冒険の先にあるものは……
『ドッドッドッ』ギルドを出て2日目になると、かなりの頻度で魔物に遭遇するようになった。地響きのような重厚な響きをとどろかせて、茶色い影が一直線に山の下方から突進してきた。猛進イノシシかと思ったがそれよりもずいぶんと大きい。
『シュシュシュ』ナーミが矢を射かけるが、命中はしているようだがその衝撃も感じさせず一直線に突っ込んでくる。ミニドラゴンには、訓練だから魔物とは俺たちが戦うと言い聞かせてあるので、奴は進路を譲って横へ避ける。ミニドラゴンに任せると、この辺りの魔物程度なら全て退治してしまうから良くない。
「突風!」
『ビュー』『ドッドッドッ』ショウが正面から突風を吹かせても効果がない。
「つむじ風!」
『ビュワァー』『ドッドッドッ』高速で旋回しながら吹き上がる風により、地面の下草も刈り取られて巻きあがり、渦巻き状に突進してくる魔物を包み込んだが、それでも接近のスピードは衰えないようだ。
ショウには精霊球を慣らすためにも風系魔法主体といってあるからな。それでも2日で呪文を短縮できたのはありがたい。これもB+級精霊球のおかげか?
『グワオー』近寄ってきて後ろ足だけで立ち上がって威嚇する敵は、体高2mを越えている熊系の魔物だった。
「衝撃波!」
『ズッゴォー』ショウが伸ばした両掌から、圧縮された空気が放たれる。『ブワッ……ダーンッ』魔物はそのまま後ろへ吹き飛ばされ、後方の大木の幹に打ち付けられた。
「おりゃあっ!」
『ダダダダッ』『シャキンッ……グザッ』ダッシュで魔物のもとに駆け寄り、剣で一気に心臓を突き刺す。
「きゅー……」
ショウの魔法効果で、初見の魔物でさえもあっさりと止めを刺すことができた。
「熊系魔物のヒグマンだな。山道を時速50キロ以上の猛スピードで駆けまわるから、襲われたら逃げることは不可能。鋭い爪に一突きされるだけでも内臓までえぐられるし、抱え込まれてベアバッグを食らったら脱出不可能と、カルネの資料にある。北方山脈でも北の方にしか生息しないとなっているね。
どうやら生息域に入り込んだようだから注意が必要だ。群れを成して襲い掛かられたら、かなり厄介だな。」
かなりの強敵のようだが、案外あっさりと倒せたな。何せ矢が刺さっても何も感じないように突っ込んできたのに、ショウの衝撃波が効いた。やはり自分が参加して取得した精霊球を使っているおかげかな?
「熊の毛皮は防寒用に珍重されますからね。ブラックゴリラよりはるかに高値と思われます。売値が下がりますから、次回からは矢で射るのは避けてくださいね。」
トオルがヒグマンの背中に刺さった矢を抜いて、ナーミに返却する。毛皮を回収するのだろう。
「えー……じゃあ、何も手を出せないじゃない……。」
ナーミは不満顔だが、矢はどうせ通じない相手のようだからな。
「恐らく手足などの部位も含め、肉は鍋などに出来るでしょうね。」
なんと肉までも食用にするというのか?トオルがショウに手伝わせて、ヒグマンを解体していく。大物なので俺とナーミも手伝い、残った分はミニドラゴンに与えると、喜んで食べた。
その後、チンパニーランスが群れを成して襲い掛かってきたが、樹上を跳ねまわっている所をショウがつむじ風や突風に衝撃波を用いてバランスを狂わせ、木から落下させて地上に落ちたところを俺とトオルが仕留める作戦が功を奏した。
樹上にしがみついている奴は、ナーミの矢の格好の餌食となったから、10匹を超える群れだったが、楽に倒せた。こうやって見ると、風系の魔法だって使い道はありそうだなと思う。致命傷は与えられなくても、十分に役に立つ。俺たちは魔法は戦闘補助という考え方だから、風系魔法が意外とあっているのかもしれないな。
加えて、ショウの魔法効果の的確な選択ということもある。敵の動きや特性によって、今あるだけの魔法効果の中から最適なものを選択して、最大限の効果を発揮している。ショウは、魔法使いとしてというか、冒険者としての才能があるのではないかと感じてきている。これは決して親の欲目なんかではない……はずだ。
その日の夕食は、みそ仕立ての熊鍋だった。肉は味がしっかりとしていて、かみしめるたびにうまさが口の中に広がった。こうなると酒が欲しくなってくるが、野営中なので控えるしかない。
テントを張るような場所は山の中には存在しないが、この日も装甲車の荷台は重宝した。なにせ、ミニドラゴンの背から降ろして、下に何かかませて水平をとれば、簡易宿泊施設の出来上がりなのだ。お手軽感満載だ。
雨が降っていない限りは俺は外で寝袋で十分だが、ナーミやエーミのような女の子は、このほうがいい。
そんなこんなで4日間野宿しながら山道を進み、いよいよ辺りに硫黄のにおいが立ち込めてきた。
「ふう……ようやく火山に近づいてきたようだな。火のダンジョンはもうすぐそこだ。もう遅いから野宿が必要だし、あまり火山に近づくと火山性のガスで窒息してしまう場合があるから、野営はこの辺りにしよう。
もう30分も歩けばダンジョンにつくはずだから、明日の朝早く出発することにしよう。」
すぐにトオルが火を起こして、ナーミとエーミとともに夕餉の支度を始める。装甲車の荷台の水平だしをしてしまえば、ほかにすることもない俺は、辺りを見回って小川でもないか探してみた。うまくすれば、また天然温泉でも作れないかと思ったのだが、残念ながら小さな湧水が出ているところを見つけただけだった。
それでも、すぐに容器を取りに戻って清水を汲んで帰りトオルたちに渡し、満腹で動こうとしないミニドラゴンにも与えてやった。こういった山中では水は貴重品なのだ。飲み水がなくなると辛い。
この日も晩飯は熊鍋が主流だった。ほかに山菜やトオルが鑑定したキノコなども鍋に入っていて、様々なうまみが凝縮して美味!この辺りはチンパニーランスの住みかのようで、ほかの魔物が極端に少ないが、十分に堪能できた。
チンパニーランスは賢くて集団で行動するため、対応に苦慮する割に毛皮の需要もなく食肉には向かないと言われているので、こいつらだけだと参ってしまう。ミニドラゴンのえさが増えるだけだ。
4日目ともなるとミニドラゴンも食傷気味となったので、今日はチンパニーランスたちが襲い掛かってきても、ショウが風系魔法で追い払うだけで済ませていたほどだ。ほかの魔物が欲しい……。
食事が終わったら、いつものように俺とトオルは木刀を使い模擬試合を行い、ナーミは弓の、ショウは魔法の訓練を行う。その後全員で魔法の訓練を行ってからショウのカッコンの修業となるのだが、ナーミは弓の訓練が終わると、装甲車の荷台に閉じこもってしまった。
そうして交代で見張り番をして就寝する。今日は俺とナーミが後半の当番だ。
「なんだかこのところ、山道を歩いてばかりね。」
木立の隙間から垣間見える満天の星空を眺めながら、ナーミがつぶやく。
「そうだな……山道を2週間かけて歩いてきて、近場のダンジョンもあることはあるが、ほとんどのダンジョンは山道を2、3日行った先になるからな。大変な土地だよ……だが、来てよかったと俺は思っている。
エーミの安全のこともそうだが、どの道休まずクエストを続けることしか考えていなかったんだから、かえってこんな何もない土地へ来たほうが、クエストオンリーで決まっているから俺としては気が楽だ。
ショッピングとか飲み屋とか遊園地とか娯楽施設が全くないっていうのは、嫌いじゃない。」
俺は正直な感想を述べる。元々引きこもりでいたから、明るい雰囲気の娯楽施設は苦手だからな。
「そうね……ここでクエストをこなし続けていけば、この先十分な生活資金もたまるだろうから、そのために頑張るのは、悪くないわ。」
ナーミも、この地へ来たことを後悔はしていない様子だ。よかった。ちょっと気にはなっていたので、ミニドラゴンがいるし、魔物が襲ってくることはなくて暇だから、この前考えたことを聞いてみることにする。
「ナーミが冒険者になったのは、カルネの無念を晴らしたいということと、自分と同じように人買いに買われていく境遇の子を救いたいからだって聞いた。カルネのことは病死で納得したと思うし、人買いだって今回の騒動で、かなり監視が厳しくなってやりにくくなっているはずだ。
その汚名を晴らすためにも、エーミたちをしつこく探し回っているのだろうがね。取り敢えずの目的は果たせたんじゃないかと俺は思っているんだが、違うかい?」
「そうね……ワタルに出会ってパパのことを聞いて、病死だって納得もできたし、さらにエーミたち人買いに買われていく子供たちを救出できたわ。本当に感謝している。けど、冒険者はやめないわよ。冒険者があたしにあっていると思っているし、お金を貯めるにも一番いいから。お金の大切さは痛いほど身に染みているから。」
「いやいや……礼を言うのはこっちのほうだ、ナーミがチームに加わってくれたのは、本当にありがたかった。それに、おかげでエーミを救い出すこともできたしね。本当に感謝してもしきれない。」
ナーミがちらっと俺のほうを見て頭を下げるのと同時に俺も頭を下げる。感謝しているのは俺の方だ。
トオルとたった2人だけの中年冒険者が、ここまでやってこられたのもナーミとチームを組めたからといっても過言ではない。ナーミと出会わなければ、俺たちは未だに2人だけで、コージでC+級ダンジョンのクエストだけを、必死でこなしていただろう。
「だが……冒険者だっていつまでも続けられないだろ?引退するまでに金を貯めるだけ貯めて、それからどうするつもりだ?」
ナーミとずっと一緒にいたいのはやまやまだが、何せ年頃の……しかも抜群にかわいらしい女の子なんだ。いずれ結婚するだろうし、その相手と幸せな家庭を築いてやがて子供を産んで……。
「そうね……お店を持ちたいなって思ってはいるのよ……お花屋さんとかかわいいお店ね。そうして暖かな家庭を作りたい……パパがいて、ママがいて、子供たちがいて……いつも一緒に楽しく過ごすの。
そんな家庭が夢だけど……難しいかな……冒険者は乱暴だとか金遣いが荒いとか絶対に信用できないとか、一般の人たちからはずいぶん嫌われているようだから、商売を始めてもお客さんが来ないだろうし、ましてや結婚相手を見つけるなんて夢のまた夢よね。
取り敢えず、お金を貯めるだけ貯めて……どこか静かな土地で一人で暮らすってとこかな?」
ナーミは、うっとりとした表情を見せながら夢を語っていたようだったが、恥ずかしそうに下を向きながら、現実の厳しさに話が切り替わった。
「そんなことないだろう……ナーミはすごくかわいいし、性格だって真面目で責任感が強いし、料理だって今はトオルと一緒に野営の時に作っているじゃないか……いいお嫁さんになると思うけどな。」
ナーミのようなかわいこちゃんだったら、引く手あまただろうに……まあ、これまでは屈強な冒険者の中に混じって、ひとかけらも弱みを見せずに強いナーミを演じてきたわけだからな。弱さを見せろとは言わないが、普通に過ごしていればナーミだったらモテまくるはずだ。
「えっ…………プッ……プロポーズ?あたしと結婚したい?」
すると突然ナーミがとんでもない勘違いを……もしかして、かわいいとか面と向かって言われたことないのか?俺と出会った頃のナーミのあの態度だったら、十分あり得るな……人と親しくなりたくないといったバリアーのようなものを感じたしな……。
「いっ……いや……ただの一般論としてというか、ナーミという女の子を知っている仲間としてだな……ナーミはすごくいい子だと思っているといっただけだ。第一、おっ俺とナーミとじゃ……ナーミはすごくかわいらしいし、それに親子ほど年が違うじゃないか……全く釣り合いが取れないから、そんなこと考えたこともない。」
思い切り否定しまくる。下手をすると、冗談でも言っていいことと悪いことがあるなんて鉄拳が飛んでくるか、あるいは明日の朝食の場面で話のネタにされてしまう、桑原桑原……。
「なあんだ……ちょっぴりうれしかったのにな……まあそうだよね……こんな子供をって思っているよね?もっと色気のある、やさしくてきれいなお姉さんがいいんでしょ?分ってるわよ、それくらい……。
でも、なんだかな……前は絶対に家庭なんて持ちたくない、あたしみたいな不幸な子供は作りたくないって思っていたんだけどな……最近は……家庭っていうものがなんだかいいなってちょっぴり思えるようになってきた。ほら……あたしたちって……なんだか家族見たいでしょ?
こんな関係が、ずっと続くといいなあって……思っているのよ。
ワタルが……元論パパで……トオルが……なんかママって感じよね……。そうしてあたしとショウが……というかエーミが……。」
そうそう……俺も何となくこのところ、そんな感じがしてきた……トオルは男なんだけど、なんだか母性が強いようで、母親タイプなんだよなあ……そうしてナーミとエーミが最愛の娘たち……。
「愛人1号と2号よね……。」
ナーミがとんでもないことをサラッと言ってのける。
「ぶほっ……ナーミ……そこで笑いを取ろうとするな……!」
心臓が止まるかと思った……。慌てて突っ込むと、ナーミは意味深にクスリと笑う。なんだかずいぶん色っぽいな……17の女の子と思っていたが……また朝食時の笑いのネタが一つ増えたな。
だが……本当にそうだ……こんな関係が永遠に続いてくれたら……と本気で何度も思う。だが、そんなことはあり得ないだろう。いずれ別れの時が来る。その時の別れが悲しいものになるのか、お互いに祝福し合える、喜ばしいものになるのか……何とかして後者にしたい。
そのために準備しておかなければならないこともあるはずだ。トオルとショウたちにも、今後のことを聞いておいたほうがよさそうだな……ショウというかエーミの場合はまだ幼いから、先のことまで考えていられないかもしれないが、その場合は俺が何とか最良の道筋を作ってあげたい。
まあ今のところ、それが冒険者だというのであれば、それはそれで構わないのだが……残るは……トオルだが……これが一番厄介だ……まあ、聞いてみるさ……。
どうして俺なんかと一緒に行動してくれているのか、とか、この先どうしようと考えているのかをな……。
奴には、これまでどれだけ助けられたか……その恩を少しでも俺が返せるような算段をつけたいな……。




