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幻の魔法

「いやあっ……何見てるのよ!」『バシッ』なんて平手打ちを食らうかと思っていたら、予想に反して意外にもナーミはさほど恥ずかしがる様子もなく、その場で着替えようとするのを何とか押しとどめた。


 男勝りの性格もたいがいにしてほしいものだ。なにせ目鼻立ちのはっきりとした、まさにアニメ顔の美少女なのだ。見せつけられる、こっちがどぎまぎしておかしくなってしまう。


 銀のビスチェと金属ラメ付きスカートに履き替えた後、テントから出てきてナイフを構えるので、俺も手伝おうと手順を聞きながら短刀を使い、ナーミと一緒にフリーフォールカモシカの皮をはいで内臓を抜く作業に取り掛かった。


 この日の晩飯は、フリーフォールカモシカのモモ肉の鉄板焼きとツッコンドルの骨からだしをとったスープ。

 カモシカ肉は少し臭みがあるからと、トオルがニンニクとショウガを効かせたたれを作り、それに浸けた後焼いたのだが、香りもよく肉のうまみがかむごとに染み出てきて絶品だった。


 馬には草を刈ってきて与え、ミニドラゴンにはケルベ大鷲を丸ごと与えた。竜族は食いだめができるので、これだけ大きな獲物を一度に与えておけば、当面腹もすかさないだろう。



「水系と風系が合わされば、より強力な魔法が生み出せるのではないかと考えているわけだ。

 ナーミが言っていたように、この世界では魔法使いですら複数の精霊球を持たない。持つとどうなるのか?

 それを確認したい。精霊球は精霊が宿るものだから、複数持っているからと言って害はないはずだ。」


 夕飯後に日々の鍛錬を終え、今日からは風系魔法の呪文もトオルの訓練に加える。

 最初は、それぞれの精霊球を持ちながら呪文を唱えることから始めた。

 その後、就寝前に俺の計画を皆に知ってもらおうと説明する事にした。


「精霊球を2つ合わせることによる魔法ね……具体的にはどんな魔法効果があるの?」


「まあ、まだよくは分からないが、想定では台風とか暴風雨とかだね。

 これらは雨と猛烈な風が混じり合って起こる自然現象だが、風だけでは恐らくここまでの広範囲な気圧変化は起こせないはずだ。水蒸気の力があってこそ初めて実現できる現象と考えている。」


 精霊球は高価なため、通常は土系・水系・炎系のどれか一つの精霊球だけを持っている魔法使いばかりだと聞いている。高価なうえに常に魔法の訓練をしていないと、魔法効果が適正に発揮できなくなってしまう。


 王宮の魔法使いなど、1日8時間朝から夕方までずっとダミー相手に魔法の呪文を唱え続け、10年でようやく初級魔法使いから中級魔法使いに格上げされると言われている。格上げ後もさらにそれ以上の時間を費やして、魔法の訓練を続けないと魔力維持すら難しいと聞いてた。


 そのため2種類の精霊球を持つことなど、金銭面からも魔力を維持する時間的余裕からも意味がないといわれているわけだ。


 魔法というものは、この世界ではあくまでも国同士の軍隊が戦う時の広範囲火力だからな。1種類だけでも強力な術を持っている魔法使いを複数育てたほうがいいに決まっている。何せ一度に唱えられる魔法の呪文は一人当たり一つだけで、さらにそれなりに詠唱時間がかかるのだから。


 そのため、特に風系の魔法は人気がないといったことに繋がってくる。


「ふうん……台風ね……攻撃を仕掛けてくる敵全体に大打撃を与えるのか……でも、あくまでも軍同士の戦争での話でしょ?そんな魔法ダンジョン内でも使えるの?


 確かに、今では冒険者に魔法使いはほとんど存在しないけど、あなたたちが使っている魔法は、どちらかというと攻撃の補助魔法よね。さっきもそうだったけど、おかげで厄介なボスを倒せたんだものね、そういう使い方もあるんだなって感心していたんだけど、ここにきてやっぱり広範囲魔法になってしまうの?」

 ナーミが少しがっかりしたように肩を落とす。


「ああ、いや……俺が狙っているのは実は台風などの広範囲魔法ではない。水と風の魔法効果を合わせれば、こういった効果も作り出せるだろうと説明しただけだ。

 俺が狙っているのは、雷系の魔法効果だ。」


「雷系……ですか?」


「雷系ですって?雷系の精霊球を発生させるダンジョンは、今この世界には存在しなくて、幻の魔法と言われているのよ。魔法の呪文だけが存在していて、精霊球が存在しない……ぷぷっ……それが、水の精霊球と風の精霊球を合わせれば、できるようになるというわけ?」


 ナーミが思わず吹き出しそうになりながら確認してくる。そんなに面白いことを言っているつもりはないのだが……。


「雨上がりとかもそうなんだが、川や池や海などの水が蒸発して、大気中の水蒸気となる。それが大地が熱せられたりした上昇気流に乗って、はるか上空まで巻き上げられると、そこで結露して水滴や氷の結晶となる。

 その時に核となる小さなほこりなど必要となるが、その結露した水滴の集合体がいわゆる雲というわけだ。


 その雲に風が吹き込んで、雲同士の摩擦が発生する。擦れ合うことにより静電気が発生するわけだな。静電気の電荷が溜まりに溜まって地上に落ちてきたのがいわゆる雷というものだ。


 つまり雷とは水と空気と風が引き起こす自然現象だ。だから、水と風の精霊球があれば、実現できると俺は考えている。だがまあ、それにはまず精霊球に慣れなければならんだろうがね。」

 俺は自信満々に答えてみせる。


「へえ……とんでもないことを考えつくわね……そうかあ……なるほどね。


 それなら雷の魔法の呪文が、精霊球が存在しないにもかかわらず伝わっていることが理解できるわね。

 昔は水と風の精霊球を一緒に取り扱っていたわけよね。だったら、ほかの精霊球も組み合わせられるかしら。」

 ナーミは興味津々といった様子で、身を乗り出してきた。


「どうだろうな、水と火では相性が悪いだろうしね。火と風もだ、どちらも火が消えてしまう。

 土と水で、土石流なんて言うのも考えたことあるが、今のところ雷が一番有力だ。」


「ふうん……だから、火の精霊球はあたしが担当というわけね。」


「そうだ、例えば矢に炎を絡ませて攻撃するなんてことができないかと考えている。」


「そうか……なんだか楽しくなってきたわね。何せ冒険者の技術なんて、頭打ちで限界にきていると言われているのよ。剣術でも格闘術でも弓などもそうだけど、道具も限界にまで発達してしまい、これ以上の発展は望めないとまで言われているの。


 そこに魔法の力を付加して、さらなる飛躍を目指そうというわけね。


 で?その炎の精霊球があるダンジョンはどこにあるの?どうせギルド未管理の、人に知られていない山奥にあるんでしょ?また中級の精霊球なのよね?」

 ナーミが嬉しそうに笑顔を見せる。


「ああそうだな……多分、中級精霊石だ。しかも今回同様、ボス魔物が中級魔法を唱えると思う。」


「それだと、B級ダンジョンというわけね。

 まあ、今回も苦労はしたけど攻略できたんだから、何とかなるでしょう。」


 B級ダンジョンは、ボス戦攻略後30年以上35年未満のダンジョンだが、精霊石は中級でボスは魔法が使える。ナーミは元からB級だが、俺たちは先日ようやくC+級からB−級へ上がったばかり(しかも飛び級のようなもので)なので、上位レベルのダンジョンとなる。


「えっ……管理されていないダンジョンは、C級未満のダンジョンではないのですか?」

 トオルがすぐに反応する。


「いや……俺も勘違いしていたんだが、カルネが発見して未登録のダンジョンは、俺たちが攻略してきたカンヌールのダンジョンで、一度攻略してから18年経過しているものだが、カルネが攻略した時点では精霊球が幼くて回収できなかったものだ。


 まだ小さかったがボスは倒しておいたと言っていたから、少なくともその時点で発生から10年以上は経過していたと思われる。つまり精霊球は28年物以上、中級である30年以上でもおかしくはない。


 ボスが18年物だったというだけで、精霊球も同等と勘違いしていた。コージーギルドでクエスト申請してC+級ダンジョンを攻略してから、なんとなく考えていたんだが、今日の未管理ダンジョン攻略で確信した。


 ちなみに先ほどのダンジョンは、カルネの記載年だと発見してから22年経過している。その時点で10年未満で幼すぎたボスでも22年経過していれば、30年級ということも十分考えられる。」


「はあー……そうですか……だから我々はC+級ダンジョンをたった2人で攻略できたというわけですね?

 カンヌールで攻略した未管理ダンジョンと、さほどレベル的には変わりはなかったというわけですか。」


「そうだな、ギルドで管理されているダンジョンは、内部も整備されているから、魔物たちは住みやすい環境と言えるのかもしれない。そのため少しは数も多く、まとまって襲い掛かってくる傾向にあったが、レベル的には同等ともいえた。雑魚魔物たちは1年から2年で成獣になると言われているからな。


 だから、ナーミが加わってB−ダンジョンに挑戦しても、まあ何とかなったわけだ。もちろん、魔法の補助があったおかげではあるのだがな。」


 このところ胸につっかえていた疑問点が、かなりすっきりとした。別に取得した精霊球が初級でも中級でも、俺たちにとっては大きな違いはないのだ……所詮は補助魔法にしか使うつもりはないのだから。


「で?次のダンジョンはどうなの?」


「ああ……カルネの記載ではこちらも発見後22年経過している。ここから近いダンジョンだから、恐らく同じ時期に発見したのだろうと思う。こちらもその時点でボスが幼すぎたため、そのままにしておいたとなっているから、次も中級魔法を使うんじゃないかなー……。


 だが火の精霊球のダンジョンで、ボスを倒した未管理ダンジョンもあることはあるが……カルネは各地で未発見ダンジョンを見つけて、それを記録していたようだからね。それでもお隣のサーケヒヤー国まで足を延ばさなければならない。近場だと、これから向かおうとするダンジョンしかないが、どうする?」

 今日は結構やばかったので、念のために確認しておく。


「そりゃ行くわよ……中級精霊球のほうが、使い手側の魔法の上達が断然早いのよ。中級精霊球や上級精霊球を使うと短期間で使い手の魔力を上げることが可能なので、精霊球の価値が上がって報奨金が多くなるというわけ。


 お得でしょ?初級精霊球を初心者が使えるようになるには、毎日長時間特訓して半年から長い時には1年近くかかると言われているのよ。まあ、あくまでも戦争での魔法効果を期待してのことだろうけどね。

 それでも使い始めはきついはずよ、呪文を唱えても魔法効果なんてそう簡単に実現できないわ。


 それが中級ともなるとすぐに使えるというわけよ……あたしはじれったいのは嫌いだから、あなたたちみたいに地道に毎日訓練するなんて嫌だったけど、中級精霊石ならいいわ。」

 ナーミが笑顔を見せる。


「私は……ワタルと一心同体です。ワタルが行くところであれば、どこへでもご一緒させていただきます。」

 トオルは……またもや誤解を招くような言い方を……だがまあいいか、同行してくれるのだからありがたい。


 だがまあそうか……何も知らずに使っていたが、確かに王宮での魔法使い養成の手間暇を考えれば、魔法の訓練がいかに地道で過酷かが想像できる。何せ毎日8時間欠かさずに……だからな。

 しかもそのうちの大半は魔法効果が発揮されない。魔力にも限りがあるが、何より魔法効果を確実に得られるよう使いこなすには時間がかかると言われている。


 日々の鍛錬を継続することにより精霊球が成長し魔力も増幅するが、魔法効果が発揮される確率も上がっていくというわけだ。ところがそれが中級以上の精霊球を使えば、すぐに満たされるということだ。


 ナーミは冒険者だから、自分たちが回収してくる精霊球に関しては、結構詳しいようだな。


 俺たちは補助魔法にしか使わないから、寝る前の1時間程度の訓練でも十分と考えていたのだが、これは精霊球が中級のものであるからなのか。しかも、指を折ったりすることで詠唱時間を短縮するなんて、半ば反則気味の手順についてこられているのも、精霊球が中級であるということが大きいのかもしれない。


 ううむ……指を使っての詠唱時間短縮なんてことを思いついたのを、自慢げにしていたのだが、あくまでも精霊球の能力次第だったということのようだ。それだけ俺たちは恵まれた環境にいたということだな。

 高くなっていた鼻をもぎ取られたような気持ちだ。


「火の精霊石があるのは、ここから1日山道を東へ進んだところのようだ。明日の早朝から出発だな。」


「わかったわ。」

 ダンジョンを攻略しても野生の魔物は心配なので、やはり交代で見張り番をすることにして就寝した。



 翌朝早朝から出発して、東へ徒歩で進む。これからするべきことが皆に伝わっているせいか、足取りは軽い。

 人が踏み入れることのない山の中を進んでいるため、途中魔物たちに何度も襲われそうになったが、トオルに風系魔法を使わせて、退治できないまでも追い払うことで先へと進んだ。


 鳥系魔物に関しては、飛んでいるときに横風を食らわせれば、バランスを崩して失速するため、風系魔法は結構有効なようだ。獣系魔物に関しても、突進してくるときに突風を吹かせることにより、目をつぶらせて木立に衝突させるなどの効果があった。


 それでもあきらめない場合は、俺が地震を起こして足止めさせ、そのすきに逃げた。

 風のダンジョンで手に入れた魔物たちが結構潤沢にあることと、当然これから向かう火のダンジョンでも、それなりに魔物を手に入れるという目論見からも、道筋での魔物退治は無用と考えているのだ。


 さらに対魔物戦で魔法を使うことにより、魔力を向上させ魔法の習熟につながるとナーミに助言されたため、これからは率先して魔法を使って行くことにした。


「なんだか、暑くなってきていませんか?それに……異臭がします。」

 最初に異変に気が付いたのは、トオルだった。


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