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エーミの行き先

 スースー達が辞退してくれたおかげで金が戻ってきて、ちょっと余裕ができた。昨日は……というかほぼ今日の明け方近くまで活動していたので、どっと疲れが押し寄せてきたような気がする。


「じゃあ、一旦宿に戻って休むか……エーミのところには夕方に行けばいいだろう。リハビリもあるだろうから、昼間もいるとかえって邪魔になる。」


「そうね……部屋に戻ってシャワーを浴びて、仮眠をとるわ。」


「無理はよくありません。金銭的に余裕が出来ましたから、今日は休みましょう。」


 名誉A級と大きく表示された冒険者カードを受け取り、明細表で残高確認もして感動する。せっかくいただいた無償の奉仕を無駄にしないためにも、俺たちにできることはまだあるはずだ。


「君たちはいかないのかい?カンヌールの町グイノーミのギルドで開催される、百年クエスト。今回開放されるダンジョンは、精霊球のほかになんと生命石がこれまで2度も出現しているダンジョンのようだ。


 百年級の精霊球は大きな城が買えるくらいくらいの高額で取引されると言われているが、生命石だってそれに劣らないか、それ以上の評価を受けるはずだ。なにせ一般に知れ渡ることはない、いわば秘密の妙薬として、位の高い人たちにのみ言い伝えられている、伝説とも言える事柄だからね。


 ダンジョンで生命石が出現したら、それだけで戦争が起こりうるとも言われているくらいだ。なにせ、実際に若返るのだ。それを自分のものにするためなら、どれだけでも支払うという金持ちはうじゃうじゃいる。手に入れることよりも、それを安全に売り払うことのほうが難しいと言われているくらいだ。


 それでもギルド主催の公式クエストだからね、生命石を手に入れてもギルドで清算可能だ。これを手に入れたら、以降の人生遊んで暮らせるというので、世界中から一流の冒険者たちが集まってくる。


 百年級の場合はボスも超強力だから、個別クエストではない、共同クエストだ。つまり複数チームが一度にダンジョンに入って攻略する。僕たちも3チーム合同でパーティを組んで、協力し合って攻略予定でいるんだ。

 ここへ寄ったのも移動途中で、昨日はただこっちのクエスト状況を確認するためだけだったんだけどね。


 でも、昨日のクエストを通して君たちに出会えたことは幸運だった。君たちも僕たちのパーティに参加しないか?名誉A級になったんだから、百年ダンジョンに挑戦する資格は十分ある。

 取り分は申し訳ないが人数割りの山分けになるが、損な話じゃないはずだ、どうかな?」


 宿に帰って寝ようとギルドから出ようとしたら、スースーが話しかけてきた。なんとまあ、噂には聞いていたが百年ダンジョンか……それがあろうことかグイノーミで開催されるわけだ。


「どうする?俺は……カンヌールを捨ててきた身の上だから、今更戻るということはやりたくない。なにせ、ヌールーの町には王宮も含め知り合いが多くいるからな。


 悪いことをして追放されたわけでは決してないが、俺のわがままで由緒ある伯爵家の城から何から全て売り払って旅に出たわけだから、そんな土地に戻るのは居心地が悪いことに変わりがない。それに、エーミのこともあるし、今この村を離れることはできそうもない。」


 とりあえず、俺一人の都合で断るわけにもいかないので、他のメンバーにも確認してみることにする。


「私は……ワタルと同じ意見です。今はまだ、カンヌールに戻る時期ではないと考えております。」


「いいんじゃない?いやなら戻ることないわよ。ギルドなら各地にほかにもあるし、ダンジョンだっていっぱいあるんだから、行きたくない土地に行く必要なんてさらさらないわよ。百年ダンジョンなんて、名誉A級に上がれたばかりのあたしたちには、荷が重いと思うしね。これからだってチャンスはあるわよ。


 それに、あたしだってエーミのことは心配だから、ここに当分残っていたいわ。」


 トオルもナーミも行かないことに了承してくれた……有難い。なにより、エーミをたった一人でこの村に置いていくわけにはいかない。少なくともリハビリが終了して、退院できるようになるまでは、この地にとどまって毎日励ましに行ってやるつもりだ。


「お気持ちはありがたいのだが……俺とトオルはカンヌール出身で、事情があって何もかも捨てて出てきて冒険者になった身の上なんだ。そのため、今は戻る気になれない。申し訳ないが、参加はできない。」


 折角の有難い申し出だし、昨日は俺たちに協力してくれた相手なので、大変心苦しいのだが、深く頭を下げてお断りする。トオルもナーミも軽く頭を下げた。


「そ……そうかい……君たちの戦いぶりを逃げているときにちらっと見て、君たちがいれば成功確率がかなりアップすると期待していたんだけどね。残念だが行きたくない事情があるんじゃ仕方がない。


 今回は僕たちだけでやってみるよ。合同クエストだから、だめだったら、逃げちゃって次のパーティに譲るという選択肢もあるしね。今度また機会があれば誘ってもいいかい?」


「ああ……その時はお世話になるかもしれない。」


「わかった……じゃあ、元気でね……風のうわさで君たちの活躍を聞くのを楽しみにしておくよ。」


 意外とあっさりとスースーは引いてくれて、仲間たちとギルドを出ていった。合同クエストというのは複数のパーティが同時にダンジョンに入って、魔物たちを攻略しながらボスステージを目指す、いわば早い者勝ちのクエストだ。


 先にボスのステージに到達してボスを倒せば、精霊球や生命石などのお宝はそのパーティのものとなるのは当然だが、ボスステージには一つのパーティしか上がれない。一組入った時点で入り口に一方通行の結界が張られ、後続は入ることができなくなるわけだ。


 だが、中に入ったパーティが分が悪くなると、ボスステージのドーム入り口から一旦逃げ出ることが可能だ。

 誰か一人でもドーム内に残ってさえいれば、先行パーティの権利となるが、全員が逃げて出てしまえば、再突入は次に待っているパーティの権利となる。つまり交代が可能となるのだ。


 百年ダンジョンでなくてもC+級以上のダンジョンであれば、複数パーティ(ただしこちらは1パーティ1チームだが)での同時参加は可能だ。ボス戦に自信がない新C+級冒険者たちは、他のチームを誘ってダンジョン攻略することは絶対に不可能ということではないと、初級者講習で聞いた。


 この場合は1チームずつしかボスステージに入れないが、自分たちのチームが全滅しそうになったら戻って、次のチームにボス攻略をお願いすることが可能となる。C+級以上のダンジョンはボスを倒さない限り出ることができないから、ボス攻略に失敗するということはチーム全滅を意味するが、救済可能なわけだ。


 しかし、獲得する精霊球は非常に高価であり、先にボス挑戦したチームと後にボスを倒したチームとの間で、報奨金の分配で争いが絶えないらしく、基本的にギルドでは、百年ダンジョン以外での合同クエストは推奨していない。取り分でもめた場合は、仲裁しないから決闘で決着をつけるよう通達が出ているくらいだ。


 だから俺は、最初から単独でのクエスト申請しか考えていない。


 スースーたちは紳士的で律儀な性格をしているから、攻略後の報奨金分配でもめる心配は全くないのだが、やはり今更カンヌールに戻る気はしない。少なくともあと何年か何十年か経って、アックランス家のことを知る人が、かなり少なくなってからでなければ、戻る気にはなれないだろうと思う。


 ギルドから出て武器屋に寄り、刀を研ぎに出す。人を斬った後なので、色々な意味で手入れは必要だ。トオルも長刀を研ぎに出し、ナーミは矢を買い足した。


 それから道具屋によって回復水を補充した後、みんなに提案した。とりあえず当面の生活は何とかなるし、明日からダンジョン攻略に励めばいいので、人助けをしようといったら2人とも快諾してくれたので、少々時間はかかったが、道具屋のおやじに困っている人たちを救うのだと説得して、格安で引き受けさせた。


 それから宿に帰ってシャワーを浴びて、泥のように寝た。



「明日の午後にエーミを孤児院へ送るだって?この村のどこにある孤児院だい?」


「いえ……エーミちゃんは、おそらくカンアツ王都のアーツの孤児院に収容されますけど……詳細情報は、聞いておりません。人買い組織に情報が洩れる危険性があるので、私たちにも教えてもらえないのです。」


「どうして……昨夜人買いから助け出したばかりだというのに……ひどい扱いを受けていたから、今日からやっとリハビリなんだろ?せめてリハビリが終わってからじゃないと……。」

 夕方になって診療所へ向かうと、受付でショッキングなことを聞かされた。


「そうですね……まだ完全というわけではないようですが、リハビリを行ってみましたが、激しい運動は無理でも日常生活には支障をきたさないだろうと判断できました。恐らく追加の回復水の効果と、監禁期間が短かったということもあると考えておりますがね。」


 今朝検診に来た若い医者が受付にやってきて、エーミのベッドわきにおいてあったという、空の回復水の竹筒を持ち上げて見せる。ううむ……回復水を与えたことが仇になってしまったということか?


「さらに……どうしたことかずいぶんと奇特な方がいらっしゃるようでしてね、この診療所あてにギルドの道具屋さんから連絡があって、回復水5百本分の利用権があると言われました。回復水はここでは保存がききませんから一度にもらっても迷惑でしかありませんが、注文すれば5百本まではすぐに届けられるそうです。


 なんでも一般の冒険者チームが道具屋さんに代金を支払って頂いたそうなんですが、お名前は聞いていらっしゃらないようです。匿名のご厚意ですが、大変ありがたく使わせていただきます。


 とりあえず、ほかの子供たちも回復水を与えての治療に切り替えておりますし、エーミちゃんにも数本の回復水を持たせるつもりでおります。勿論、今後この診療所に運び込まれる重症患者さんたちの治療にも、大変有効利用できると考え、喜んでいる次第であります。」


 若い医者は俺たちの顔をじっと眺めながら、回復水の無償提供されたことを告げる。恐らく気づいているのだろうな。確かにトオルとナーミに相談して、先ほど道具屋にお願いしたことだ。


「でも……もう少しエーミはここに置いて、治療をしたほうが……体はともかく精神的な治療が……。」

 毎日見舞いに来て少しでも元気づけてやろうと思っていたのに、これでは会うことができなくなってしまうではないか。


「精神的な治療に関しては、アーツの病院での治療が望ましいと考えております。ここでは専門医がおりませんから精神科の治療は困難ですからね。それに、エーミちゃんはカンヌールの出身で、ここが地元というわけでもありません。いやなことがあった土地からは、極力離してあげたほうが、回復は早いはずです。


 それに……人買いからの通達のお話はご存知と思いますが、彼らの組織が動いてエーミちゃんたちを取り戻しに来ないとも限りません。ギルドでは警護を固めてくれていますが、絶対に安全とは言い切れません。


 動かせるのであれば、彼らの目の届かない遠くに移動させたほうがいいのです。エーミちゃんに2度と辛い思いをさせたくはありませんからね。」


 若い医者は、俺の目をまっすぐに見て話す。確かにおっしゃる通りだ。エーミの治療に関しても、こんな田舎の小さな村ではなく、都会で設備の整った病院で治療したほうがいいに決まっている。さらに、ここは人買いの移動ルートに近すぎるから、ここにいつまでも子供たちを置いておくのはよろしくない。


「ちょっとエーミに話をさせてくれ。エーミはもう知っているのかい?」


「はい……先ほどリハビリが終わった時点で、彼女には説明しました。ちょっと驚いていた様子でしたが、それでも冷静に受け止め、了解してくれました。」


「確認までに聞いておきたいのだが、エーミの体はほぼ大丈夫なんだね?普通の食事もできるわけだね?それから、精神面に関してだが、身内……例えば肉親だね……兄弟とか……そういった人と一緒にいたほうが、回復は早いんじゃないかな?」


「ああ……はい……回復水の影響でしょうが、彼女の体はほぼ回復していますよ。若いせいもあって自然治癒力も高いのでしょう。食事も普通の食事で問題ありません。


 それから……精神のケアに関してですが、もちろんですよ。こういった場合は身内との暖かな生活が一番の薬です。ですが……彼女の場合は……信じられないことですが実の母親から……。


 父親とは死別して、兄弟もいないと言っていましたけどね。あなたは一緒に暮らしていたとおっしゃっていましたが、血縁関係はないのでしょう?」

 若い医者が首をかしげる。


「ああ……念のために聞いただけだ。ちょっと病室へ行ってみる。」


「わかりました……彼女も恐らくいっぱいいっぱいでしょうから、あまり刺激を与えるような会話は避けてください、お願いいたします。」

 若い医者はそう言って頭を下げた。


「もちろんだ……彼女は前に娘として一緒に暮らしていた。事情があって妻と別れたんだがね。確かに血縁関係はないのだが、肉親同様だと考えている。だがまあ……彼女次第だ……それからだね。」

 受付を後にして病室へ向かう。


「ちょっと……どうするのよ……まさか、エーミを引き取るつもりじゃないでしょうね。」

 勘の鋭い……というか、先ほどの会話から普通にわかるか……ナーミが後ろから小声で話しかけてきた。


「そのつもりだが……どうしてだ?」


「馬鹿言わないでよ……あの子は冒険者じゃないでしょ?何か特技があるの?ずいぶんと華奢な体つきをしていたけど。」


「うーん……習い事なら、お茶とか生け花なんかをやっていたはずだぞ。」


 トーマとサートラとの結婚が決まってから、伯爵家の娘にふさわしい教育をすると言って、サートラが毎週師匠を呼んでエーミに習い事をさせていた。勿論トーマが稽古代を支払っていたわけだが。


「そんなもの、ダンジョン攻略に何の役に立つというのよ。戦えなくちゃ、連れていけないのよ!自分で自分の身が守れなければ、ダンジョンで死んじゃうのよ!」


「別に冒険者にするつもりはない。エーミは俺の娘として一緒に暮らすが、俺たちがクエストに向かっている最中は、宿で待っていてもらう。何だったらどこか定住する土地を見つけて、家を買ってもいい。そのためにはクエストをかなりな数こなさなけばならないだろうがね。」


 別に冒険者としてダンジョンに向かわせる必要性はないのだ。彼女の分くらいは俺が一人で稼げる。


「だめよ!若い女の子一人だけで、この村の中においてはいけないわ。エネルギーが有り余った冒険者たちが、うじゃうじゃいるのよ!どうなるかわかる?守るには常に一緒にいるしかないの!

 それが無理なら……辛いし悔しいけど、安全な施設で保護してもらうしかないの!」


 ナーミに言われてはっと気が付いた。冒険者たちは冒険に行っている期間より、村でぶらぶらと過ごしているほうがはるかに長いのだった。そんな中にエーミのような抜群にかわいらしい女の子を、一人だけで置いたとしたなら……想像しただけで……というか想像もできないくらいに恐ろしいことになってしまう。


 何より、エーミのことを気にかけているのは、俺だけではないのだった……ナーミにとってたった一人の身内なのだからな。ううむ……まいった……どうしようか……。


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