久しぶりのダンジョン挑戦
「ああ、そうなのか……ここは一般の冒険者もクエスト申請に来てもいいと聞いているんだが……宿泊施設もあると聞いて、わざわざ山道を何日も歩いてきたんだがね。」
ちょっと予想していた雰囲気と違うので、念のため確認してみる。
「もちろんそうだよ、ここはギルドだし、隣の建物は道具屋兼武器屋兼防具屋兼宿だ。宿には食堂もあるから3度3度の食事は提供されるし、酒だってあるさ。もちろんそれなりに金がかかるがね。といっても、宿泊料金はギルドで上限管理されているから、都市部の宿とほぼ変わらないから安心してくれ。
僕らはギルドにやとわれて、この施設管理も任されているから、滞在費は全てギルド持ちだが、一般の冒険者である君たちは料金を支払ってもらうことになるわけだ。申し訳ないがご理解願いたい。」
青年は小さく頭を下げる。ああそうか、よかった。ここに滞在できなかったらどうしようかと思っていた。
「じゃあ、とりあえず日もまだ高いから、クエスト申請してもいいかい?」
「ああ、もちろんだよ。近場のクエストも結構残っているよ。僕らは来たばかりだから、1日か2日程度先のダンジョンを専門で交代で攻略しているからね。近場のダンジョンは帰る時寸前でもいいから残してある。
どこも均質にこなしてかないと、50年以上のダンジョンになってしまうと、1組だけじゃあ危険すぎて挑めなくなってしまうからね。楽に見えて結構ノルマというか、全体の攻略期限みたいなもののプレッシャーはあるんだよ。」
青年は笑顔でなんでも詳しく答えてくれる。よほど人が来るということが、会話がうれしいのだろうな。気持ちはわからんでもない。
「じゃあ、クエスト票を確認してくるよ。」
受付を後にして、ホールの壁を確認する。
「へえ……風のダンジョンのクエストも結構あるわね。」
ナーミが何枚かクエスト票を持ち上げる。
「そうだな……来る時にも切り立った崖とか渓谷が数多くあったからな。風系のダンジョンが多くなってしまうのかもしれない。山間の平地だったコージーギルドのように、近場に様々な種類のダンジョンがあるほうが、珍しいのかもしれないね。それでも風系のダンジョンは少なかったから、ちょっとやってみるか。」
「いいんじゃない……。」
ナーミの反応もいいようなので、徒歩30分と記載がある風の精霊石のクエスト票をナーミからもらう。
「じゃあ、このクエストをお願いする。」
「へえー……風系クエストを攻略していただけるというのはありがたい。ご存知のように、風の精霊球はあまり人気がないから、報奨金が低いからね。苦労の割に見返りが少ないから、挑戦しようとする冒険者は少ないんだ。それでも50年を超えないように、僕らの場合は必須で攻略しなければならないからね、助かるよ。
B+級のクエストだね。君らのレベルは……ほう……名誉A級が3人にC級が1人か。珍しい組み合わせだね。それにしても名誉A級というのはすごいね。50年を超えるエクストラも行けちゃうね。」
「えっ……名誉A級というのは、名誉職だから実際にそのレベルではないけど近いことをこなしたから……といったことではないのかな?エクストラ級って……。」
受付の青年が俺たちの冒険者カードを見て、おかしなことをつぶやく。
「いやいや違うはずだよ。僕もこのクエストのためにギルドの受付業務の講習や、武器防具屋に道具屋と宿屋の運営講習も受けたけど、その時の説明ではA級を長年務めたか若しくは功績をあげて、A級より上と認められた冒険者が名誉A級だ。
実質的にはS級ということなんだろうけど、S級はもう何年も交付していないから今では名誉A級ということになるようだね。エクストラ級のクエストを4人1チームだけで攻略すれば、S級になれるけど、名誉A級の場合は1チームだけのパーティ編成でも保証金なしで挑戦できるから得は得だね。」
ありゃりゃ、そういうことか。人買いから子供たちを救い出したという功績が、そんなにも評価されたということか。俺は逆に、実質的なA級実績はないので名誉とつけたのだとばかり考えていた。
「じゃあ、気をつけていってきてください。今日中に帰らなければ、僕たちが救助に向かうんだけど、まあ皆さんなら問題ないはずだ。」
受付の冒険者青年に見送られ、ギルドを後にする。装甲車の荷台部分はミニドラゴンから降ろして、ミニドラゴンだけを連れて、山道を歩いていく。このほうが、突然襲ってくる魔物の警戒が万全で安心だ。
「ここのダンジョンも構造図があるの?」
後ろからナーミが尋ねてくる。
「ああ……さっきの受付をしていた冒険者がいっていただろ?彼らは毎週ダンジョン攻略を義務付けられているって。カルネが来た時もそうだったんじゃないかな。構造図は互いに写しあって揃えたみたいだよ。」
構造図の入ったカバンからとってきた、タールーNo.45と書かれた紙をナーミにも見せてやる。
念のために予備のハーケンとハンマーとロープを冒険者の袋から取り出して、ショウに手渡し担がせる。簡単に使い方を説明。ロッククライミングなど初めてといっていたが、大丈夫だろうか……。
引きこもりだった俺だって登山などしたことなどあるわけはなく、トーマの記憶にもない。山岳物の映画などで見知った通りに、金具を適当に岩壁の隙間に打ち付けるくらいしかできないのだが……。
さすがにギルドの近場は管理されているのか、途中魔物たちに出会うことはなくダンジョン入り口に到着した。切り立った崖の途中に細長い鉄板で格子状に組まれた柵が見え、そこまで続く鉄製の梯子がついている。
『ギィ』間違いなくダンジョンの入り口なので、梯子を上っていき、ギルドで渡されたカギで南京錠を外し、扉を開けて格子の策の中に入る。ミニドラゴンは、この場で待機するよう命じておいた。
『ガッシャン』最後のナーミが入って扉をしめ、内からフックをかけてから目の前の崖をつかむ。するといつの間にか広い空間で切り立った崖の中腹ほどにしがみついている自分がいた。
「いい……こういった岩と岩の隙間にこの金具を入れて……最初のうちは、登っていこうとしないで、ハーケンを打ち込んで待っていたほうがいいわ。落ちたら命はないから、絶対に落ちないようにね。」
下の方でナーミがショウに説明してくれているようだ、素人の俺が変な知識を教え込むよりよほどいいな。
「ちょっとその場で岩にしがみついていてくれ。隆起!隆起!隆起!隆起!」
とりあえず、隆起として地面を盛り上がらせる範囲やスピードを思い通りにコントロールできることが分かってきたので、切り立った崖に4人分の足場を作ってみる。1m角の足場だがあればかなり楽なはずだ。
「ありがとう、これはいいわ。」
「パパ、すごい……ありがとう。」
「ありがとうございます。」
「このダンジョンでは突然上から魔物たちが襲い掛かってくるから、まずはこの足場を使って魔物たちに対処しよう。それから少し登ったら、もう一度足場を作る。」
作った足場に乗って、下に声をかける。崖の岩場につかまって攻略しなければいけないというルールはないから、不正ではないはずだ。
『カッカッカッ』『カラカラカラッ』「めえー……」
早速おいでなすった。フリーフォールカモシカだ。『シャキンッ』今回は両手が自由になる足場があるので、剣を抜いて上を見上げ身構える。
『シュシュシュシュ』『カッカッカッ』早速下からナーミが矢を射かけるが、フリーフォールカモシカはステップよろしく軽快に矢を避ける。かなり身が軽いな、5頭はいる様子だ。
『カッカッカカカカッ』そうして加速しながら猛烈なスピードで、2頭は俺の頭上をはるか高く超えていき、残り1頭は右方向へ、2頭は左の俺の方へ襲い掛かってきた。
『ドズッ……ズバズッパァーンッ』すぐに剣先を突き立て、相手がひるむところを大きく振りかぶって斬り捨てる。『バズッ……バッバーンッ』更に一頭目の陰に隠れて襲い掛かってきた2頭目も、身を躱して脳天唐竹割に斬り捨てる。やはり足場があると体勢を整えられるので、ずいぶんと楽だ。
『カッカッカッカカカッ』「水弾!水弾!水弾!水弾!」『ズザザザザザザザー』トオルに襲い掛かっていった1頭は、水弾で目をつぶされて奈落の底へと落ちていった。
『シュシュシュシュ』『グザグザグザッ』下方を見ると、飛び越えていったうちの1頭はナーミの集中攻撃を受けているが、委細構わずに頭から急降下して突っ込んでいくところだ。
「脈動!」
『ズゴッ』『ヒュー……』そのままではナーミに激突してしまうので、当たる寸前にフリーフォールカモシカの目の前に突起を作りバウンドさせ、そのままナーミを越えさせて奈落の底へと落とした。
「大炎玉!」
『ボゴワッ』直径3mほどの巨大な炎の玉が、重力加速度で突進してくるフリーフォールカモシカを真正面から襲い、ショウが衝突寸前で身を躱すと全身火だるまになりながら、こちらも奈落の底へと落ちていった。
ううむ……集中攻撃ではなく、メンバー全員を広く攻撃するわけか……全員がある一定レベル以上でなければ、自分の身を守れずに脱落していくということだな……。
『バサバサバサ』『キュイーイ……ヒュー』更にほっと息をつく間もなく、上方から矢のように高速の影が一直線に飛んでくる。『スッ』『シュッパーンッ』慌てて避けて斬りつけたが危なかった。
どうやらツッコンドルが急降下して襲い掛かってきた様子だ。足場を作っていてよかった、岩にしがみついたままだったら、対応できなかっただろう。
「急水流!」
『ズゴーッ』トオルが唱えると、ものすごい勢いの水流が頭から突進してくるツッコンドルにぶち当たる。『ピュー』ツッコンドルは気絶したのか、そのまま崖下へ落ちていった。
『シュシュシュ』『ズボッドゴッ……ヒュー』高速で急降下してくるツッコンドルの頭をナーミは冷静に射貫き、2羽を仕留める。
「大炎玉!」
『ブゴゥッ』ショウが唱えると、巨大な炎の玉がツッコンドルを包み、そのまま奈落の底へ。ううむ……これまた全体攻撃か……やってくれるな。
「フリーフォールカモシカが、ものすごいスピードで襲い掛かってくるし、ツッコンドルも急降下で襲い掛かってくるから注意してくれ。どうやら、このダンジョンでは全員に攻撃が振られるようだ。」
下の連中に注意喚起をしておく。このような連続的な全体攻撃はB+ダンジョンだからなのか?
『シュシュシュシュシュ』『バサバサバサバサッ』ナーミの矢が、上空を飛び回っているツッコンドルを狙い撃ちにした。
「火弾!火弾!火弾!」『ボワッボワッボワッ』『バサバサバサッ』更にショウが発した高速の火の弾が、飛んでいるツッコンドルの頭に直撃、数羽を仕留めた。こちらからも攻めたほうがいだろうな。
「ようし……魔物の攻撃も一段落ついたようだから、少し上に登っていくぞ。俺の登っていくルートの左右1mくらいの幅をついてきてくれ。そうしないとボスステージまで到達できないからね。」
魔物の姿が見えなくなったので、崖を登り始める。待っていてはダンジョン攻略することはできないからな。
当然崖に作った足場は沈下で元通りにしておく。
『ズゴッ』途中、崖をくりぬいたような穴に潜むガラガラヘビ系の魔物を、短刀で突き殺す。毒にやられてしまうと、すぐに解毒薬を飲まないと下手をすると死に至る場合があるので要注意だ。これも罠として、カルネの構造図に記載があるので助かった。
「ようし、また岩にしがみついていてくれ。隆起!隆起!隆起!隆起!」
50メートルほど登ったら、また足場を作って魔物を待ち受ける。安全第一だからゆっくりでもいい。
そんなことを続けながら、ようやく頂上が見えてきた。執拗な連続攻撃があったから、かなり疲れも出てきたが、ここからはすでにボスステージに入り込んでいるということだ。
「ようし、ちょっと疲れをとるためにも回復水を飲んだほうがいいな。それから各自散会して前進してくれ。」
『はいっ』取り敢えず岩場にしがみついたままで、冒険者の袋から竹筒を取り出して回復水を飲んでおく。疲れたままではボス戦は戦えそうもない。一息ついたらトオルたちがすぐに左右に数メートル離れていくので、俺は一人だけ数メートルほど登っていく。固まっていて集中攻撃されないためだ。
その様子を見て、ショウも少し離れた場所の岩をつかんだ。
「隆起!隆起!隆起!隆起!」
すぐにみんなの足元に足場を出現させる。これがあれば、かなり有利に戦えるはずだ。
「ふんぎゃーすっ!」
『バサッバサッバサッ』崖上にいた巨大な影は、俺たちの姿を認めるとゆっくりと飛び立った。3つの長い首と頭を持つケルベ大鷲……最初から飛んで攻撃されるとなると、かなり厄介な相手だ。
『シュシュシュシュ』ナーミがすぐに反応し、矢を連射する。
「ぎゃおわーすっ」
『ゴオーッ』しかし、右側の頭が叫ぶと突風が吹き、矢は失速して上空のケルベ大鷲まで届かない。
「火弾!火弾!火弾!」
ショウがすかさず高速の炎の玉を飛ばした。
「ぎゃおぎゃー」
『ビューッ』今度は左の頭が唱えると、横風で炎はあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。やはり、ボスの魔法効果で飛び道具は使えそうもない。




