B+級火のダンジョン
すいません、題目間違っておりました。炎のダンジョンではなく火のダンジョンですね。お詫びいたします……。
「じゃあ行くぞ……風のダンジョンもそうだったように、B+級ダンジョンではこれまでと違い、魔物たちがかなり工夫して攻撃を仕掛けてくるようだ。十分に気を付けてくれ。」
野営地点にミニドラゴンと荷物を残して30分も山道を歩くと、うっそうと木々が茂った山肌の一部に、頑丈そうな鉄格子の金網で作られた、大きなふたがあるのを見つけた。直径1mほどの丸いマンホールのようなふたで、南京錠でロックされていてNo.46の看板がついている。
ここがダンジョン入り口のようだ。ギルドでもらってきたカギで解錠してふたを開けて中へ入っていく。地面に穴が開いていて、そこに入っていくとダンジョンに通じているようだ。
木の根などがむき出しとなっている、入り組んだ穴を擦り落ちないように気をつけながら下っていくと、すぐに硫黄の匂いがしてきて、岩壁に囲まれたダンジョン内に自分が入ったことが分かる。
額に輝照石をつけて辺りを見回すと、高さ3mほどで幅が約2m程度。こんな中を炎牛に突っ込まれたらどうすればいいのだろうな……なんて空恐ろしいことを考えながら前へ進んでいく。
『バサバサバサッ』『ゴワーッ』『シュシュシュシュッ』『ボトボトボトッ』奥の方の暗闇から3つの小さな影が飛んできたかと思うと、突然火を吐いた。すぐさま後方からクナイが飛んでいき撃ち落としたが、危なかった。
「ホーン蝙蝠ですね。このレベルでは火を吐くようですね。」
トオルが駆け寄っていって、魔物を確認している。ううむ……火吹きホーン蝙蝠……火の精霊球の影響を受けて、炎牛同様火を吐くわけだな……飛ぶからなあ……ちょっと厄介だなあ……。
『ドサドサドサッ』『ボワーッ』暫く進むと、不意に後方で物音がした瞬間、辺り一面に炎が巻きちらされた。
「きゃーっ!」
逃げ遅れ炎の的になったショウが、思わず悲鳴を上げる。
『シュシュシュシュッ』『ダダダッ』『シャッ……ズバンパーンッ』すぐに駆けよりショウに襲い掛かろうとしていた2頭を背後から水平斬りで一気に仕留める。
ナーミに襲い掛かっていったほうは、一瞬早くナーミが射殺したようだ。
「今度は、チンパニーランスですね……木の枝の先を尖らせた槍のほかに、口から火を吐いたようです。
天井はそれほど高くはありませんが、へばりついて通りかかるのを待ち伏せしていたのでしょうね。これからは私が天井を注意しますから、ワタルは前方の罠などに注意してください。」
狭い洞窟では、後ろから精霊球で照らされるとかえって見づらくなるので俺しか使っていなかったのだが、トオルも精霊球を取り出して額につけた。ここからは慎重にあたりを確認しながら進まなければならないな。
「ゴクンゴクン」
少し顔と手足にやけどしたショウが、回復水を飲んでいる。上級魔法使いのローブは炎耐性もあるから、あの程度では全く問題ないのだろうが、露出部分はどうしようもない。
ショウもB+級冒険者になったので冒険者の袋を手に入れ、回復水も解毒薬も10個ずつ携帯できるようになったのはよかったが、それにしても入って少ししか進んでいないのに、もう回復水とは……炎のダンジョン恐るべしだ。
まあ風のダンジョンだって、俺がインチキ臭い足場を作ったから楽に対応できたが、あれを岩にしがみついたままでやれと言われたら、結構ダメージを受けていたのかもしれないから、レベル差はあまりないか。
風のダンジョンは落ちたら終わりということを考慮すると、向こうのほうが過酷といえば過酷かもしれない。
「いいかショウ……周囲を警戒しながら進んでいくことにするが、それでも突然襲われることはあり得る。怖いのは分かるが、冷静に対処して先手を取って攻撃しないとダメージを食らってしまう。自分の身は自分で守らなければならないぞ。」
「う……うん……頑張る……。」
とりあえずショウに、突然魔物たちに襲われても頑張って冷静に対処するよう言っておく。上級ダンジョンでは、すべての攻撃を事前に察知して対処するのは難しそうだ。こう考えると、俺たちのレベルを考慮して、後から加わったショウのレベルアップを保留していたコージーギルドの見解は、正しかったともいえるな。
元々普通の女の子だったエーミが、突然冒険者になったのだからな。ここまでついてこられただけでも大したものなのだ。冒険者になって頑張って修行して数年でようやく到達できるかどうかというようなレベルに、たったの3週間ほどで対応しろというのが、土台無理だということは重々承知している。
だが、この地ではこのレベルが最低線であり、またクエストをこなさなければ生活もしていけないのだ。ショウだけ留守番ということもやりたくないのだから、頑張ってくれ……しか言いようがない状況が苦しい。
「ショウ君のカバーは私が請け負いますよ……その代わり前方対応が少しおろそかになりますがね。」
「悪いな……前方は俺が全面的に守るから、頼むよ。」
トオルがショウを守ってくれるということになった。奴は頼りになるから、少し気が落ち着いてきた。
「あたしは、上からの敵を素早く仕留めるのと、背後を担当するわね。」
とりあえず、各自の分担を確認してダンジョンを進んでいく。
念のために、装着用の盾を冒険者の袋から取り出して左手に装着する。
『ドッドッドッ』遥か洞窟の奥の方の暗がりから、重低音が響いてくる。奴だ……奴がやってくる。
「来るぞ……この洞窟は狭いから、壁に張り付くようにしていてくれ……何とか対応してみる。」
ものすごいスピードで大きな影が突進してくる。洞窟の壁にこすりつきそうな巨体で、一心不乱に突進してくる……ううむ……避けられそうもないので、数歩前へ出る。
『ズダッ』両足を肩幅よりも広めに開けて立ち、膝を直角に曲げて屈む。左腕に装着した盾を前に、左腕をL字に曲げ胸の前に盾が来るように構え、右手は剣の柄をへそのあたりに押しつけ、正面を貫くように構える。
『シュシュシュシュシュッ』背後からナーミの矢が、雨のように降り注ぐが、射られたことを微塵も感じさせずに、速度を緩めずに突っ込んでくる。
『ガツンッ』すぐ目の前に来た瞬間、クナイが魔物の眉間に突き刺さるのがはっきりと見て取れた。
「ぐんもー……」
『ゴォー』炎牛は苦しそうにいななきながら、同時に灼熱のブレスを吐きだす。
「脈動!」
『グザッ……ドゴッ』『ズザザザザザッ』脈動を唱えて足場を少し盛り上げ、吹き飛ばされないよう強化するが……それでも突進の勢いで土くれごと後方へ押し付けられていく。
『ザザザッ』数mほど押し戻され、トオルがすぐ横で長剣を構えて、今にも突きかかろうしている所でようやく止まった。盾の横から炎牛の喉元を突き刺した剣で、息絶えているようだ。
「ふうっ……何とか倒せたな……。」
灼熱のブレスも、すぐに剣が喉を貫いたためほぼ不発に終わった。だが、凄まじい突進を受け止めたために膝や腰がガクガクだ。
「今日は、ステーキですよ……。」
トオルが上機嫌で、仕留めた炎牛の解体に取り掛かり、ナーミとショウも手伝い始めた。
「ごくごく」
トオルたちの様子を横目で見ながら冒険者の袋から回復水を取り出し飲み始めると、腰と膝がジュワーッとはじけて楽になっていくように感じる。ううむ……何とか無事対応できてよかった……。
「じゃあ、先へ進みましょうか。」
解体を終え、トオルが俺の受け持ち分の大きな塊肉を数個を持ってくる。ここまでの4日間でほぼ携帯分は食べつくしたのでちょうどよい。冒険者の袋の中へ詰め込んだ。
「装着型の盾は、剣同士の戦いでは効果を発揮するだろうけど、魔物の突進を受け止めたり魔法を防いだりするには、もっと大きな盾のほうがいいわね。あたしが知っている限りでは、剣士も騎士も体が隠れるくらいの大きな盾を装備していたわよ。」
ナーミがそっと耳打ちしてくれる。そうだな……剣を両手持ちにできなくなるが、大きな盾も持っていたほうがよさそうだ、そのほうがより全身を使って受け止められるしな。帰ったら早速購入するとしよう。
その後も、チンパニーランスの群れに襲いかかられそうになりながらも、ナーミの弓とショウの風の魔法がさく裂し、撃退しながら進んでいく。ショウも少しずつではあるが、対応ができてきたようだ。時折回復水による回復がどうしても必要となり、僧侶の必要性を重々に感じるが、いないものを嘆いていても始まらない。
「いよいよボスステージだ。ボスは……炎牛の顔と毛深い人間の体にしっぽ?大きな斧となっている。ううむ……ケンタ牛のことか?」
カルネの資料を見る限り、これ以上の記載はないが、どんな魔物だ?
「ミノチャンじゃないかしらね……炎牛の頭を持った獣人ね。こいつも炎牛と同じように灼熱の炎を吐くから要注意よ。厄介なのは、怪力なのと大きな斧よね……大きな盾で受け止めて反撃を仕掛けるのが一般的よ。」
ボス魔物に心当たりがあるのか、ナーミが詳細をつけ足してくれる。ナーミならB級ダンジョンまでは数多くこなしていたのだから、知っていても不思議はないな。
「ようし……じゃあ行ってみよう。レベルが上がってくるにつれ、雑魚魔物ですらも強化されてきている。
考えてみれば、35年以上も閉ざされていて、内部では魔物たちの熾烈な生存競争があって、弱いものは淘汰されてきたはずだ。ここまで生き残ってきたやつらは、とても雑魚魔物とは言えないレベルであって当然だ。更にボスはより強力なことが予想される。
無理はしないでくれ。危ないと思ったら撤退も作戦のうちだ。傷つきへとへとになりながら戦うよりも、ボスステージのドームからいったん逃げだして、体力を回復させてから再び立ち向かっていったほうが、より戦力になることを忘れずに、自分の今の状態と敵の状態を見比べながら戦うようお願いする。じゃあ、行くぞ。」
『はいっ!』
全員で、巨大なドームの中へ入っていく。高さが20m以上は余裕でありそうな広いドームだが、ドームの壁のそこかしこにかがり火がたかれていて、通路である洞窟部分と違い中は明るい。
「ぬぅおー……ぬおっぬおっぬおっぬおー!……」
『ボワッボワッボワッボワッ』突然ドーム奥の巨大な影が叫んだと思ったら、人の頭ほどもある炎の玉がいくつも飛んできた。
「危ないっ……逃げろっ!」
すぐに左右に散って危うく避ける。ドーム奥までは50m以上はありそうだが、一瞬で飛んできたところを見ると、かなり高速で炎の玉を飛ばせるようだ。
身長3mを越えそうな炎牛の頭と毛むくじゃらの2本足で直立した体……人というよりはゴリラの体といったほうがいいのかもしれないが、足はすらっと長めか……その手には巨大な斧が握られているようだ。
『ダダダダダッ』魔法を使う相手と距離をとって戦うのは不利なので、一気に駆け寄っていく。
「ぬおっぬおっぬおっぬおー!」
『ボワッボワッボワッボワッ』高速の炎の玉が襲い掛かってくるが、ステップで左右に交わしながら、スピードを緩めずに間を詰めていく。『シュシュシュシュシュ』『キンキンキンキンッ』背後からナーミの援護射撃の矢がミノチャンを襲うが、その大きな斧を盾代わりに、全て簡単に弾いてしまう。
「だありゃっ!」
剣を振りかぶり、斬りつけようとした瞬間……
『ブオワー』突然ミノチャンが炎を吐いた。炎牛の灼熱のブレスのような吐き出す息といった感じではなく、火炎放射器のような……いわば人間ポンプのように火炎を勢いよく吐き出した。
「どわっ!」
『ダダッ……ゴロゴロゴロ』慌てて左方向へ飛びのき、床を転がる。
「大水流!」
『ジョワーッ』『ボワーッ』消防隊の放水のように勢いよくトオルの両掌から水流が放射され、炎とぶつかり合って水蒸気が発生し、辺りが真っ白い空間に変化する。
「だりゃあっ!」
『シュッ』『ブンッドガッ』『ズザザザザザッ』スキをついて大上段に振りかぶって斬りつけていったところを待ちうけられ、斧の反撃を慌てて左腕の盾で防いだが、その勢いで思い切り吹き飛ばされた。
うーん……なかなか手ごわいな……。
「大炎玉!」
『ボゴワーッ』ミノチャンの身の丈ほどの巨大な炎の玉が、ショウの手元から一直線にミノチャンめがけて飛んでいく。
深い霧のように立ち込める水蒸気も、トオルが発する水流も、ミノチャンが発する火炎放射をも打ち消しながら、ミノチャンに達した。いや……炎の魔法使い相手に炎では……。
『ボワーッ』「ぎゃーっ!」
ところが火に包まれたミノチャンは、苦しそうに地べたを転がって、何とか火を消し止めた。そうか、炎耐性はある程度あるとはいっても、完全ではないわけだ。確かにショウだって火の魔法を唱えてはいるが、炎で焼かれたら大ダメージを受けてしまうからな。使用魔法だったら無効というわけではなさそうだな。
「ぬぅおぁーっ!」
『ブンッ……シュルシュルシュルシュルシュルッ』体毛がちりちりに焼け焦げたミノチャンは、雄たけびを上げるとその巨大な斧を勢いよく投げつけた。
「危ないっ……避けろ!」
慌てて床に転がり斧を避けるが、『シュルシュルシュルッ』俺の体の上を越えて、さらに後方へと飛んでいく。
「きゃっ!」
『シュルシュルシュルシュルッ……・バズッ』刃渡りだけでも1mはありそうな巨大斧は、俺とナーミの頭上を襲い、ブーメランよろしくミノチャンの手へと戻っていった。
火の魔法を唱えるわ炎は吐くわ、斧は盾にも使えるしブーメランのような飛び道具にも……すごいね……どうやって戦おうか……。




