表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/216

宣戦布告

「そんなことはないだろう……サーケヒヤー国とカンヌール国は戦争こそしていないが、国交も希薄で軍艦が行き来するような関係ではないはずだ。カンアツ国であれば別だがな……合同軍事演習など考えられん。」


 そう……両国は過去のつまらぬいきさつから仲が悪く、国交断絶の関係ともいえるのだ。両国ともに中央のカンアツ国とは国交があって友好関係にあるのだが……。


「そうですね……だから心配です……まさか、過去のわだかまりから戦争など……起きては欲しくないのですが……。」

 トオルが不安そうに眉を顰める。


 事の発端は、サーケヒヤー国の国務大臣が酒の飲みかたについて、直接飲む飲みかたと暖めて飲む飲みかた、どちらを推奨するかというメディアからの質問に対して、常温で飲むもよし冷やして飲むもよしと答えた。

 そうして暖めて飲む飲みかたも推奨するが、中途半端はよくない。暖めるなら口にしたときに、少し熱さを感じるくらいの飲みかた以外はだめだと主張したことから始まったと伝えられている。


 その言葉に対して、古くから酒を少しだけ温めて飲む習慣があったカンヌール国が猛抗議。酒にはいろいろな楽しみ方があってしかるべしであり、その飲みかたに関してまでいちいち評される筋合いはないと撤回を求めた。ところが、サーケヒヤー国ではその抗議を全く無視。


 中途半端な飲みかたをする国は、何事も中途半端だからよくないと言った街宣活動まで始めたのだ。一触即発の状態であったところを、カンアツ国が仲裁に入って戦争にはならなかったが、以降百年以上にわたって冷戦状態が続いている。


 かつてこの大陸では3国間で勢力争いのための戦争が絶えず行われていて、どこも敵対国関係であったのが、今では中央のカンアツ国が2国間の橋渡しを行い、何とか戦争を避けられているといった状況なのだ。


「いやな予感がする。急いでギルドへ戻ろう。」

「そうですね……帰ったら何か情報が入っているかもしれませんね。」


 すぐに装甲車の荷台をミニドラゴンの背に括り付け、南へ向かって出発する。途中ナーミとショウだけ荷台で4時間だけ眠らせ、俺とトオルは2時間ずつ交代で見張り番をし、3度の食事は弁当を歩きながら食べた。極力休憩時間を削り、4日半の行程をなんとか3日ほどでギルドまでたどり着いた。


「おやおや……ずいぶんと早かったね。2件のクエスト申請だったけど、1件だけしかダンジョンに潜ってこなかったのかな?」

 ギルドの受付に行くと、受付係の冒険者の青年が意外そうに首をかしげる。


「いや……2件ともダンジョンは攻略してきた。ただし、火の精霊球一つは必要だから、清算する精霊球は一つだけだがね。」

 ダンジョン制覇の証拠として、清算用の精霊球とショウが持っている精霊球を見せる。


「おやおやそうか……君たちのチームには魔法使いがいるんだったね……まあ精霊球をギルドで清算しないのは構わないからね。自分たちで所持しようが、あるいは別の業者に売っても構わない。


 ギルドはどこよりも高く購入するとは言っているが、それはあくまでも表の商売に限るからね。各国の軍隊で購入する精霊球の金額は種類や大きさごとに厳密に決まっていて、吹っかけようがない。せいぜい長期間使用による魔力の蓄積に対する上乗せがある程度だ。


 ところが私設軍隊を抱えている商人なんてのがいてね、そいつらは正規ルートで精霊球を購入しづらい。なにせ、自分のところは軍隊並の兵器を持っていますよって、周りに公言しているようなものだからね。町中に店を構えているような商人が、私設軍隊を所有しているなんてことになると世間体が悪いわけだ。


 だから、闇で購入しようとする。闇ルートでは市場価格の倍くらいの値段で取引される場合もあると聞いているからね。


 ただし、きちんと支払いを受け取ることができればの話のようだがね。だまされて高値で売れるはずが、取引先にドロンされたなんて話が山ほどあるようだから、気を付けるんだね。」

 受付係の青年は、笑顔で受け取った精霊球の鑑定に入った。


「B+級ダンジョンの火の精霊球だね……それと持ち帰った炎牛の肉か……ロースにヒレにバラとモモ肉と骨付きのすね肉だね……それぞれ200キロはすごいよ。それにヒグマンの毛皮と肉……清算金はカードに振り込んでおくから、明細表を受け取ってくれ。当然ながら4日分の遠方料金も加えて精算しておく。」


 受付の青年が明細表をカウンター越しに手渡してくれる。肉の清算金額も、結構な儲けになった。すね肉はミニドラゴン専用だったが、大量の魔物たちを仕留めたので、そっちの肉だけでミニドラゴンは満足してしまったからな。ダンジョン内で確保した分は、移動用の保存分除き、全て清算することにした。


 当面のミニドラゴンのエサ用に、仕留めたホーン蝙蝠の肉を別途クーラーボックスに詰め込んである。


「ああ……俺たちは、今回手に入れた精霊球を使う目的で所持することにした。今後ももしかすると精霊球を所持することはあり得るかもしれない。それよりも……サーケヒヤーとカンヌール間で、何かニュースになっていないか?」

 まずは、急いで帰ってきた心配事を確認する。


「ああ……よく知っているね……今朝の新聞記事を見てごらん……サーケヒヤー国がついにカンヌール国に対して宣戦布告したようだ。これから海軍が軍艦で攻め込むと宣言しているね。恐らくこれから10日から2週間後には、戦争の火ぶたが切って落とされるはずだ。


 まあ、ここは山の中だし、中立地帯だから戦渦に巻き込まれる心配はないさ……ギルドもどこの国にも属してはいない中立組織だしね。」


 受付係の青年が今日付けの朝刊の2面記事を見せてくれる。なんということだ……いやな予感が当たってしまった。しかも今日付けで宣戦布告って……4日前の朝にはすでに中立区域に戦艦が達していたのだから、もっと前から戦争の意思があったはずじゃないか。


 しかもこれから出航するような表現になっているが、後2日もあればカンヌール北方の港町オーチョコに達するはずだ。これはぐずぐずしてはいられない。


 すぐに武器屋に行って剣を研ぎに出す。トオルも長剣とクナイを研ぎに出し、ナーミは大量に矢を補充した。

 さらに防具屋に行って、傷ついた鎧と盾を修復に出す……といっても武器屋と同じカウンターだ。


「ああ……悪いね……防具の修復はここではできないんだ……いや、道具はそろっているんだが、何せ人手が足りない。4人だけですべて賄っているわけだからね。一人がギルドの受付でもう一人が武器防具屋を受け持って、一人が道具屋で残った一人が宿と食堂担当。食堂は4人全員で食事時は対応するがね。


 だから剣を研ぐことはできるが、防具の修復までは手が回らないね。手伝ってくれるのであれば、手順を教えることはできるよ……ここへ来る時に講習は受けてきたからね。それ以外は……王都からの定期便が来たときに王都向けに送るしかないね。来週には修復を終えて戻ってくるはずだ。」


 ううむ……俺の鎧と盾のほかにナーミのビスチェとスカートも、トオルの鎖帷子に忍者装束とショウのローブだってかなり消耗しているのに困ったな……。


 仕方がないので、ナーミにも言われた通りに、体を覆いつくすような大きめの盾を購入しておく。魔法耐性も4種とも20%あるやつで、結構値段は張るがまあいいだろう、命を守る装備だからな。ナーミも銀のビスチェと同等な射者の装備を選択して購入したようだ。


「わかりました……手順をお教えください。自分たちで修復いたします。」

 トオルが、あきらめたように告げる。


「わかった、じゃあ後で手順を教えるから、落ち着いたら来てくれ。」

 武器防具屋担当の青年に別れを告げ、道具屋のブースへ回る。回復水と解毒薬と弁当を補充して、さらに長い革ベルトも大量に購入した。


「ベルトなどどうするのですか?」


「ミニドラゴンに荷台を固定するのに使う。馬車としての固定金具とベルトはあるが、背中に積むときはロープを使っているだろ?あれではゆるんだりしてバランスが変わると、片側だけに力がかかったりしてミニドラゴンがかわいそうだから、ベルトで確実に固定するほうがいいだろう。」


 装甲車の荷台部分を太いロープでぐるぐる巻きにしてミニドラゴンの背中に無理やり固定しているのだが、動きにくそうなのでちゃんと固定できるように荷台の底部分に革ベルトを着けようと考えたのだ。

 いわばおんぶ紐ならぬ、おんぶベルトだな。


「それで……どうされますか?確かに防具の修繕も大事ですが、それよりも、すぐにカンヌールに戻ったほうがよくはないですか?あの戦艦がカンヌールに達するのは本日から2、3日後を予想しておりますが……。」


 トオルが、外に出ようとする俺の後を追いかけるようにしてついてきて尋ねてくる。奴もカンヌールのことを心配しているのだ。


「いや……今から山道を南下したところで、どう急いでも10日以上かかる。そこから更にモロミ渓谷を越えてミニドラゴンの馬車でまた10日ほどかかってようやくオーチョコだ。


 ついたころには戦争など、あらかた終わっているさ、不意打ちだからな。まあ、俺たちが行ったところで戦力になるとも思えないが、サーケヒヤー国の軍勢に一太刀でも浴びせたいという気持ちはある。なにせ、だまし討ちに近い形での宣戦布告だからな。そんな卑怯な手を使う相手を許すことは俺にはできない。」


「じゃあ、どうするのですか?空でも飛べなければ、そんな早くにつくことは到底不可能ですよ。」

「そうだ……空を飛ぶ……。」

「空を……?まさか、ドラゴの実を……。」

 トオルが絶句する。


「そうだ……北方山脈には飛竜の谷と水竜の洞と地竜の巣窟があると伝えられている。ミニドラゴンは飛竜の子供だから、飛竜の谷へ連れて行ってドラゴの実を食べさせれば、成獣の飛竜になるはずだ。このところ栄養がいいせいか、とっくに成獣の大きさである6mを越えているようだから問題ないだろう。


 ただし、それには試練があると伝えられているがね。」


 そう……人に飼育されたドラゴンを成獣にするには、その竜の住処に生えるドラゴの実を食べさせなければならない。しかし、ただ食べさせるだけではなく、その後、その住処に生息する他の成獣と戦って打ち勝つという試練が待っている。


 その試練に合格しなければ成獣にはなれないが、戦うことにより野生を取り戻し、飼い主のところに戻ってこない場合が多々あると言われている。戻ってくる確率はおおよそ50%、つまり半分は戻ってこない。


 ミニドラゴンはトーマと同い年で、数百年の寿命があると伝えられている竜として年齢的には若いが、普通は竜を街中で飼育するために食事制限をして成長を止めているのだろう。


 冒険の旅に出て、仕留めた魔物の肉を与え続けていたらみるみる大きくなって、短期間で城を出た時の3倍近くになった。食事を十分に与えれば、成長も早いということなのだろうと考えている。


 通常は飼い主が生涯を終えた後に、竜の住みかがあると伝えられている北方山脈に放たれるケースが多いと聞いているが、今はそんな悠長なことはいっていられない。ミニドラゴンに成長してもらって飛竜になってもらう必要性があるのだ。疲れきって応接のソファーに寝転がっているナーミたちを置いて、外に出ていく。


「そうですか……ではお供させていただきます。」

 ギルド前の馬小屋に入りきれずに、その外に待たせているミニドラゴンの背中の寸法を測りながら、革ベルトの調整をしている俺の横に立ってトオルが告げる。


「いやだめだ……トオルたちは申し訳ないが、防具の修復をしていてくれ。俺が一人だけでミニドラゴンを連れて行ってくる。飛竜の谷は、カルネが見せてくれた地図に大まかな位置が記載されていたから、行けばわかるだろう。


 しかし竜の住みかでは野生の竜がたくさんいて、侵入者を拒むらしい。連れていく竜とよほど親しい関係でないと、他の竜たちに襲われてしまう危険性がある。


 その上試練を受けて野生化した竜は、その飼い主でさえも殺しかけると言われているから、トオルたちは一緒に来ることはやめたほうがいい。戻ってきたとしても飼い主以外のものには、落ち着くまでは敵意を示す場合があるようだ。だから、俺一人だけで向かう。


 それにうまくいけば、明日には戻ってこられるだろう。すぐに出発するには防具の修復が終わっていることが必須だ。なにせ、戦火の中に突っ込んでいくのだからな。だから、悪いが説明を聞きながら防具の修復をお願いする。


 それから……ナーミとショウは……連れて行きたくないな……わかるだろ?」

 トオルたちには、こちらで戻り次第すぐに出発できるよう準備をお願いしておく。


 さらに、ショウはともかくナーミはカンヌールとは何の関係もないはずだからな。カンヌールを救うために命を懸けて戦う必要性はないだろう。


 さらに……国同士の戦いということは、人と人との戦いになる……つまり殺し合いなのだ。ダンジョンで魔物を退治するのとはわけが違う。身の危険ということよりもナーミとショウには、そんなことをさせられるはずもない。


 もちろん俺だって人間同士の殺し合いは絶対に嫌だが、現にカンヌールが攻め込まれているのだ。母国を救うために戦うつもりでいる。


「わかりました、ナーミさんとショウ君には私から説明しておきましょう。」

「じゃあ、頼むよ……。」


 トオルたちを残し、革ベルトの長さ調整をしてミニドラゴンの体に装着したのちに傷ついた鎧と盾を預け、予備の先祖伝来の鎧を装備して、ミニドラゴンと西へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ