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決行

「突風!」

 狭い渓谷を突き抜けるようにして、突如激しい突風が前方から吹きつけキャラバンの足が止まる。猛烈な風圧で幌馬車があおられ、進めないのだ。


「集中豪雨!」

 さらに、止まったキャラバンに前方も見えないくらいの激しい雨が降り注ぐ。先ほどまで雲もほとんどないさわやかな青空で、風も穏やかな状況が一変、キャラバンの奴らも戸惑っていることだろう。


 大雨を降らせてキャラバンの足を止めるという俺の作戦だったが、雨だけだとそのまま通過してしまう可能性が高いため、まずは強い風を正面から吹かせて、一旦足を止めたほうがいいとトオルが提案し、突風と集中豪雨の連続魔法ということになった。


 これも複数の精霊球を所持している成果で、様々な連携効果を生み出せる。俺としては暴風雨などの融合魔法を早いところ獲得してほしいと思うのだが、いかんせん風の精霊球を手に入れてから日が浅いので、もう少し時間がかかることだろう。それが実現すれば、次はいよいよ失われた魔法効果の雷への挑戦だ。


 実現の時は近いと俺は考えている。何せ使用を重ねるごとに魔法効果がより強力に、より広範囲に及ぶようになってきたからだ。


 精霊球を手に入れた当時の魔法効果範囲は、おおよそ直径2m程度の範囲だけだったから、30m以上はある長い隊列全体に魔法効果範囲を及ぼすことができるようになったのはつい最近のことで、きっかけは所持している精霊球が中級のものであることが判明したからだ。


 以降は効果範囲を頭でイメージすると、ある程度までは実演可能ということが分かった。やはり精霊球は詠唱者の意識を読みとるのだ。精霊球を手に入れた当初は意識と精霊球の連携がうまくできないため、はっきりとした口調で明確に魔法効果と発生場所を指定する必要性があるのだろうと考える。


 上級に行けば行くほど呪文は長くなるが、短縮可能といわれているのはそのためだ。俺たちの場合は当初から手の指の動きを使って、唱える呪文を短縮して使っていたから、そのような使い方に精霊球が慣れるのが早かったのだと考えている。


「2チームが向かっていきますね。」


 そんなことを考えていたら、崖の上から身を低くして下の様子をうかがっているトオルが声をかけてきた。


 集中豪雨はまさに集中豪雨で、人買いキャラバンの隊列部分のみしか雨は降っていない。つまり前後の道はピーカン状態で、土ぼこりを巻き上げながら、8名の冒険者たちがキャラバン前方から馬に乗り駆けていくのがここから見えるが、前もみえない集中豪雨でキャラバン側からは、まったく気づかれていないことだろう。


 8名の冒険者たちが、騎乗したままで集中豪雨の中に入っていく。恐らく突然の大雨で方向を見失ったとかなんとか言い訳しているのだろうと思う……どんなシナリオを用意しているのか、俺は聞いてはいない。


 すると5分ほどしてから、突然4騎の冒険者たちが全速力で駆けていき、さらにそのあとを10騎の冒険者たちが追っていくのが見えた。おとりの冒険者たちが、わざと何かしでかして逃げ出したのだろう。

 そこからさほど間を置かずに、もう4騎の冒険者をさらに10騎の冒険者たちが追いかけていく。うまい、これで騎馬隊は全員おとりを追って離れていくこととなった。


「ようし……本隊側はもういいから、おとりを演じてくれている冒険者たちを追うように雨を降らせ続けてくれないか?」


「は……はい……やってみます。」


 集中豪雨を逃げている冒険者たちの動きに合わせて動かすというのは、恐らくかなり厄介な注文とは思うが、このままでは騎乗の弓隊から背後から狙い撃ちされてしまう。こちらからサポートしてやったほうがいい。


 さらに集中豪雨で彼らの姿をみえにくくしておけば、本隊側から大砲の攻撃を食らうこともないだろう。 

 なにせ、自分たちの部隊が追っ手にかかっているのだ。味方を攻撃してしまいかねない。


 おとり部隊の姿がある程度遠ざかったタイミングで、突然崖下に4名の冒険者たちが現れ、集中豪雨でずぶ濡れのキャラバン本隊に向かって歩いていく。恐らく、崖下の岩陰などに身を潜めて様子を見ていたのだろう。上から見ても、その姿が出現寸前までわからなかったというのは、さすがA級冒険者たちだ。


 そうしてわざとらしく、身をかがめながら3台あるうちの真ん中の幌馬車に近づいていき、その中の様子を窺うようにした。さらに、中をのぞいている奴の後ろにいる者が、両手を高く掲げ少し曲げながら頭の上で指先を合わせる……あれは丸だな……やはり真ん中の幌馬車に子供たちがいるということだな。


「6ですね、左手を開いた前に右手の人差し指を立てています。子供たちは6人いるということでしょうかね。」

 目のいいトオルが、丸の後に両手で作ったサインに気づく。ううむ……6人か……ちょっと多いが想定内ではある。


 そこで突然、4人の動きがあわただしくなり、そのまま駆け出して岩陰に隠してあった馬に騎乗して一目散に逃げていく。そのあとを1台の幌馬車が追っていくのが見えた。最後の護衛の冒険者たちを連れ出してくれたようだ。


 幌馬車は騎馬に対してスピードは出ないようで、幌馬車内から直接矢を射て攻撃しているが、馬を上手に扱い不規則にジグザグに逃げることで、矢をかわしながら駆けていっている。


 彼らは先のおとりたちと一緒に、渓谷を出てから北側へ逃走予定だ。山へ逃げ込んでからある程度分散し、護衛の冒険者たちを個別に説得していくと言っていた。


「ようし……敵は大砲の準備にかかった。ナーミ……火薬を詰め込んだタイミングで、炎の魔法で大砲を丸焼きにしてやってくれ。ナーミ……おい……ナーミどうした?

 作戦は始まっているのだぞ、ぼーっとしている暇はないぞ!」


 ここでナーミの火炎魔法だ……と思って左を見たが、ナーミはただ腰をかがめて下を眺めているだけで、まったく動こうとしていない。


「あっ……ああ……ご……ごめんなさい……ちょっと昔のことを……。

 たっ……大砲を使えなくするんだったわね……まかせて……。」


 すでに作戦は始まっているというのに、我ここにあらずといった感じのナーミだったが、すぐに気を取り直して敵の大砲に視線を移したようだ。


「じゃあ、俺たちは大砲が丸焼けになると同時に突っ込むから、ナーミはここから援護を頼む。この作戦がうまくいくかどうかは、ナーミの援護射撃にかかっているのだということを、忘れないでくれ!」

 ナーミにくれぐれもと念を押してから、ミニドラゴン装甲車の御者台に座り、トオルは荷台に乗り込む。


「ごめんなさい……ここからは絶対に気を抜かないから、勘弁して。」

『バシッバシッ』ナーミは自分に気合を注入するかのように、両手で両ほほを強くたたいた。


「大炎玉!」


 ネーミングセンスはあまり感じられないが、直径5mを越えそうな巨大な火の玉が、火薬を詰め込んだばかりの大砲へ向かって一直線に飛んでいく。ほぼ真上からの巨大な火の玉落下を確認した人買い商人たちは、大砲への充填をあきらめ、クモの子を散らすように一目散に逃げていく。


『ドッガァーンッ……ダァーンッ』詰め込んだばかりの火薬にも引火したのか、大砲はものすごい爆発音を発しながら数メートルは飛び上がり、その後地面に衝突して転がった。


「ようし行け、突撃だ!」

『ピチャッ』御者台から体を起こして、ミニドラゴンの尻を平手で叩く。


「ぐおーんっ」


『ダッガラガラガラガラッドッゴッガラガラガラッ』ミニドラゴンはいなないた後、一気に崖を下り始めた。

 岩の傾斜を飛びはねながら、手作り装甲車はジェットコースターのような急降下で、崖下を目指して走っていく。


『シュシュシュシュシュシュッ』その上をいくつもの矢が飛んで行って、外に出ている人買い商人たちの足元を狙い、彼らが幌馬車から離れていくように追い込んでいっているのが御者台からも確認できる。


『ダンッガラガラガラッガッゴンガラガラガラッ』何度も飛び跳ねながら、装甲車はそれでも車輪が外れることもなく、切り立った崖を何とか走っていく。御者席は両足を踏ん張れるが、荷台のトオルはつらいだろうな。


『ドッゴンガッコンガラガラキィッ』激しい振動で、何度も舌を噛みそうになりながら、手綱にしがみついていると、ようやく止まった。しかも隣には巨大な幌馬車が……ううむ、しっかり横付けしてくれたようだ。

『パチパチッ』「よーしよし、よくやった。」ミニドラゴンの背中を軽くたたいてやり、労をねぎらう。


『タッ』すぐに御者台から飛び降り、幌馬車の幌を上げて中の様子をうかがうが、中は真っ暗で時折爆発した大砲の炎が上がるたびに照らされ、荷台の中にはいくつかの大きな木箱が積み上げられているのが確認される。

 すぐに輝照石を額に取り付けて、幌の中に頭を突っ込み荷台に登る。


「うん?」『シャキィーンッ』「あわわわわわっ……こっ……殺さないでくれっ!」


 ふと気配がしたので、すぐに腰の剣を抜いて構えると、大男が腰を抜かしたのか尻餅をついたまま後ずさりして命乞いをする。


「邪魔をしなければ危害を加えるつもりはない。ここにいるのは売られてきた子供たちだな。

 この檻のカギはどこにある?」


「はははいっ……ここに……」

『チャリーンッ』男は大きな金属製の輪についた、鍵束を放り投げてきた。意外とあっさり渡したな。


 木の箱は6つ、3個づつ2段に積まれている。剣を鞘に納め鍵束を拾い上げると、下の左端からカギを開ける。突然明るい光を見ると目がやられそうなので、額の輝照石は一旦取り外して冒険者の袋の中に納める。


 既に月は昇っているはずだが分厚い幌は光をほとんど通さず、荷台の中はほぼ真っ暗だ。それでも目は次第に慣れてきて、中を覗き込むと、中には小さな影が……動かずじっとしているようだ。


「助けに来た……歩けるかい?」

「……………………」

 返事はない。


「驚いているのかな?助けに来たんだ……ここから逃がしてやる。歩けるか?」


 再度中を覗き込みながら尋ねる。子供受けするギャグでもいったほうがいいのかもしれないが、そこまでの精神的余裕はない。子供の影は無言のままその小さな頭を振る。歩けないようだ。こんな小さな檻の中に閉じ込められていたんだからな。ナーミは確か何ヶ月もって言っていたな……。


「わかった……じゃあそのままでいてくれ、ほかの子の檻の鍵を開ける。」


「ワタルっ、危ない!」

『パンッ』隣の檻の鍵を開けようとしゃがみ込んだまま右へ移動しようとしたら、突然銃声がして、俺と立ち上がった先ほどの賊の男との間に割り込んできた影が倒れる……トオルだ……。


 トオルはそのまま崩れるように、あおむけで倒れた。近寄って抱きかかえると、左わき腹の後ろが熱い……まずい出血している……。


「おいっ……トオルっ……トオル!大丈夫か?しっかりしろ?」

 体を抱き上げて大声で呼びかけても、トオルは目を閉じたままで反応しない。


「うぉおおおおおー!」

『ズズズズズズズズゴーッ』俺の叫びに呼応するかのように、地面が激しく振動し、すぐに急激なGがかかり床に押し付けられそうになる。


「わわわわっ」

 その加速度に耐えられなくなったのか、銃を構えていた先ほどの男がまたもや尻餅をついた。


「このやろう……よくもトオルを……。」


 いや、こいつの狙いはあくまでも俺だったはずだ。しゃがみ込んで檻の鍵を開けようとしていた俺の頭を狙った拳銃の弾が、俺の身を守ろうとして盾になろうとしたトオルの脇腹に命中したわけだ。だがそんなことはどうでもいい、トオルが被弾して倒れたのは事実なのだから……。


『シャキンッ』振動が収まった後すぐに立ち上がり、男の喉元に剣先を突き付ける。


「ひっ……お……お助けを……。」


 元はといえば、俺が変な仏心を出して、こいつをそのまま放置していたことが悪いのだ。スースーが人買いの奴らを人と思うなといっていた忠告を無視して、きれいに事を済ませようと何もせずに、そのままにしておいたことが悪いのだ。


 俺のせいだ……。何があっても、トオルを守ると心に誓っていたはずなのに、守るどころか逆に助けられ、トオルは今や瀕死の状態だ。


「ぐぬー……。」

 こいつをどうするべきか、このままあっさりと首をはねることは簡単だ。だが、こいつを殺したところで、トオルは生き返らない。


「ひっひぃー……。」

 考えあぐねていると、男は急いで逃げ出そうとしたのか、幌の隙間から転がるように荷台から落ちていった。


「ぐぅぉー」「わわわっ……」

『ポイッ』急いで幌をたくし上げて外を見ると、すぐわきに停まっていた装甲車を引くミニドラゴンが、男のシャツの襟を噛んで体を持ち上げ、首を大きく振ってそのまま放り投げた。


 俺のイメージ通りに魔法効果が発揮されていれば、恐らく幌馬車と装甲車部分だけが高く盛り上がっているはずだ。言ってしまえば脈動の発展形なのだが、高さは十メートルはあるはずだ。

 放り投げられた男は無事では済まないだろう……天罰だ。


「トオルっ……大丈夫か?トオルっ……。」


 再度トオルの体を抱き上げ呼びかけるが返事がない。まずい……すぐに回復水を飲まそうと、冒険者の袋から竹筒を取り出しトオルの口に当てる。


 だが回復水は飲み込まれることはなく、ほほを伝って落ちていくだけだ。意識のないはずのトオルは唇をすぼませ、何物をも受け付けない状態だ。


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