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オーチョコ港

「じゃあ出発するぞ、準備はいいか?」

「ばっちりよ……任せて……。」

「万全です、問題ありません。」

「僕も大丈夫。」


 グイノーミ手前で野営した翌朝、朝食後に身支度を整え出発前に全員に確認する。すでに荷台はミニドラゴンの背に積んである。


「多分、日のあるうちにオーチョコの港に到着できるだろう。まだ敵船団が来ていないことを祈るのみだが、状況によっては、戦闘の真っただ中に突っ込まなければならないかもしれない。

 船団到着前であれば、オーチョコに侯爵の居城がある。その息子が友人なのだが、そいつに警告をしてから北へ向かって飛び、船団の鼻っ柱に攻撃する。少しでも到着を遅らせることができれば成功だ。


 すでに戦争の火ぶたが切られている場合は、何とかして加勢をする。飛行するミニドラゴンの上からだから、ナーミとショウに頼ることになる。どちらにしても到着したら合図を送るから、前方の覗き穴を開けてくれ。」


「わかったわ。」

「じゃあ、乗り込んでくれ。すぐに出発だ。」

 俺とトオルが御者席へ乗り込みシートベルトをして、ナーミとショウは後方から荷台へ乗り込んだ。


「よし、いくぞ。立ち上がらずにこのままの姿勢で、ゆっくりと上昇してくれ!」

『バサッバサッバサッ』そう命じると言葉が伝わっているかのように、ミニドラゴンは腹ばいの姿勢のままで翼だけを動かしてゆっくりと上昇し始めた。



『バサッ……バサッ……』ゆっくりとした翼の動きではあるが、眼下の景色は目まぐるしく切り替わっていく。そうして夕方前には、はるか先に海が見えてきた。オーチョコへ着いたのだ。


 自然の要害のように両側に突き出た岩場が湾を形成している港町は、上空から見ると半分ほどは原野から続く平地で、もう半分の奥側は小高い丘になっている。丘の海に面している部分は切り立った崖になっており、丘の上には日本のお城のような居城が港を見下ろすようにそびえたっている。


 あれがトーマの友人の侯爵の息子の居城、オーチョコ城だ。


『パーン……パーンッ』『ゴォー』『ゴワーッ』近づくにつれて、砲撃音に爆発音などが響き渡ってきて、港の建物のそこかしこから煙が上がっているのが確認された。


 すでに戦争は始まっているようだ。港の中には何艘もの漁船のほかに、大砲や兵士を積んだ戦艦が入り込んでいて、丘の上の城に向かって砲撃を開始していた。


「ミニドラゴン、北だ……北へ向かってくれ。それともう少し上昇だ!」

 そのまま港を素通りして、北へ向かう。港にいる戦艦よりももっと巨大な戦艦が、北方山脈の断崖から眺めた時にはいたはずだ。


「あっ……はるか先に船影が見えます。」


 北へ進路を定めたミニドラゴンが少し上昇すると、遥か沖合に5隻ほどの船団が見えた。距離と大きさから考えて、あの時に見た巨大な戦艦に間違いがない。3隻の戦艦と護衛艦2隻は、間違いなくこちらに向かって航行していた。こいつらが湾の中に入りこんだら、恐らく太刀打ちできないだろう。


 恐らく巡行速度の差だな……大きい分あまりスピードが出ないのかもしれない。すでに宣戦布告したので、全速で航行して到着次第先行で攻撃を開始しているのだろう。小さな戦艦は駆逐艦の類だろうな、いわゆる露払いに値するのではないか。


 カンヌールの海軍は到着していないようだ……そりゃそうだ、昨日時点でモロミ渓谷に陸軍を派遣して北方山脈からの進行を警戒しているということだったからな。


「ようし……ミニドラゴン……港に戻ってくれ。」

『バッサバサバッサ』すぐにミニドラゴンは旋回して港へ向きを変更した。


 戻ってきてみると、城からも大砲で反撃しているようで、駆逐艦もなかなか港の岸壁までは近づけないと見え、城への被害はまだ免れている様子だ。丘の上という地理的優位点が幸いしたな……。


『ボワッ』『ボワッ』『ボワッ』突然、数隻の駆逐艦から巨大な炎の玉が発せられ、丘の上の城に向かって飛んでいった。まずいな……敵は火の精霊石を持つ魔法使いを数人連れてきているようだ。確かに城攻めとなると火の精霊球は重宝されるだろう。大砲よりも飛距離は長いし、強力だ。


 術者のレベルにもよるが、狙いだって正確につけられるはずだ……ただし視認できさえすればだが……。

 丘の上の城だから、海上からではその細かな配置までは分かりにくいのだろう。今のところは、あてずっぽうで炎を発しているだけだ。急がねばならない。


『ドンドンドンッ』『カチャッ』「もう着いたの?」


「ああ……すでに戦争は始まっている。位置についてくれ。少し敵の戦力を縮小させる必要性がある。」


「わかったわ……。」

 ミニドラゴンに上空でホバリングさせ、ナーミとショウが出てきて荷台の側面に取り付けた革ベルトで、それぞれの体を固定させる。


「よしっ……行くぞ!ミニドラゴン……港にいる戦艦の上を周回してくれ。」

「ぐぅぉーん。」

『バッサバサバサ』すぐにミニドラゴンは旋回をはじめ、港に向かって急降下を開始した。


「大津波!」

『ザッパァーンッ』巨大な波のうねりが発生し、1隻の駆逐艦がそのうねりに負けて横に倒れ転覆した。


 そうか……港だったら豊富な水があるのだから、トオルの威力ある範囲攻撃が使えるわけだ。意外と戦えるかもしれないぞ。


「大炎玉!大炎玉!大炎玉!」


『ボワボワッボワボワッボワボワッ』直径5mを超す大きな炎の玉が、海上の駆逐艦の甲板に襲い掛かる。転覆した駆逐艦の乗組員を引き上げていたのも中断して、甲板の兵士たちは船室へと引き上げていった。何せ1回唱えると2発の炎の玉が発せられるのだ。合計6発、これも2つの火の精霊球を所持している効果だ。


『シュシュシュシュシュッ』さらにナーミの放つ矢は、正確に駆逐艦の甲板にいる、ローブをまとった船員の足や肩を射抜いていく。格好から見て、奴らは魔法使いだろう。けがを負わせて、とりあえず引っ込めさせるつもりのようだ。いい判断だな……。


 深手を負わせておけば、僧侶の回復魔法や回復水を使ったとしても、完治には時間がかかるからな。


「大津波!」

『ザッパァーンッ』


「大炎玉!大炎玉!」

『ボワボワッボワボワッ』『シュシュシュシュシュシュッ』ミニドラゴンが港内を旋回しながら、大津波や巨大炎に矢で攻撃を仕掛け、敵攻撃をあらかた喪失させた。


『タタタタタタッ』『シュシュシュシュシュシュシュッ』すると、港の岸壁に鎧で身を固めた兵士たちがやってきて、彼らも敵駆逐艦に向かって矢を射かけ始めた。恐らく港警固の兵士なのだろう。あまりの敵兵力に委縮して、反撃できずにいたわけだ。援軍が来たので、自分たちも表に出て攻撃を開始したのだろうな。


 そりゃそうだ……巨大戦艦3隻と駆逐艦だけでも十隻以上いるからな。数十人だけの兵士じゃあ、戦線放棄して逃げ出さなかっただけでもまだましなほうだ。


「大変です!水竜の群れが、城へ進軍中です!」

 御者席隣に座るトオルが突然叫ぶ。急いで振り返ると、オーチョコ城の下側の垂直に切り立った崖を、青色の竜が数頭よじ登っていく。まずいな……あんなのに攻め込まれたらひとたまりもない。


「ミニドラゴン!城に向かってくれ!」

『パンパン』すぐに御者席から身をかがめてミニドラゴンの背中を叩くと、丘の上の城を指さす。

『バサー……バサー……』ミニドラゴンはゆっくりとはばたくと鋭角に旋回し、丘を目指した。


「崩落!」


『ガラガラガラッ』『…………バッシャーンッ』つかんでいた岩場が一瞬で崩れ、はるか数十メートル下の海面に巨大な塊が激突する。人間なら大怪我か下手すりゃ死んでいるかもしれないが、水竜ならダメージなどないかもしれない。


「崩落!崩落!崩落!崩落!」


『バッシャーンッ』『バッシャーンッ』『バッシャーンッ』『バッシャーンッ』次々と崖をよじ登っていた水竜を崩落で滑り落としていく。崖の地盤を大きく削ってしまうと城も崩れ落ちる危険性があるため、威力を絞り本当に崖の表面の岩だけを崩落させるよう、細心の注意を払った。


 それでもあの巨体だ、ちょっと岩を砕くだけで体を支えているとっかかりをなくして、水竜たちは次々と落下していった。ダメージはなくてもいい。それでも崖を登って城まで達することは困難だと気付くはずだ。

 そう思わせるだけで、ある程度の時間は稼げる。


「ミニドラゴン!もう一度港の中を旋回してくれ!」

 ミニドラゴンに、また港上空を旋回するよう命じる。


「また、敵戦艦を攻撃してくれ……一旦攻撃したら、城に降りる。現兵力を確認する必要性もあるからね。」


「了解いたしました。」

「わかったわ……任せて……。」

「うん……わかった……。」

『バッサバサバサ……』ミニドラゴンはまたもや急旋回して、湾内へ戻る。


「大津波!」

『ザッパァーンッ』またもや駆逐艦の一隻が巨大な波にのまれ、バランスを崩し転覆する。岸壁へたどり着いた敵兵は、港の守備兵に引き上げられて捕えられていくだろう。


「大炎玉!大炎玉!大炎玉!」

『ボワボワッボワボワッボワボワッ』そうして巨大な炎の玉が、残った敵駆逐艦の甲板を襲う。


『シュシュシュシュシュシュシュシュッ』さらにナーミの放つ矢が、敵駆逐艦の甲板に居残る兵士たちの肩や足を射抜いていく。これにより大幅に敵戦力を奪うことができたであろう。


「ようしミニドラゴン!一旦、あの丘の上の城に降りてくれ!」

『バチッ』ミニドラゴンの背を叩いて、またまた丘の上の城を指さす。


「ぐきゅーむ」

『バサバサッ』ミニドラゴンは、またも急旋回して丘を目指した。


「ようし……いいこだ……ゆっくりと降りてくれ!」

『バッサバサバサ』ミニドラゴンは、腹ばいの姿勢でゆっくりと城の中庭に降り立った。


 中庭から、塀のそこかしこに開いた穴から大砲を操作していた兵たちが一斉に逃げ出し、遠巻きにミニドラゴンを囲んでいる。飛竜はカンヌールの守護竜だし、先ほどの戦いを見ていたから、敵ではないと分かっていても、正体が分からないので容易に近づいてはこないだろうな……。


「ナーミとショウは降りてくれ。トオルは一緒に荷台を下ろすのを手伝ってくれ。」

 すぐにナーミとショウは革ベルトを外してミニドラゴンの背から降りて、俺とトオルは城の兵士にお構いなしにミニドラゴンの背から荷台を下ろし始める。


「よーしよし……偉かったな……。」

 すぐにミニドラゴンの前に行って、頭を撫でてやり労わってやる。


「きゅーむ……。」

 甘えてくるミニドラゴンの腹を見ると、ところどころ煤けていたり、血がにじんでいるようだ。背中に乗っている俺たちは平気だったが、下からは駆逐艦から銃撃されたり炎で攻撃されたりしていたのだろう。


 いくら竜族の鱗が固いと言っても、執拗な攻撃を受ければ傷つくわな……。


「悪かったな……回復水を飲んでくれ。」

 すぐに冒険者の袋から回復水の竹筒を取り出して、手のひらで受けながらミニドラゴンに飲ませてやる。


「ぐきゅーむ……ぐきゅぅ……。」

 ミニドラゴンは、うまそうに回復水を何本も飲んだ。


「おやおや……どこぞの英雄かと思ったら……わが友トーマじゃないか……久しぶりだな……。

 親友の窮地に駆けつけてくれたのか……有難いことだ……。」


 ミニドラゴンの相手をしていたら、背後から声を掛けられた。振り向くと懐かしい顔が……甲冑に身を固めたその姿は……トーマの記憶では友人の侯爵の息子ソーペラ・オーチョコ5世だ。まあ、トーマ同様間にミドルネームが山ほどどつくが、省略だ。オーチョコの港の守護を仰せつかっている、いわゆる防人だ。


「代わりましょう……。」

 すぐにトオルが寄ってきたので、ミニドラゴンに回復水を飲ませるのを代わってもらう。


「久しぶりだな……元気だったか……という挨拶は適切ではないか……この状況ではな……。

 冒険者になって、とあることからサーケヒヤーの艦隊がオーチョコを目指している場面に出くわした。


 いやな予感がして戻ってみたら、カンヌールに対して宣戦布告をしたと知らされ、これはまずいと思って急遽オーチョコへ応援にやってきたというわけだ。昨日の夕方には、グイノーミのギルドから、ジュート王子様宛にサーケヒヤーの戦艦がオーチョコに近づいている旨の電信を打ってある。


 援軍といってもたったの4名だけだがね、それでも何かの役には立つはずだ。

 こちらの戦力状況など聞かせてくれるかい?」


 懐かしい友人と抱擁する。彼がノンフェーニ城を引き受けてくれなければ、冒険者になることもできなかった。いくら赤字続きでも、小作人や使用人たちを放り投げて、自分勝手に旅立つことなど到底無理だったからな。


 そう考えれば冒険者になった俺たちが、サーケヒヤーの異常な行動に気づき、この城の窮地を察してやってきたのは、何か運命的なものを感じるな。


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