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魔法使いショウ

「おお……悪いな……みんな……。」

「悪いも何も……ショウ……エーミはあたしの妹なんだからね……あたしが……。」


「ああ、それは間違いがない事実だ。だがまあ、ショウの所有権争いみたいなことは、とりあえずやめないか?

 俺にとっても可愛い娘だと思っているし、なんとしてでも幸せにしてやりたいと思っている。その気持ちは、負けないつもりだ。


 だから、みんなで協力し合おう。とりあえず、そうだな……ナーミが持っている火の精霊球を持たせることにして、雷の魔法はちょっと遠のくが風の精霊球も持たせてみよう。敵によっては炎耐性を持っている魔物もいるだろうからな。例えば火の精霊球のダンジョンの魔物たちみたいにね。


 2種類持っていると、ちょっとした工夫もできるから便利だろう。」

 とりあえずは風と炎の精霊球を持たせることにするのが、チームとしての戦力ダウンもないし一番よさそうだ。


「いいですね。ワタルに言われて、一つしか精霊球を持っていない時にも、精霊球の区分として最初に左手の指で指定するようしていましたからね。土の精霊球が一本で水の精霊球が2本で風の精霊球が3本で火の精霊球が4本でしたね。指で指定して呪文を短縮することには成功していますから、最初からこの方法で……。


 風の魔法を使う時には精霊球をつかんで、まず左手の指を3本立てます。そうして魔法効果を指定するために、もう一度指を立てます。突風なら左手の人差し指だけ一本で、横風が2本……中級魔法は右手の割り当てなので、暴風が……。


 最初は精霊球を手で持ったほうがよりいいのですが、慣れてくると指を立てて唱えるだけで、魔法が発動しますよ。発動させたい場所を目で追ったりあるいは指で示すのが有効です。では、まずはやってみましょう。」

 トオルがショウの首に風の精霊球を掛けながら説明してやっている。


「突風!」『ゴウッ』『ダンッ』

「横風!」『ビュウッ』『ゴトンッ』ショウが念じると、原野に立てかけた標的代わりの木の棒が吹き飛んでいく。


「へえ……なんだか初級者講習で聞いた魔法より便利ですね。長い呪文を唱えている間にやられてしまうとか、あまりいいことは聞きませんでした。」


「ワタルのアイデアで、呪文の短縮を行っていますからね。それにしても、精霊球の扱いはお上手ですよ。」

 なかなか飲み込みは早いようだ。それもこれも、ある程度精霊球を慣らしておいた効果もあるのだろうな。


「じゃあ次は、火の精霊球の使い方よ。さっき聞いたようにまずは精霊球を左手でもって指を4本立てるの。

 いったん閉じて、小さな炎の玉を高速で飛ばすのが火弾で指を一本、炎を連続的に放射するのが……それから大きな炎の玉は……こっちは中級魔法で……。」


 次にナーミが火の精霊球の魔法の説明を行う。まあ一遍にあれもこれもは覚えきれないだろうがね。


「火弾!」『ボウッ』

「大炎玉!」『ドゴワッ』ショウが唱えると、高速の火の弾や巨大な炎の玉が標的である木の棒を直撃し燃やし尽くした。風の精霊球も火の精霊球も、とりあえず魔法効果は狙い通り発動できるようだ。


「ようし……じゃあもう少し魔法の練習をしたら、トオルにカッコンの訓練もしてもらおう。

 そうして、明日1日特訓だ。動かない標的ばかりでは訓練にならないから、明日は模擬戦闘訓練を行うぞ。」


 日も暮れ始めたので、カッコンの鍛錬を柔軟体操の後にトオルに指導してもらう。引き揚げて宿に戻ってシャワーを浴びてから、いつものように居酒屋で晩飯だ。


 ショウは疲れたのか、帰りの御者席でうつらうつらと眠そうにしていた。魔法効果を発動させるには、かなり精神集中が必要だからな。魔力を放出するというのは精神力の他に体力も消費するし、慣れるまでは大変だろう。



 翌日……今日もショウの訓練だ。明日からは、ダンジョンに行かなければならないので、今日でダメそうなら当面留守番と言い含めてある。


「ようし、ショウ。遠慮はいらないから、攻撃してきなさい。ただし、初級魔法限定だがな。」


 ひざ下くらいまでの草丈がある草原で、ショウと5mほど距離を置いて対峙している。半日程度の訓練で、初級魔法も中級魔法もある程度形になってきたので、実戦練習だ。この辺りの平原に魔物はいないので、俺が代わりに相手をする。


「えー……大丈夫なの?」

 ショウが不安そうに顔をゆがめる。


「大丈夫さ、パパはショウが発する魔法には当たらないからな。」


「でも……呪文がほとんどないんだよ……魔法の名前だけなんだよ……パパが怪我したら困るもの……。」

 ショウがとてもできないと、しゃがみ込む。


「いいからやりなさい!パパに勝てないようじゃ、明日からのダンジョンの魔物たちには全く歯が立たないぞ。

 それじゃあ連れていけないから、留守番だな。」


 もちろんこれは嘘だ。剣士は剣同士での戦いに慣れているから、たとえ至近距離で魔法を発動されたとしても、それをかわして相手の急所を叩き斬るくらいのことはできる。特に俺は動体視力がいいし、トーマの剣の腕は超一流なので、素人同然のショウが勝てるわけはない。


 だが、魔物たちだって狙ってくださいとばかりに止まっているわけでは決してない。すきを窺って襲い掛かってくるのだから、その恐怖に打ち勝って照準を定め冷静に撃ち取る必要がある。当たるか当たらないかはさておいて、俺の攻撃をかわしながら魔法を発することくらいはできなければ、使い物にならないということだ。


 エーミはショウになっているとはいえ中身は女の子だから、向かってくる相手を恐れずに戦う姿勢を見せられるかどうかを見極めておく必要性があるのだ。


「わ……わかったわよ……やるわよ……。」

 ショウは不貞腐れたように、ほほを膨らませながら立ち上がる。


「わかったよ……戦うよ……だろ?じゃあ行くぞ……それっ!」


『ダダッ……パーンッ』ショウの頭上に軽快な乾いた音が響き渡る。振りかぶりながら一気に踏み込んで、頭を思い切り叩いたのだ。といっても、木刀でも大けがさせてしまうので、新聞紙を丸めて筒にしたものを使っている。これだって手加減していないので、結構痛いはずだ……けがはしないだろうけど。


 なにせ呪文のほぼない魔法をよけながらなんて、こっちだって本気でやらなきゃ勝てないからな。


「いったぁー……なあに?何が起きたの?」

 ショウが、ずれた魔法使いの帽子を直しながら、頭をさする。


「だから言っただろ?遠慮なく攻撃して来いって。何もしてこなければこっちが有利な間合いから攻撃できるから、物理攻撃を防ぐ術を持たない魔法使いが敵うわけがない。どうする?やめるか?続けるか?」


「ふうん……もちろん続ける!火弾!火弾!火弾!」


『ボワッボワッボワッ』すぐに高速の火の玉が飛んできた。気のせいかもしれないが、一瞬ショウの顔がほほ笑んでいた様に見えた。案外負けず嫌いで勝気な性格なのかも知れないな。

『ダッタッタッ……パーンッ』すかさず左右にステップしながら間を詰めて、ショウの頭を思い切り叩く。


「どうする……?」「まだやる……。火炎放射!火炎放射!」



「これでショウは10連敗だ。いったん休憩するか?」


 魔法効果を変えたりタイミングを変えたり試しているようだが、まだまだ隙だらけで攻撃も簡単にかわせるし、補助魔法としてはいいだろうが、たった一人だけで戦うと、魔物たち相手には通じないだろう。


 それでは困るのだ、ダンジョン内で何が起こるかわからないのだからな、ショウだけ残して俺たち全滅といった可能性だって0ではない。一人だけでも生き残れる術を持たない限りは、連れていけない。


「わかった……あと1回だけやらせて……だんだんわかってきた。」


「いいだろう。」「じゃあ……火弾!火弾!火弾!」

『ボワッボワッボワッ』またこれか……軽くステップでかわして間を詰める。


「火炎放射!」

『ボウゥオー』振りかぶった瞬間のタイミングで火炎放射だ、ずいぶんうまくなったが想定内だ、するりと交わしてジャンプ一番……脳天唐竹割……あれ?ショウの姿がフェードアウトしていく……。『バサッ』


「衝撃波!」

『ズグオー』そのまま草むらにあおむけに倒れたショウの伸ばした両掌から、中空で無防備な俺の体に向け、ものすごく強烈な風が発せられた。突風を手のひらサイズに圧縮して、威力を数倍に高めたものだろう。


『ズッダーンッ』俺の体はそのまま吹き飛ばされ、草地に何回も転がされた。


「パパ……大丈夫?」

「ああ……大丈夫だ……パパの負けだ……合格だな……。」


「やったあー……。」


 まさか本当に負けるとは思わなかった。ある程度善戦すれば認めてやるつもりだったのだが、あんな隠し玉まで持っていたとは……。『パチパチパチ』トオルは笑顔で祝福してくれ、ナーミはおもいきりふくれていた。


 その後ナーミに先端に綿を詰めた玉を付けた安全な矢で攻撃してもらい、飛翔魔物を想定した模擬訓練も行い、最後にトオルにカッコンの稽古をつけてもらって、本日は終了。明日はいよいよダンジョンだ。



「いやー……怖い怖い……火弾!火弾!火弾!」

 翌朝、ダンジョンの洞窟に入るといきなりホーン蝙蝠が襲い掛かってきて、ショウが俺の背中に顔を押し付けて隠れ、魔法の呪文だけを連呼する。


『ボシュボシュボシュ』高速の炎が3発ホーン蝙蝠たちに向けて発せられたが、外れた。それはそうだろう、狙っていないからだ。それでもいきなりの炎攻撃に驚いた魔物たちは、慌てて逃げていった。


「おいおい……ちゃんと相手を見て、狙いを定めてから唱えないと当たらないぞ!昨日頑張ったのに、一体どうした。これじゃあ、もうダンジョンに連れてこられないぞ!」


 輝照石で照らしているとはいえ、薄暗い洞窟内で始めて魔物の姿を見たら、普通の奴なら誰でも驚くだろう。

 だが、それでも冷静に対処できなければ、ここでは生き残っていけないのだ。

 今日からショウの実践訓練として、まずは近場のC+級クエストを引き受けてみた。


「わわわ……わかりました……が……がんば……る……。すーはー……。」

 ショウが俺の体から離れて、深呼吸をして呼吸を整える。ショウの訓練のためなので、極力俺たちは攻撃せず雑魚魔物だけはショウに任せると言ってあるのだ。


「火弾!火弾!……」「火炎放射!」

 その後、何とかショウの攻撃も当たるようになってきて、ホーン蝙蝠やブラックゴリラなどを撃退していく。

 猛進イノシシだけは的中しても突進を続けたので、俺が一刀両断にしたが、それ以外はなんとかショウが対応できた。



「いよいよ、ボス戦だ。ショウは危険だから戦いに参加しなくてもいい。しかし、ドームには入って俺たちの戦い方を見るように。そうして勉強してくれ、いいね?」


「はいっ!」

 ドーム入口でショウに声をかける。雑魚魔物とは戦わせたが、さすがにボス戦はまずいだろう。見学だ。


「よしっ、行くぞ!」

 巨大ドームに入ってみると、ボスは大ナマズだった。ううむ……体の表面がぬめぬめで攻撃が簡単に通じないやつだ。


『シュシュシュシュシュ』『ズルッズルッズルッスルッ』ナーミが矢攻撃を試みるが、やはり滑ってその巨体に刺さることはない。


「大炎玉!」

 仕方がない、ドーム天井が崩れてきて危険だが崩落を……と思っていたら背後で呪文が唱えられる。


『ドゴワッ……ブワッ』直径3m程度の大きな炎の玉が、大ナマズに向かっていき直撃した。一瞬で大ナマズの上半身は炎に包まれ煙が立ち上り、焦げ臭いにおいが立ち込める。見るとつやつやと光沢があった皮膚が焼け焦げているようだ。これはチャンスだ。


「おりゃあっ!」

『ズバッズババーンッ……ズゴッ』一気呵成に駆け寄り、つやが消えた部分を剣で斬りまくる。やはり透明粘膜が消失していて、簡単に斬りつけることができる。こうなりゃ動きの鈍い大ナマズなどは敵ではない。


『シュシュシュシュ』『ズザズザズザッ』『ブシュー』ナーミの矢も突き刺さるようになり、トオルも長刀で急所を狙う。数分で大ナマズは動かなくなった。


「おお……よくやった……炎に弱いとすぐにわかったのか?」


「えー……うーん……なんか……かば焼きにしたらおいしそうかなって……。」

 ショウに聞いてみたら、どちらかというと食欲系のようだった……まあそれでもいいさ、いい判断だった。



 ギルドに戻って清算し、宿でシャワーを浴びた後にいつものように居酒屋に直行。ミニドラゴンには3日ぶりとなるので、持ち帰ったホーン蝙蝠を5匹まとめて与えた。大ナマズの肉や猛進イノシシの肉は当然ながら回収しておいたが、今日は居酒屋には進呈しないで置いた。これから先に予定があるのだ。


 居酒屋では飲み食い放題状態ではあるが、それでもダンジョン攻略した後は、気持ちが高揚しているせいもあり酒が進んだ。トオルとナーミはすぐにあきれて宿に戻ってしまったが、ショウだけは付き合ってくれてお酌をしてくれた。たわいもないカンヌールでの昔話をしながら、親子で楽しいひと時を過ごした。


 あまり遅くなるとナーミにどやされるため早々に引き上げ、ナーミの部屋にショウを送った後、部屋に入る。

 あれ?今日も鍵を閉め忘れたか……?と思っていたら、薄暗がりの中にバスローブ姿の女が立っていた。


 そうだ、俺が酔って帰った時だけ出現する、夢の中で見る絶世の美女だ。ううむ部屋に入った途端、俺は寝入っているのか?


続く。


4人目のメンバーである、魔法使いショウが誕生しました。ワタルたちの冒険は、今後どういう展開を見せるのでしょうか?期待の次章は・・・明日から連続掲載いたします。ご期待ください。

いつも応援ありがとうございます。ブックマーク設定でご愛読いただくと、今後の執筆の励みになります。また、作品への評価や感想など頂けますと、作品展開へのヒントにもつながりますので、お手数とは考えますが、お寄せいただけますとありがたいです。よろしくお願いいたします。

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