上位ダンジョン攻略Ⅱ
ついでにナーミの冒険者の袋の中に、回復水と解毒薬を2本ずつ入れてやる。戦っている最中は、忙しくて渡せない場合があるためだ。トオルも2本ずつ供出してくれた。
「念のための確認だ、気を悪くしないでくれよ……。
ナーミはB−級ダンジョンの罠に精通していて完璧に見分けられ、さらにこのダンジョンの道順も把握しているから、前衛を担当しているわけだよね?後、どれくらいでボスのいる所に辿り着くかわかっているよね?」
ダンジョンに入ってからのナーミの動向がどうにも怪しいので、念のために確認する。
「あたしはこの土地のものじゃないから、ここのダンジョンの構造なんて知らないわ。
罠に関しては……落とし穴や落盤に毒の沼などの罠を経験から知っているわ。だから、見つけ次第教えてあげているでしょ?」
ナーミが新しい弓のテンションを確認しながら答える。やはりか。もしやと思ったが、確認してよかった。
「悪いが、これからは俺が前衛になって先頭を歩く。次がトオルでナーミは後衛、最後だ。
俺はこのダンジョンの構造図を持っているから、道順もある程度わかるし、罠の位置も新しく発生したものは分からないが、昔からある罠に関しては位置と種類を把握できて事前に対処できるからな。
パーティの適正配置でもあるから、この順がもともとベストだ。」
遅くなったが、ここからは隊列を正規の形に修正しよう。やはりそのほうが戦いやすい。
「だめよ、あたしがチームリーダーなんだから、あたしが先頭を歩いて指示を出すの。これは譲れないわ。
構造図があるんなら、あたしに貸してくれればいいんじゃない、それを見ながら進むわよ。」
だがしかし、ナーミは速攻で拒否……予想はできたことだがな。
「この構造図はカルネが持っていたものを俺が書き写したものだが、秘伝書といえるものなので、あまり長時間見せてもらえなかった。だから走り書きというか殴り書きのような図と文字のため、俺以外は解読不能だ。」
ナーミにコージーギルドNo.68と書かれた紙を手渡してやる。
カルネが自分で攻略したダンジョンの構造図を作成し、他の冒険者たちと見せ合ったり金を出して購入したりして収集したものだ。カルネ引退後の新規発生分を除き、ギルドで管理しているほとんどのダンジョンが記録されていると言っていた。
一つのギルドが管理しているダンジョンはおおよそ千から一万といわれていて、ここコージーギルドでもカルネから見せてもらったダンジョン構造図は3千を超える。紙とは言っても数がまとまるとかさばるので、構造図は防水仕様の鞄に入れ、ミニドラゴンの背に積んだ篭に保管している。
アイテムではないため、冒険者の袋には入れられないのだ。
ナーミはB−クエストといっていたため、コージーギルドの構造図のうち、B−に当たる前回攻略してから25から30年経過したであろうダンジョンの構造図を抽出してきた。
20から25年がC+級で以降30年までがB−級、35年までがB級、40年までがB+級、50年までがA級となっていく。50年以上はエクストラ級。
「何よこれ……へったくそな絵ね……それに何よ……これって文字なの?」
「ぷっ……くすくすくす……ダンジョンの構造図は、ワタル以外は解読不能ですよ。」
ナーミの態度が受けたのか、トオルが吹き出しながら説明する。
「そのような事情だから……決してもったいぶっていたとか、わざと隠していたとかではない。
それに……カルネが持っていた正規の構造図……ナーミは持っていないのか?カルネの死後、遺族に送付したとサートラは言っていたはずなんだ。だから俺は、ここの構造図も持っているものと……。」
「そんなもの受け取っていないわよ!養育費だって送付されてこなくなったんだから……。」
ナーミはおもいきり首を振る。そうだった……養育費も送らなくなったのに、形見分けなどするはずもないか……じゃあ、あのお宝ともいえる構造図は一体どこに?冒険者でもないサートラたちにはただの大量の紙ごみだとしか見えず、燃やしてしまったのかな?送料をケチった可能性がある、惜しいことをしたな……。
「そういった事情だから、ダンジョンの構造が分かる俺が先頭を進む……いいね?」
ナーミにもう一度念を押す。
「だめよ、あたしがリーダーなんだから、あたしが先頭で指示を出すのよ!だめったらだめ!」
ナーミはそっぽを向き、頑として拒否る。ううむ……奴は頑固だからな……。
「いや……リーダーはナーミがやってくれ、経験豊富だし技量も俺たちの中では一番上だ。
え……えーと……ナーミが前を歩くと、俺たちの方に魔物が回ってこないから、てっ手持無沙汰だ。
俺は剣士だから前衛につくが、別に皆に指示を出すわけでなく、えーと、道順と罠の有無を皆に伝えるだけにする。
この配置なら俺たちが魔物としっかり対峙できる。まっ……まあ、危険だと思ったら後衛から援護を頼むよ。
どう進むかとか迷った時の指示はナーミが出してくれ。俺は……そうだな、参謀というか軍師だな。リーダーという大将を補助して、助言をする役割だ。作戦も考えるが決断するのはリーダーだ。それならいいだろ?」
「ぐ……軍師……?リーダーはあくまでもあたしなのね?指示するのはあたしの役割なのね?」
「ああそうだ……。」
こうなりゃおだてて、並び順を納得させるしかない。別にナーミのリーダーが不満というわけでもないしな。
「ふっふっふっ……だったら、前衛をさせてあげてもいいわ。あたしが前衛で進んでも何の問題もないけど、新人を育てなきゃならないしね。確かにそうだわ……あたしばかりが魔物を倒していたら、いつまでたってもあなたたちが成長できないものね。
いいわ、あたしは後ろからあなたたちを見ていて、アドバイスを送ってあげるわ。
もちろん、不利な状況になって危険なときにはあたしが助けてあげるから、安心してね、おーほっほっほ。」
ナーミは、目を細めて口角を釣り上げながら胸をそらし、高らかに声をあげて笑う。
何たるプライドの高さと負けん気の強さだ。だがここで怒ってしまっては、全てが台無しとなる。
「はっ……よろしくお願いいたします。」
すぐ隣に立つトオルの後頭部も押して、大人2人が小娘に向かって頭を下げる。
「いいわ……こんなところでいつまでもぐずぐずしてはいられないから、早いところ進みましょう。」
「了解……じゃあ……ここまで入り口から……分岐をまずは左に進んで次を右……いや左だったか?」
正式ルートへ戻るために、ここまでの道順を思い出そうとする。
「入り口から入って最初の分岐を左で次が右、そのまた次が左と、ジグザグに進んできています。」
ナーミから揮照石を返してもらい、構造図を覗き込む俺の背後から、トオルが声をかけてくる。
「おおそうか……そうなると……ううん……ちょっと戻らなけりゃならないな。こっちだ。」
ナーミの勘だけを頼りにたどってきたルートは間違って横道にそれており、何とか本道に戻るルートを探して少し戻ることになる。おかげで貴重な猛進イノシシの肉をゲットできたと考えれば、無駄な寄り道ではない。
先頭に立って、来た道を戻っていく。
「きっきぃー!」
『シュッ』『ズッパーン』不意に上から叫び声がして、反射的に体をかわして剣を抜き、落ちてきた影をたたき斬る。チンパンジーのような手足の長い霊長類系の魔物のようだ。なんと鍾乳石の先を尖らせ、武器として攻撃してきたようだ。洞窟天井の鍾乳石にしがみついて待ち伏せしていたのだろう。
『キンッキンッ』『キンッキンッ』すぐ後ろでは、2頭の魔物相手にトオルが短刀で敵の攻撃を何とか防ぎながら戦っている。魔物の動きがかなり早いので、苦戦している様子だ。
「きゃっ」
『シュッシュッシュッ』さらに奥では、ナーミが襲われていた……まずい!弓がいつもの防御用ではない。
『ダダダッ』トオルには申し訳ないが、横を素通りして後方へ駆けていく。
「おりゃあっ!」
『スパァーンッ』ナーミに襲い掛かっていた魔物を、おもいきり振りかぶって背後から真っ二つに斬り割く。
『ダダダッ』『ズバンッ』取って返して、今度はトオルに襲い掛かってきていた魔物のうち一頭を葬る。
『キンッ……ズバッ』1対1になれば手慣れたもので、すぐさまトオルが短刀で魔物の首を狩った。
「はあはあ、あ……ありがとう……チンパニーランスという魔物よ。最近発生した新種だとか、南の大陸から流れてきた外来種とか言った説があるわね。知能が高くて道具を使えるし、群れを成して行動しているの。
しかもただ群れて突っ込んでくるだけじゃなくて、それぞれ役割をもって攻撃を仕掛けてくるから厄介ね。」
ナーミが魔物の死骸を見ながら解説してくれる。なるほど、カルネの資料になかったのはそういうわけか。
こういった魔物がいるから、倒された冒険者たちの武器や装備は、必ず回収しなければならないわけだな。
力は強いしすばしっこい奴らに武装されてしまったら、敵わなくなる恐れがあるからな。
「悪かった……天井も注意して進むことにする。」
前衛が注意を怠ってはいけない、パーティ全体を危険にさらすのだ、素直に頭を下げる。
「いいのよ……奴らは知能が高いから鍾乳石の影とかに巧妙に隠れているわ。体毛も黒だから、暗がりでは見つかりにくいしね。前衛が上ばかり見ていて落とし穴や毒沼にはまっても困るから、あたしが上方を警戒するわ。
これも、お互いが補完し合うっていうことでしょ?」
ナーミが頷きながら答える。頑固だが、意外といい子なのかもしれんな……。
「じゃあ、私が左右を警戒しますから、任せてください。」
それぞれ役割分担が決まったところで出発だ。チンパニーランスは毛皮のサイズが小さいので需要がなく、肉は食用にならないというので、そのまま放置して進む。苦労して倒したというのに残念だ。
その後、正規ルートに戻ってすすみ、ようやくドーム状空間の手前まで来た。
「さあ、ボス戦よ。入る前に言った通り、ボスが魔法を使うから注意してね。」
ナーミが前に出て、注意事項を伝える。結構しっかりしている、リーダー向きの性格といえる。
「このダンジョンでは地の精霊球が産出されるようなので、地震系の魔法を使ってくるはずだ。地震のほかに崩落で生き埋めにされないよう、十分な注意が必要といえる。
ただし、魔物だって魔法の種類と対象を明確にしなければならないはずだ。相手が複数の場合はね。
だから何らかの詠唱があるはずだから、その時は警戒するようにね。」
ナーミの横に立って、カルネの構造図からの補足情報を告げる。軍師としての助言だ。
魔物語は分からないが、叫ぶにしても何らかの違いはあるはずだ。
「じゃあ、行くわよ……どうしてもだめな場合は、ドームの入り口であるここまで逃げてくること。ボスはこの小さな洞窟には入ってこられないから、回復水を飲むなり一息入れられるわ。
命は一つよ、危ないと思ったら引くことも必要だから、恥ずかしいことではないからね、いいわね!」
ナーミが最後に戦いの際の重要な心掛けを伝える。さすが、リーダー……。
「ようしっ、いこうっ!」
『ダダダダッ』一気にドーム内中央まで駆けこむ。
『ぐぅおおおおお!』ボスは地の精霊球を入手したときに倒した、土と石でできた巨人ハッシェのようだ。
大きさも……3mを越える巨体ではあるが、そんなに変わらないな。よく考えてみたら、あのダンジョンは管理されていなかったとはいえ、カルネが見つけて内部攻略してから、18年経過していたわけだ。その時にボスは倒したが精霊球は幼くて回収できないためそのままにしておいたと言っていたから、ボスは18年物。
25年経過したダンジョンがB−級だから、大きさ的にそれほど差はないのかもしれない。今回の奴はより成熟して魔法が使えるようになったという程度かな?
「ぐもももももぐももぐぐももぐぅぅぅ……」
「みんな、魔法の呪文を唱えているぞ!すぐに移動したほうがいい。」
叫びとも咆哮とも違う、口の中でごもごもやっているようなので、恐らく詠唱だ。
『ガラガラガラガラッ』ダッシュで飛びのくと、俺のいた辺りの天井が2mくらいの範囲だけ崩落した。
やはり魔法を唱えていたようだが、わかっていれば問題ない。唱え始めてから移動するなり攻撃に転じるなり対処すればいいので、魔法使いが単騎での戦闘には不向きといわれるゆえんだ。
「だありゃあっ!」
『ダダダダダダッ』一気に駆け出し、大上段に振りかぶって奴の腰辺りを斬りつける。
『ゴツンッ』『ブンッ……ブンッ』『タッ』やはり奴の体は硬く、剣が通らない。代わりに勢いよく拳が飛んできたので、後方へ飛ぶ。土が多い関節部分を狙うのがいいのだが、剣が突き刺さって抜けなくなるからな。
「トオルっ、前回のように奴の膝にクナイを突き立てて、足場を作ってくれ!」
すぐ後ろにいるトオルに指示を出す。
「ぐもももももぐももぐぐももぐもぶもぶぅ……」
「はいっ!」
『チャッ』『ガラガラガラガラッ』「危ないっ!」『ダダッ』
クナイを構えるトオルの頭上が崩れ崩落する。慌てて避けたようだが危なかった。
「ぐもももももぐももぐぐももももぐぶもぐぅ……」
「ちっ!」
『ガラガラガラガラッ』『ダダッ』さらに後方では弓を引いて射かけようとしたナーミの頭上が崩落。
間一髪で逃げたが、危なかった。これは結構厄介だな……余裕とは言っていられない。




