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褒賞

「いやあ……今回の武功を称え、爵位を上げてくださるとおっしゃっていただいている。俺が公爵で……お前さんも公爵……といっても、お前さんを公爵にするので、釣り合いをとるため俺のはついでのようだがね。


 爵位を停止させられた身が、いきなり公爵だなんて、普通じゃありえない処遇だが、お前さんの戦功から言って、文句のあるやつは出てこないだろう。間違いなく正式に認められるはずだ。


 お前さんのお連れさんたちもそれぞれ男爵の爵位が与えられるようだ。あのお嬢ちゃんもだから……破格の処遇といえるが、これもまた文句は出ないだろう。なにせ、本当にこの国を救ったわけだからな。


 そこでだ……繰り返すが……俺の場合はお前さんのついでなわけだ……お前さんが断りでもすれば、俺の爵位が上がることもなくなる。だから……頼むよ……由緒あるオーチョコ家が晴れて公爵になれるんだ……どうか……この願いをかなえてくれ……。」


 ソーペラが小声で囁き、両手を合わせて拝むようにしてくる。ううむ……カーヌンから泣き落としに弱いと聞いているのか……?まいったな……こいつはいい奴だし……言っていることもわからないでもない……俺たちにとっても得なことを、得だと言ってくれているのではあるが……。


「どうする?爵位を受け取るかい?」

 ナーミたちのところへ戻って聞いてみる事にした。


「いいんじゃない?貴族ってことでしょ?老後に箔が付くわね……」


「ワタルが貴族に戻られることは、大賛成です。とりわけ、貴族は冒険者をやってはいけないという決まりもないようですから、邪魔にはならないと思われます。」


「やったあ……パパ……すごいね……。」


 今回の活躍を認められ、王自ら爵位を与えてくださるという申し出に関して皆に聞いてみたところ、好評のようだ。まあそうか……別に爵位を賜ったところで、何が変わるものでもないか……冒険者を続けてもいいわけだし、有難く頂戴すればいいか……。


 トーマは元伯爵だったが、父が国務大臣を失脚して自殺し、トーマも無実の罪を着せられて剣術指南役の任を解かれて蟄居を命じられた。領地没収などには至らなかったが、伯爵家という肩書は、その時点で停止させられた。トーマの罪は冤罪と分かり、伯爵に戻ったと周りからはみられていたが、カンヌールの爵位としての地位は停止させられていたのだ。


 そのため簡単にすべてを捨てて冒険者になることもできたというわけだが、まあいいだろう……だれも反対しないのであれば皆で爵位を賜ろう。



 部屋へ戻って着替えて中庭へ出ると皆が待っていた。日々の訓練をこなしてからシャワーを浴び、それから王子の客間へ忍び込む。なんだか悪いことをしているようにも見えるが、王子への個人的謁見など、一介の冒険者に許されることではないので仕方がない。


 王子の部屋の廊下側に警護の兵士が立番しているため、こっそり廊下の突き当りの窓から外へ出て、後はバルコニー伝いで王子の部屋まで忍び込む。


 警備は城の外からの侵入者を主に警戒しているので、中からの侵入には甘い様子だ。とはいっても、こんなこと俺が一人で行うことは到底不可能なので、トオルに手伝ってもらった。


『カンッコンッカンコンカン』王子とのサインに用いる、ミュージカルの歌の1小節のリズムを叩き、『カチャ』『ギイッ』カギを開けていただきトオルをバルコニーに残し、窓を開け中に入っていく。晩さん会の時に王子に耳打ちして、窓に注目していただくようお願いしたのだ。


「トーマ先生……さすが冒険者ですね……こんな警備の厳重な城の中でも、侵入可能だなんて……。わざわざありがとうございます。さあ、どうぞこちらへ……。」


 ジュート王子は、予告通り来訪した俺の姿を見て、それだけで感動している様子だ。いつものようにトーマに対してへりくだる王子は、応接用のソファーを指さす。


「いえいえ、これは私の技術というより、冒険者仲間の忍びの技ですね。トオル……入ってきてくれ。」

『ギイッ』トオルが俺に呼ばれて、窓から部屋の中へ入ってきた。外にいつまでも、置いておけないしな。


「私の冒険者仲間のトオルです。忍びを生業としておりますが、もともとは私のお付きのものです。私が冒険者になるときに、どうしても同行すると言って聞かなかったため、一緒に冒険者になりました。」

 ついでなのでトオルのことを紹介しておく。いずれ、ナーミやショウのことも紹介しておく必要が出てくるだろうな……。


「ああ、そうですか……トーマ先生の……ジュートです……この度は皆様のご活躍により、この国の窮地がすくわれました。本当にどれだけお礼の言葉を述べても足りません。」

 王子はトオルに対しても丁寧な言葉で接し、頭を下げた。


「そんな、もったいない……カンヌールはわが主のみならず、わたくしの生まれ育った国であります。その窮地に際して、何もせずにただ見過ごすようなことができますでしょうか。命を懸けてでも、祖国を守るのが臣下の務めと考えます。」

 トオルはすぐに跪き、頭を深く下げた。


「本当に、ありがとうございます……この国は、民に恵まれているとつくづく感じております。さあ、お立ち上がりください……そうして、トーマ先生と一緒に、冒険のお話をお聞かせ願えますか?」

 ジュート王子はトオルの手を取り立たせてから、応接のソファーへと導いた。


 それからは、お茶をいただきながら、冒険者になってからのことをいろいろとお話しした。カルネから写させてもらったダンジョンの構造図や、輝照石に冒険者の袋など持ち込んでお見せしたため、王子は少年のように目を輝かせながら、その一つ一つを手に取り感動しているようだった。


 冒険者になるに際して、未管理のダンジョンに入って精霊球を手に入れ魔法を取得しておいたこと。指によるショートカットキーを使って呪文を短縮していることなど説明。


 さらに冒険者になった途端に悪い先輩冒険者に騙され、危うく命を落としかけたことなど包み隠さず話すと、爆笑したり感心したりと、その一つ一つを興味津々といった様子で真剣に聞いてくれていた。


 中でも魔法の取得とショートカットキーによる呪文短縮に興味を示され、考えてみれば一国の軍隊では魔法は非常に重要なアイテムということを忘れていた。サーケヒヤーとの戦争では、城の魔法使いは全て出払っていたので魔法による応戦はしていなかったのだが、カンヌールだって軍には魔法部隊があるわけだからな。


 そこで呪文短縮ができれば、効果が大きいと考えているのだろう。だがまあ、距離を置いて戦う国同士の戦争に関して、呪文短縮がどれほど役に立つか、俺としては疑問に感じている。


 詠唱時間は長くても、確実に大火力の魔法を思い通りの場所に展開することが第一なので、ショートカットなど使わないほうがいいとも思えるのだ。そのあたりのことも説明して、王子に納得いただいたうえで、それでも興味がおありでしたら、実際にお見せしますよとお答えしておいた。


 別に、このことを秘密にしておく必要性は、さほど感じていない。冒険者をやっている限り、戦う相手は魔物であり、対人ではないのだ。だから他の冒険者が同じことを始めたからと言って、別に困ることはなにもないと思っている。


 いずれ冒険者を引退して開く予定の道場で、ショウというかエーミが広く普及していくことを楽しみにしているくらいだ。まさか厳重に警護している城の一室の中で、魔法の呪文を唱えることもできないので、この日はナーミとの出会いまでのいきさつ話した後、トオルと一緒にまた窓から自分たちの部屋へと戻っていった。



「では、参りましょう。」

 ジュート王子の乗る飛竜を先頭に、5頭の飛竜が空へと舞い上がる。祝勝会の翌朝、王都に向けて出発するのだ。もちろん、貴族の爵位を賜る俺たちもミニドラゴンの背に乗り同行するし、ソーペラも自前の飛竜に乗り出発する。どうやら昨晩王都の本宅から、ようやく到着したようだ。


 ミニドラゴンの背に積んだ客車を返そうかと言ったら、それは差し上げたものだからそのまま使ってくれと言われた。由緒ある侯爵家ゆえ、飛竜も王都の城で2頭飼育していて、馬車の客車も多数所有しているということだった。


 トーマの家だって、元はそれなりに所有していたのだろうが、財政切迫の折すべて売り払って、2人用の馬車しか残っていなかったのだ。


 なんだか申し訳ないと思っていたが、城の窮地を救ってもらったのに、そんな貧しいものの贈呈だけで済ますつもりはないともいわれ、逆にビビっているくらいだ。


『バサッ……バサッ……』ミニドラゴンに装甲車の荷台を足で持たせ、俺たちは背中の客車に乗って飛んでいく。荷台は余計とも思えるが、宿泊施設としても有効なため、やはりもっていくことにした。戦争でも役に立ったしな……。


 眼下の景色を見下ろすと街道筋には人家はまばらで、主に果樹園や田んぼと畑が広がっていて、少し離れると一面の原野。この世界の人口密度はそれほど高くはないようで、人口密集地帯の王都を除き、緑豊かな自然みあふれる風景だ。


 こんなのどかな環境なのに国同士の勢力争いが行われているなんて、とても信じられない。カンヌールを守れてよかったという気持ちはあるが、何よりも大規模な戦争に発展する前に、火消しできてよかったと考えている。カンヌールが勝つということよりも、戦争がこのまま収まってほしいと強く願う。


 飛竜は順調に飛び続け、昼食もミニドラゴンの背に乗ったまま、朝渡された弁当で済ませ、辺りが夕焼けに染まるころ、先頭の飛竜が降下を始めたので、ミニドラゴンにも従わせる。

 着陸した場所は、街道筋の都市の中の高い塀に囲まれた、広い敷地の中だった。


「どうやら、トークリの町の王家の別宅に降りたようですね。」


 トオルが周囲を見回しながら話す。オーチョコから王都へは飛竜で飛んでも1日では着かない(羅針盤を頼りに夜通し飛べばつくが、今は有事ではないため、そのような危険なことはやらないのだろう。)ので、途中でキャンプと思ってはいたが、さすが王家……各都市の中に別宅があり、そこなら飛竜も降りられるようだ。


 都市の中で成獣の竜を飼育することは禁じられているが、王家や貴族など広大な土地を有していて城を構えている場合は、その中で飼育することはもちろん許されている。飛竜が町中に入っていけないのは、来訪者として、特別な管理施設なしには入れないということなのだ。


「では、こちらへどうぞ……飛竜には、こちらで食事をしていただきますので、お連れ願います。」

 すぐに従者がやってきて、俺たちを江戸時代の大名屋敷のような建物へ案内してくれる。ミニドラゴンは、トオルが手綱を引いて、連れて行った。


 案内された先も、やはり衣裳部屋のようで、そこでまたまたタキシードに着替えさせられ、蝶ネクタイは後から来たトオルに結んでもらった。


 それから真っ赤なドレスに身を包んだナーミの姿にまたもや見惚れ、今夜は王子主催の晩さん会だ。恐らく王都からも重鎮連中が来ているのだろう。昨晩とは違った初老の男性陣が多く列席していた。


 今夜のスピーチは頼み込んで免除していただき、代わりにソーペラが戦況を語ってくれた。主力の戦艦を3隻とも拿捕され、サーケヒヤー国は和解交渉をカンアツ通じて伝えてきたようだ。


 カンヌールとしては、ほぼ被害がなかったことと、早急に解決したことから、大ごととは捉えずに和睦への道を進むだろうと聞き、胸をなでおろした。


 それでもサーケヒヤー国からは戦艦と人質を返却する代わりに、莫大な賠償金が支払われるだろうと聞かされ、折角手に入れた戦艦を返してしまうのかと尋ねたら、カンヌールでは戦艦を所有しても意味がないと、空軍の将軍から教えられた。


 あれくらい巨大な戦艦と言えども、十頭も水竜がいれば簡単に制圧されてしまうのだそうだ。そのため水竜を国の守護獣にしているサーケヒヤー以外では、軍艦を持っても意味がないそうだ。今回の戦闘では敵の水竜使いは、恐らく先行で港内に攻め込んだ駆逐艦にのみ、いたのだろうと分析されているそうだ。


 駆逐艦は俺たちが行って素早く沈めてしまったので、水竜による攻撃がほとんど機能しなかったというのが、勝因の一つとして挙げられているようだ。なにせ、一度崖から落としただけで、以降の攻撃がなかったからな。

 カンヌールもカンアツも、沿岸警備隊としての名ばかりの海軍しかもっていないらしい。


 また、地竜を擁するカンアツがお隣なので、戦車や装甲車などもカンヌールでは所有していないようだ。これもまた地竜によって簡単に攻略されてしまうため、地竜を守護竜とするカンアツ以外で陸軍兵器を持っても意味がないと目されている。


 それではカンヌールは空軍だけあるのかと聞いたら、飛竜を使った空軍が主力と答えが返ってきた。つまり航空機は開発されていない様子だ。戦闘機や爆撃機の代わりに、王子が率いてきた精鋭部隊……鋼鉄製の箱に兵士たちを詰め、飛竜が運んできて戦地に下ろしてその場を中心に4方へ攻撃を仕掛ける。


 確かに効果的な戦法であり即効性もあるので、白兵戦主体のこの世界であれば、戦闘機は不要か?戦艦があるにしても戦車があるにしても、最終的には歩兵の大隊で制圧しなければ戦争には勝てないからな。


 軍艦などは、もともと漁に使う漁船に大砲を積むとか、戦車も馬車に大砲を積むとかして戦争を優位に進めるために開発されたのだろうが、さすがに空を飛ぶ道具まではまだ開発されていない。


 飛竜を守護獣とするカンヌール以外では、飛行機など開発しようとはしないだろう。せっかく開発しても、いざ戦争ともなれば少数の飛竜にたちまち破壊されてしまうのがおちだ。


 この世界のいびつな文明の発展の理由が、なんとなくわかったような気がする。科学技術というのはある程度高度文明にまで発展しているが、開発してもしかたがない部分が大きすぎ、進歩しない面が多いのだろう。


 戦争という技術開発競争により、人類の文明は一気に加速したと言われているが、戦車や戦艦や航空機など、一国だけでしか使えない技術は、なかなか発展していかない、つまり競争原理が働かないのだ。なにせ、それぞれの国で独占状態なわけだからな。


 そのため自動車は普及していないし、船だって大型客船などは存在していない。航空機どころか、蒸気機関による列車の運行が、ようやく計画されているところなのは、そのためだ。


 代わりに情報伝達に使う通信分野は技術がそこそこ発展……これは各国で競い合うようにして開発しているのだろう。なにせ、敵の情報把握が戦ううえで最も重要だからな……。


いつも応援ありがとうございます。この小説に対する評価やブックマーク設定など、連載を続けていくうえでの励みとなりますので、お手数ですが、もしよろしければお願いいたします。また、感想などお寄せいただけますと、今後の展開への参考ともなりますので、よろしかったらお願いいたします。

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