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スパイアイテム

「ああっ……よっ……よかったですね……アックランス2世の件に関しての証言が取れて……存在しなかったはずのスーチル・シーフ両名がサートラン商社に匿われていたことが判明し、再調査の弾みがついたのですが、サーラによって自殺に追い込まれ、捜査が難航していたのです。


 彼らの住まいもきれいに片付けられていたものですから……でもサートラの証言で、やはり国務大臣による秘密裏の不正調査は行われていたことが明らかになりました。


 これにより国務大臣が自分自身の不正を告発したのではなく、不正な取引に加担しているものたちを告発したのだということになります。


 不正の全容は、その調査対象者であった収賄側の要人を追求していく必要性がありますが、まずはアックランス2世の嫌疑は晴れたと言ってもいいと思います。


 すぐに王様に電信を打って、アックランス2世の伯爵位の復帰と、懲戒処分撤回をお願いいたします。遅きに尽きるとは思いますが……御父上の名誉は回復できるものと考えます……。」


 カンヌールの証言レポートをじっと読んでいたジュート王子が、突然歓声を上げる。そっ……そうなのか?トーマの父親の汚名が晴れるというのか?


「よかったじゃない……王様へは直に再調査をお願いしてあるし、すぐに汚名返上できるわね……。」


「本当によかったです……先代様の嫌疑が晴れることになり……父も大喜びでしょう。なにより……ワタルが一番うれしいですよね……?」

 ナーミとトオルが笑顔で喜んでくれる……特にトオルは……俺の事情を知っているだけに反応が微妙だが、一緒に喜んでくれているようだ。


「パパ……よかったね……パパのお父さんの疑いが晴れて……やっぱり……本当のママはやさしくて、悪いことしても必ず自分で認めるんだね……すごいよ……。」


 最近は取り調べに同席させていないショウも一緒に喜んでくれる……ショウだって証言のメモ書きを読んで一緒にレポートをまとめ上げたから、内容は知っているのだ。


「ありがとうございます……本当にありがとうございます……。」


 目から熱いものが、とめどなく流れ落ちるが……無理に止めようという気にもならない……この感情は、この体の持ち主のトーマのものなのか、はたまた体を借りている俺が、トーマになり替わって喜んでいるのかは分からない。だが……心の底からうれしいのは本当だ……。


 浮島へ戻ってから、皆で盛大に祝杯を挙げた……と言っても酒を飲むのは、俺一人だけなのだが……。

 この勢いで、トーマの祖父の件も明らかにしてしまいたいと考えるが、こちらはサーキュ元王妃がらみだから……もう少し時間がかかるだろうな……。



「サートラの証言内容は、全てカンヌール・カンアツ本国へ報告していただいたよ。反逆者ともいえる、不正を働いたものたちをおびき出して確定し、取り調べを行っていく方針だ。


 収賄側の役人連中の取り調べが終わって初めて、サーラの悪行全てが公になり確定する。だが、容疑者が多すぎて、数年の歳月がかかりそうなんだ……君たちも聞いていた通り、カンアツでは軍部や役所の半数近くの要人たちが買収されていたようだからね……。


 疑わしいからと言ってそれだけで罪に問うことはできないから、当たり前だが自供もとらなければならないし、証拠集めもしなければならない。サートラが提案した、サートラン商社からの呼び出し偽装は、あくまでも奴らを特定するための手段でしかないからね。


 そのあとの取り調べが大変だ……うまく自供を促したり証拠集めができるような、近代兵器はないものかな?隠しカメラなんていいのだろうが……カンヌール王宮のものは大きすぎて目立つから、実際は隠されてはいないからね……。


 皆がそう言った存在を知らないうちは有効だったろうが、サーラが容疑者を殺害した件で隠しカメラの映像ビデオが証拠となり、恐らく今では王宮内でも隠しカメラの存在が噂されていることだろう。これから新しく各部署に設置するなんて言うことは、不可能だ。」


 翌朝空母へ到着して、セーレ達に昨夜の状況を説明する。かなり飲んだが、うれしい酒だったのでほとんど体へのダメージはない。


 だが……証拠集めなど容疑者の取り調べだけでも1年半……さらに裁判して刑を確定するとなると……何年かかるかわからないとまで言われた……恐らく数年から十年近い歳月が予想されるだろう。


 それらを少しでも効率よく裁いていくために、何か使えるものはないものか、セーレ達に相談してみる。サーラの件では隠しカメラは証拠として非常に有効だった……一旦は敵視されたカンアツ王たちをも、そのビデオ画像で説得できたのだからな……そういった事実を引き出せるアイテムだな……。


「そうですね……やはり隠しカメラや盗聴器……と言ったところでしょうかね……屋外ならドローンを飛ばして、遠方から秘かに撮影することもできますよ。シュッポン大陸へ出荷しているOA機器は2世代ほど前のものでして……記録はテープで行われているのです。


 最新鋭のものはごくごく小さなメモリーチップに蓄えたり、電波を発信して親機に記録するタイプになっております。そのため縮小化されておりまして、指先ほどのサイズのマイクやカメラ……なので、人知れずセットできるはずと申しております。


 そのほかにも……百m先の会話を傍受できる、高性能の集音マイクというものもあります。


 神がどうして地に落ちたのか、連合国側でも興味を示しておりまして、十分な取り調べをするためであるならば、協力は惜しまないと申しております。


 これは……私たちに支給されている、イヤホンマイクというもので、これだけで本部と通信が可能です。」

 そういいながらセーレは、右耳から小さな耳栓のようなイヤホンを取り出し、手のひらに乗せ見せてくれる。


「へえ……つけていることも知らなかったけど……真っ赤でキラキラしていてアクセサリーみたいね……。」


 ナーミがサーレが指し示すイヤホンマイクをしげしげと眺める……そうだろうな……その存在を知らない限り、どれだけ怪しげな仕草をしていたとしても、彼女の耳にこういったアイテムが仕込まれていることには気づかないのだろう……そういったアイテムを駆使して、裏を取る……というか証拠固めをするのだ。


「耳の穴に装着してしまえば、普段は見えないのですが、万一飛び出してきた場合に備えて、装飾品のような外観にしてあるようです。


 隠しカメラや盗聴器もペンタイプやコンセントタイプに加えて、造花に仕込んであるものなど種類は多彩です。設置環境に応じて選択肢は十分にあります。」

 セーレが自慢げに説明してくれる。


「そうか……じゃあ、サートラの取り調べはひと段落したから、今日はその辺のアイテムに関して説明を受けたい。使えそうなものを選択して、早々に支給していただきたいのだが……この船にもそういったアイテムの在庫はあるのかな?


 もちろん、代金はお支払いすることになるのだが……相場が分からないので、どれだけの量を購入できるかは、本国含めて相談させていただくことになる。」


 サーラの犯した犯罪行為を確定するためにも、まずは脇固めだ……証拠集めのために最新鋭の機器を使用するからには、使い方を知らなければならない。前の世界の俺は、パソコンの使い方は一通り知っていたが、ほとんどがネトゲの分野であり、盗聴や隠しカメラなどディープな面は全く知らない。


 そのため一から聞いておかなければならない……スパイものの映画やドラマに使われていた、ライター型のカメラやボールペン型の発振器など、本当に存在するものかどうか……。


 支払うにしても、いくら支払えばいいものか……価格を聞いてみなければ何とも言えないしな……それでもサーケヒヤーを占領下においているわけだ……シュブドー大陸との交易において莫大な利益を上げていたはずで、その使い道だった軍事費は今は存在しないわけだからな……。


 警察機構の整備に相当な出費はあるだろうが、重機関銃や軍艦などの最新兵器を購入しなくても済むわけだから、余裕はあるだろう……潤沢とまではいかないが、ある程度の数は購入できるはずだ。


「はい……はい……この船にも、隠しカメラや盗聴器など一通り在庫はあるようです。ですが……カンヌールとカンアツ両国へ配布するほどの数は揃っていないようですね。


 とりあえず……今あるものだけでまずはご説明して、足りない分は……カタログをお見せしながら、大きさや使い方の説明をさせていただきます。


 来週末にはシュブドー大陸から交代要員を乗せた軍艦が参りますので、その時に追加の品々を御引き渡しすることになります。お支払いに関しましては……十分便宜を図っていただけるようですので、ご遠慮なくお申し付けください……とのことです。」


 セーレがイヤホンマイクからの返答を、笑顔で伝えてくれる。


「そうか……じゃあ、遠慮なく十分な量を調達させていただくことにしよう。


 もちろん……サーラの件の取り調べが終了したら、全てお返しするという条件付きでお貸しいただくということにしてくれ……目に見えない隠しマイクなど仕込まれているかもしれないという不安があれば、うっかり上司の悪口も言えなくなってしまうからな……。


 そうなると職場でも家でも常に緊張しつづけなければならず、ストレスが溜まって人間関係が悪くなる恐れがあるからな。あくまでも、今回の大規模な不正事件に関しての、調査目的のためだけに使い、期限が来たらすべて撤去するということにしておく必要性があるだろう。


 ただで頂く訳にはいかないから、格安のレンタルということにしておいてくれ。多くは無理でもある程度なら、お支払いすることは可能だろうからな……。来週末にでも工兵たちを引き連れてくるから、現場での設置方法や操作手順など、直接指導していただけるかな……?」


 早いところサートラの取り調べや裁判は終了させたい意向があるのだろう……南の大陸はずいぶんと強力的だが、甘え過ぎはよくない……あくまでもフィフティーフィフティの関係である必要性があるから、レンタル契約を申し込むことにした。


 レンタルということになれば支払いで窮することもなくなるだろう……どの道、この騒動が終了すれば不要なアイテムなのだ。


「了解いたしました……設置に関してましては非常に簡単ですが、気づかれずに回収する方法とか……やはりノウハウがあるそうですので、取り扱い説明とともにレクチャーさせていただくそうです。


 ドローンに関しましては、操縦技術も必要となりますので……1週間程度は通っていただいて訓練に参加していただきます。こういった情報戦略に詳しい担当者を派遣してくる予定です。


 私とセーキは一旦その船でシュブドー大陸へ戻ります。お世話になった方々にお礼とお別れをして、5ヶ月後に予定されている定期の交易船にて、再度戻ってまいります。


 戻ってきてからは、またサートラの担当となりますが、いずれはこの間面会に来てくれた……トークさん……の教会へ戻りたいと考えております。

 私たちが留守の間……サートラのことをよろしくお願いいたします。」


 セーレがそう言って頭を下げる。そうか……一旦南の大陸へ戻って、お世話になった人たちに挨拶してくるわけだな……突然記憶が戻ったことにして、消えたくはないと言っていたからな……。


「もちろんだ……サートラが逃げてしまったら、再び捕まえることは困難だからな……今の様子を見る限り、サートラとナガセカオルの人格でいる間は逃亡の危険性はないのだろうが、サーラの人格に切り替わった時が危ない……しかも切り替わったことに、外見上は気づかないわけだろ?


 今はサートラの姿に擬態しているわけだからな……この姿の場合は3つの人格がいつ入れ替わってもいいはずなのだ……サートラはサーラを押さえられると言っていたが、どうだか……まだまだ信用はできない。


 拘束具を着せているサートラに対して、乱暴な扱いをしないためにも、慎重に観察して人格が入れ替わっていないか判断するさ。

 サーラとサートラの印象の違いも……なんとなく分かって来たしな……。」


 セーレ達がいない間、サートラの面倒を見ることは了承しておく。下手をすると、この船で寝泊まりすることになりそうだが、5ヶ月間程度であれば仕方がないだろう。


 それに……恐らくトーマと結婚した当時はすでにサーラの人格が表に出ていたはずだ……だから美人だが冷たい印象を受けていたのだが、サートラの人格の時は温かみすら感じる。同じ外観でも中身によってずいぶんと印象が違うということを、痛いほど感じている。こんなにも違うとは……初めて知った……。


 俺自身人付き合いのいいほうではなかったし……元の世界の俺は、どちらかというとその外観から人に嫌われて、白い目で見られる方が多かったから、人の視線というものは全て冷たいものだと感じる風潮があったから、トーマのそれまでの印象も合わさり、サートラに対する感情は固まっていた。


 ところがどうして……サートラなる人物は、本来なら温かみのあるやさしい人間ではなかったのかと、感じ始めている……発端はともかく、カルネが愛して命を懸けて救おうとした相手ということも納得だ。


「では……こちらへどうぞ……。」


 この日は営倉へは行かずに、艦橋2階の会議室へ案内された。そこへ運び込まれた数々のスパイアイテムの説明を受けていく……ううむ……ほくろ型カメラ……なんてものまであるぞ……顔に貼りつけてポケットに忍ばせた親機まで、短距離通信で映像を送って記録するタイプだな……。


 すべてのアイテムのカタログもいただいて、サーケヒヤー王宮へ戻ってからジュート王子とホーリ王子とも相談して、品物と必要数を確定することにした。

 交代要員を乗せた船の出向は明後日の予定なので、明日中に連絡すれば間に合うようだ。 


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