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擬態

「無理じゃな……別の人格の時の行動の記憶は一切ない。別人格がいることすら、記憶が飛んでいることから推察したくらいだからな。じゃから……互いに枕元に連絡事項をかくようになり、そのうちに日記をつけることになったと、昨日話したであろう?


 我とサートラは日々の行動を常に日記に付けておったが、持ってきてもらった日記を見ればわかる通り、12年前の日付から記載がない。サーラには、日記をつける習慣はなかったようじゃな……。


 じゃがしかし……一部の犯罪行為は証拠のビデオがあるのじゃろ?ほかの犯罪行為もサーラが犯したことが限りなく怪しく、本人が黙秘しておるということは、まぎれもなくサーラが……この体の持ち主が犯したことと、結論付けて構わぬぞ。


 全ての罪に対する裁定に、従うつもりでおるからな……。」


 一縷の望み……とばかり確認してみたのだが、ナガセカオルにはあっさりと否定されてしまった。やはり転生してからは、別人格に入れ替わっても、その間の記憶はないということになるな……。記憶がなくても、サーラが犯したと思しき事件に関しては、素直に認めると言っていることからも、嘘ではないだろう。


 だがしかし……それではちょっとかわいそうすぎる……。


「だったら擬態石を使って擬態してもらい、サーラの人格に変わってもらって、改めて取り調べを行うまでだ。

 粉の量を減らせば、擬態している期間を減らせられるのかい?例えば1日限りとか……。」

 仕方がない……短期間だけ擬態させようと、期間短縮の方法を聞いてみる。


「無理じゃな……擬態石は分割できぬ……。」

 あっさりと否定されてしまった。


「擬態石を服用する際は、常に1石丸ごと粉にして服用する必要性がある。量が少なければ擬態が不完全になってしまうのじゃな……部分的に擬態できないとかではなく、完全な擬態化が行われないということじゃがな……つまり完全なるコピーにはなれず、どこかちょっと違う印象を与える程度にしかなれん……。


 これはあくまでも粉にして服用する場合だけであり、身につける場合は擬態石のかけらなど一部だけでは、全く機能しない。粉にして飲む場合のみじゃ……。


 なにせ粉にして百gもあると、一気に飲み込むには量が多すぎでな……茶を飲みながら1、2時間くらいかけてゆっくりと少しずつ飲み込むのじゃが……その間の擬態は不完全なのじゃ。飲み終わって初めて完成する。一度服用すると、効果は50年間のはずなのじゃが……今は生命石の効果に律速される。」


「り……律速……?」


「そうじゃ……もともと生命石を粉にして飲んで若返っても、寿命が延びて永遠の命が与えられるわけではないようじゃな……これも我の経験をもとに昨日までに説明したはずじゃが……我がこの世界へやってきたときに飛び込んだダンジョンにある台座……これはまさに永遠の命が授けられる夢のような場所じゃ。


 恐らくはダンジョンのボスが生き永らえるために、どのダンジョン内にでも存在すると推定はしておるのじゃが、あのダンジョンだけはボスステージの目立つ場所にあったから、誰でも利用できた。ボスを倒す必要性はあったがな……。


 様々なダンジョンを攻略したが、あのような台座は、他のボスステージでは見つけることが出来なんだ……ボス魔物に聞いてみるわけにもいかないでな……つまり、あそこの台座が、我々が利用可能な永遠の命が授けられる唯一の台座であったわけだ。


 それを失ってからは、無理をして命をつないできたわけじゃな……生命石を粉にして服用して若返ることにより、新陳代謝を上げて無理やり生き永らえてきたと言えるじゃろう。


 だからその効果は、10gの服用で1ヶ月しか持たないのじゃ。効果が切れると新陳代謝の活性がおさまり、急激な老化が始まる……この時の体質変化で擬態化も切れてしまい、移動石の効果もなくなってしまうはずじゃな……。」


「本来なら50年間持つ効能が、たったの1ヶ月間で切れてしまうと?」


「そうじゃ……生命石を再度服用するときに、擬態石と移動石も粉にして飲み込む必要性が出てきたのじゃな……かといって、生命石の効果があるうちに追加で生命石を服用すると、そこから何歳か若返るだけで、効果の持続は果たせないのじゃ。切れてから服用するしかない。


 この、生命石の効果が切れているときが、一番死に近い時といえるのじゃな……台座がなければ永遠の命とは言えないということじゃ……。


 幸いにも擬態石は高価ではあるがさほど希少ではなく、養殖によって十分な量が確保されておるし、以前から服用した擬態解消の研究に使うために多めに供給を受けておったから、在庫は十分すぎるほどある。


 さらに移動石に至っては、我以外でその効果を知る者はおらぬから、独占状態じゃ……希少石ではあるが生命石程切迫はしておらん。在庫は十分にあるから1石ずつでも毎月服用は可能じゃ。」


 ナガセカオルが、擬態石や移動石の効果が、生命石の効果が切れると同時に切れてしまうことを説明してくれた。そうしてどちらも、十分な量は確保していることも……。


「そうか……だったら擬態石を粉にして飲ませるしかないのか……それでサーラの人格に入れ替わったとしても、生命石の効果が切れる1ヶ月で効果がなくなり、またナガセカオルの人格に戻るわけだね?」


「ああそうじゃ……擬態が解けてしまうと、我の人格にしかならぬようじゃの……我はサートラの外観の時でも目覚める時はあるのじゃが……サートラは、この姿を嫌っておるようじゃ……だから目覚めることは、これまでに一度もなかった……。」


 ナガセが少し寂しそうに答える……日本人特有の姿を忌み嫌われているのが、残念なのだろうな……それなりに美人ではあるのだが……それでもこの世界の人間からすると、ありえない髪の毛の色なのだろう。


「分った……サーラの人格に戻すとなると、もう一度拘束服を着せなければならないだろうし、一度相談して方針を決めさせてもらうことにするよ。俺としては、やはり本人からの自供を取りたい気持ちがあるから、不自由な思いをさせたとしても、サーラの人格に対して尋問をしたい気持ちがある。」


「いいだろう……サーラの供述を取りたいというのであれば、協力はしよう……この体を使う別の人格の犯した罪は、我も一緒に償うつもりじゃからな。その為に自供が必要というのであれば、擬態石を服用するのは構わんし、拘束もやむを得んから遠慮なくどうぞ……。」


 ナガセはあっさりと、協力を申し出てくれた。やはり彼女は清廉潔白の偉大なる人物なのだ。


「じゃあ、とりあえず本日はここまでとして、明日また来ることにする。擬態化させる前に拘束服を着せることになるから、南の大陸や本国とも打ち合わせが必要だ。今日のところはゆっくりとしてくれ。」


「分った……。」

『ガチャッ』ナガセに別れを告げ、営倉から通路へ出る。


「はい……はい……連合国側としましては、やはり本人からの供述をとるためにも、擬態石を使用してサーラなる人物の人格を呼び覚ますことに異論はないようです。狂暴な性格であることから、その間は拘束もやむなしと申しております。


 ですが……必ず自供をとること……証拠や自供がなければ推定無罪であると……申しております。」


 セーレがすぐにイヤホンマイクからの指示を伝えてくれる。ううむ……サーラの人格を呼び覚ますことができたとしても、簡単に罪を認めるとも思えないのだがな……。


「分った……とりあえず王宮へ戻って、ジュート王子様とホーリ王子様とも相談してみるよ。自供がなくても裁判は可能なようだけど、やはり誰もが納得するような、証拠固めが必要と俺も考えるからね。


 それと……懲役なり禁錮なりに判決が下されたとしても、その間はサーラの人格に目覚めていてほしい気持ちがある。ナガセカオルの人格では気の毒だ……。」


 そうなのだ……これはサーラの人格を呼び覚ますための実験でもあるのだ。サーラの人格の時であれば、俺は極刑の死刑でも構わないくらいに考えている。それくらいに彼女は悪だ……。



 王宮へ戻ってジュート王子とホーリ王子に、擬態石を使ってサーラの人格を呼び覚まし、自供をとることの承認を頂く。案の定、本人の自供がなくても状況から推察するに間違いなく彼女の犯行だから、十分に裁判はできると主張されたが、やはり本人の自供は重要だと説得し、最終的には許可を頂いた。


 そうして本日も、夕刻から軍の兵士とともに訓練を行い帰宅。


「では、申し訳ないが拘束服に着替えさせていただくよ。」

 翌朝、早朝から空母へ出向き、ナガセが拘留されている営倉へ向かい、拘束服へ着替えさせることを告げる。


「ああ、構わんぞ……。」


『ガチャ……バタン』ナガセは素直に従おうとするので、ナーミとセーレだけを残して一旦営倉を出る。こういった作業は通常はトオルも加わるのだが、ショウ同様外観は男なので遠慮させる。危険性のないナガセカオルであることだし、一流の冒険者であるセーレとナーミの2人がいれば、まあ十分だろう……。


『ドンドンドンッ』『ガチャッ』「終わったわよ……。」

 10分ほどして合図があり、ドアが開けるとナーミが顔を出して告げる。


 中へ入ると、拘束服を着せられたナガセカオルの姿が……両足の先は結ばれていて歩けないようにはなっているが、、両袖はまくられていて両手が見える……自由に使えるような状態だ。 


「擬態石の粉を飲むのだから、両手は使えたほうがいいだろうってセーレさんが……。」


 ナーミが、その状態である説明をしてくれる。ああそうか……百gの粉を飲むのだものな……両手を拘束されて、ほかの人間が粉を口元へ運ぶのでは飲みにくいわな……自分のペースで飲めなければ辛いはずだ。 


「これが擬態石の粉です。機械で削ってありますが、通常の粉薬並に細かくしてありますから、飲みやすいと思います。ですが……薬包紙に包める量ではなかったもので……。」


 セーレが持ってきたカバンの中から、大きめのビニール袋を取り出す。透明なビニール袋の中には、白い粉が入っているのが見えるが……確かに量が半端ない。ひとつかみどころか成人男性のこぶし大よりまだ多いくらいではないだろうか……さすが百g……。


「スプーンがありますので、すくって水と一緒にゆっくりお飲みください。」

 セーレが粉が入ったビニール袋と、小さめのスプーンにペットボトルの水をナガセカオルに与える。ペットボトルも2Lサイズだ……確かにそれくらいは必要だな……。


「じゃあ、服用してよいのだな?」

 ティスプーンを持つナガセが、上目遣いで尋ねてくる。


「ああ……ゆっくりでいいから飲んでくれ……むせないようにな……。飲み終わったら、すぐにサートラやサーラの人格に入れ替わるのか?」

 念のために人格の入れ替わるタイミングを聞いておく。


「いや……どのタイミングで人格が入れ替わるのか……自分でコントロールできるわけではないので、我にもわからんのだが……擬態出来たからすぐに変わるということではない。


 これまでにも何度も擬態石を粉にして飲んだが、飲んですぐに意識が飛んでしまったことは一度もないし、 サーラの人格であった時にも、毎月生命石の効果が切れては生命石と擬態石と移動石を粉にして飲んでいたはずじゃ……その時にはすでに擬態は解けていたはずじゃが、我の人格は出現しておらん……。


 実験の失敗で意気消沈して表に出てくるのをやめたせいもあるのだが、擬態石の粉を飲んでいる時間程度はサーラの人格のままだったはずじゃ。


 姿かたちが変わったからと言って、その瞬間に人格が入れ替わるというものではないはずじゃ。少し間をおいて入れ替わるのだろうな……。」


 ナガセが人格が変わるタイミングを推察してくれる……ううむ……コントロールできないというのは厳しいな……だがまあ……飲み終わったらすぐに両手を拘束すれば、間にあることは間に合いそうだ。


「分った……じゃあ、お願いする。あっとその前に……人格が入れ替わったかどうかの確認のために、相言葉を決めさせてくれ。サーラやサートラは、ナガセカオルの時のことは覚えていないわけだね?


 ナガセカオルの時は、千年生きてきたナガセカオルだ……と言ってくれ。外観では中身は判断できないわけだろ?サーラなのにナガセカオルのふりをして、我々を安心させようとされると困るからな。」

 念のために、人格判断のための合言葉を決めさせていただく。


「用心深いことだな……分った……我の人格の時は、そう答えよう……。」


 ナガセがゆっくりと、スプーンでビニール袋の中の粉をすくい、まるでおやつか何かのようにそれを口へ運ぶと水と一緒に飲み込む……これを何度も繰り返していくが、途中で飽きるのか間をおいてはまた飲み始める……大変だ……本来なら、さらに移動石の粉も同じくらいの量を飲むのだから、容易ではないな……。


「ふう……ようやく終わった……」

 透明なビニール袋の中身を全て飲み終え、ナガセがほっと一息つく。2Lペットボトルの水は、全く残っていない。


「じゃあ、悪いが両手を拘束させてもらうぞ……。」


 そういいながらナガセの背後に回り込む、拘束服の両袖を伸ばしてからそれを背中側に回し、後ろで縛りつける。これでもう両手両足の自由がきかないはずだ……と言ってもきつきつには縛れない。


 ナガセカオルと違いサートラはずいぶんと体格がいいというか……女の子らしい華奢なつくりではあるのだが、日本人としても小さめのナガセカオルと比べると、背も高いし手足も長いし、しかも胸も大きくスタイル抜群なのだ……その分を見越して緩めに結んでおく。


 ところがすぐに拘束服がパンパンに膨らみ始める……ううむ……仕方がない……両手両足の結びをほどき、もう一度締めなおす。やはり2人にはずいぶんと体格差があるようだ。


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