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戦争前夜

『バサバサバサッ』ロケット発射台の宇宙飛行士ではないが、ミニドラゴンの背中に革ベルトで装甲車の荷台を固定しているため、飛び立つ瞬間は御者台に座りほぼ仰向きになった状態だったが、飛行時は水平になっているから、周囲の確認もできて人心地つく。


 なにせ、これまではミニドラゴンの背に荷台を横向けに固定し、いわば担がせていた状態だったが、今度は荷台の底部分をミニドラゴンの背に乗せているのだ。こんな不安定な状態でロープで無理やり固定すれば、ミニドラゴンだって嫌がるだろうと考え、革ベルトでしっかりと固定できるように改善したのだ。


 トオルが気を利かせて、御者台にも2人分のシートベルトを取り付けてくれているところを見ると、ナーミたちと一緒に荷台部分にも革ベルトを取り付けたのだろうと考える。発案者が誰かはわからないが、さっき帰った時にトオルとナーミたちがもめていたように見えたのは、恐らくやらせだろう。


 どうしてもナーミとショウが一緒に行きたいと言って聞かない状態を理解させ、3人で何とか俺を言いくるめようとしたのだろう。だからトオルはあっさりと折れたのだ。


 だがまあ仕方がない……彼らがいっていることもわかるし、何でもかんでも頭ごなしに否定したところで、人を納得させることなどできはしない。何よりも、自分が何もできずに大切な人を失ってしまうということはつらいことだ。俺やトオルがナーミにとって大切な人かどうかはともかく、大切な仲間であることは確かだ。


 ショウというかエーミは俺のことを父親のように慕ってくれているし、トオルは生まれた時からトーマのお付きとして育てられたせいか、俺と離れたがらない。何度も危ないところを助けられ、俺にとってもトオルはかけがえのない存在となっている。更にナーミとエーミは実の姉妹だからな。


 誰かがたった一人で戦いに行くと言い出したところで、絶対に許しはしない。一緒に行って戦うであろう深い絆があると考えている。そうだ……俺たちはみな互いが大切な存在になりつつあるのではないかと考え始めている。だったら一緒に行こう……辛い結果になったところで……いや……絶対に辛い結果などにはしない。


 俺が何としてでも、みんなを守り抜くのだ……たとえこの命を失ったとしても……。


 みんなと違って、俺の場合は一度失った命なんだ……この世界に転生してからまだ2ヶ月ほどだが、33年間のこれまでの人生よりもはるかに濃くて充実した生活を送れている。


 それは信頼できる大切な仲間たちがいたからだ。その仲間を守り抜くためなら、この命をいつでも差し出す覚悟はできている。多分この体の本当の持ち主であるトーマだって、それを許してくれるはずだ。



「ミニドラゴン……そろそろ降りてくれ!」


『バザッバザッバザッ』日も暮れてきたので、視界のあるうちに降りるようミニドラゴンに指示を出す。後ろ足で立たせると、荷台が傾いてしまうので、着陸地点上でホバリングさせ腹ばいに下ろさせてみた。これなら中のメンバーも、驚かずに済むことだろう。飛び立つときも腹ばいから垂直に飛び立たせてみるか……。


『ドンドンドンッ』「おーい……着いたぞ……降りてくれ。」

 地上に降り立ち、荷台をミニドラゴンの背から降ろすため、ナーミたちに降りるよう呼び出す。


「なあに……もうオーチョコに着いたの?ふあーあ……。」

 ナーミはパジャマ姿で、寝ていたのか寝ぼけ眼だ。


「えー……もうオーチョコ……?」

 さらに、ショウではなく少女に戻っているエーミも、パジャマ姿で目をこすっている。


「ここはまだ、グイノーミの手前だ。オーチョコまでは飛竜で空を飛んでも2日はかかるだろう。暗くなって方向を失ったら危険だから、今日はここまでだ。ミニドラゴンをグイノーミの町まで連れていくわけにはいかないから、ここで野宿する。」


 2人を荷台から降ろして、トオルと2人でミニドラゴンの背から荷台を外して降ろす。最初は4人がかりだったが、なれると2人でもなんとか乗せ換えれるようになってきた。当面馬車として使わないため、荷台の4隅の底には土台用のコンクリートブロックを取り付けたので、水平だしも楽だ。


 成獣のドラゴンは、暴れると非常に危険なので、町中へ連れて行ってはいけないという法律がある。街中では子供のドラゴン以外は飼育してはいけないのだ。だからこそ、食事制限をしてミニドラゴンを成長させないようにしていたのだろうが、事情が事情だけにやむを得ない。


 町の手前歩いて1時間ほどの、街道から少し離れた場所に空き地を見つけ、野宿することにしたわけだ。


「じゃあ、俺はちょっと町まで行って、様子を確認してみる。軍隊の動向など気になるからな。すぐに戻ってくるから、みんなはここで飯でも食って待っていてくれ。」


「私も一緒に参ります。」


「だめだ……ショウとトオルはミニドラゴンと小さなころから面識があるから、それなりになついているはずだ。成獣になったばかりでかなり気が立っているはずだから、悪いが2人がかりで押さえていてくれ。ここで暴れさせるわけにはいかない。」


 申し訳ないが、トオルたちにはミニドラゴンの面倒を見てもらうようお願いする。


「じゃあ、あたしが一緒に行けばいいわね……ミニドラゴンは嫌いじゃないけど、2人いれば十分だものね。」

「あー……ずるーい……。」

 ナーミが言い出すと、すぐにエーミがほほを膨らませる。


「頼むよ……困らせないでくれ……戦争が終わったら、いくらでも買い物に行けるから……。

 なっ?ミニドラゴンが飛竜になったわけだから、ひとっとびだから……今日だけは……。」

 みんな町に行きたい気持ちは分からないでもないのだが、ここは留守番をお願いする。


「別に買い物に行きたいわけじゃ……分ったわよ……でも……気を付けてよね……。」


「ああ、もちろんだ……それにここは、どちらかというとホームグラウンドだからな。全く問題ないさ。」

 3人を置いて、急ぎ足で町へ向かう。



『ギイッ』町へ入ると、ひときわ大きな建物を目指し、扉を開けて中へと入っていく。


「いらっしゃいませ、グイノーミギルドへようこそ。ギルドでは冒険者の方のあらゆるサポートをいたします。

 どんなことでも、ご遠慮なくお申し付けください。」


 どこのギルドでもそうなのだろうが、美人の受付嬢が俺の姿を見ると笑顔で語りかけてきた。コージへ向かっていた時にグイノーミは経由したのだが、ギルドは素通りしたからな。


「ずいぶんと閑散としているようだが、百年ダンジョンで盛り上がっていたのじゃなかったのかい?」

 ギルドの中は冒険者の姿はまばらだ……既に日は暮れているからとも思えるが、コージーギルドではこれくらいの時間は、清算に訪れる冒険者たちで混みあっていたはずだが……。


「はい……百年ダンジョンのクエスト受付中は、連日ギルドに入りきれない冒険者たちで行列ができるほどでしたが、今ではほとんど冒険者様たちはいらっしゃいません。


 百年ダンジョン攻略後の反動というよりも、カンヌールが戦火にさらされることを恐れた冒険者様たちが、安全地帯であるカンアツへ避難してしまったことが原因と、ギルドでは分析しております。」

 美人受付嬢は、意外と冷静に分析しているようだ。


「ああそのようだな……君たちは避難しなくてもいいのかい?」


「はい……ギルドは完全中立機関でして、職員も含めましてどこの国にも属しておりません。ですから、ギルド関係施設は安全です。」

 受付嬢は笑顔で答える。そういやそんなことを言っていたな……。


「いくら中立といっても、カンヌールにいるわけだから、この国の事情はある程度把握しているわけだろ?サーケヒヤーに宣戦布告されて、カンヌールの軍隊はどう配備されている?オーチョコなどの港町には、当然海軍を派遣しているはずだよね?」


 カンヌールの軍隊の配備状況はどうなっているのか、さすがにタールーで見たカンアツ発行の新聞には記載されているはずもなかったからな。


「はあ……港町……ですか……カンヌールでは国境近辺である北方山脈……特にモロミ渓谷を警戒して、陸軍の主力を派遣したと聞いております。大陸の南側には港町がありますが、間に中立のカンアツがあるので海からの攻撃は警戒していないようです。


 カンアツには王宮から直接問い合わせて、中立をしっかりと確認されたと、この地方の新聞には記載されておりましたね。」


 美人受付嬢は、とりあえず知っている情報は素直に教えてくれているようだ。まあ、こんな事うそを言っても始まらないだろうが……。


「そうじゃない……サーケヒヤーは海から……数十隻の戦艦を使って攻め込もうとしているんだ。

 悪いが王都宛に電信を打ってもらえないか?ジュート王子宛にトーマからだと伝えれば、受け取ってもらえるはずだ。」


「はあ……そりゃあ……料金さえお支払いいただければ……電信サービスは承りますけど……王都にもギルドはございますし、王宮には電信装置もありますから、直接送信することも可能です。

 ここに、送付する電信文を記入してください。」


 受付嬢は、原稿用紙のようにマス目の入ったA4用紙を手渡してくれたので、そこに必要事項を記入する。


・5日前に中立地帯である北方山脈の崖上から北海を見下ろした時に、そこに数十隻の戦艦がいたこと。

・海軍旗には水竜が描かれていて、サーケヒヤー国の戦艦であることは確認済みであること。

・戦艦の船団は、西向きにかじを取ってそのまま航海していったこと。 

・戦艦のスピードから察するに、明日か明後日には北方の港町オーチョコへ達すると想定していること。


 余計な装飾や憶測を書き込まず、簡潔に要点をまとめ、事実と分かっていることだけを箇条書きにした。


 カンアツの王子が襲われている場面に出くわしたことは、サーケヒヤー国の宣戦布告との関係がはっきりしていないので記載しなかったが、戴冠式の朝に王子が襲われた場面で、身元照会のために使ったミュージカルの歌の1小節のくだりを、トーマであることを信じてもらうために付け加えておいた。


「構わないから、直接王宮へ送信してくれ。」


 記入した用紙と冒険者カードを受付嬢に手渡す。送信文の名前はくれぐれも本名でと、お願いした。これでいいだろう。うまくすれば、モロミ渓谷へ配備された陸軍をオーチョコへ回せる。移動に日数はかかるだろうが、王都よりはまだ近い。


 ギルドを出てから、町の居酒屋の様子を見てみたが、意外と平然と営業していた。村人たちも結構呑気で、実際に戦争が始まるまではまだまだ1週間以上かかるだろうと予想しているようだ。


 まあそうだろうな……サーケヒヤー国との距離と移動時間を考えれば……そうなってしまうが……宣戦布告よりも前に戦艦を送り込んでいたとすれば、話が変わってきてしまう。


 町の商店なども平然と営業していたので、戦争への警戒はほぼゼロといったところだ。ここですぐに攻めてくるだのなんだと叫んでも混乱させるだけなので、町を出て野営地点へ戻る。



「どうだ……ミニドラゴンはおとなしかったか?」

 遠くからでも大きな目印となるミニドラゴンは見つけやすかったが、装甲車の荷台の前の焚火の前にはトオルが座っているだけだった。


「そうですね……暴れる様子もなく……それでもちゃんと周囲を警戒してくれていましたよ……成獣になっても、おりこうさんのようですね。


 食事はまだですよね?炎牛のモモ肉のシチューです。熱いから気を付けてくださいね。

 町の様子はどうでしたか?」

 トオルが火にかかっている鍋から、お玉で大きめの肉をすくって皿に盛り、手渡してくれた。


「おお……悪いね……やはり戦艦がやってきていることには気づいていなかったようだ。グイノーミのギルドで様子を聞いて、王宮宛に電信を打ってもらった。うまくすればオーチョコへすぐに兵を送ってもらえるだろう。ふーふー……あちっ……。


 町の様子も……冒険者たちはすでにカンアツへ逃げ込んだようだが、町人たちは戦争が始まるのはもう少し先のように感じているようだ。明日か遅くとも明後日には火ぶたが切られるというのにな。ふーふー……。」


 大きな角肉は、フォークで突き刺すだけで崩れるほど柔らかく煮込まれていて、温かいスープと一緒に口に含むと、噛まなくてもとろけるようで、体中に染み渡った。


「そうですか……間に合えばいいですね……。」

「間に合うさ……というか、俺たちが行って時間稼ぎをしてでも、間に合わせるさ……。」


「そうですね……そのためにやってきたのですからね……。」

 俺たちがやってきた意味を説いて見せると、トオルが笑顔を見せた。


「それはそうと、ずいぶんと静かだが……ナーミたちはどうした?」

 どうしてトオルだけなのだ?まさか……。


「ナーミさんとエーミちゃんは……昨晩遅くまで……」


「昨晩遅くまで、俺をどうやって言いくるめようか、トオルと一緒に考えて何度も練習していたわけだな?」


「知っていましたか……?何でもお見通しですね……。飛竜で飛んでいるときに眠ればいいと言っていたのですが、興奮して眠れなかったのでしょうね。食事して、それでも日々の訓練だけはちゃんとこなしましたよ。でもそのあとは……バタンキューでしたね。」


 トオルがちらりと背後の荷台を振り返る。まあ、仕方がないな……まだまだ子供だ……。


 遅めの食事後、俺とトオルの剣技の訓練をして、俺だけは魔法の訓練を残していたので、トオルを先に眠らせた。この辺りは町から外れてはいるが街道に近いので、魔物たちも襲ってくるようなことはないので安全だ。


 明日はいよいよ戦争だ……だが俺たちは戦うのではない……戦いを治めるか、あるいは時間稼ぎをしに行くのだ。

 

続く


だまし討ちのようにして攻め込んでくるサーケヒヤー国の船団。ワタルたちは間に合うのでしょうか?そうして、サーケヒヤー国を救うことはできるのでしょうか?注目の第5章は、明日から連続掲載いたします。

いつも応援ありがとうございます。作品への評価やブックマーク設定は、連載する上での励みになります。お手数ですが、ご協力いただけますとありがたいです。よろしくお願いいたします。

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