突入
大きな大砲を何門も抱える巨大戦艦。さすがにそんなのがやってきたら、丘の上の居城といえどもひとたまりもないだろう。大砲数門で撃破されてしまう。それを防ぐには、突っ込んでいって制圧するしかない。
それが無理なら、戦艦の足を止めるくらは最低でもやりたい。
「どうだ?」
「はい、座席の装着は終了しました。」
ミニドラゴンのところへ行くと、すでに馬車の客車は車輪を折りたたんで、ミニドラゴンの背に固定されていた。向かい合わせの4人乗りの座席に加え、御者席がついている。雨が降った時にはかぶせられるように幌が後方に折りたたまれている。座席などいたるところに宝石がちりばめられ、確かに装飾は豪華だ。
座席は回転可能のようで、向かい合わせにセットされていたが、4席ともに前方向きへ修正した。
「ようし……さっきミニドラゴンに回復水を与えただろ?忘れずに補給しておいてくれ。」
「はい……わかりました。」
トオルと一緒に荷台へ向かい、クーラーボックスから回復水を取り出し補充する。
「ようし、じゃあ乗り込んでくれ……揺れるとは思うが中につかまるところはないから、申し訳ないが何とかバランスをとってくれ。それと、クーラーボックスの中に入っている回復水は、使って構わないから皆で分け合って携帯してくれ。」
装甲車の荷台に、兵士たちを乗り込ませる。さすがに冒険者を辞めて何年も経過していたら、回復水など持ち合わせていないだろうから、クーラーボックスの予備を携帯するよう促す。死なれては困るということもあるし、傷の手当てをしながら戦えれば、何十人分もの戦力となるはずだ。
城には回復系魔法が使える僧侶は駐在しているはずだが、使用期限のある回復水などは常備していないだろうからな。冒険者の袋は冒険者でなければ携帯できないし、戦時でもない限り軍では高価な回復水を何十本も常備することはないだろう。回復水を常に携帯しているのは、冒険者以外はいないのだ。
「おー有難い……。」
「回復水か……懐かしいね……。」
兵士たちは、笑みを浮かべながら荷台の中に乗り込んでいく。
『バタンッ……カチャッ』装甲車の荷台の後方扉を閉め、ロックをかける。ロック用のフックレバーは外と中がつながっているので中からも開けられるし、外のレバーを取り外してしまえば、中からしか開けられなくなる仕様だ。
輝照石は紛失が怖いので回収しておく。中は暗いので、明り取りのために覗き窓を開けておくよう指示しておいた。
「ようし、みんなもミニドラゴンの背に乗り込んでくれ。
俺とトオルが荷台に乗り込んだ剣士たちと一緒に戦艦に突入するから、ナーミとショウは上空から援護してくれ。味方の艦を砲撃はしないだろうから、乗り込んでさえしまえば敵はその船の乗組員だけだ。
剣士の大半は元冒険者らしいから、十分な戦力になる。船を制圧したら、大砲の教官に頼んで他の船を砲撃してもらう。そうすれば3隻ともに航行不能にできるかもしれない。
とりあえず、王都から援軍が来るまでは持ちこたえなければならないんだ。頼むぞ!」
『はいっ!』
トオルたちも客車に座らせ作戦の概要を説明しておく。飛竜用の客車なので、それぞれシートベルトがついているのがうれしい。
『ガサゴソッ』取り敢えず愛用の剣は腰に下げておくが、冒険者の袋の中から鉄パイプを取り出す。木刀やこん棒と同じく、武器屋で武器として販売されているものだ。銅剣も購入できない新人用の武器ともいえる。1mちょっとの鉄パイプの片側に滑り止めのゴムテープを巻いただけの簡単なつくりだが、これで戦うつもりだ。
殺しはやりたくはないが、剣で加減して戦えるような余裕はないだろう。そのため木刀をとも思ったが、相手が剣だと容易に折られてしまう可能性もあるため、鉄パイプにした。これだって当たり所によって殺傷力はないとは言えないが、それでも剣で斬りつけるよりは死なない可能性が高い。
甘いと言われるかもしれないが、思い切り剣をふるえなくなるよりましだ。相手を守るというより、どちらかというと俺自身を守るためだな……全力で戦えるための算段だ。以前、人買いとの戦いで剣で人を傷つけるのを躊躇して、危うくトオルを失うところだったからな。
「鉄パイプですか……私も山奥のギルドで剣を研ぐ手ほどきを受けた時、ついでに刃を落とす手順を聞いて、長刀の刃を落としてきました。いわばなまくら刀です。これで思い切り戦えます。」
その様子を見ていたトオルも後ろから声をかけてきて笑顔を見せる……考えることは同じか……。
「じゃあ出発するぞ。」
御者席に座り、シートベルトで体を固定する。
「ようし、ミニドラゴン出発だ。あの荷台を足でつまんで運んでくれ。」
ミニドラゴンに、飛び上がって兵士たちを詰め込んだ荷台を持ち上げるよう指示を出す。
『バサッバサッバサッ』ミニドラゴンがゆっくりと飛び上がる。『ガギッ』そうして巨大な後ろ足で、装甲車の荷台をつかみ、そのまま上空へとはばたいた。
『バサー……バサ―……』上空でミニドラゴンが水平飛行に移り北を目指して飛んでいると、遥か沖合に船団が見えてきた。
「ようし、ミニドラゴン!先頭を航行している一番大きな戦艦を狙ってくれ!その上をまずは旋回だ!」
ミニドラゴンに指示を出す。船団の先頭を航行しているひときわ大きな戦艦は、巨大な海軍旗を掲げているところから見て旗艦であろう。大将が乗船しているはずだから、この船を制圧してしまえばこっちのものだ。
『ドーンッドーンッ』『ドドドドドッ』船団に近づいていくと、船から大砲や機関銃で砲撃が始まった。
ミニドラゴンはうまくジグザグにかわしながら飛んでいくが、簡単には接近できそうもない。港の駆逐艦は丘の上の城の大砲ばかりを警戒していたから、急に舞い込んだ俺たちには焦点が合わなかったので幸いしたが、なにせ、今は周りに何もない海洋上だ。突然の襲撃相手に集中砲火となるのは仕方がない。
一応装甲車の装甲は鉄板の内側にさらに石膏ボードが貼り付けてあるから、距離のある機関銃の銃撃程度なら何とかなりそうだが、大砲が直撃すれば吹き飛ばされてだろうから、そのままでは突っ込めない。
「大津波!」
『ザッパァーンッ』トオルが唱えると、突然発生した大波が船団を襲う。巨大戦艦は大きく揺れただけで済んだようだが、並走する2隻の護衛艦は横波を食らって転覆した。
「大炎玉!大炎玉!大炎玉!」
『ボワボワンッボワボワッボワボワー』ショウが唱えると、巨大な炎の玉が旗艦に向かって山なりに飛んでいく。『ボーンッ』『ボーンッ』『ボーンッドッガァーンッ』6つの巨大な火炎はこれまた巨大な砲門に衝突し、そのうちのいくつかは引火して暴発したようだ。
『シュシュシュシュシュシュシュシュシュッ』更にナーミの放つ雨のように降り注ぐ矢が、旗艦甲板上の船員たちに襲い掛かっていく。『わーわーわー』船員たちは悲鳴を上げながら甲板上を逃げまどっているようだ。
「ようしっ、今のうちだ。ミニドラゴン!あの大きな戦艦の甲板上に、下の荷台を下ろしてくれ!そのあと、すぐ上を小さく旋回したら、そのまま上空へ昇って後はショウの命令を聞きなさい、いいね?」
「ぐぅおーん……」
甲板のあちこちで黒煙が上がり始め、船員たちが右往左往し始めた今がチャンスだ。
『バッサバサバサ』ミニドラゴンは急降下しながら、先頭を航行する巨大戦艦に突っ込んでいく。
『ドザザザザザッ』ちょっと乱暴だが、甲板すれすれで荷台を離し、荷台は前方甲板上を滑っていった。『バサバサバサッ』続いてミニドラゴンは、下ろした荷台の上で小さく旋回を始めた。
「ようしっ行くぞ!」
「はいっ!」
『ダッ……シュタッ』『シュタッ』タイミングを見計らいシートベルトを外し、ミニドラゴンの背から飛び降りて、荷台の屋根に飛び移る。
「くぅおー……」
『バサッバサッバサッ』そうしてミニドラゴンは2人を乗せ、上空へと羽ばたいていった。
『ドンドンドンッ』「ようしっ!みんな出てくれ!突入だ!」
荷台の屋根を叩いて、剣士たちに合図する。
『ガチャッ』『ダダダダダッ』すぐに荷台の扉が開き剣士たちが駆けだしてき、『わーわーわー!』ついに白兵戦が始まった。守備側の旗艦の兵たちと剣士たちが斬り合いを始めたので、『スタッ』『タッ』すぐにトオルとともに屋根の上から飛び降りる。
「だりゃあっ……。」
『キン……ボガッ』『キンッ……ドズッ』空からの飛来物に集まってきた兵の斬りつけてきた剣を、鉄パイプで弾き左から袈裟懸けに叩きつけ、さらに右から斬りつけてきた剣を手首を返して上段で受けると、そのまま滑らすように手首を回転させて左手を添え、敵の右わき腹から水平に叩きつける。
「ううう……。」「っぐうううう。」
敵兵2名が苦しそうにその場に倒れ伏すが、構わずに船の後方へと突っ走っていく。
「水弾!水弾!水弾!」
『バシュッ……ボゴッ』『バシュッ……ドガッ』トオルは水弾で目をつぶしてから、刃をつぶした長刀で気絶させていく作戦のようだ。
「とりゃあっ」
『キンッ……ボゴッ』その後も休まずに、向かってくる敵兵を鉄パイプで一撃のもとに打倒していく。
『キンッキンッシュパッ』『キンッシュッパンッ』『キンッジュバッ』さすが剣術の教官をやっているだけあって、連れてきた十名の剣士たちは優秀で、後から後からやってくる敵兵をものともせずに、突き進んでいく。
巨大戦艦の前方から斬りこんできたが、すでに甲板の半分以上のところまで進軍出来ているようだ。
『バサッ……バサッ……』『シュシュシュシュシュシュシュッ』『ボワーンッボワーンッボワーンッ』更に、ミニドラゴンが旋回してくるたびに、ナーミとショウの援護射撃が襲い掛かってくるので、敵兵の半数近くは敗走を始めた。といっても、ここは海洋上の戦艦の甲板……逃げられる場所などどこにもないのだが……。
「おーい……大砲の教官と一緒についてきてくれ。艦橋まで行って、この船を制圧する。」
戦況はかなり有利になっているので、ここで一気に攻めつぶす作戦に出る。敵主砲を使えなくするために、甲板だけでもなんとか制圧して、チェーンで固定してでも砲門を動かなくさせてやろうと考えていたのだが、ここまで来たらちょっと欲が出てきた。
ソーペラに指示を受けていた巨漢の兵士を見つけたので、すぐに呼び寄せる。確かカーヌンと呼ばれていたはずだ。
「はっ……かしこまりました。おいっ……行くぞ!1名は残って、この甲板を剣術の教官たちと制圧しろ!」
『はっ!』
カーヌンが一緒に行動していた3名の小柄な砲兵たちに命じると、兵士たちは直立して敬礼をした。大砲の教官は元冒険者ではなく、ベテラン軍人なのだろうな……。
「あんまりかしこまらなくてもいいから、ついてきてくれ。それと、自分の身は自分で守ってくれよ。」
炎や矢が飛び交う中で、堅苦しい階級とかは関係ない。それよりも自分の身を自分で守れるかが重要なのだ。
「はっ……お任せください。」
『シャキンッ』カーヌンは即座にすらりとした長剣を2本両手で抜いた。2刀流か……。
『ガチャッ』『ガチャッ』『ガチャッ』砲兵たちは肩から下げていた大口径の銃を、それぞれ構えた。
「ようし……じゃあ行こう!」
『タタタタタッ』甲板奥にある艦橋へと駆けていく。敵兵の大多数はこの襲撃で甲板に出てきているはずだから、中はかえって手薄なはずだ。『カチャッ』『タタタタッ』建物の入り口扉を開けて中へ入っていく。
「おおっ……だりゃあっ!」
『ボガンッ』中は通路になっていたが、奥から剣を持った兵士が斬りつけてきたところをかわして、鉄パイプで頭を一撃。まあ兜をかぶっているから死なないだろう。内部の見張り番の兵士だろうな……。
「こっちだ。」
『カンカンカンカンッ』通路のすぐ右側に階段があったので、そのまま鉄のステップを上がっていく。戦艦の構造なんて詳しくはないが、この一番上の大きな展望室のような場所が操作室のはずだ。狭い階段なので、上から銃で撃たれたら避けようがないため、冒険者の袋からこの間購入した大きな盾を取り出す。
「おおっ……賊だっ賊が侵入したぞ!」
『ダダダッ』『シュパッ……シュッパンッ』下の方から声がすると思ったら、最後尾のカーヌンが一瞬で昇ってくる2名の敵兵を斬り捨てた。なかなかの腕前だ。
途中いくつもの分岐の扉があったが、委細構わずにひたすら上へ上へと昇っていくと、ステップが終わり登り口に鉄製の大きな扉が見えた。あれが艦橋へと続く扉であろう。




