表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/216

職業選択

「おお……戻ってきたか。じゃあ、冒険者カードを渡してくれ。」

 昼食時になってようやくショウが戻ってきたので、冒険者カードを受け取りカウンターにもっていく。


「悪いが、この金をこのカードに振り込んでもらえないか?」

 現金をそのままショウに渡すと危険なので、カードに入金してもらう。本人ならカードで村のどの店でも支払いができるから、このほうが便利だ。


「全額でしょうか?」

「全額だ。」

「はい、どうぞ。」

 受付嬢からショウの冒険者カードを受け取り、ギルドを後にする。


「さて、初級講習を聞いてきてある程度冒険者という職業を理解したと思うが、ショウはどの職業に就きたいんだ?職業ごとに必要な装備が違ってくるから、決めてから揃える必要性がある。」

 広場でショウに確認する。冒険者でひしめくうるさいギルドの中より、外のほうがいい。


「うーん……あんまり他の人がやっていない職業がいい……だって……僕は運動はあまり得意じゃなかったし、本を読んでばかりいたから……力だって全然ないし……。」

 ここへきて、ショウがずいぶんと気弱になってきた様子だ。今朝の勢いはどうしたのか?


「それで……ね?魔法使いになりたい……呪文とか覚えるの、きっと得意だよ!」

 突然ショウが笑顔を見せる……おおこの言葉の伏線だったか……。


「だめよ……魔法使いの冒険者なんて、今はもうほとんどいないのよ!」

 ナーミが速攻で否決する。まあ、そうだろうな……厳しい訓練で音をあげさせたいんだものな……。


「それは……講習で僕が魔法使いになりたいって言ったら他の子たちにも笑われたし、先生にももう少し考えて結論を出したほうがいいって言われた……。でも……なっちゃいけないってことないんでしょ?」

 ショウが少し泣きそうな顔になりながらも反論する。


「だめよ……ダメったらダメ……だったら、あたしが弓を教えてあげるわ。そんなに力も必要ないし。」

 ナーミは魔法使い反対派だ……というより自分が厳しく指導するつもりなのか?


「まあいいじゃないか、ショウは魔法使いになりたいって言っているんだし。しかも俺たちは精霊球を土、水、風、火ととりあえず一通り持っているからね。同時にトオルにカッコンの訓練もしてもらって、ある程度上達したら俺も剣を教えるし、ナーミも弓を教えてやってくれ。


 そのうちに、本当に自分のやりたいことが見つかるかもしれないし、まずは俺の土の精霊球を持たせてやればいい。一度にいくつもの精霊球を持っても、使いこなせないだろうからな。」


 まずはショウの意見を尊重しよう。どんな結果になるにしても後悔させないためにもな。それに……魔法使いにしておくには、別の意味もある……。


「じゃあ……魔法に必要な精霊球はあるし、魔法使いの防具を買いに防具屋へ行くとするか。」


 そう……剣士になると言ったら剣のほかに盾や鎧兜などの重装備が必要となるし、忍びだって盗賊だって弓使いだってそうだ。武器と防具が必ずセットで必要となる。


 ナーミに送金したのは一般家庭の数ヶ月分の生活費相当だったはずだから、それなりに高額だが、この前俺自身の武器や防具の予備を購入したときに、いかに装備が高額であるか……というか、いいものはどこまでも高いということがよく分かった。


 魔法使いにしておけば、とりあえず防具だけ揃えておけばいいという安直な考えだ。何せ武器に当たる精霊球は、すでに持っているのだからな。A級用の武器よりも高額な精霊球……実際の販売金額は知らないが、C+級の精霊球の清算金を見ても想像はつく……をすでに所有しているメリットは大きい。


「わかったわ……仮よ……あくまでも仮に魔法使い……ということにするんだからね。」

 ナーミが渋々了承したので、防具屋に向かう……何のことはないギルドの隣が武器屋でその隣が防具屋だ。


「親父……魔法使いの防具を見せてくれ……初級者だがそれなりにいいほうの奴を頼む。」


「ええっ……ままま……まほう……魔法使い……ですか……?どこかの国の軍隊の方でしたかね?」

 中に入るなり防具屋の店主に案内を頼んだら、親父が俺たちの姿をじろじろと疑わしそうに眺め始めた。


「いや……俺たちは見た目通りの冒険者だが……軍隊じゃないと、魔法使いの装備は購入できないのか?」

 軍隊限定……なんて言う装備なのだろうか?


「いえいえ……そそそ……そんなことはございませんが……冒険者の方で魔法使いになられる方がいらっしゃるということでしょうか?」


「ああ、もちろんそうだ。初級冒険者だが、魔法使い希望なんだ。」


「はあ……これはまた……ううう……うちにあったかな……。」

 店主はそう呟きながら、奥へ引っ込んでいってしまった。


「ほら、ごらんなさい……冒険者で魔法使いになろうなんて人は、今はいないのよ。確かに精霊球はC+級ダンジョンで手に入るけど、初級だから扱いにくいし、何よりC+級になったということは、すでにいっぱしの冒険者だからね。そこから魔法使いの修業を1からやるなんて言う冒険者はいないのよ。


 B級ダンジョンなら中級の精霊球が手に入るけど、もうそうなると今更魔法使いに……なんて考えるより清算して豊かな生活を送ろうとするのよ。魔法なんていう範囲攻撃は、軍隊だけが重宝するものよ。」

 ナーミは得意満面といったふうに、胸を張る。


「まあまあ……落ち着いて……ナーミが言いたいことは重々承知しているつもりだ。」


 何とかナーミを抑える。何とかしてショウにあきらめさせたいのだろうが、俺たちが持っている精霊球は中級のものなんだし、優位な点はナーミだってわかっているはずだ。


「あの……大変申し上げにくいのですが……魔法使い……というのは本当に特殊な職業でございまして、その……防具になりますと……。」

 しばらくして店主が戻ってきたが、なんだかしどろもどろだ……。


「なんだって?防具がないというのか?ここはギルド指定の防具屋だろ?」

 いくら何でも防具がないなんて……緊急の調達があった時にどうするつもりだ?


「は……はい……そうなんですが……ここ十年以上……いえ、すでに20年近くにわたって、冒険者用の魔法使いの装備は、この村では需要がございませんでした……なにせ、山間の小さな村ですからね。


 ダンジョンが近くに多くあるのでギルドはございますから、冒険者向けの装備は欠かしたことはないのですが、需要のない装備を置くというのは……その……無用な在庫ということになりましてですね……。」


 店主が、もみ手をしながら腰を低く言い訳をする。ううむ……魔法使いというのはここまで人気がない商売だったのか……というより、軍隊向けの職業として精霊球を流通させようとしているのかもしれないな。


「なんとまあ……魔法使いの防具が一点もないとは……情けないな……。」

 本当にもう、ため息が出るな……注文したら納期はどれくらいかな?


「いえいえ……1点もないということではないのですが……その……数年前この村に軍隊が演習のために立ち寄ることがございまして、その時には魔法使い用の装備も一そろい準備いたしました。なにせ、演習途中で装備に不具合が出て、替えが必要になる場合もございますからね。


 必要最低限の数だけ準備しておいたのですが、1点だけ売れ残った装備はございます。将校用の上級魔法使いのローブなのですが、軍隊の魔法使いというのは雇われですから、上級魔法使いでも収入は非常に少ないとぼやいておりました。その為、上級向け装備なんか目もくれていただけなかった次第で、売れ残ったのです。


 ですがその……上級者向けということで……その……お値段が……。」

 店主が提示したその価格を見て驚いた。この間俺が揃えた鎧兜などの装備一式に匹敵する金額だ。


「なんだってこんなにバカ高いんだ?」


「それはもう……ローブには炭素繊維を織り込んで強度を上げるとともに、精霊球の粉末も糸に練りこんであります。そのため防刃性能も高いうえに、4種の耐魔法性能も30%削減効果を誇ります。しかも、攻撃時には、その分魔法効果が加算されるという、まさに夢のような仕様となっております。


 さらにですね、一流のデザイナーがデザインして手織りで仕上げた、それはもう最高傑作ですからね。」


 店主が熱心に説明する。この世界の工業技術力というものを、時として疑いたくなる。発電は小規模ながら行われていて高額だが電化製品も存在する。ビデオカメラなどもあるし電信も普及しているが、ガソリン車はまだ発明されてはいなく、移動手段は基本馬車。蒸気機関による鉄道は現在整備中と聞いた。 


 炭素繊維なんて……俺のいた元の世界だって最近の技術のような気がするのが、さりげなく使われているのだからな……進んでいる部分と遅れている部分の差が激しすぎる。


「うーん、かなり高いなあ……注文するとどれくらい日数がかかる?ほかの防具屋の在庫状況はどうかな?」

 仕方がない、注文して到着を待とう。


「都市部の防具屋にはあることはあるのですが……魔法使いの装備は現在は軍隊向けのみですから、軍隊からの注文数に応じてしか生産されておりません。予備は当然持つことは持ちますが、あくまでも予備です。軍隊から緊急発注を受けた際に、ないではすみませんから、こちらに回してもらうことはできないでしょう。


 生産注文をかけるとして、1着だけだと次回の軍隊の更新用の需要期に合わせてということになりますので、出来次第送ってもらうとしても、おおよそ半年後くらいになりますかね。


 それよりも、どうしても必要でしたら、上級者向けのローブを見てみますか?おい……。」

 店主が店の奥に声をかけると、店員が真っ白いローブを持ってきた。


「へえ……きれい……軽いし……それに、肌触りもすごくいい……。」

 すぐにショウが寄っていき、その美しさに感激する。


「そうでしょう、そうでしょう、従来のローブより重さで20%削減しているにもかかわらず、防刃性能は200%……200%アップですよ……さらに耐魔法効果と攻撃時には魔法効果が付加されますから、別途魔法使いの杖なども必要なくなり、大変お得な商品となっております。」


 なんだかテレビショッピングの、うたい文句なようなことを店主が言い始める。

 ううむ……注文しても半年は届かないのか……ぎりぎりではあるのだが、今のショウのカード残高で購入できないことはない金額だ……。


「どうする?このローブを購入してしまうと、今後ほかの職業がやっぱりよかったと言っても、そう簡単にそれ用の装備をそろえることはできない。何せこれだけでほとんど金を使いきってしまうからな。


 だから真剣に考えてくれ、このローブを購入して魔法使いとして絶対あきらめずにやっていくか、あるいは難しいなら、とりあえず他の職業も試してみようとするのかをね……。」


 まずはショウに聞いてみることにずる。今この場では無理なら、帰ってから一晩考えさせればいい。こんな超高級ローブが売れてしまうことは、まずありえないだろうからな。


「ぼ……僕は……どうしても魔法使いになりたい……。だけど、別に防具なんかなくたって平気だよ。

 うまく避けたりするから……そうして自分でお金を稼いで、それから防具を買えばいいから。」

 ショウは、少しこわばった笑みを見せながら答える。事情はある程度理解している様子だな。


「よし分かった……じゃあ、このローブを売ってくれ。それから……ローブだけじゃ足りないから……。」

「ええっ……いいの?」

「ああ……装備なしではダンジョンに行くどころか、魔法の訓練だって危険だ。だから買おう。」

「あ……ありがとう……。」


「おおおお……お客さん、毎度ありがとうございます。このローブは一級品ですが、売れ残っちまって仕入れたことを後悔していたんですよ。わしの目の黒いうちにこのローブが売れることになろうとは……本当にありがとうございます。


 いいでしょう、本来は別売ですが、インナーであるシャツとズボン及び魔法使いの帽子と靴もセットでお付けいたしますよ。なあに、品ぞろえの悪い防具屋の、せめてもの罪滅ぼしと思ってやってください。おいっ!」

 店主がそういうと、店員がシャツとズボンと帽子に靴まで持ってきてくれた。これで装備一式がそろった。


「いや……こちらこそありがとう……持ち金が乏しかったので、助かるよ。」


「いえいえどうぞご遠慮なく。さらにローブの内側にはポケットが付いておりましてね、ここに回復水と解毒薬が一本ずつ入れられる仕様となっております。お試しに一本ずつお付けしておきますよ。」


 さらに回復水と解毒薬まで……そうか、冒険者の袋を持たない軍隊仕様だからそんな仕掛けもあるというわけだ。ううむ……サービス満点だな。いや……売れ残りで在庫圧迫していたから、せめて小物だけでも売ろうとセット物を別売みたいな形で値段をつけていたのかもしれない。何せ高額すぎるからな。


 だとすると、サービスとは言えないな……元々のセット価格で購入しているだけだ。だがまあ、損したわけではないから、いいことにしておこう。それに、この機能は大変ありがたい。


「ありがとう……世話になったね……。」

「いえいえ……またお越しください……。」


 ショウに試着室で着替えさせてから、防具屋を出る。昼食後、宿の馬車置き場へ向かい、トオルとナーミはそれぞれ馬で、俺とショウは装甲車の荷台では乗り心地が悪いので、御者席に詰めて2人掛けで乗っている。


「じゃあ、ショウの魔法の特訓を開始しよう。では、俺の土の精霊球を渡すから、これをまずは使いこなせるようにしよう。」

 ペンダントのように、チェーンで胸に吊っている精霊球を外そうとする。


「待ってください、ワタルの土の精霊球は、特にボス戦で使用頻度が高いので、ワタルが持っているべきです。

 私は2つ精霊球を持っておりますから、まだ不慣れな風の精霊球をショウ君に渡します。この精霊球を使いこなせるようにまずはなってもらいましょう。」

 すると、トオルが待ったをかけてきた。


「だめよ……前に言ったでしょ……風の精霊球が一番人気がないんだって……あたしの火の精霊球を持たせるわよ。これだったら攻撃力が高いし、何より取得したばかりで全然慣れていない上に、あたしは元々遠距離攻撃だから、魔法がなくてもやっていけるしね。」


 さらにナーミが出てきて、自分の精霊球をショウに手渡した。なんだかんだ言って、ナーミが一番ショウのことを気にかけているのだろうな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ