救出作戦
ほどなくして、約束通りスースーは他の冒険者チームも引き連れ、3チームでギルドにやってきた。それから受付嬢に4チームで義賊クエストを申し込むことを告げる。もちろんスースー達A級冒険者チームは、露払いという名目でクエスト申請をした。露払いとしての褒賞金は、俺たちが既に冒険者カードから支払い済みだ。
4チーム参加となったからなのか、ギルドとしてもクエストを受け付ける気になってくれたのはありがたかった。クエストという名目もなく商用キャラバンを襲ったら、たとえ相手が人買いであったとしても、俺たちは犯罪者になってしまうからな。
「じゃあ、作戦会議と行こう。大所帯だからね。ちゃんとそれぞれの役割分担を決めておく必要性があるね。
後からこうやってほしかったなんて言われても、僕らは超能力者じゃないから、人の考えまではわからないからね。君たちが希望する露払いとしての僕たちの役割を、まずは聞かせてもらおうか。」
クエスト申請後、スースーが打ち合わせ会議を提案する。キャラバン到着まで移動時間を考慮するとあまり余裕はないのだが、打ち合わせなしにそれぞれのチームが勝手に行動したら恐らく全滅もあり得る。
綿密な計画が必要なのだ。
「ナーミは、作戦は何かあるのか?」
「敵のキャラバンを見つけたら、それぞれがそれぞれの役割を認識して、それを果たすことだけ考えるのよ。
結果はおのずとついてくるわ。」
ホールわきの待合室へ場所を移して作戦会議を行う。最初に本隊リーダーであるナーミに作戦を聞いてみたのだが、予想通りの答えが返ってきた。
「まあ少人数であればそういった作戦もありだが、今回は4チーム合同の大所帯だ。
それぞれの役割分担をチームごとに決めておかないといけない。逆に言うとそれぞれの役割だけ決めたら、後はチームごとに判断して最善の行動をしていただく。
大変申し訳ないが、俺は冒険者になりたてということもあり、人買いのキャラバンに関しては何も知らない。
どのような装備の馬車や部隊がどのような隊列を組んでいるのか、大まかなこと分かる人はいないか?」
ナーミはあきらめ、他の3チームの冒険者たちの顔をうかがう。A級冒険者ということであれば経験も豊富だろうし、人買いキャラバンのことを知っている奴がいてもおかしくはない。
「そうさな……昔は冒険者がクエストする山奥近くのルートを通るもんだから、見かけて挨拶くらいはしたことがある。元冒険者の先輩たちがいっぱい警護に当たっていたからな。
その時の隊列はというと、先頭を騎馬隊がいて次が幌馬車隊だな……通常は3台から4台の幌馬車がいて、しんがりはまた騎馬隊だな。そんな配置だったと思う。幌馬車のうちの恐らく真ん中あたりの1台に子供たちが乗せられていて、前後は護衛と商人たちが乗っているはずだ。
そのときだって、かなり厳重に警戒していたからな。こっちが腰の剣に手を掛けようもんなら、恐らく問答無用に斬られていただろう、それくらいピリピリはしていたさ。」
するとスースーの奥に座っていた若者が答えてくれる。なるほど騎馬隊と幌馬車数台ね。
「数年前に、奴らから子供たちを救出した英雄の話は僕たちも知っている。その時はたったの1チーム4人だけで成し遂げた。まず3人が武器を持たず丸腰で、野営を始めたキャラバンの護衛である元冒険者たちのところに懐かしい昔話をしに行った。当然話は盛り上がり、ついには護衛は一人残らず彼らの周りに集合。
そのすきに残った一人が幌馬車に忍び込んで、見張りの商人を気絶させて子供たちを連れ出した。気づいたのは、翌朝の出発直前の点呼だったっていうんだから、その護衛達には気の毒だが痛快な救出劇だったね。
以降は……ご存知の通り、キャラバンに近づいてくる奴は絶対に容赦しないって、移動ルートを通達して警告するようになったというわけだ。もちろん護衛の数も増強した。
こう言っては何だが、おかげでますますキャラバンから子供たちを救出するという行為が難しくなったね。
ある程度の数をまとめて正面から攻め込んで救出したのであれば、向こうは護衛の数を増やすより、移動ルートを極秘にして少数で目立たなく行動するなどの対策に走る可能性もあったはずだ。
ところが簡単な策略で、少人数にまんまとしてやられたわけだ。面子丸つぶれの人買いの商人たちは、堂々と正面から攻めて来いと言わんばかりに、移動ルートを通知して大っぴらに行動するようになったし、それは向こうの自信の表れでもある。来てみろ……とアピールしているわけだね。
かなり過酷な状況だが、一つだけ優位な点がある。それは人買いたちに対して唯一の対抗組織であるギルドは、人道上許されざる行為に対して、それを排除するべく対抗クエストを毎回仕立てているが、それを受けるべき冒険者たちがいまいち乗り気ではないということは、人買いたちも認識しているということだ。
なにせ直近の十年間で人買いから子供たちを救出したのは、数年前のたったの1回だけだ。それ以外で失敗成功にかかわらず、クエストを申請した冒険者というのは聞いたことがない。以前はどうだったか、個人情報になるのでクエスト状況はギルドでは公表していないから、人伝えの情報しかわからないがね。
今回、命知らずの冒険者が正義感に燃えて救出を計画したとしても、1チームかせいぜい2チーム合同くらいだろうとしか考えないだろう。そんななか、3チームで攻め込んだら、間違いなくこれだけで総戦力と考えてくれると予想している。僕たちが敗走すれば、向こうも護衛の冒険者全員で一気呵成に追いかけてくる。
体勢を立て直してまた後で襲われると面倒だから、一気に片を付けてしまおうと考えるはずだからね。
そのあとに残った商人たちを君たちが相手にして、子供たちを救出するというのが大まかな作戦だ。商人といっても、冒険者ではないというだけで、それなりの手練れがいるはずだから気を付けたほうがいい。もちろん武装しているし、大砲などの火器も持っているはずだから用心することだね。」
スースーが続けて、今回作戦の概要を説明してくれる。なるほど、護衛は全て引き受けてくれるというわけか。それならずいぶんと成功確率は上がりそうだな。軍隊で攻め込むわけではないから大砲は無縁とも考えるが、子供たち救出後逃げている途中で遠距離攻撃されないために、無効化しておく必要性はあるな。
「作戦の概要は理解した。成功確率がかなり高いところまで練り上げてくれているようで大変感謝している。
作戦自体に不満はないが、少し注文を付けさせてもらいたい。キャラバンに攻め込んで失敗したように見せかけて敗走するという作戦だが、それだと陽動作戦と見破られる恐れがある。
あくまでも少人数での決行と匂わせるための、からめ手にできないか?」
受付から借りてきたホワイトボードに、キャラバンの隊列の概略図をかきこんで説明するスースーに対して注文を付ける。無謀な作戦に対して、ここまで協力してくれているのに大変申し訳ないが、成功させるためだ。
「うーん……裏があると思わせるように、自然に近づいてから逃げ出すみたいな……だね?それを繰り返してやっぱり失敗でした、みたいな感じに印象付けるわけだ。攻め込むのではなく、さりげなく近づく必要があるね……できるかなあ……。」
スースーが腕を組んで考え込む。奴らは人影を見つけただけで容赦なく攻撃すると宣言しているのだ。そんな中さりげなくも何も近づくなんて、まあ自殺行為でしかないが、何とかしたい。
「俺の同郷の先輩冒険者が、贅沢な暮らしがしたくてやくざな稼業に就いたって噂は聞いている。剣士としてならした人だから、恐らく騎馬隊の中にいるだろう。同郷のメンバーのチームごと移ったって聞いているから、うまくいけば声を掛けられるかもしれん。
敗走したふりをして隊列から引き離したら、心を入れ替えるよう説得したいから、絶好のチャンスだな。」
「俺の元カノの旦那が冒険者で、いい暮らしをさせてやるって宣言して、人の道を外したって嘆いていた。実は俺も、元カノから旦那の説得を頼まれているんだ。だから、やってみるよ。」
すると、2人のごつい体の冒険者が立ち上がって頭をかく。おお……何たる偶然……。
「ペークトとラーミニか……じゃあそれぞれのチームは、騎馬隊の冒険者たちに接触を図ってみてくれ。彼らだって人間だし元冒険者だ、知り合いだっていえばすぐに仕掛けてくることはないだろう。
ただし……それだとキャラバンが野営しているときに仕掛ける必要性が出てくるね。まさか、移動している最中に懐かしいなあなんて、近づけないからね。野営場所は恐らく広い草原で行うだろうから、君たちが近づこうとする姿は、相手に丸分りになってしまうけどいい?」
スースーが、2人の提案に笑顔を見せるが、だからといって有利にだけなるともいえないようだ。
「その点は問題ない。奴らの隊列を襲うのは、モロミ渓谷の出口だ。ここに大雨を降らせて足止めするから、その時に近寄っていってほしい。」
俺が作戦決行場所を指定する。彼らの話を聞いて、今、決めた。雨はトオルに降らせればいい。最近は魔力がかなりアップしているから、隊列分の大雨も可能のはずだ。しかも狭い渓谷だから、部分的な雨でも気づかれにくい、自然現象と思うはずだ。
「そうか、カンヌール国とつながるモロミ渓谷か……このルートは指定されていなくても、これ以外通れる道はないからわかりやすいね。更に、ここだけ左右が切り立ったがけで囲まれていて、迂回路がない。道幅は4mはあるが、幌馬車だとすれ違うのも難しいくらいだから、1列で進むしかないだろう。
そこに大雨を降らせる……と、君たちのメンバーの中に魔法使いがいるのかな?変わった編成をしているね。たった3名なのに魔法使いを含めるとは……まあいいさ、他チームのチーム事情は詮索しないでおこう。」
スースーは俺たちの顔を見回した後、トオルのところで視線を止める……が、そこでほほ笑んだ。
「いいね……大雨で一瞬足止されたところに、雨に降られて困った冒険者たちが紛れ込むというわけだ。そうして知り合いの顔に気が付いて、懐かしい昔話をするふりをして、すぐに逃げ出す。当然奴らは追いかけるよね。キャラバンを襲ってきた冒険者とその時に理解するはずだ。
そのあとで僕たちのチームがそっとキャラバンに近づいて、子供たちのいる幌馬車に向かおうとするんだが、咎められて敗走。その時に残った護衛の冒険者たち全員引き連れて逃げる。練りに練った陽動作戦が失敗したと思わせられるね。おおすごいな……そのあと君たちの出番だが……どうやるつもりだい?」
スースーが俺の代わりに詳細な作戦を組み立ててくれる。やはり奴はすごいな、たった一言いうだけですべて理解してくれる。
「崖上からミニドラゴンの馬車で突っ込んでいって、子供たちを救出したらひたすら逃げる。」
「そうだね、モロミ渓谷は切り立った崖だが、垂直というわけではない。馬であれば何とか降りられるし、力持ちのミニドラゴンの馬車があれば、一気に崖上から突っ込んでいって真ん中の幌馬車に直撃も可能だ。そうして子供たちを救出して、後は道をダッシュで逃げる……といった作戦だね?いいんじゃないかな。
ミニドラゴンっていうのは竜の子供なのだろ?そいつが引く馬車なら、数頭だての幌馬車だってスピードでは全くかなわないはずだから、楽勝で振り切れるだろうね。」
またもや、スースーが俺の言いたいことを代弁してくれる。ううむ……楽だな……。
「ようし……今回の作戦はみんなの頭の中にしっかりと入ったと思う。ここからモロミ渓谷までは、馬を飛ばしても半日以上はかかるから、もう出発する必要性がある。各自準備を整え次第、出発してくれ。
作戦決行の合図は、キャラバンに大雨を降らせて足止めしたときでいいよね?」
「ああ……大雨を合図に取り掛かってもらいたい。」
「ようし……じゃあ解散……しっかりと自分たちの役割を認識して、必ず成功させてくれ。」
どやどやと冒険者たちが、待合室を出てギルド出口へと向かっていく。
「これで何とかなりそうだなんて、考えないほうがいいよ。人買いキャラバンは強力だからね。失敗する可能性のほうが高いし、それは死につながる。だが、ナーミは……ナーミだけは助けてやってほしい。彼女はまだ若い、これから人生を謳歌できるはずの普通の女の子なんだ。だから……頼む……。」
みんなが出て行ったあと、スースーが俺一人だけを待合室の隅に押し込んでいって懇願してくる。
やはり、ナーミに惚れているな?
「もっもちろんだ……失敗することをはなから考えてクエストに向かうことはないが、やはり失敗したときの対処も考えておく必要性はあるし、けっ検討済みだ……勿論失敗するつもりはないがね。
それよりも……俺たちの無謀な作戦に協力してもらって、本当に感謝している。」
素直に頭を下げる。スースーがいなかったら、俺はこんな無謀な作戦を行おうとしなかっただろう。だがしかし、それは折角仲間になったナーミとの別れを意味したわけだ。それが解消されただけでもありがたい。
成功確率は間違いなく低いが、それでも何とか無事に生きて帰るだけのことはすると決めている。
少なくとも、ナーミとトオルだけは死なせないと、固く心に誓っている。
「それはそうと……彼女のあの格好は……誰の提案だい?銀のビスチェ……しかももろ下着に見えるタイプで最高だよ……以前はおしゃれよりも、いかに武器を隠せるかで服装をチョイスしていたのにな。
しかも武器を隠していない……彼女のあんな姿は初めてだ、よほど君たちを信頼しているんだな。」
スースーがナーミの方をちらりと見ながら、にやりと笑う。
「ああ……あれは偶然手に入れた中古品でね……かなり仕立てのいいものだし、防御力も高い一級品だから、暗器を隠すことはやめさせた。代わりにスカートだから、ガーターベルトを買わせて、モモの部分にナイフを仕込んでいる。もちろんブーツの中にはナイフを仕込んだストラップをつけているがね。」
「おおそうか……ぜひともそのガーターベルトから仕込みナイフを取り出すところを拝みたいものだな。」
スースーがナーミのどんな姿を想像しているのか、夢見心地の表情を見せる。
「できるさ……この作戦がうまくいけばな……ナーミに告白すればいい。」
トオルには申し訳ないが、奴ならナーミも幸せになれそうだ。
「おおっと……誤解されているようだが、僕はこう見えても妻帯者でね。しかも3人の子持ち。だからこそ、ナーミは僕たちのチームで一緒に冒険を繰り返したんだ。慎重派のナーミは、独身者の多いチームには極力参加しないようにしていたからね。君たちは……独身なのかい?」
するとスースーは怪訝そうな表情で、俺の顔を覗き込む。
「ああ……と……いや、俺は1時期結婚していたのだが、すべてを捨てて冒険の旅に出た。メンバーのトオルの方は独身だ。俺たちは……ナーミのちょっとした知り合いだ。」
正直に答える。カルネのことは……個人情報だからナーミが言わない限りは話さないほうがいいだろう。
「おおそうか、珍しいな……ナーミが独身の男たちを信じるなんて……だがまあ、知り合いということか。
まあいさ、今回の作戦には関係がない。よろしくお願いするよ。」
スースーはそういうと、ギルドから急いで出ていった。




