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刑務所建築計画

「ワタル……もう振り返っても大丈夫ですよ……サートラは繭のようなものの中に入りました。」


 トオルが声をかけてくれたので振り返ると、サートラはドラム缶を縦に切って横にしたような、かまぼこ状の金属の細長い板に挟まれて寝ているような格好だ。サイドから切れ目を入れたコッペパンに具のサートラが挟まれているといったほうがいいのか、いわゆるホットドッグ状態だ。


 挟んだ隙間から青白い光が漏れ出ているところを見ると、あれは……元の世界の男性誌の背表紙とかによく載っていた、日焼けサロンの日焼けマシーンではないのか?どうやら素っ裸のサートラは、サングラスをして装置内に寝ころび、上下から全身に人工太陽の光を浴びているようだ。



 休憩をはさみながら2時間ほど光を浴びていたサートラだったが、その後シャワーを浴びて(もちろん俺はその間背を向けていたが)、カーナ達とナーミが拘束具をサートラに装着してから車いすに乗せ換え檻から出てきて、そのまま営倉へ運び入れる。


「久しぶりに運動して、さらに太陽の光を浴びて……気持ちよかったわー……本当は肌を焼くのは好きじゃないけど、限られた時間しかあの装置は使わせてくれないのだから、仕方がないわね……。


 裁判になって長い刑に服すことになると、こんな生活が続くことになるのよね……ただじっと拘束されていて、週に何回か独房から出ることを許される……。


 今でこそ、あなたたちは私が逃げたりしないか見張りに来てくれるけど、刑務所に入れられたなら、私のことなんかもう忘れてしまうのでしょ?本業の冒険者に戻るのよね……。私は一人で、ずっと独房の壁のシミを眺めながら暮らすのよ……。」


 営倉へ戻り、夕食時のため上半身だけ拘束を解かれ、小さく区分けされたプラスチックトレイに盛られた夕食を、プラスチックスプーンですくって口へ運びながら、サートラがしみじみ呟く。


「ふん……何を今さら……たった一人で長い年月を暮すのは嫌だから、たまには面会に来てほしいとでもいうのか?そりゃあ確かに俺とトオルは、お前と顔見知りではあるがな……。

 一人でいるのがさみしいんだったら、どうしてエーミを人買いに売った?


 たまたまナーミが自分のこれまでの境遇から、人買いから子供たちを救い出したいって皆に願ったから……俺たちもその思いを汲んで危険を承知で立ち上がったから……だからエーミを救い出すことができたが、そうでなければ俺は、2度とエーミに会うことはできなかっただろう。


 もしかしたらエーミは今頃、どこかの金持ちのひひ爺にひどい目にあわされていたに違いないんだ……そんなひどいことをしているんだぞ……だから俺は、この姿のお前にエーミを……ショウを、会わせるわけにはいかないと思って、取り調べには参加させないことにした。


 たとえそれが、お前の別人格であるサーラがしでかしたことだとしてもだ……俺は絶対にお前を……というか、お前たちを許すつもりはない。お前たちを生かし続けるために、貴重な生命石を使うなんて、もってのほかだと思っている……みんながどう思おうとな!


 幸いにも何でも進んで自白してくれたから、お前たちの悪事の全貌は見えてきた。後は、カンヌールとカンアツの買収されていた役人たちや軍人たちを確定して処罰するだけだ。


 それが終わるまでお前たちの裁判を行うことは難しいのだが、別に生命石を与えてまで生かしておく必要性があるのか……?と俺は問いたい!」


 だれが何と言おうと、俺はサートラを許すつもりは全くないことを宣言しておく。そうして、これ以上生かしておく必要性なんてないことを。


「あら……ひどいわね……おとなしく罪を認めて、裁判して判決を受けた刑に服して……その間は生かしておいてくれるんじゃなかったの?」


「だれも、そんな約束をした覚えはないぞ!」


 あの時は……生かし続けなければならないような雰囲気になりつつあったが、よく考えてみれば、特段生かし続けておく必要性などないのだ。普通の囚人だって病死したりするのだからな……その時に最新鋭の医療でどうやってでも生かし続けるかといえば……まあ病気になれば、医者に見せることは見せるだろうが……。


「あたしは……パパの件の恨みは消えたけど、でも……それ以外のひどいこと……トーマのパパとかおじいさんにしたことや、ジュート王子のママにしたことは……やっぱり許せないわ。


 でも……ずっと牢屋に拘束されていて、自分では生命石を採りに行くことすらできないんじゃ……やっぱりその間くらいはあてがってあげなければならないんじゃないかと思っているわ。」

 ところがナーミは、サートラに同情的な意見を述べる。


「待て待て……そんなことを言ったら、重犯罪人は全て貴重な生命石を与えて若返らせて、永い永い懲役期間を生きながらえさせて、捕まった時よりも若返った体で釈放させなければならなくなってしまうぞ!


 確かにサートラの場合は両大陸の発展に寄与した功績は大きいとは感じる……別人格のナガセカオルのおかげではあるのだがな……。」


「あら失礼ね……私だってナガセカオルと入れ替わった時は、そのバトンをつないでうまく立ち回っていたわよ……すべては国民のためですものね……。

 これまでの千年間の……半分以上は私が目覚めていたのよ……わたしだって十分な功績を上げているわ。」


 俺の否定的発言に、サートラが反応する。そうだったのか……ナガセの人格でいた時間がほとんどで、サートラやサーラの人格が出てきたから、性格がゆがんだのかと思っていたのだがな……。だが、ナガセもサートラの人格でいた期間が、結構永そうなことも言っていたからな。


「この大陸の発展に対する功績は功績として評価されるべきと考えます。ですが、だからと言って、犯した罪を帳消しにすることは許されません。その罰を償う期間に関してですが……本当に貴重な生命石を使用する必要性があるのかどうか……難しい問題ですね……。


 私が考えるに、カンヌールに死刑制度があるのであれば、あなたは恐らく死刑に処せられるでしょう。当然、サーキュ元王妃も、同じく処刑されることと考えます。


 いかに現カンヌール王さまが寛大でやさしい方であるとしても、法律で定められた量刑を無視して、身内の犯罪を軽減するということは考えられませんから、ほぼ必至の状況です。


 そうなれば……生命石も何も必要ありません……処刑までの時間を生きながらえさせるために生命石を使うなどということは行われるはずもないことで、食事は与えられるでしょうし、本日のような軽度の運動や日光浴などは配慮されるでしょうが、それ以上のことは行わないでしょう。


 ところが現状のカンヌールには死刑制度はないわけでして……死刑に相当する極刑が……長期間の禁固刑……終身刑に当たると考えます。しかし……終身刑……という刑罰には疑問が生じてきます。


 生命石を使って生かし続けるのであれば……それはまた千年以上にもわたる永遠の命ということになりますから、終身なるものは存在いたしません。それをどのように考慮するのか……刑を執行する側の采配にかかっていると考えております。」


 トオルが、実に論理的にサートラを生かし続けるかどうかの命題を、結論づける。オブラートに包んだやさしい言い方をしてはいるが、俺に言わせれば刑が確定さえすれば、サートラは生命石を与えられることはなくなるだろう。いかにカンヌール王さまがやさしく、温情があるとしてもだ……。


「まあまあ……まだ裁判も始まっていないのよ……少なくとも、裁判を行って判決が下されるまでは、生命石を使ってでもサートラは生かし続けるはずよね?だって……刑が確定していないんだし、裁判で無実になる可能性だってあり得るわけでしょ?」


 カーナは、そう言いながら真っ赤な髪の毛を右手でかき上げ、トオルの右肩に左手を乗せながら、何とかなだめようとする。ナガセを永遠に失うことに、恐れを抱いているのだろうな……。


「まあ裁判で刑が確定するまでは、確かにこいつだって犯罪者とは言えない……取り調べをして証拠を固めて自白を募り、そうして刑を確定していくわけだ。だが……こいつはかなりの罪をすでに認めているからな……すでに推定無罪とは言えない状況ではある。」


「すい……なんなの?無……罪……???うーん……子供のころ、あんまり学校へ通っていなかったから……」


 俺の言葉尻にナーミが反応して首をかしげる……しまった……この世界に裁判で立証できない限りは推定無罪なんという風潮があるはずもなかった……なにせ異論があれば決闘を申し込めばいいのだ……決闘で勝った方が正義なのだ。


「あっ……いや……なあ……この間、セーレが言っていただろ?俺も意味は分からんが言葉がかっこいいのでちょっとまねして言ってみただけだ。」


 焦ってごまかす……冷や汗が背中を流れる音がしている気になる。サートラは、俺と目を合わせるとにんまりと笑みを浮かべ、そのままうつむいた……まずいな……何か感づいたのか?


「確かに……裁判が始まって判決が下されるまでは、何が起こるかわかりませんからね。勝手な想像だけで余計なことを言わないほうがよろしいですよね。失礼しました。本日は、これで終了でしょうか?」

 トオルがカーナの方に振り返って頭を下げる。


「そうね……食事は済んだようだから、歯を磨いていただいてトイレを済ませてから、拘束具をつけて営倉に鍵をかけて本日はおしまいね……あたしたちは、これから退屈な監視業務に入るというわけよ……。」


 カーナがサートラの手からプラスチックトレイとスプーンを受け取り、ターナが歯ブラシと水の入ったコップを手渡し、そのまま営倉奥のトイレの隣の洗面台へ車いすごと運んでいった。


 歯磨きを終えトイレも済ませ拘束具を再装着し、俺がサートラの体を抱きかかえてベッドへ寝かせる。

『ガチャンッ』そうして営倉のドアを閉めると、本日終了だ。


 長い長い階段を上って甲板へたどり着くと、ミニドラゴンと一緒に広い甲板で遊んでいたショウを呼び寄せ、帰宅の途に就く。途中王宮へ立ち寄って本日の業務報告を済ませると、ホーリ王子が大きな紙の束を持ってきた。


「これがサーケヒヤー軍基地跡地に建築する、刑務所の図面です。広大な跡地の町側にはテーマパークのような遊戯施設を建設予定で、そのすぐ奥に警察署と消防署と裁判所を建築。マース川沿いに刑務所を予定しております。恐らく収監第1号はサートラとなるはずです。


 周囲の壁は十mの高さで、上部には鉄条網を張り巡らせます。と言っても、外では瞬間移動できるサートラにはどんなに高い壁も無駄ですからね……一般の囚人用に検討いたしました。


 所内の通路には20mごとにシャッター式の隔壁を設置して、異常時にはすべての隔壁が閉じて不審者を動けないようにさせます。もちろん、所内全てのドアは認証……と申しておりましたか……南の大陸の技術をお借りする予定です。何でも……手のひらの形……や、両目は個人個人異なるようでしてな……。


 いちいち鍵など持ち歩かなくても、手をかざすだけでその本人にしかドアを開けられないようにできるということでした。本日から盗聴器や隠しマイクの講習を実施していただいておるのですが、一緒に刑務所建築の技術者を送りまして、担当の方と相談させ夕刻に戻ってまいりました。


 これにより、南の大陸の軍艦と勝るに劣らない最新鋭のセキュリティ……システム……でしたかな?……が構築できます。」


 ホーリ王子は、テーブルの上に広げられたA0番の図面を指し示しながら、一つ一つ説明してくれた。刑務所の設計者と詳細に詰めていたのだろう……かなり詳しい……力が入っているな……。


「これで……判決が下り次第……いえ……刑務所が完成すれば、裁判中にでもサートラの身柄を収容できますね。南の大陸にも迷惑をかけないで済みます……ありがとうございます。」


 すぐに深く深く頭を下げる。後先考えすに、ただひたすらサートラを捕まえようと考えていたからな……本当に南の大陸には、大きな借りを作ってしまった。


 それにしてもついこの間、軍基地の跡地の有効利用に関して話が出たところだというのに、意外と進行が速いのには驚いた。


 まあ、刑務所だけではなく警察署や消防署に裁判所まで作るということだから、新生サーケヒヤー国の法整備に力を注ぐつもりなのだろう。近代国家なのだから、決闘などといった風習はやめにしたほうがいいと、俺は常々感じていた。


 ついでに作るというテーマパークに関しては、誰の発案か知らないがな……。


「基礎から作りますし、地下2階地上十階建ての建物ですから、1年ほどかかりそうということですが……サートラの裁判もその程度は長引きそうですから、ちょうどいいといえるかもしれません。


 いちいち南の大陸の軍艦へ通っているワタル殿たちには申し訳ないのですが……今しばらく猶予を与えてください……。」

 今度はホーリ王子が頭を下げる。いやいや……そんな……焦ってホーリ王子に頭を上げていただく。


 夕刻になり兵士たちの訓練にも参加してから浮島へ帰宅。シャワーを浴びてから夕食となった。


 本日の晩御飯のおかずはツッコンドルの腹の中にハーブを詰め込み、オーブンで焼き上げたいわば香草焼き……ヒーター加熱のオーブンは、タイマーで予約運転が可能なので、トオルが帰宅時間に合わせてタイマーをかけていた様子だ。


 ほのかでいい香りがする柔らかい胸肉は、かみしめると肉汁が染み出てきて、塩胡椒だけの簡単な味付けなのに、ハーブの香りもマッチして深いコクと味わいを醸し出す。付け合わせの温野菜も実に味わい深く、ワインによく合った。


 このところダンジョンへの挑戦が再開され食材が豊富なので、段々と手の込んだ料理が出されるようになってきたようだ。トオルは手際がいいので、ダンジョンの中でも短時間で調理しておいしい食事を提供してくれるが、やはり手間をかけて作った料理は味わい深い……本当においしいと感じる。


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