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ケンタ牛

「まあ、頭が弱点というカルネの見立てに期待して、そこを攻撃しよう。じゃあ行くぞ!」


「いいわよ。」

「行きましょう!」


『ダダダッ』狭い洞窟から広いドーム状のボスステージに出ると、そこは炎に照らされていた。

 ドーム内の壁のそこかしこから炎が噴き出していて、日も差していないのに、まぶしいくらいに明るい。


「なんじゃ、こりゃ……いくら頭が弱点って言っても……。」


 ドーム中央に立つ巨大なオブジェのような魔物を見て唖然とする。炎牛部分だけでも体高4mは優に超えているだろう。前足の背辺りから飛び出た男性の上半身部分まで含めると、6m以上の高さがありそうだ。

 ここから恐らく20mは離れているが、それでも見上げるほどの大きさだ。


「灼熱の火の聖霊よ、友を信じ……」


「まずいっ、すでに詠唱が始まっているようだ。」

 俺たちが中へ入ってくることに気づいたのか、姿を現す寸前から詠唱を始めているようだ。さすが、戦い慣れている……というか、俺たちが最初に戦う相手のはずなのだが……。


「任せて!」

『チャッ』『シュッシュッ』『ゴワーッ』すぐにナーミが矢を射かけるが、炎牛側の口から炎が発せられ、矢は到達前に空中で燃え尽きてしまった。


「火炎放射!」

『ゴワーッ』ケンタ牛から直径2mはありそうな、大きな火炎が直線的に発せられる。


「危ないっ!」

 咄嗟に俺とナーミが左に、トオルが反対側に飛びのいた。


「何だあれ……魔法は呪文を唱えなければならないのに、火を吐くのは呪文いらないのか?」


「ちゃんと呪文唱えていたじゃない……あたしが矢を射たから、途中聞こえなかっただけよ。」


「いや、そうじゃなくて、炎牛側の下の口の方。」


「ああ……炎牛が火を吐くのはその動作しかないから、呪文なくても大丈夫なようね。でも吐く息全て灼熱よ。」


 ナーミは当然のことのように認めてしまっているが、あれは厄介だ。

 炎牛単体の場合は灼熱の息を使わずに、ただひたすら突進してきたからよかったが、俺たちを待ち受けて、近づいたところに火を吐かれていたら、全滅もありえた。まあ、ナーミが知っていたから先に矢を射ただろうがな。


「水弾!水弾!」

『ピュッピュッ』『ゴワーッ』トオルが水滴を高速で飛ばしたようだが、炎牛が吐く炎で蒸発させられ無効にされた。


「地震ッ!」

『グラグラッ』『スタッタッ』


「崩落!」

『ガラガラガラッ』『スッタンッ』地震を唱えても、崩落でドーム天井を落としても、すぐに飛びのき効果がない。突っ込んで来てくれれば落とし穴という手もあるが、自分から動いてくれないのでそれもできない。


 かといってこっちから突っ込んでいけば、炎牛側の口が吐く灼熱の炎の餌食になるのは間違いがない。


「うーむ……打つ手がない……。」

 参った……何とかしなければ……ケンタ牛を倒さない限り、ここから出られない。

 えーとえーと、灼熱の炎も盾なら防げるか?耐炎魔法25%軽減だったな……俺がおとりになって……。


「行きますっ!」

『タタタタタタタッ』俺が考えあぐねていると、トオルが何を思ったのか突然ケンタ牛に向かって駆け出した。


「超高圧水流!」

『ジュワッ』『ダッ』トオルが唱えると、トオルの足元から一瞬水が勢いよく噴出し、その反動を使ってトオルが大ジャンプした。あれは俺の脈動のパクリだな……。


『ゴワッ』炎牛側の口が吐く炎も間に合わず、一瞬でケンタ牛の人側の高さにまで達した。

『シュシュシュシュ』『キンキンキンキンッ』すぐさまクナイを投げつけるが、両腕に持つ大きな銛の柄で弾かれてしまう。『ズゴッ・・・ダーンッ』更にその銛の先端で腹を突かれ床に激突する。空中姿勢で避けられないところを狙われたのだ。


「崩落!」

『ガラガラガラッ』『シュッタンッ』『ダダダダダッ』頭上を崩落させ、ケンタ牛が身を躱すスキをつき、急いでトオルのもとへと駆け寄っていく。


『ドゴッ……バラバラバラッ』地面に落ちたトオルの体を抱きかかえて逃げると、後方から轟音が……ケンタ牛がその銛を勢いよく地面に突き立てたのだ。あんなの食らってたらひとたまりもない。


「大丈夫か?」


「はっはい……鎖帷子のおかげで、深くは刺さりませんでした。」

 トオルが、血に染まった忍者装束の裾をめくる。


「何考えているんだ!たった一人で向かって敵う相手か?」


「ワタルが考えあぐねていたようだったので……大きな相手だから上から攻撃すれば何とかなるかと……。」


『タタタッ』『ドガッ……パラパラパラッ』大きな影が近寄ってきて、焦って飛びのくと地面が砕け散る。

 ケンタ牛の銛攻撃だ。ううむ……怒っている様子だな。直接攻撃を仕掛けると、怒って襲ってくるというわけか。


「トオルは回復水を飲んで、少し休め。だりゃあっ!」

『ダダダダッ』トオルを残して、ケンタ牛の側面から斬りかかっていく。

『ゴオッ』ケンタ牛がすぐに向きを変え、炎牛の口から灼熱の炎が吐かれる。


「うおっ」

 慌てて身を躱す。至近距離なので危ないが、とりあえず炎牛の正面を避ければ何とかなりそうだ。


『シュシュシュシュ』『キンキンキンッ』すると、ドームの向こう側から矢が飛んできて、人側が銛で矢を叩き落とし始める。ナーミの援護射撃だ。


「灼熱の火の聖霊よ……」


「お前は何者だ!人なのか?魔物なのか?どうしてここにいる?」

 いい機会なので、無駄とは思ったがケンタ牛に問いかけてみる。


「我は精霊たちの守護者。欲するものが、精霊球を持つに足るかどうかを見定めるために存在する。」


 なんと呪文を取りやめてまで答えた……そうかダンジョンのボスは精霊の守護者ということか。ただの魔物というわけではないのだ。だから、守護者として経験を共有しているということなのかもしれない。


『シュッ……ガツンッ』と、その時飛んできた矢が人側の眉間にもろに突き刺さった。『ガタンッ』そうして人側が力なく崩れ落ちる。ありゃりゃ……こっちが話しかけて気を惹いたところを仕留めちゃった……なんだかインチキ臭くて申し訳ないな。


「ぐもーっ!」

 すると突然、それまでおとなしくしていた炎牛側の口が火を吐きながら雄たけびを上げる。


『ドゴンドゴンドゴンッ』先ほどまでの軽快なステップと大きく異なり、重厚な地響きを発生させながらケンタ牛が猛スピードで突進し始めた。


「ますいっ!トオルっ避けろ!」

『シュタッ……ゴロゴロゴロ』叫びながら跳躍し、頭っから突っ込み地面を回転する。


『シュッ……シュタッ』トオルのほうは華麗に跳躍して躱したようだ。


『ドゴンドゴンドゴンッ……ドッガァーンッ』そうしてそのまま勢い余ってケンタ牛は、ドームの壁に激突した。『バラバラバラッ』その衝撃でドームの天井から、細かな石がケンタ牛の頭上へ降りかかる。


「ぐもももーっ」

『ドゴンドゴンドゴンッ』今度はナーミのほうに狙いを定めたのか、振り向いたケンタ牛が駆けだした。


『ドガッドゴッドガッ』ナーミが弓を構えると、狙いを定めさせないためかジグザグにステップしながら駆けていく。


「ナーミっ、無理だっ逃げろっ!」

「いやあーっ……」


『ドガドゴドガドゴッ……ドッゴォーンッ』ナーミが攻撃をあきらめ飛びのくと、今度は向こう側の壁に激突。『パラパラパラッ』今度は俺の頭上にまで、ドーム天井から小石が落ちてきた。


 まずいな……このままではドームが崩れてしまう。かといって……奴を止める手立てがない。


 なんだか、上に乗っていた人部分(ケンタ……でいいのかな?)を倒してかえって不利な状況になってしまったようだ。冷静にコントロールするやつがいないから、本能の赴くままひたすら敵に向かって突進してきてドームを破壊していくのだが、どうにも止める手立てがない。なにせでかいし速い……だからな。


 しかも一直線に突っ込んでくるわけではなく、ステップを踏んで不規則にジグザグに来るから、弓で狙うことは難しいし、落とし穴も空振りに終わる可能性が高い。


 こうなりゃ一か八かだ。突っ込んでくる奴の突進を受け止めるのは不可能だが、逆にそれを利用させてもらう。奴の正面に立ち、衝突する寸前は俺の真正面にいるはずだから、その瞬間に身を躱して奴の脚を付け根から水平斬りする。奴の速度が加味されるから、胴体と泣き別れに斬り割くことができるはずだ。


 脚なら巨大な胴体と違ってそれほど太くはないから、何とか叩き斬ることができると思う。かなり無茶な作戦だが、トーマの身体能力と俺の動体視力があれば、やれないことはないはず。


「トオルっ、突進してくる奴の目を横から狙うことはできるか?」

 回復して立ち上がったはずのトオルに確認する。


「はいっ……難しいでしょうが、なんとかやってみます。」


「ようしっ、奴の突進を寸前でかわして斬りつける。俺に当たる直前に奴の目を狙ってくれ!」

「わかりました。」


「ナーミは俺が斬りつけた後のフォローを頼む。体制の崩れた俺を瀕死の状態ででも狙われたら一ころだ!」

「わかったわ、任せて!」

 サポート体制は万全だ、後は実行あるのみ。


「おーいっ!こっちだ!」

 ケンタ牛(の炎牛)に向かって、両手を高く上げて大きく振り、こっちへ突進してくるようアピールする。


「ぐんもーっ」

『ドゴンガゴンドガンッ』目標を俺に定めたのか、猛烈な勢いでケンタ牛が突進してくる。やはりステップで左右に体勢を振りながら突進してくるので、落とし穴は無理だろう。


「水弾!水弾!」

『ピュッピュッ』『ガゴンガゴンッ』一段と突進の地響きが激しくなり、ケンタ牛が数メートル手前まで差し掛かったころ、なんだか炎牛の顔がにやっと笑ったような気が……高速の水滴を当てられ、目をやられたのか?

『ゴウォー』刹那……炎牛が頭を低くし首を振り、灼熱の炎を進行方向にまき散らかす。


「脈動!」

『ダッ』左右に飛んでも躱せないため、脈動を使う。一瞬で1mほどかさ上げされた地面で炎を回避し、その瞬発力を利用して大ジャンプ。なんとかケンタ牛を飛び越えて突進をかわした。


『ドゴンガゴン……ドッガァーンッ』ケンタ牛はその勢いのまま、ドームの壁に激突。

『バラバラバラッ』一段と大きな石や岩などがドーム天井から落下し始める。もう持ちそうもない。


『シュッシュッシュッシュッ……グザッグザッグザッグザッ』ナーミの矢が、ドーム壁にめり込んだケンタ牛の尻や腰に突き刺さっていく。


『ダダダダダッ』「脈動!」「脈動!」

『ダッ』ケンタ牛に向かって駆け出し、加速度を付けたうえで精霊石を握る左手の指を1本3本とだした後、素早く俺の前方2ヶ所を指しながら唱え続け、右足でジャンプ(ホップ)。


『ダッ』前方に突き出すように脈動で飛び出た約1mの台で右足でジャンプ(ステップ)


『ダーッ』更にその前方に脈動で突き出した約2mの台を使い左足で大ジャンプ……ドーム天井につかんばかりの大跳躍で、一気にケンタ牛の真上に飛んできた。


「ぶももーっ」


『グザグザグザッ』衝突した壁から向き直ったケンタ牛になおもナーミの矢が突き刺さり、奴の注意がナーミに注がれる所を、『ドガ……』『シュッパァーンッ』『シュタッ』上方から落下の加速度をつけて思い切り剣を振り下ろし、炎牛部分の太い首の根元に斬りつけ、なおも力を込めて押し込む。


『プッシュゥー』噴水のように勢いよく血が噴き出し、ドーム天井にまで達したが、なおも炎牛はこちらのほうを振り向こうと首を動かす。『グザッ』『スタンッ』その瞬間、矢とクナイがほぼ同時に炎牛の眉間を直撃した。


「ぶぎゅー……」

『ドッガーァンッ』ケンタ牛はその巨体をその場に崩れるようにして伏した。倒したのだ。


「やったぁー……まいったな、炎牛部分だけになれば突進を繰り返すだけだと思っていたのに、知能も高かった。突進でつぶすことより、灼熱のブレスを狙っていたようだ。寸でのところで飛んで逃げたが危なかった。みんなの協力があって何とか倒せた。ありがとう。」

 駆け寄ってくる2人に改めて礼を言う。


「その言葉は、リーダー足るあたしがいうべきものよね……まあそんなことどうでもいいけどね……それよりも早いところ脱出しましょう。いつまでも持たないわよ。」

『バラバラバラッ』ドーム天井からの落石は一段とひどくなってきていた。


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