表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
195/216

ギルドにて

「じゃあ、本日は久々にダンジョンへ挑戦だ……およそ2ヶ月ぶりくらいだが……体がなまっていないか心配だ……毎日兵士たちと訓練はこなしていたが、やはり実戦は訓練とは違うから、慣れて体が動くまでは無理をしないようにね……。」


 翌朝は朝からギルドへ向かい、クエスト申請をしてそのままマース湖ほとりの水系ダンジョンへやってきたのだ。昨夕王宮へ寄った時に、ジュート王子とホーリ王子には許可を頂いておいたので、憂いなく堂々とダンジョン攻略できる。


 久々だし食材確保の面からも、ウナギ系魔物や海老蟹系魔物が期待できる水系ダンジョンが適当と考え、こちらを選択した。今週と来週に1回ずつダンジョン挑戦したら、後はセーレとセーキが戻ってくるまでの5ヶ月間は自粛しなければならないので、本当に貴重な時間だ・・・。


今朝ほど……

『ギィッ……バタン』浮島からミニドラゴンではなくモーターボートを使い、マースの港へ行き係留場に料金を渡して停めてから、街中のひときわ目立つ……と言っても10階建て以上のビルが多いマースの街では、ギルドの建物も小さいほうだ……それでも木造としては大きな建物の重厚な扉を開けて中へ入っていく……


「いらっしゃいませ……ギルドはあなた様の……ああ……お久しぶりでございます……ワタル様、トオル様、ナーミ様、ショウ様……。」


 ギルドへ入った途端、美人受付嬢が俺たちの姿を認め、満面の笑みを浮かべる。確かに久しぶりではある……なにせ戦争回避の交渉したり実際にサーケヒヤーと決戦になったりサートラを捜索に行ったり取り調べたり、色々とあったからな……。


 それにしても公共のギルドの受付嬢が、一介の冒険者が久しぶりにやってきたからと言って、待ちわびていたかのような笑顔を見せなくてもいいだろうに……いや……そうか……たった百人程度で十万人を擁するサーケヒヤー国を打倒したことが評判になっているのかもしれないな……凄まじい豪傑と見えるのだろう……。


「あっああ……いやあ……色々と忙しかったものでね……。」

 その……色々と……お話聞かせてください……なんて言われたら、どうしようか……


「あっ……あの……もし……もし、お見えになったらこれをお渡ししようと……思っておりまして……。」

 美人受付嬢は、少しはにかみながら机の引き出しを開けると、A4用紙の紙束を取り出した。なんだなんだ……ラブレターか?その厚さから考えると、ずいぶんと想いが深い……どんだけ真剣に思ってくれているのだ?


「全国の……いえ……この大陸中のギルドの受付嬢含めた、皆の総意です……。」

 そう言いながら分厚い紙束を俺に手渡そうとする……。


「いっい……いやあ……まいったなあ……。」


 少しも困ってはいないのだが……トオルたちの手前、弱ったふりをしながら紙束を受け取るのを一旦は拒む……この大陸中のギルドの美人受付嬢からのラブレターだって……?いやあ……参ったなぁ……俺はトオル……というかダーシュのことが……と思いながらちらりと横へ目をやる。


「何ですか?これは……。」


 トオルが不思議そうに、俺に代わってその分厚い紙の束を受け取る……ああそうか……受付嬢たちはトオルが実は女性だって知らないからな……だとすると……半分はトオル宛だろうな……いや……ショウ……ああいや……ショウは大丈夫だ……本名エーミで登録されているからな……。


 半々かな……?いや……若いしかっこいいからトオル宛のほうが多いかな?4分6でトオルが多いのだろうな……。


「あっ……あのう……嘆願書です……。」

 ほらみろ……俺達への……たんがんしょ……って?


「皆様方がサートラという悪人を捕らえたことによって、その人がナガセカオル様と同一人物で別人格ということが判明しましたよね。その片割れのナガセカオル様はギルドの創始者と伝えられている伝説の冒険者で、あたしたちにとっては神のような存在なのです。


 サートラという人はひどい極悪人だそうで、何人もの人を殺めたりしているということですが……まさかナガセカオル様も一緒に罰したりはしませんよね?


 ナガセカオル様は絶対に犯罪行為に手を染めるような方ではありません……この世界中に散らばっているダンジョンというものを解析し、そこから取得できる精霊球や特殊効果石により、人々の暮らしを豊かにしてきました。それにより冒険者という職業を作り出し、ギルドを創設されました。


 今この大陸が豊かで暮らしやすいのも、ナガセカオル様がギルドという組織を作り、安全に冒険者がダンジョン攻略可能なルール作りをされたからに相違ありません。


 精霊球の恩恵は、はるかに文明が進んだ南の大陸にまで及び、最新鋭の機器の輸入にもつながっております。

 そんな、この大陸の発展に多大なる貢献をされたナガセカオル様を、敬い奉るならともかく、監禁して取り調べるなどもってのほかです。直ちに釈放してくださるよう、皆で嘆願書に署名いたしました。


 どうか寛大なる処置を、お願いいたします。」


 そういって美人受付嬢は、自分のデスクに頭をこすりつけるくらいに低く、頭を下げた。ありゃりゃ……俺たちの活躍にあこがれたのかと思っていたのだが違ったようだ……そうか……サートラを捕らえたことはニュースになっているのだな……そうしてその別人格がナガセカオルであることも……。


 渡された紙には、ナガセカオルを絶対に信じるという言葉と、サートラと一緒に刑に処すことは避けてほしいという嘆願が記され、そのあとに用紙ぎっしりに詰めて多くの署名が集められていた。


 そんな用紙が分厚い紙束になっているのだ……一体……何人……いや何千、何万かな?こんなに多くの人たちが、ナガセカオルの延命を望んでいるということか……参ったな……。


「確かにナガセカオルとサートラは、同じ人間だが別人格のようだ。さらに、サーラという第3の人格が存在するようで、どうやらサーラという人格が凶悪な性格をしている犯罪者らしい。


 だが……どうやって刑罰を分ける?例えば、サーラを死刑にしてしまえば、ナガセカオルもサートラも一緒に死んでしまうぞ。ナガセカオルを生かしたまま、サーラだけを死刑にすることなど到底できやしない。

 これに関してはナガセカオルもサートラも理解していて、潔くサーラの罰を一緒に受けると言っている。」


 同じ体に存在する人格なのだから、分けることなどできやしない事を説明しておく。別人格が一緒に居るから、無罪放免というわけにはいかないのだ。


「ええっ……しっ……死刑に……ナガセカオル様は死刑に処せられるのでしょうか?絶対にいけません! 

 ナガセカオル様を死刑にすることなどありえません!」


『ガチャッ』「そうですよ!あたしたちは絶対に反対いたします。」


 美人受付嬢が大声を張り上げたので、それが聞こえたのか、カウンター奥のドアが開いて、交代勤務要因なのかこれまた美人が出てきて、一緒に俺に抗議をし始めた……ううむ……美人だけに迫力……。


「ああ……カンアツならともかく、カンヌールでは死刑制度はない。そうして裁判が行われるのはカンヌールだ。だから極刑の裁定が下されたとしても、ナガセカオルが死刑に処せられることはない。」


「きゃーっ……そっ……そうなのですね?死刑には決してならないと……ああよかった……。」

「よかったわー……」

 美人受付嬢は、もう一人の美女と笑顔で抱き合い、喜びをかみしめる。


「それでも永い懲役刑は免れないだろう……だが……サートラが言っていたが、その間は生命石を与えて生かし続けなければならないし、10年や20年間の長期懲役や禁固刑は、一般人であれば重い刑罰となるが、永遠の命ともいえる千年の時を生きてきたサートラたちにとって、それが罰といえるのか俺は疑問だ。」


 死刑はなくても永い懲役刑か禁固刑に服す事にはなると説明しておく。だが……それが罰になるのか……はなはだ疑問ではある……。


「ああそうですか……よかったです……これで安心できました……。それで……本日は……どういったご用件でしょうか?久しぶりのダンジョン挑戦でしょうか?」

 ほっと胸をなでおろした美人受付嬢は、ようやく本来の業務に戻った。


「ああそうだ……水系のA級ダンジョンに挑戦しようと考えている。この嘆願書は、ダンジョンを攻略した後で王宮へ持って帰るから、清算の時に渡してくれるかい?魔物たちと格闘して汚しでもしたら大変だ。」


 

「かしこまりました……。」

 冒険者の袋に納められるはずもなく、一旦嘆願書は美人受付嬢にお返しして、ホール奥のクエスト掲示板へ向かった。



『シュシュシュシュッグザグザグザグザッ』『ズザッズザッズザッ』トオルのクナイとナーミの矢がさく裂し、俺は銅剣を逆手に持ち替え、硬い地盤に注意しながら細長いニョロニョロの頭を狙う。


「雷撃!雷撃!雷撃!」

『バリッ……ドーンッ、バリッ……ドーンッ、バリッ……ドーンッ』ショウは雷撃の威力を弱め、さらに影響範囲を絞りに絞って、一匹ずつ確実に仕留めていく。


 水系のA級クエストを申請後、道具屋で回復水を補充し、モーターボートでマース湖湖畔の小さな桟橋へ横づけして、ダンジョンへ入ってきたのだ。きた早々に多くの魔物たちに歓迎され、大変うれしく感じる。


 久しぶりのダンジョン挑戦だ……獲物は一匹たりとも逃がしたくはないが、かといって手当たり次第に攻撃をして、せっかくの獲物が粉々になっては台無しだ。

 皆、極力攻撃の威力を弱め、それでも確実に素早く魔物を仕留めていく。


 最後のダンジョン挑戦から2ヶ月近く経過しているが、勘は鈍っていないようだ。ウナギ系魔物やザリガーニで冒険者の袋のアイテム収納部分は、すぐに満杯になってしまいそうなので、持ってきたクーラーボックスにも早々に詰め込みだす。


 ダンジョンの構造図は持ってきているのだが、折角なので最短ルートを外れて大回りして、少しでも長くダンジョンを楽しむつもりでいる。時折り天井から降ってくるヒル系魔物でさえも、なんだか懐かしくて、うれしくなってくるのは、俺だけだろうか?


 マースのダンジョンは、食材になりそうな獲物が少ないのだが、ナーミとショウが持ち込んだクーラーボックスは、すでに満杯状態だ。ナーミたちは普段はクーラーボックスを持ち込まないのだが、今回は食材確保のために、持っていくと言い出し、重くて負担になると止めたのだが、聞かないためしぶしぶ認めた。


 後は、俺とトオルが持ち込んだクーラーボックスに詰めるか、冒険者の袋が満杯になるまで詰め込むかだが、トオルのは野菜とかの食材が入っているし、俺のは予備の回復水と解毒薬が入っているので、どちらも消費してからでないと空かない。


 予備の回復水はあくまでも予備だから、むやみやたらと使うわけにはいかない……本当のピンチの時になくなっていては困るからな……いくら管理されているとはいえ、やはりダンジョンでは予期せぬ危険が起こりうるのだ……油断は禁物……。


 遠回りして1層目の水飲み場で昼食を済ませ、1層目の終わりの小ドームで野営することにする。昼食時、水飲み場の洞窟キノコや洞窟野菜など豊富に収穫できたため、持ち込んだキャベツや芋などの消費は、晩飯になってようやくだ。


 洞窟キノコや野菜を全て採取してもよかったのだが、手持ちの食材が多すぎるのと、俺たちが攻略した後に開放されるC級クエスト挑戦者のために、残しておいてやることにした。


 本日の晩飯は、久々のウナギ系魔物のかば焼きと、ザリガーニの素揚げに芋と野菜たっぷりの味噌汁とごはんだった。やはり取れたての新鮮な食材はうまいのと、このところハムやウインナー・ベーコンなどの加工食材が続いたため、こういった料理は感激ものだ。いや……加工食材が悪いと言っているわけでは決してない。


 あれはあれでうまいしショウはいつも大喜びなのだが、同じ系統ばかりだと別の味が欲しくなってくるのだ。

 トオルはいずれ、浮島の庭にピザ窯を作ると言っているのだが、それはそれでうれしいし楽しみだ。


「じゃあ、2人ずつ交代で見張り番をすることにしよう。今日は……俺とショウの番だったな……じゃあ、先に見張り番をするから、トオルとナーミは寝てくれ。」


 日々の訓練を終え、さらにダンスの練習もこなしてからテントを張り、交代で見張り番をして就寝することにする。


「ママは……どうなるの?」


 トオルたちが寝た後、いきなりショウが質問をしてきた。ギルドの受付嬢たちが嘆願書を渡してきたことで、サートラの処罰が気になってきたのだろう。実子のショウを刺激しないように、サートラの取り調べには参加させないようにしていたのだが、思わぬところに落とし穴があったようだ。


「どうなるのだろうなあ……裁定を下すのはカンヌール王様だが、王様のことだから、厳正に法律に基づいて公正な判断を下されるだろう。カンヌール王宮だって、サーキュ元王妃がらみではあるのだが、ジュート王子様の母君の件で被害者であるのだが、個人的感情は無視して判決を下されると信じている。


 どちらにしてもギルドでも言った通り、カンヌールの法律では死刑制度はないから、サートラは死刑になることはない。その判決に不服であるならば、刑期を終えたサートラに対して決闘を申し込み、個人的に処刑するしかないのだが、ジュート王子様はもちろんカンヌール王さまも、そんなことは望まないだろう。


 助太刀は選び放題だから、如何にサートラが腕がたつにしても必ず仕留められるだろうが、そんなことをすることはあり得ない。


 だが……刑務所に服役している間は、自由は奪われることになる……彼女の場合は瞬間移動の可能性があるから、幾ら移動石の効力は切れていると本人が言っても、外で運動をさせるようなことはないだろう。


 つまり何十年間かは、日の光も見られないまま収容されるというわけだ。それが……罰といえるのだろうな……なにせ貴重な生命石を使わねばならないのだ……今でこそ1年に1石程度だが、今後増えていくだろうし、千人からの命を救えるという生命石を、ショウには悪いがあんな犯罪者に使用してもいいのかどうか、俺は疑問を感じている。」


 今のところ、考えられるだけのことを説明しておいてやる。あまり刺激をしたくはないのだが、嘘言うわけにもいかないだろう……何せ実の母親なのだ……。


「うん?いいよ……だって悪いことをした犯罪者なんだからね……ふうん……。」

 ショウはそのまま喜ぶでもなく悲しむでもなく、黙り込んだ……。


いつも応援ありがとうございます。この作品への評価及びブックマーク設定は、連載を続けていくうえで励みとなります。お手数ですが、よろしかったらお願いいたします。また、感想も受け付けております。重ねてよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ