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擬態石

「トオル……トオルの持っている分も出してくれ。これは俺が持っている分だ。さあエーミ、これを胸に下げてみてくれ。」

 冒険者の袋から、タームから奪い取ったネックレス状にチェーンのついた擬態石を取り出し、エーミに手渡す。


「はい……これをどうぞ……。」

 トオルも冒険者の袋から、スートから奪い取った擬態石を取り出し、エーミに手渡す。


「これで……どうするの……?」

 事情を知らないエーミは、2つの擬態石をこわごわ首から下げて、辺りをきょろきょろと見回す。


「これを使ってエーミは男の子になるんだ。エーミはかわいらしい女の子だろ?この辺は恐ろしい男ばかりでいっぱいで、かわいらしい女の子は危険なんだ。パパたちが一緒の時には守ってやれるが、常に一緒にいられない場合がある。だから、用心のためにエーミは男の格好に化けるんだ、いいね?」


 まずは趣旨を説明する。擬態石のことに触れるのはそれからだ。


「ええっ……だって……女の子……。」

 エーミがそっとナーミの方を指さす。まだ、自己紹介もしていなかったからな。


「ああ……ナーミか……ナーミは特別だ……何せ強いんだ、さっきも見てたろ?パパよりずっと強い。

 ナーミはずっと一人ぼっちで冒険者を続けてきて、最近パパたちと仲間になったんだが、ナーミは自分で自分の身を守れるが、エーミにはまだ無理だ。


 でもそれは、エーミが悪いとか劣っているとか言っているわけじゃない。これまで生きてきた環境が違うんだから仕方がないし、エーミはエーミのいいところがたくさんあるし、パパはエーミが大好きだ。


 かわいい女の子としてのエーミはもちろん大好きだが、やはり安全第一だ。これは擬態石といって、好きな体になれる精霊球の一種だ。これで男の体になれば、エーミは安全にこの村で過ごせる。わかるかい?


 あくまでも擬態石を使っているときだけだ。これからずっと男の子になってしまうわけじゃない。擬態石を外せば、元通りのかわいらしい女の子のエーミにいつでも戻れるから、安心してくれ。」

 なるべく優しく穏やかに説明しているつもりだが、伝わっているだろうか。


「ふうん……これで……で?どうやればいいの?」

 エーミが擬態石の一つを手に持ち、俺の顔をまじまじと見つめる。


「どうやるって……男の体になれって……唱えるんじゃないか……な……?」


 どうやればって言われても、俺は擬態石の使い方なんて全く知らない。輝照石なら暗い所に行けば勝手に発光するから、わかりやすいのだがな……。


「基本的にはその通りなのですが……そうですね……じゃあいっしょに来てください……。」

 トオルが突然エーミの手を引いて、連れて行こうとする。一体どこへ……?と思っていたら『ガチャッ……バタン』エーミと2人で浴室へ入っていった。


「いやーっ……そんなとこ……みせないでー……」


「ちゃんと見てください……そうして、エーミちゃんも服を脱いでください……。」


 すると間もなくエーミの悲鳴ともとれる叫び声とともに、トオルの声も聞こえてきた。脱げって言って、エーミと一緒にふろに入るつもりか?まさか……トオルに限ってとは思うが、案外身近に危険が潜んでいたなんてことに……。


『ガチャッ』焦って浴室のドアを開けると、何とトオルがまっぱに……それもふんどしまで外して、本当に素っ裸になって、しかもその……だいじなところ……というか下腹部を突き出してエーミに迫っている。

 さらにエーミに脱げだなんて……この野郎……


「待って……仕方がないのよ……擬態石で体を作り替えるには、なりたい体の詳細をイメージする必要性があるの。エーミは男の体のことを知らないから、はっきり見せてそれをイメージさせないと、擬態がうまくいかないの!下手な化け方をすると簡単に見破られて、すべて剥ぎ取られてしまうわよ!」


 トオルに殴りかかろうとしたら、ナーミが後ろから叫んで制止する。


「そ……そうか……わるい……。」


「いえ……やっぱり刺激が強すぎましたかね……。」

 トオルが頭をかく。エーミは空の浴槽の中にうずくまり、両手で顔を覆って何も見たくはないと拒否している。


「エーミ……どうするかな……そうだ……エーミがまだ小さかった頃はパパと一緒にお風呂に入っていただろ?最近はあまり一緒には入ってくれなくなっていたが……その時見たパパの体のことを覚えているか?

 エーミは珍しそうに、見ていただろ?エーミと違うって言って……。」


「えっ……パパのおチ〇チ〇……?」

 エーミが両手で顔を覆ったまま答える。


「そうだ……覚えているか?覚えていればその形をイメージして……。」


「えー……あんまり覚えて……いない……。」


 カルネはエーミがまだ幼かった頃に病床に臥していたからな。トーマと生活するころになって初めて、父親というものを知ったと言っても過言ではなかっただろう。その時のことを覚えていればいいと思ったんだがな。


「だったら仕方がない……パパが脱ぐから、それを見なさい。パパの裸だったらいいだろ?昔一緒にお風呂に入った仲だ、恥ずかしいことは何にもない。」

 仕方がない、俺が脱ごう……変な気を起こして、何が何しないよう十分な注意が必要だが、エーミのためだ。


「だめよ……ワタルのようなおじさんの体を見せてどうするのよ。エーミは若いんだから、若い男の体じゃなきゃ釣り合わないでしょ?せめてトオル位若くなければ使い物にならないわよ。」

 トオルに代わって脱ごうとしたら、速攻でナーミに否定された。


「エーミ……パパと一緒にいたいんでしょ?だったら頑張ってそのお兄さんの体を見て、しっかりと男の体というものを理解して、それで擬態石を使うのよ。そうしないと、一緒には暮せないの……わかる?」


「えー……パパと……一緒に暮せなくなっちゃうの……?そんなの……いやだよ……。」

 ようやく両手を下ろしたエーミが、今度は大粒の涙を流す。


「だったら、頑張りなさい!」


「わかりました……。」

 エーミがすごすごと浴槽の中で立ち上がる。


「じゃあ、トオル、悪いけどお願いね。」


「はい……頑張ります。」


『バタンッ』浴室を出てドアを閉める。最終的にナーミがエーミを説得して、やはりトオルの体を参考にして、エーミの擬態を完成させることになった。


「じゃあ……体の方は大体イメージできるようになりましたね?では……顔の方ですが……。」


「顔をかえるのは嫌……エーミはこのままの顔がいい……。」


「そうですか……では擬態石は1石だけでいいですね……顔の方は後で考えましょう。

 では擬態石を持って、男の体をイメージして……擬態石ごと埋め込んで、男になるように念じてください。」


「うーん……。」

「はい……じゃあ確認しますから、服を脱いでみてください。」

 浴室の中の様子が、会話だけで伝わってくる。エーミもパニクルこともなく順調な様子だ。


「成功したようですね……ふんどしは、こうやって締めます。」「へえー……。」


「トイレは……こうですよ……。」「ぎゃーっ!……ど……どうして……?」

 なんだか中の様子が目に浮かんでくる……。


「では次は髪形ですかね……短くしますよ。」

「えー……」

「仕方がないのです……我慢してください。」



『ガチャッ』30分ほどして、浴室から男の子が出てきた。濃紺の道着を着て、黄色の髪の坊ちゃん刈りの少年だ。トオルの体を参考にしただけあって、筋肉質で背も高く手足も長くなっている。だが、よく見ると顔はエーミの顔のままだ。


「男の子の体にするのは成功しましたが、顔を変えることには抵抗があるみたいなので、あきらめました。

 顔の場合はやりようがありますから平気です、ちょっと待っていてくださいね。」


『ガチャッ……バタンッ』トオルは突然部屋から出ていった。どうしたというのだ?

『ガチャッ……バタンッ』そうして息せき切ってまた部屋に入ってくる、手には何か持っているようだが……。


「顔の方はお化粧でごまかしましょう……。といっても簡単に済みますがね……まずは眉毛をちょっとだけ剃って……こうして書き足します。これだけで十分男の子に見えるでしょ?」


 トオルが持ってきたのは、なんだかお化粧道具のようなものだ。忍者道具なのだろうな、変装キットとか。

 確かに先ほどとは違って、きりりとした目つきの男の子に変わった。大したものだ。


「お化粧道具とかは後で買いに行って揃えましょう。手順も教えてあげます。それと……擬態石で体を作って長時間過ごすのは、最初は苦痛のはずです。そのため、当初は外出するときと昼間だけ擬態石を使って、夜みんなが戻ってきてからは女の子の姿に戻ったほうがいいです。


 今日見た体の各部分を決して忘れないようにしてくださいね。忘れると、まともに体を作れなくなってしまいますから。いつでもおっしゃっていただければ裸をお見せしますので、怪しいなと思ったらご用命ください。


 徐々にならしていけば、1日でも2日でも平気でいられるようになりますが、女の子であることを忘れてしまいますから、何日かに一度は半日以上は元の体に戻る習慣をお勧めします。」


 トオルが擬態石を使った生活について説明してくれる。さすが忍びだ……こういったアイテムに関しては熟知している。頼りになるなあ……。


「なんか……トオルも擬態石を使っているような気がしてきたな。どうなんだ?トオル……。」

 あまりにも鮮やかな手際を見ていたら、とんでもない言葉が口を突いて出てしまう。


「えっ……私が……ですか……?」


「いっ……いや……軽い冗談だ……悪い悪い……冗談冗談……。」

 いつもほとんど表情を変えないトオルが、顔をゆがめたので焦って訂正する。


「その冗談とやらでは、1ミリも笑えませんね……。」

 トオルが厳しい表情で俺をにらみつける。トオルの笑いの尺度はメートル法か?と突っ込みたくなったがやめた……トオルがなんだか泣きそうな顔に変わっていくからだ……。


 いつも俺との関係を話すときに、意味深な言葉を発するトオルへの報復の意味も込めて、トオルの顔は本当にかわいくて、美少女のように思えるよねーといって笑いを取るつもりでいたのだが、もしかして気にしているのか?


 人が嫌がる弱点というか欠点をついて笑いを取ろうとするのは、最低の行いだ。俺なんか学校ではブタだのべとつくだのきもいだのと、体形や容姿などを陰口というより聞こえるような声で周り中から言われていた。


 だが、トオルのかわいらしい顔は欠点どころか長所にしか思えないのだが、人はどんなところに悩みを抱えているかわからないとは、よく聞く。ううむ……俺は地雷を踏んでしまったのだろうか……。


「はいはい……もうそこまで……エーミの快気祝いをするんでしょ?おなかもすいちゃったから、そろそろ食べに行きましょ。」


「そ……そうですね……。」

 怖いくらいの沈黙がしばし続いた後、ナーミの助け舟が入った……助かった……。


 その後、通りに出てトオルとナーミとエーミの3人が、仲よくキャッキャッと騒ぎながら歩いていくのを、俺が後ろからついていく形になり、途中村の衣料品店でエーミの普段着とパジャマを購入したと聞き、雑貨屋では若い子向けの化粧道具を購入したと聞いた。その間俺は店の外で立番をしていた。(もちろん俺の冒険者カードを渡して、会計をしてもらった。)


「では…………ちゃんの回復を祝って……カンパーイ……。」


 買い物が終わってから、居酒屋へ向かう。ここはフリーフォールカモシカの肉を提供して7日間飲み放題食い放題を約束してくれた店だったが、さすがに4人で行ったら、5日間に減らさせてくれといわれ、それを受けた。それでも今日を含めてまだ4日間飲み食いし放題だから、十分だ。


 エーミはもちろんジュースだが、ナーミも文句を言わずジュースで乾杯している……おお……ようやくわかってくれたようだな。


「じゃあ、乾杯したし腹も減っているだろうから食べながらでいいが、初めて会う顔もあるから自己紹介と行くか?まあ、俺は全員と顔見知りだからいいな?トオルも……トオルは知っているよな?えーと、この子の名前はここでは禁句だ。どこで聞かれているかわからんからな。」


 ナーミの情報源が居酒屋での冒険者たちの会話ということだったので、最初に小声で注意しておく。折角擬態石を使ったというのに、名前で呼んでいてはばれてしまう可能性がある。


「ええ、はい……ダーシュさんですよね?よくお休みの時に遊んでもらいました。」


「はい……今はトオルという名前に変えました。誰かさんが名付けてくれました。」


「ええ……ゴホン……その誰かさんだが、パパは今はワタルという名前に変えたから、驚かないようにね。それから彼女はナーミだ。さっき名前だけは教えたからわかっていると思うけど、君のことはもうナーミには伝えてある。パパの子供だってこともね。じゃあ、ナーミ……自己紹介してもらえるかい?」


 ナーミとエーミの関係のことは……今はまだ話さないほうがいいだろう。俺が間接的に話すより、ナーミが言いたくなった時に直接打ち明けたほうがいい。


「じゃあ自己紹介するわね。ナーミ・トルビニーニョ弓使いの冒険者よ。こう見えても名誉A級の冒険者……になったのは、パパたちも一緒だけどね……」


「さっきは悪かった……ちょっと気づかいがなかったことは謝る。」

 ナーミが自己紹介しているすきに、トオルに耳打ちして謝っておく。こういったことは、極力その日のうちにわだかまりを消しておいたほうがいい。


「いいですよ……気にしておりません……ワタルが鈍感なことは重々に承知しておりますし、そこがいいところでもありますからね。」

 ふう……あまり怒っているわけではなさそうだが……ちょっと気になる言い方をされた。


「あたしのパパはカーネ……あなたが知っている名前でいうと、カルネ・トルビニーニョかな?……あなたの本当のパパと同じよ。あなたとあたしは兄弟なのよ……。」


 ナーミが店員が近づいていないことに注意しながら、さらに小声で話す。

 おおっと……もう今日言っちゃったか……だがまあ……エーミの本当の家族がいることを知っておくのはいいことかもしれないな。


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