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再生ではなく転生

「おいおい……何をやっているんだ……神様にど叱られるぞ……。」


「そんなこと言ったって……老衰で死んだばあさんの魂を回収するだけの、楽な仕事だったはずじゃねえか。

 それがどうしてこんなことに……。」


 俺の頭上で誰かが言い争っている……やはり俺は事故にあったようだな……救急車の隊員か?それか俺を轢いた暴走車のドライバーだろうか。現れたり消えたりしていたのは、ライトを点滅させていたせいか?

 不思議と体の痛みはない……轢かれたといってもはねたというか、かすった程度であったのだろうか。


「あーあ……即死だよ……運が悪いな……仕方がないか、霊送車と正面衝突したんだものな。」


 即死……?一体何のことだ?俺は意識はあるぞ……いや、俺のことを話しているのではないのかもしれない……救急病院に俺は運び込まれていて、別の患者のことを話しているのだろうな。

 すぐに体を起き上がらせて周りを確認しようとするが、動かない……というより感覚がない。


 俺は今どうしているのだ?仰向けに寝ているのか?それにしては背中に圧迫感がない……かといって体の正面側にも側面側にも圧迫感などないし、そもそも俺は目を開けているのか?目を開けようとしているのだが、何も見えてはこない……ううむ……本当に死んでしまったのか?

 だから感覚がなくなって、どこの痛くはないのか?


「そもそも、俺たちが乗っている霊送車は、その世界の生物には見えないはずだろ?

 死ななきゃ見えないし、触ることも感じることもできやしないはずだ。」


「そうさ……霊送車が実体化するのは人が瞬きをする瞬間の千分の1秒だけ……目をつぶっている時間よりも短い瞬間しか実体化せず、更に常に移動している為、その姿を目視することは常人には不可能なはずだ。


 まれに勘の鋭い人間が、霊送車の存在を感じることはあっても、その実体を見ることはない。

 せいぜいタイミングよくシャッターを切ることにより、霊送車のヘッドライトに照らされた、移送するはずの魂をフィルムに捕える程度しかできないと教習場で習ったはずだ。


 それなのにどうしてこいつは回収するはずだった老婆の魂にも気づき、さらに霊送車に向かって来たのか……まるで霊送車の存在をはっきりと認識していたようじゃないか。」


「そうだな……回収するはずの老婆の魂が霊送車にひかれると勘違いしたのだろうな……魂になっても霊送車のヘッドライトに照らされると、生前の姿が投影されるから。


 今日はツイてねえな……寿命が十分あるのに突然自殺しやがって、肉体との決別が完全にできなくて一旦肉体ごと回収した魂に加えて、霊送車の正面に飛び込んでくる奴まで現れやがった


 だがまあそんなことはどうでもいい……奴の魂に体の自動修復力と転生能力を1回分だけ持たせてやれば、ほおっておいても自分の体に戻って、現世に再生するだろう……魂は肉体に惹かれるからな。

 再生の際に事故の時含め、魂になった時の記憶は全て消え去るはずだから、問題ないさ。」


「そうだな……ばあさんの魂も回収できたし、次の回収場所へ向かうか。」


「急げよ……走ったままで回収可能な魂だったはずが急停車して、余計な肉体までも一旦拾ったんだ、その分予定より大幅に遅れている……急がないと定時までに終わらずに残業になっちまうぞ。」


「残業?やだやだ……残って仕事をしたところで給金が上がるわけでもない……なんとしてでも定時までに終わらせないとな……飛ばすぞ!」

「おおよ!」


 頭の上の騒々しい会話が終わると同時に、目の前が明るくなってきた。

 同時に俺の目の前というか眼下に、2つの成人男性が仰向けで横たわっているのが見える。


 一方は全身ぶよぶよとだらしなく贅肉が付いた、小太りというよりも豚という表現が適当なデブ男……最近部屋の鏡など見たことがないのだが、恐らくこれは今の俺の姿だ。


 ぼさぼさの髪は肩まで延び、無精というよりも手入れもせずにのばし放題のひげは、たわし状にだらしなく口元やあご周りを覆いつくしている。


 所々破けているのは霊送車とやらとの衝突の衝撃で仕方がないのだろうが、破けていない部分にもあちこちシミがついていて、どう見ても事故の影響ではなく洗濯を不精していたための汚れが目立つうえ、襟元や裾がだらしなく伸び切ったスエットを着ている姿は、不快な臭いを放っているようにすら感じる。


 初めて入ったネットカフェの店員の目つきがいやらしいので2度と来るかと思っていたのだが、思い起こせば愛想のいいはずのコンビニの店員でさえも顔をしかめるので、新参者には冷たい町だとばかり思っていた。


 こんな姿を平気で世間にさらしていたというのか俺は……改めて家族が俺を家から追い出した理由が分かった気がしてきた。


 こんな俺が人目にさらされるのが家族として恥ずかしい……というよりも、食事など外出を余儀なくされ人目にさらされるようになれば、少しはましな身なりになるのではという期待があったのではないのか?

 そんなことは露知らず、引きこもり当時のままの格好で、ここ数ヶ月を俺はこの町で過ごしていたわけだ。

 不審者として警察に通報されなかっただけでも良かったと言えるだろう。


 死んで魂となった俺は、自分の死んだ体を俯瞰視しているということなのだろうな……。


 対するもう一方は、恰幅のいい中年男性……中年といっても俺も今年で33だし、恐らく年恰好は同程度であろう……しかしこちらは鍛え上げた……と言おうか、筋肉質のがっしりとした肉体をしているのが、服の上からでも容易に想像できる。


 服装はというと、上下ともに仕立ての高級そうな真っ白いスーツを着込んでいて、残念なことにその腹部分に真っ赤なシミ……うん?シミに見えるのは血か?腹切りでもしたのであろうか?

 まさか……江戸時代でもあるまいし……。


 日に焼けた褐色の肌をしているが、くぼんだ目やすらりと高い鼻筋は、日本人のものではない……どこか外国の人間だろうな。


 髪の毛や切りそろえられた口ひげは……紫色?大阪のおばちゃんか?

 白髪を目立たなくきれいに見せるためには、薄い紫色に染めるのがいいらしいのだが、何を勘違いしたのかおばちゃん連中は濃い紫色に染めるようになったのだと、真偽のほどは定かではないが、以前テレビかなんかの情報番組でやっていたような気がする。


 こいつも勘違いした口なのか?いや、よく見ると眉毛まで紫色だ……ううむ勘違いもここまで行くとファッションになるとでもいうのか?

 どもかくまあ……日本に来ていた外国人が事故か何かで死んでしまったのだろうな……。


 ちょっと信じがたいことではあるが、先ほど頭の上から聞こえてきた会話から察すると、俺は轢かれて即死だったが魂に修復能力を施してくれたから、このまま俺の体に戻れば生き返るというわけだ。

 そうしてまた……これまでと同様にネットゲームと引きこもりの生活……。


 ううむ……俺は少しためらったが、隣に横たわる中年男性の体に向けて、勢いよくダイブした。



 気が付くと、真っ暗な空間に俺はいた。

 うん?確か車に轢かれそうな老婆を助けて……それからどうなったのだ?


 両手、両足を動かそうとすると、『ゴンッ……ドンッ』すぐに硬い何かに当たる。

 体の感覚からいうと、何か布団のような柔らかいものの上であおむけの状態で寝かせられている様に感じる。


「うぉーん……〇〇〇ー……どうしてこんな早まったことを……私に相談していただければ、もっと良い解決法が……。」

「〇〇……どうして死んでしまったの?もっとたくさん遊んで……」


 そうしてすすり泣く声が響いている中、すぐそばで泣き叫んでいる女性たちの声が聞こえてくる。

 ううむ……これは一体どんな状況なのかな? 


 しかも目の前十数センチが壁という非常に狭い閉鎖空間……思い当たる節はある……俺は車に轢かれたはずだから、もしかしたら当たり所が悪くて死んでしまったのかもしれないが、なぜか蘇生してしまったのではないか?


 だとすると、ここは棺桶の中だ……すぐに俺が生きていることを皆に知らせなければ、このまま火葬場送りとなってしまいかねない。


 はっきりと全部は聞き取れないが、近くで聞こえる声は多分母親と姉だろうな……まあ、俺が死んだらとりあえず涙は流してくれるということか……ちょっとほっとした……。


『ドンッドンッ……』俺は両手に力を込め、目の前の板を全力で何度も何度も突き押しすると、


「ひっ……」

 すぐ近くで泣き叫んでいた声が止まる……そりゃそうだろう……死んだ奴を入れたはずの棺桶から音がし始めたんだ……気味悪がって棺桶から離れるだろうな……。


『ドンドンドンドンドンッ』『ドッゴン』その後も繰り返し天板をたたき続けると、暫くして鈍い音がして、ようやく目の前の大きな板がわきから滑り落ちて視界が広がる。


 予想通り棺桶の中に俺はいて、中から無理やりくぎ付けしたふたをこじ開けたようだ。

 どこかの教会なのか……・高い天井は吹き抜けで屋根の傾斜がそのまま見え、ステンドグラスの窓からやわらかな日差しが差し込んでいる……ううむ……家人の信仰宗教すら知らないでいたな……。


 体を起き上がらせて周囲を見回すと、そこにいるのは見慣れない人たちだった。


「あなたっ……あなたなの?」

 黄色い髪を胸元まで垂らした美女が目を見開いたまま後づさりする……真っ黒なドレスは喪服ということだろう。


「パパっ!生き返ったのね?よかったぁー……。」

 さらにこれまた長い髪が黄色い少女が駆け寄ってきて、俺の起き上がった上半身に抱き着いてきた。


 あなた……?パパ……?33年の人生で、妻子どころか彼女すらいたことがない俺に対して、一体何の冗談だ?しかも近くで見ると肌の色が異様に白い……ほめて言うなら透き通るようなと言った表現だろうが、引きこもりの俺同様、外に出ることなく日に当たらずに不健康な白さともいえる。


 さらに髪の毛が赤に青……信号か?と思ってみていたら、紫に緑の奴までいやがる。

 ううむ……服装自体は男は黒スーツに女性は黒ドレスと、通常の葬式風景と変わらないと思うのだが、人物設定があまりにやばすぎる。外人ばかりを連れ込んだとしても、ここまではいけない。


 これはあれか?フラッシュモブとかいう、ドッキリ系のお祝いだろうか?いやそんなはずはない、俺にはそんなしゃれたことを仕込んでくれるような親しい友人はいないし、何よりここはどう見ても葬儀の席だ・・いくら何でもそんな罰当たりなことはやらないだろう。


 少しきな臭いなと思ってよく見ると、高い天井から吊り下げられたシャンデリアには太い蝋燭が何本もたてられて、柔らかい明りを醸し出している。さらに、壁には間隔を置いて……松明か?すごい凝っているな……。

 悪ふざけもここまでやるとなると、かなり金がかかっているぞ。


「ここは?どこだ?」

 しがみついてくる少女の肩を両手でつかんでやさしく離すと、周囲を見回しながら周りに聞こえるよう声を張り上げて尋ねる……こんな場所アパートの近所にあったのか?


「どこって……ノンヴェー大聖堂よ……パパがその……死んじゃったと思って……そのお葬式……。

 でも、生き返ったのね?本当によかったわ……。」

 少女は笑顔で答えると、再度俺の体にしがみついてきた。


 少女とはいっても恐らく中学生くらいだろう……胸もある程度膨らんできているようで、その柔らかな体の感触に興奮してくる……何より目がくりくりと大きい、アニメから飛び出たような美少女なのだ。


 突然棺桶から生還した俺に対し参列者達はざわめきだし、恐る恐る様子を見ようと遠巻きにしながら近寄って来ている様だ。


「おお……俺に娘はいない……君は誰だ?」


 このままでは公衆の面前で何が何してしまうので、残念な気持ちはあるのだが、抱き着いてきている美少女の体を引きはがし、周囲を見回しながら再度尋ねる。

 目を合わせて聞いたほうが良いのだろうが、俺にはそんな勇気はない。


「パパ……またそのことを……ウェーンウェーン……血はつながっていなくても、エーミはパパの子だと思っているって言ってくれてたのに……どうしてまたそんなことを言い出すの?


 パパがお仕事で失敗したから?失敗の責任を取らされるから、家族に迷惑かけないように死んだってママから聞いたけど、エーミは迷惑をかけられてもいいから、パパに生きていてほしかったって思ってたんだよ!」


 エーミと名乗る美少女は大粒の涙をこぼしながら、引きはがされないためにか、今度は俺の背中側へ回り込んで抱き着いてきた。

 ううむ……いいにおいがするし……心地よいのだが……さてどうしたものか……。


 ふと見ると、死に装束の真っ白いスーツを着ている俺の体は、引きこもってぶよぶよと脂肪を蓄えていたとは思えないように腹回りなども引き締まっている……葬儀屋の死に化粧でこんな芸当はできるはずもない。


 日光にさらされることがほとんどなく青白いはずだった俺の手の甲は、健康的に褐色に日焼けしている……何より身長が高い……すらりと伸びた長い脚……どう考えても俺が知っている俺の体ではない。


「俺は……俺は……誰だ……?」

 つい口から漏れ出る……。


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