次なるダンジョンは……
「じゃあ、次は防具屋だ。」
武器屋の隣の防具屋に入る。
「そうだ……ついでに手元にあるスートの装備を渡しておく。売り払って買い替えるのも自由だ。」
そういいながら、渡していなかったスートから奪った射者の服やズボンに胸当てなど装備一式を渡す。
「ありがとう、これはそのまま使わせていただくわ。銀のビスチェと金属ラメ入りスカートは上級者向けだし、体形はあたしとほとんど変わらなかったみたいで、サイズもぴったりだからちょうどいいわ。
中古で売ると買値より大幅にダウンしてしまうから、使えるなら使わないと損よ。」
ナーミは、そのまま俺が渡した装備1式を予備として保持するようだ、これはこれでいいだろう。中古品だろうが、気に入ってサイズがあえば使わなくちゃもったいない。
「じゃあ、この拳法着と鎖帷子と手甲や脛当てを引き取っていただけますか?」
トオルがタームから奪い取った装備1式を売り払うようだ。奴はかなり大きな体形をしていたからサイズが違い過ぎて使えないのだろう、使いにくければこの際だ、売ってしまうのがいい。
そうしてまたもや俺からカードを持っていく。
「この鎧と同じグレードの装備だと、どれになるかな?」
面倒なので、店員に最初から伯爵家伝来の鎧を見せ、同程度の装備を選んでもらうことにする。
「ああ……かなりいいものですね……こちらに展示してあるクラスになります。」
店員は一つ奥の部屋へ案内してくれる。そこにはきらびやかに装飾を施された鎧兜が陳列されていた。
ううむ……さすがハイグレード……見ただけで重厚な威圧感があるな。
ところが、鎧兜の値段を聞いてびっくり。
鎧と兜と小手と脚の1式セットにすると、俺がC+級ダンジョンで稼いだ5回分に相当する。
なんとC+級冒険者が10ヶ月間優雅に飲み食いできる……サラリーマンでいうと……。
まあいいや……そんなこと考え込んでいても、何も決まらないな……とりあえず、今日の稼ぎ分まで入れれば何とか支払いはできそうだから、目をつぶって購入。
ハイグレード防具には希望すれば紋章を入れてくれるそうなので、今と同じ紋章をお願いした。
「私は……このチタン製の鎖帷子と手甲と膝あてにしました。すっごく軽いのに硬くて丈夫です。更に、薬品にも強いというので、これは買いですよ。」
トオルが嬉しそうに防具を持ってきて見せびらかす。確かに軽い……なんだか金属っぽくない軽さだ。
それでいて、硬い……強度は十分にありそうだな。
驚いたのは値段で、これで俺の鎧と変わらないというから、キロ当たりで行くと恐らく数十倍はするんじゃないかな。
買い物を終えて帰路に就く。かなり蓄えがあったはずだが、もうすでに今日の稼ぎの半分も残っていない。
ナーミに聞いたら、大体同じくらいしか自分も残ってないと笑っていた。どんだけ借金していたんだ?
一旦宿に戻って着替えてから、猛進イノシシの肉をもって居酒屋を目指す。もちろんミニドラゴンにはモモ肉を与えてきた。
「ある居酒屋にこの肉を持っていったら、俺たちの分はステーキにしてくれて、残りを渡せば2日間飲み放題食い放題にしてくれた。この店はどうかな?」
村の居酒屋で、猛進イノシシのロース肉を見せて交渉する。この居酒屋で3軒めだ。同じ居酒屋に行かないのは、商売上の公平を期するためだ。
「おお……幻の猛進イノシシ肉か……いいだろう、うちも3人まとめて飲み食い放題2日間で手をうとう。
お前さんたちはそれぞれステーキでいいかね?」
ここのおやじも、やはり快諾してくれた。この村には4軒居酒屋があるから、順繰りに回っていくことにしよう。そのほうが色々な店の味が楽しめるしな。
猛進イノシシ肉のロースステーキは、ナーミも大感激していた。昨日は言わなかったが、情報屋の調査費を払うために食費も切り詰めていたらしく、あまりいいものを食べていなかったようだ。
まあ借金も完済したようだし、これからは普通の生活に戻れるさ。当面飲み放題食い放題だしな。
「じゃあ、これからどうする?またB−クエストを引き受ける?そうそうがつがつしなくても、ただ生活するだけなら、当面は問題なさそうだけどね、蓄えはいくらあっても困ることはないから……。」
翌朝、朝食の席でナーミが今後の活動について聞いてくる。昨晩は酒を控えたこともあってか、今朝は遅くならずに皆と一緒に席につけたので、ナーミの機嫌は悪くない。
「そうだ……ちょっと行きたいダンジョンがあるんだ。」
「行きたいダンジョン?C+級のダンジョンなの?今更という感じはするけど、別にどこでも構わないわよ。」
ナーミは申請クエストに関しては、注文はないようだ。
稼げるクエストだけ引き受けたいというのでないから有難い。
「いや……C+級ダンジョンではない。というかレベル評価がされていない、未管理のダンジョンだ。」
あまり周りにひけらかせる情報ではないため、小声でナーミだけに聞こえるよう話す。トオルはすでに経験済みだから、説明不要だろう。
「未管理のダンジョン?そんなものがまだ存在するの?新規発生ダンジョンは、ギルド申請しなければいけない規則なんじゃあ……。」
意外とまじめな性格のナーミが、小声で尋ねてくる。やはり公にできないことだと認識しているようだ。
「カルネの情報の中にあったダンジョンの一つでね、ギルド申請するには管理区域から外れているため、申請不要と判断できるものだ。もともとダンジョンの管理というのは、一般の人たちが間違ってダンジョンに落ちて事故にあわないよう、適正に囲って一般の生活域から隔絶しておくためのものだ。
ダンジョン内では精霊球が成長するし、魔物たちの肉や毛皮も珍重されるから、ギルドが冒険者を募って安全にそれらを収集して成り立っている。
だから人里から遠く離れたダンジョンに限っては、ギルドへの申請不要という暗黙のルールがあるらしい。
申請されてしまえばギルド側でも人を送って管理しなければならなくなってしまうので、あまり遠くだと大変だ。そのため各ギルドでは管理区域というものを設定して、その区域内でダンジョンを見つけたら申請するようにと呼び掛けている。今回はその区域外ではあるが、ここから比較的近い場所にある。
そこへ行きたいわけだ……俺たちが精霊球をもっていて、魔法も使うことを知っているよね?
今回は、新たな精霊球を手に入れたいため、ギルド非管理のダンジョンを攻略する。
ギルドにクエスト申請して、精霊球を清算せずに自分のものにもできることは知っている。だが、自分たち用にするのだから、管理されていなくてギルドから報奨金がどうせ出ないダンジョンのほうがいいだろ?
報奨金がかかっているダンジョンの精霊球は、やはり清算して金に換えたほうがいい。
かといって、クエスト申請もせずに突然精霊球をギルドに持ち込んで清算しようとすれば、どこで手に入れたのだとかいろいろとうざったいから、非管理ダンジョンの精霊球こそ個人用にベストと考えるわけだ。
元々、トオルと2人で行く予定だったダンジョンだから、ナーミは嫌なら悪いが宿で待っていてくれればいい。なにせ、報奨金は当てにできないからね。せいぜい魔物の肉ぐらいしか稼げないだろうから。」
非管理のダンジョンに向かいたい理由を説明する。このダンジョンに関してはちょっと不安要素があるのだが、ナーミがだったら嫌といえば、それはそれで仕方がないと考えている。
「いいわよ……あなたたちには色々と迷惑もかけたしお世話にもなっているから、あたしも出来ることは協力させてもらうわ。それに……精霊球を手に入れて、何か強くなるための作戦があるわけでしょ?
その技は多分チームナーミュエントのためにきっと役立つと思うしね。」
意外とあっさりと、ナーミは同行を承諾してくれた。うれしいね。
部屋に戻って身支度をしてから一旦宿を引き払い、宿の玄関前に集合する。
「じゃあ……昨日道具屋でお願いした通り、弁当は十分に買ってあるかな?」
回復水や解毒薬は冒険者の袋に10個ずつまでしか入れられないが、弁当だけは2週間分42個まで入れられる。これは、徒歩で向かうと一番遠いダンジョンまで往復で10日かかるからだ。そのためダンジョン内での滞在と予備も考慮して2週間分詰められるよう調整されている。
ということは、ギルドから徒歩で5日の範囲までが管理区域ということになるというわけだ。
これは距離ではなく、あくまでも冒険者の足で5日間で行ける範囲であり、山道の有無や、渓谷、川や滝などで行く手を阻む場所がある場合は、結構近場でも管理区域外となる場合がある。
そのような場所は、人が入り込まないから心配無用ということらしい。
ギルドは山奥の集落を除き、この世界の村や町や都市には必ず一つはあり、その周辺のダンジョンを管理しているが、あくまでも人の生活圏内に限るということだな。
「まあ、腐るもんでもないし、2週間分買っておいたわよ……お金に余裕があれば当然の備えね。」
「私も購入しておきました。」
冒険者の袋に入れておきさえすれば、賞味期限の心配などしなくてもいいからな。
パーっと使っちまう前に、こういった必要道具は必ず補充しておくに限る。ちなみに、猛進イノシシの肉もアイテムの一つなので、トオルが冒険者の袋に保管している。冷凍するよりも味が落ちないし、ロープレゲームと同じで大変にありがたい。ちなみに俺の冒険者の袋には、ミニドラゴン用のモモ肉の残りが入っている。
「じゃあ出発しよう。ミニドラゴンで1日駆け、それから山道を1日行かなければならない。
泊りになるから、テントや寝袋も忘れないようにね。」
「大丈夫よ、昨日購入して冒険者の袋に入れてあるわ。」
「じゃあ、出発しよう。」
「あっ……ワタルはその恰好で行くのですか?いくら現地で着替えればいいからといって、道中魔物が出ないとは限りませんよ。」
トオルが俺の格好の異常さを指摘する。何せ普段着のままだからな。
「ああ……別に着替え忘れたわけではない。昨日買った新しい鎧兜に紋章を入れるようお願いしておいただろ?このまま防具屋に取りに行って、着心地を確認するためにも新しい装備で行く。
剣も新しいのを装備しているからな。研ぎに出した剣は、今回は予備として冒険者の袋に入れるつもりだ。」
「ああそうですか……私も新しい鎖帷子や手甲を装備しています。こっちのほうが断然軽いですからね。」
トオルが自慢そうに、襟元から覗く細かな金属の鎖を披露する。
トオルと2人で研ぎに出した剣を受け取り、俺は真新しい鎧を防具屋で装着させてもらった。
貴族用の装飾など一切ないものにしたので、派手さはないがそれなりに軽くなった。また、耐炎と耐風と耐水・耐震の魔法効果を持たせてある。どうやってそのような効果を持たせているのか防具屋に聞いたところ、精霊球のかけらを防具に貼り付けることにより、それぞれ対応する魔法の耐性が生じるらしい。
かけらの大きさによって耐魔法性能も変わるが、値段もそれだけ高額になる。俺の購入した鎧は、それぞれ20%魔法効果をカットしてくれる性能がある。
つまり1/5の大きさの精霊球のかけらが貼り付けてあるということらしい。鎧が高額なわけだ。
トオルの鎖帷子の場合は、精霊球の粉が鎖表面にコーティングされているらしく、こちらも同様に耐炎耐風耐水が20%カットになっている。
精霊球1個そのまま貼り付けても、100%カットすることは叶わず、効果範囲を外れる隙間は必ずできるそうで、20%カット程度が一番コストパフォーマンス的に適正と聞いたのでこれにした。
トーマ家伝来の鎧は、25%の耐魔法性能を持っていると、昨日見せた防具屋の店員が言っていた。
「悪いな、一人だけ馬で……。」
「いいわよ、乗馬は得意だし好きだから。」
防具屋を出てから、ミニドラゴンの馬車と馬一頭で出発する。ミニドラゴンの馬車は2人乗りなので、どうしても一人は馬で行くしかない。ナーミが疲れたら馬車と変わるつもりでいる。
久しぶりの遠出でミニドラゴンの走りも軽い。通常の馬車の2倍程度の速さで進むドラゴンだが、ナーミが乗った馬もそれなりについてきている。重い客車をつながずに直接乗馬していることと、ナーミの体重が軽いからか、馬への負担も軽いようだ。これなら順調にいけば今日の夜には山のふもとまで行けそうだ。
目的地に近い山のふもとに着いたら、すぐに野営の準備だ。ここまではギルドの管理範囲内であり、ほとんど魔物は生息していないので、馬車などで高速で移動している間は安全だ。
しかし野営していると闇に潜む魔物が襲ってくる可能性があるため、結界香を焚いておく必要性がある。
これは道具屋で買い増ししておいたので十分に在庫があるが、馬が襲われないよう交代での見張りは必要となる。ミニドラゴンの場合は、放してやれば明日の朝には戻ってくるはずだが、馬の場合はそうはいかない。
ミニドラゴンを放した後、少し歩き回って草を刈ってきて馬に与え、それから焚火を囲んで弁当で夕食となった。3人いるが、ナーミには申し訳ないので俺とトオル2人で交代で番をすると言ったら、自分が使っている馬だから自分もやると言って聞かないため、3時間ずつ3交代ということにした。
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