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ケルベ大鷲

 宇宙怪獣を彷彿とさせるその魔物は、背後からの太陽の光を浴びて、長く大きな影を俺たちのいる崖に映し出しているようだ。まぶしくて、その姿もはっきりとは目視できない。


「ツッコンドルと同じく、体への攻撃は無効なようだな、急所として恐らく首から上とだけ記載がある。


 このダンジョンの魔物は、発見時点では幼くて戦わずに見逃したとなっているので、どのような攻撃があるかとか、特徴に関する記載は一切ない。ナーミが言う通り、風系ダンジョンは人気がないのだろうな、風系ダンジョンの魔物に関しても情報がないのでわからないが、まあ何とかなるだろう。


 ナーミとトオルはこの場から登らずに、ハーケンを打って体を固定した状態で、援護射撃をお願いする。 念のため、ナーミの弓は以前の大きな弓に変えておいたほうがよさそうだな、盾の効果もあるようだからな。

 トオルは……どうするかだな……。」


 カルネですら戦ったことがない魔物のようなので、念のために防御優先で検討する。俺も先祖伝来の盾を腕に装着した。装着タイプなので、動きは悪くはなるが両手は使えるから、まあいいだろう。用心のためだ。


 これまでのダンジョンと違い、攻撃をかわすという動作が困難といえる環境だからな。かわさずに安全に受け止めるということも考えに入れておかなければならない。下手に動いて足場を踏み外せば、奈落の底だからな。かといって、まともに攻撃を食らえば致命傷になりかねないのだ。


「私は……体は鎖帷子があるから大丈夫です。頭は……仕方がないので面帯と鉢金を使用します。」


 そういってトオルは冒険者の袋からお面のようなものを取り出した。厚い金属製のようだが目と鼻と口の部分に切り込みが入っている。両こめかみ部分から伸びた紐を後頭部で結んで固定。更にオデコ部分には鉢金を装着した。これならいいだろう。


「じゃあ、行くぞ。」

『ザッザッザッ』崖から突き出た岩をつかんで、一歩一歩登っていく。


「ぎゃおぎゃおうわぁー」


「来るぞ!防御しろ!」

 登っていく途中で真ん中の頭が叫んだので、すぐにトオルたちにも警戒を呼び掛ける。

『ゴワッビュゥワー』慌てて盾を頭の上に掲げて崖に突っ伏すと、一陣の風が舞うように体を吹き抜けていく。


「いやあっ!なにこれ……。」

 下からナーミの悲鳴が聞こえる。


「だっ……大丈夫か?」


「咄嗟に弓で防御したから体は無事だけど、服を少し切られたわ。これが噂のつむじ風ね。中級魔法じゃないの!」

 下からナーミが驚いた様子で叫ぶ。そうか……魔物は中級魔法を使うのか。


「そうか……だが風の攻撃であれば、鎧には通じなさそうだ。ようし、一気に責め立てるぞ。援護を頼む。」


「はいっ!」

「わかったわ、任せて!」

『ザッザッザッ』ある程度の距離まで近づき、一気に脈動で……と思った瞬間


「ぎゃおぎゃおうわぁー」『バッサバッサバッサバッサ』またもや真ん中の頭が叫ぶ。


『ビュウワァアー』『カンカンカンカンカンッ』再度一陣の風が……そのまま突っ込もうとしたが黒い異物が一緒に飛んできたので、思わず盾を頭上に構え蹲り身を守る。


「いやー……服がボロボロじゃない!」

 またもや下から、ナーミの叫び声が聞こえてくる。


「つむじ風だけでは威力が小さいと判断したのか、今度は羽を織り交ぜてきました!高速で飛んでくる羽は結構な威力がありますね!私の装束も少し切れました!」


 トオルも下から叫んでくる。そうか黒い異物の正体は魔物の羽か……攻撃を仕掛けようとするとつむじ風が吹いてくるし、厄介だな。


「このままではじり貧だ。こっちが攻撃を仕掛けようと身構えると、魔法攻撃を仕掛けられてしまう。

 攻撃自体は、鎧を着ている俺にはそれほどでもないが、布服では厳しい。

 ぐずぐずしてはいられない、一気に片を付ける必要性がある。


 ナーミとトオルは、陽動作戦を願いする。当たらなくてもいいから気を引いてくれ。そのすきに俺が一気に脈動を使ってとびかかる。一か八かだが、これしかないだろう。」

 こうなったら脈動を使って、一気に大ジャンプだ。それなりに近い位置まで詰めているので、何とかなる。


「わかったわ。」

「わかりました、水弾ではちょっと距離があるので、別の魔法を使います。」


『シュシュシュシュ』「水流!」『ジャーッ』ナーミが矢を放ち、トオルが唱えると水鉄砲のように一筋の水流がケルベ大鷲めがけて襲い掛かっていく。


「ぎゃおわーすっ」

『ゴオーッ』右の頭が唱えると、凄まじいまでの突風が魔物から発せられ、矢が失速し水流が狙いを逸らされる。だがしかし、そんなことは予測済みだ。


「脈動!」

『グワアッ』足元の岩壁が急激に盛り上がり、その勢いを利用して上方へ大跳躍する。


「だりゃあっ!」

 刀を大上段に振りかぶり、ケルベ大鷲に思い切り斬りかかっていく。


「ぎゃおぎゃー」

『ビューッ』ところがその瞬間、強烈な横風が吹いて、俺の体は右方向へと流される。そうして目標を失った俺は、そのまま脚から崖下へ落下していった。


「ワタルっ、つかまって!」

 トオルがのばした右腕に、左手を伸ばして辛くもつかまる事が出来、『ズザザザッ……ザッ』そのまま何とか足場になる岩の突起に、足をひっかけることができた。


「ふうっ……助かったよ、ありがとう。

 だが参ったな、俺たちほどではないが、奴の呪文の詠唱はかなり短い。陽動作戦でスキを突こうとしたが失敗だ。」


『ザッザッザッ』取り敢えず体勢を立て直して、再び崖を少し登っていく。


「恐らく、頭ごとに使う魔法を振り分けて、詠唱を短縮しているのでしょう。先ほどから頭ごとに唱える魔法効果が異なっているのはそのせいです。」


 多分、トオルの推察通りだろう。ただでも向こうが圧倒的有利な上側にいて、さらにこのダンジョンならではの効果的な魔法が、ほぼ連続的に発せられる。こうなりゃ無敵だな。


「仕方がない、ほぼ自殺行為だからやりたくはなかったが、地震で奴の足場を崩す。当然大きな落石が飛んでくるから、ナーミとトオルは左右に分かれてくれ。


 移動した後すぐに攻撃を仕掛ければ、1ヶ所に固まると同じ魔法攻撃を受けてしまうからだろうと、疑われることはないだろう。それぞれ集中攻撃の的になってしまうが、何とか耐えてくれ。」


「いいわ……いつまでも岩にしがみついてもいられないから、一気に行きましょう。」

「わかりました。奴の視界を奪ってみます。」


『ザッザッザッ』『ザザザッ』ナーミとトオルが、崖伝いに左右に散っていき、『カンカンカンッ』『カンカンカン』すぐにハーケンを打ち込み、体を固定したようだ。


「夕立!」

『ザザザーッ』『シュシュシュシュ』トオルが唱えると、ケルベ大鷲のいる辺りのみ猛烈な大雨が発生し、奴の姿が見えなくなる。同時にナーミの矢が勢いよく飛んでいった。


「ぎゃおわーすっ」

「ぎゃおぎゃー」

『ゴォー』『ビュー』ケルベ大鷲はすぐさま魔法を唱え、突風と横風が矢と雨を吹き飛ばす。


「地震!」

 左手の人差し指を立ててから、引っ込めもう一度立ててから唱えると、『グラグラグラ……ガラガラガッシャー』ケルベ大鷲の足元が大きく揺らぎ、足元の岩が崩れ始める。


「ぎゃ……」

『バッサ』真ん中の頭が呪文を唱えようとしていたが、足場が崩れそうになったので、焦ってケルベ大鷲はその大きな羽を広げて飛び立とうとする。


「脈動!」

『グゥオッ』逃がすか……ここで奴に飛び立たれたら終わりだ。

 大きく跳ね上がり宙を舞うと、剣を両手持ちに変え、大上段に振りかぶって魔物に斬りかかっていく。


『シュッパンッ』飛び立つ瞬間のケルベ大鷲の真ん中の長い首を、斜めに切り裂き、『シュパッ』『シュパッ』そのまま左右の首を刀を返して一気に水平斬りすると、『ザッパーンッ』ケルベ大鷲の3つの首から、血しぶきが噴水のように湧き上がった。


 やった……倒した……俺はそのまま足場もなく自然落下していく、しまった……倒した後の態勢を考えていなかった。


『シュルシュルシュル……ガゴンッズザザザザッ』すると西部劇さながらに大きな輪を作った投げ縄が、俺の腰に巻き付いて、落下を止めてくれたようだ、危うく岩の突起に左手を使ってすがりつく事が出来た。トオルだ……トオルがまたもや助けてくれた。


「先ほどもそうでしたが、魔物を倒した後の足場など考えていませんでしたよね?

 念のためにロープに輪を作っておいて正解でした。」


「悪い悪い……どうにも、魔物を倒すほうにばかり頭が行ってしまって、そのあとがどうなるか考えていないな……以後気を付けるよ。」

『ザザザザザッ』左手とロープで支える状態から、何とか足場につかえる突起を見つけることができた。


 基本、シューティングゲームでも格闘ゲームでも、ロープレでもそうだが、テレビゲームであれば捨て身の攻撃をして、相手を倒しさえすれば勝利だ。こっちは先のことを考えなくても、倒れた敗者の横に立っている。

 その癖がつい出てしまうな……気を付けなければ……。


『ガラガラガラガラッ』崩れた崖の岩と一緒に、ケルベ大鷲の体が落ちていった。


「じゃあ、精霊球を回収して戻るとするか。」

『ザッザッザッ』そのまま崖をよじ登っていくと、いつの間にか登り始めた壁面にしがみついている自分に気が付く。戻ってきたのだ。


「あれ?精霊球はどこなのだ?回収できていない……。」

 そのまま登ってしまったのがよくなかったのか?崖のどこかに埋もれていたのか?


「魔法を使うボスがいる時は、ボスが持っているのよ……ほら……。」

 ナーミが地面に激突してつぶれたケルベ大鷲の体を、回収した矢先で探ってピンク色の球を取り出して手渡してくれた。


「ありがとう……じゃあ、これはトオルが持っていてくれ。」

「えっ……私は水の精霊球を持っているから、これはナーミさんが持つのではないのですか?」

 俺の言葉にトオルが首をかしげる。


「いや、ナーミにはこれから挑戦する火の精霊球を持ってもらう。

 これはトオルが持ってくれ。俺の推察に間違いがなければ、水の精霊球と相性がいいはずだ。」

 そういいながらトオルに無理やり持たせる。


「へえ……一人で2つの精霊球を持つなんて、魔法使いでもやらないのよ……。」

 ナーミも興味深そうに見ているが、さほど不満はなさそうだ。

 後で、間違っているかもしれないが、俺の推察を説明しておこう。


「結構時間がかかってしまったな、もう夕方近い。とりあえず、少しでも戻るか?」


「いえ、まだやることはたくさんありますよ……今日はここで泊りです。」

 トオルはそういうと、おもむろに地面に転がっているツッコンドルの羽をむしり始めた。

 おおそうか、肉の回収だな……まずは朝畳んだテントを張りなおそう。


「あたしは、フリーフォールカモシカの皮をはいでおくわ。」

 ナーミが小刀で、カモシカの皮を剥ぎだした。


「皮を剥ぐのもいいが、まずは着替えたほうがいいんじゃないのか?ちょっと目のやり場に困るぞ。

 魔物の攻撃で服はボロボロになったが、肌までは影響がないみたいだから、あまり騒ぎはしなかったが、念のために回復水も飲んでおいたほうがいい。」


 先ほどのケルベ大鷲のつむじ風と羽を混ぜた攻撃でやられたのだろう、シャツもズボンもボロボロで、肌が露出して下着も丸見え状態だ。隙間から見える白い肌には傷がついていないようなので、ほっとした。


「あっそうだったわね……じゃあすぐに着替えるわ。」


「おいおいっ……ここじゃまずいだろ……テントを張ったからテントで着替えてくれ。」


「ええっ、いいじゃない、ほかにだれが見ているわけじゃないし……仲間だけなんだから……。」

 ナーミは平気なふうで、外でそのまま着替えようとするのを、無理やり手を引っ張ってテントに押し込んだ。

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