何よりも、みんなと離れ離れにならなくても済みそうだということに、一番ほっとしている自分がいるということに気が付いた。いずれ別れの時が来るのだと覚悟して、その準備をしておかねばならないのは当然と思っていたのだが、ずっと一緒にいられるという選択肢ができたことは本当にうれしい。
「冒険者ワタル……王の前へ……汝は愛国の士として、いかなる場合であっても、この国を愛し慈しみ、この国の発展に全力を注ぐことを誓うか?また、ひとたびこの国が存続の危機にさらされたとき、必ず駆け付け命を懸けて戦うことを誓うか?汝の……」
綬官の儀式が王宮の大広間で始まった。一人ひとり名前を呼ばれて、王が座る玉座の前に跪き頭を下げる。
「汝を公爵に任ずる。」
王自ら、国宝の愛剣を俺の両肩にポンポンとおき、これで俺は公爵の位を賜った。
貴族の冒険者はおかしいが、それでも何かの役に立つかもしれないと考え、冒険者名で称号を受け取っている。冒険者を引退した後は、本名に改名可能であることは確認済みだ。
「貴殿の活躍は、本当に素晴らしいものであった。文字通りこの国を救ったと言えるであろう。その礼として貴族の称号など、軽いものでしかない。もし望むのであれば、何なりと申すがいい。何か望みはないか?」
そうして王自らが願いをかなえてくれると、申し出てくれる。こんなことは非常に異例なことだが、この褒賞はすでに王子から聞かされていた。国を救った功績に対して、何でも願いをかなえてくれるのだそうだ。
突然言われて戸惑って、つまらない願いをされても後で後悔するだろうと、昨晩王子に魔法を披露した後で、教えてもらっていた。このことを王子から告げられた時、俺からの願いはすぐに決まった。




