戦い終わって
すぐにケンタ牛の体を探り、火の精霊球を探し始める。
『ズズズズーッ……ズバンッ』鮮やかな手つきで、トオルがケンタ牛の皮を剥いでいく。なるほど、これなら見つけやすいな。
「あっあった……。」
ケンタの胸のあたりに真っ赤な球体がめり込んでいた。小刀で傷をつけないよう慎重に外す。
「よしっ、脱出だ。ぐずぐずしていると天井が崩れる!」
すぐにドーム奥へ駆けだそうとする。
「ちょ……ちょっと待ってください……もうすぐですから……。」
トオルは、横たわった炎牛の肩のあたりを、華麗なナイフさばきで切り刻んでいた……なるほど……肉狙いなわけね?
「さっき、炎牛の肉を確保しただろ?まだいるのか?逃げないとまずいぞ!」
「だって……かなり上質な肉ですよ……しかも一つの部位が大きい……。」
トオルは当分動きそうもない。
「馬鹿野郎っ!いくら肉が貴重でも、それを食う側の俺たちが死んじまったらどうしようもないだろう?」
「だ……だって……。」
「ここで言い争っている暇はないわ。どの部位をどれだけ取りたいの?」
「肩ロースを今取っていますから、後は、おなか回りのロース、サーロインとヒレですかね。それとモモ肉。」
「わかったわ……あたしがロースとサーロインとヒレをやるから、ワタルはモモ肉をお願い。」
仕方なさそうに、ナーミが小刀をもって肉の切り分けにかかる。
仕方ないな……『ザッパンッ……ザッパン』剣には申し訳ないが、炎牛の尻部分めがけて思い切り斬りかかり、骨や筋など断ち切る。それから小刀で残った皮など切り裂き、脛ごとモモ部分を取り外した。
「よっこいしょ……っと。」
そうして炎牛の腰から足部分を肩に担ぐ。魔物の肉はアイテムだが、当然ながらこれだけの大きさだと冒険者の袋に入らない。口のサイズをはるかに超えているのだ。だがしかし、モモだけ切り分けている余裕などない。後ろ足一本だけだが、巨大炎牛なので運ぶとなるとかなりな重さになるが、仕方がない。
「ようしっ……いいかあ……」
よろよろともたつきながら、ドーム奥の出口洞窟へと歩いていく。
「肩ロース終わりです。」
「じゃあ、ヒレをお願い。」
「はいっ」
後ろでは、まだ解体が続いている様子だ。
「急がないと、あぶないぞー……。」
『バラバラバラッ』ドーム奥へ歩いていく最中にも、天井から土や岩が落ち続けている。
『タタタタタッ』あと少しで洞窟というところで、後方から2つの影が俺を追い抜いて行った。
「何ぐずぐずしてるのよ!急がないと埋まっちゃうわよ……。」
ようやく解体が終わったのか、ナーミとトオルが駆けていく。奴らは切り分けた肉を冒険者の袋に収納できたようで、身軽だ。ようし……俺も急がないと……肩の重みに耐え、よろめく足を何とかコントロールして、ドーム奥の洞窟内へ急ぎ足で向かう。
「はあはあはあ……よっはっほっ」
『ガラガラガッシャーンガラガラ』後方で、激しい地響きの音を聞きながら、洞窟内をよたよたと歩いていくと、いつの間にか開けた空間に出ていた。すでに辺りは夕焼けで赤く染まっていた。
「はあー……何とか脱出できたな……毎回毎回冷や冷やだが……特に今回は……。」
トオルをにらみつける……何か小言でも言ってやらねば……何せ全員の命が危なかったのだ。
「そういえば……牛の喉元にこんなのがありましたよ。」
トオルは悪びれない様子でその手を開くと、そこには表面がつやつやで、半透明のガラス質の小石が乗っていた。何だこりゃ……。
「あれー?これ……輝照石じゃない……へえ……火の精霊球だけじゃなくて、輝照石まで……。」
すぐにナーミがその小石を手に取り、夕日に透かして眺める。
「やっぱりそうですか……洞窟内もドームでは炎が明るすぎたので輝かず、ちょっと不安でしたが輝照石ですよね?やったぁー……。」
トオルが飛びあがって喜ぶ。
「どれどれ……。」
ナーミの手から小石をとって、俺の持つ輝照石と見比べてみるが、確かに俺のより一回りほど小さいが、見た目はほぼ同じだ。
「高く売れるわよー……。」
ナーミが満面の笑みを浮かべる。
「やはり、出来てから結構年数が経過しているダンジョンだったというわけだな。ボスも超強力だったしな。
輝照石は、できれば売らずに持っていたほうが……なにせ、一般には販売されていないほど希少品だろ?
洞窟のダンジョンが多いから、輝照石はあればあっただけありがたい。」
「それもそうよね……じゃあ、これはトオルが持っていてね。前衛に近いメンバーが持っているのが効果が大きいからね。」
「はい、わかりました。」
ナーミが輝照石をトオルの手に戻し、トオルが笑顔を見せる。
「じゃあ、馬のところまで急いで戻りましょ。すぐに日が暮れちゃうわよ。」
ナーミはそのまま来た道をすたすたと歩きだし、トオルもナーミに続く。しまった、文句を言いそびれた。
だがまあ、なにも言えないか……おかげで輝照石を手に入れたんだからな……これからは時間が許す限り倒したボスの体をまさぐらなければならないな。何か貴重なお宝がゲットできるかもしれない。
馬とミニドラゴンをつないだ河原まで戻り、再度テントを張る。トオルとナーミはかさばる巨大炎牛のモモを解体にかかっている様子だ。
「すね肉も一緒に手に入ったので、筋と一緒に煮込んでいます。モモ肉はかなり柔らかいので、大きめに切ってお酒と一緒に煮込んでシチューにしてみました。これは蹄と脛の残り部分です、ミニドラゴンに与えてください、喜ぶでしょう。」
「おお……わかった……。」
脛部分の骨をもって河原へ降りていき、ミニドラゴンに与えると、喜んでバリバリと音を立てながら骨ごと食べている。なんだかここにきて一回りは大きくなってきたようだな……食べ過ぎか?ダイエットさせたほうがいいのか?川岸周辺部にだけ生えている草を刈って集めて回り、ひとまとめにして、馬にもエサを与えた。
おお……手作り温泉は健在のようだな……手を入れてみて温度を確認すると、十分な温かさだ。
「おーい……風呂はまだ使えそうだぞ……。」
河原から登ってきて皆に告げる。
「えーっほんとー?助かるわー……ダンジョンで汗をかいたのもそうだけど、肉の処理ばっかりで、体中血の匂いがするみたいで、すぐに洗いたかったの……。じゃあ、今日もあたしが一番でいいわね?」
ナーミが飛び上がって喜ぶ。
「もちろんだ……また交代で見張りをしながら湯に浸かろう。」
「はいはーい……じゃあ、テントで服を脱いで……今日も覗いても構わないわよ……。」
すぐに背を向ける俺に対して、ナーミがそっと耳打ちしてくる……いや……見たいのはやまやまだが、さすがにそれはまずいだろ。しかも今日もって……まるで昨日俺が、ちらちらとのぞき見していたみたいに……
この日もトオルが河原に降りてナーミの入浴中の警戒を行い、俺は反対の山側を警戒した。
入浴後の晩飯は格別だった。煮込んだ筋のゼラチン質が歯ごたえもあるし、しかも味がしっかりとしみ込んでいて、それはもう絶品。さらに大きく切った肉のシチューと言ったら……ナイフを使わずに、フォークを差し込むだけでも楽に切り分けられるような柔らかさで、口に入れるととろけた。味つけも抜群、文句なし。
温泉に浸かっていた分煮込み時間が長くなったのが、幸いしたともいえる。
この日もトオルから酒を勧められ、確かにすじ肉をつまみに酒は進みそうだったが断った。
安全な村の中ではないということもあったが、なにせナーミの挑発的な言葉が耳に残り、さらに昨晩ちらっと一瞬だけ見た彼女の裸体が思い浮かんで消えず、いまだに興奮状態にある。
このまま酒を飲んでトオルと同じテントに寝ようものなら、間違いを起こさない自信が全くない。何せトオルは男だが顔はまさしく美少女そのものなのだ。しかも俺好みの……。抵抗してくれればまだいいのだが、トオルの普段の態度を見ると、下手をすればウエルカムの可能性もある。それは大変まずい。
ましてやナーミが外で魔物たちを警戒しているときに、テントの中でそんな過ちを起こそうものなら、後で何を言われるかわかったもんじゃない。
トオルはがっかりしていたが申し訳ない、俺は女が好き(しかも夢に出てくる絶世の美女を除いて、2次元限定)とも言えないため、トレーニングに励むと言ってごまかした。
夕食後、日課の訓練を行う。今日からはナーミの火の魔法の訓練も始まったので、カルネの資料の中から呪文を選び、ナーミが繰り返し何度も唱えることから始める。
訓練後、交代で見張り番に立ち就寝した。
その後2日間野宿しながら山道を歩き、街道に出てからは馬とミニドラゴンの馬車で1日かけて村まで戻る。
なんと9日ぶりにコージへ戻ってきた。出発時に引き払った同じ宿へ行き、再度部屋をとる。今度はナーミも同じ階に部屋をとることができた。近いほうがなにかと面倒がない。
「おお……こ……これは……フリーフォールカモシカのロース肉じゃねえか。幻……というよりも、今じゃ噂にも上ることがない。俺だって、若い時に一遍お目にかかっただけだ。なっつかしいなあ……この肉を提供してくれるんだったら、この先1週間飲み放題食い放題にしてやろう……ただし、全部くれないか?」
部屋で着替えたのち、いつものように居酒屋へ向かうと、オヤジが差し出した肉に感動して涙を流す。
「どうする?」
「私は構いませんよ……道中で何度も食しましたしね。」
「あたしもいいわー……当分魚系かな?」
「じゃあ、すべて差し出すから、毎日来るとは限らないが、今日から7日分の飲み食いをお願いする。」
これで当面の食事に困ることはない。帰路の途中でも結構消費したが、それでもまだまだ炎牛含め、肉の塊が冒険者の袋に入っているのだが、どうするかと皆に相談したら、明日にでもクエストを引き受けて、その時に取得したとギルドで精算するのがいいとナーミが提案した。
やはり肉もギルドが一番高値で売れるらしい。それ以外は、今回のように居酒屋で直接交渉するのがいいが、これだと食べている暇が無くなるので、やはり現金化するのがいいようだ。冒険者の袋にはアイテムとして10個まで入れられるが、ダンジョンに潜るたびにそれなりにゲットできるだろうからな。
この日の晩は愉快に飲めた。何せ久しぶりの酒だ。トオルのお酌で飲んでいると、居酒屋がテレビのドラマでしか見たことがない高級クラブに思えてくる。ナーミは自分が飲みたいのに我慢させられることが癪に障るのか、俺にはお酌してくれない。かわいそうだが、あと3年間は我慢していただこう。
『ガチャガチャ』いつものようにナーミもトオルもあきれ果てて先に帰ると言って宿に戻った後も、一人手酌で酒を飲み、いい気分になって宿に戻ってきた。
あれ?鍵が開いているぞ……おっかしいなあ……確かにカギをかけたはずなのに……。不審に思いながらも、中を覗き込むと……電気のついていない薄暗い部屋の中には、バスローブ姿の美女が立っていた。
「きっ……君……君は……いった……。」
『スッ』今日こそ名前だけでも聞こうとしたら、音もなく近づいてきて、俺の唇に人差し指を当てる。いつものように黙っていろということなのだろう。切れ長の涼しげな眼で見つめられると、心臓が止まってしまいそうに苦しくなる。
彼女は俺の右手をつかむと、素早くドアにロックをかけ、俺の体を部屋中央まで導き、そうして自分は俺の横でバスローブを一気に足元へストンと落とす。
レースのカーテン越しの月明かりに照らされた彼女の裸体は、それはもう美しく、この世のものとは思えないほどだった。そのまま俺の体に抱き着いてくると、今度は俺の服を脱がしにかかる。
いつの間にか俺自身も必死に、シャツやズボンを脱ごうとしていた。焦っているので脱ごうとするパンツが足に引っかかって体勢が崩れる……彼女はクスリと微笑み、ベッドの中へ。俺はかろうじて体勢を立て直し、そのままベッドへとなだれ込んだ。




