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上位ダンジョン攻略Ⅰ

「じゃあ、B−ダンジョン攻略を行うけど、B級ダンジョンからはボスも魔法を唱えてくるから注意をしてね。

 B−では、せいぜい初級魔法までしか使われないけど、圧倒的有利と思われていた遠距離攻撃が、敵にも加わるから要注意よ。しかも範囲攻撃だから、できるだけ分散してお互い距離をとって戦うのよ。


 それと、ほかにも重要な点があって、B−からダンジョン内の罠が増えるわ。落とし穴以外にも毒沼といって、そこに足を踏み入れるだけで全身毒に侵されてしまう罠も隠されているから注意が必要よ。


 慣れるまではあたしが前衛を受け持つから、あなたたちはあたしの足運びを注意して観察して、その通りについてくるように、いいわね?それと解毒薬は必須だから、持ち物確認してね!」


 ダンジョン前で、ナーミが新人冒険者たる俺たちに、注意事項を伝達する。朝礼といったところだな。

 しっかりしている。リーダーとしての素質はありそうだな。まあ、お手並み拝見と行きましょう。


『ガチャッギーィー……』ナーミがギルドから預かってきたカギで、頑丈な鉄格子の柵のカギを解錠する。

 村から徒歩で1時間くらいの近場ダンジョンを選択したようだ。平原の中にポツンと公衆電話ボックスのように立つ直径2mで、高さ3mの円柱状の檻で、68と数字が書かれた看板が横に立っている。


 扉を開けてナーミが中に入り、一歩踏み出すとその姿が一瞬で消える。ダンジョン内に落ちていったのだ。続いてトオルが入っていき、最後に俺が格子扉の内側からフックでロックして、後から間違って入ってこられないようにしてからダンジョンへ降り立つ。


 露払いやハイエナなどの他の冒険者チームは連れずに単独でダンジョンへ入る。ボス戦への体力を温存するために、露払い用の下位クラス冒険者を引き連れるチームも多いようだが、清算時の取り分でチーム同士もめる場合が多いため、ギルドでは推奨していない。


 冒険者チームが倒した魔物たちの死骸を集め、有用部位を販売するハイエナ行為も、上位冒険者チームへの礼金でもめるケースが後を絶たず、こちらもギルドは推奨していない。


 攻略後のダンジョンで雑魚魔物だけを相手に行う初級冒険者用の2次クエストは、獲得魔物の所有権で攻略チームともめないよう、ボス戦攻略後1年以上経過したダンジョンでないと解放されないという決まりだが、この場合は複数チームが同時にダンジョンに入るため、高値で取引される魔物は争奪戦となる場合が多い。


 現実は上位冒険者に取り入って、露払いやハイエナ行為をさせてもらう初級冒険者が、後を絶たないようだ。


 降り立った先は、幅3mで高さも3mほどの、ドーム状の洞窟の中だった。

 鍾乳洞のように、天井からいくつもの突起(鍾乳石)が伸びていて、上方の見通しが悪いし、足元も所々石筍が突き出していて、歩きにくそうだ。中には地面から天井までつながっているものまである。


「じゃあ、行くわよ……油断なく、あたしの後をついてきて頂戴。」


 自分の体より大きいんじゃないかというほどの弓を抱えながら、ナーミが先頭を歩きだす。

 輝照石をナーミに渡し、おでこにつけさせているのだが、狭い洞窟内では巨大な弓が邪魔して前方視界も悪く、かなり歩きにくそうだ。


「えーと……こっちよ……。」

 最初の分岐に差し掛かったが、ナーミは少し考えた後、左側へ進んでいく。

 道順は頭の中に入っているということかな?


『バサバサバサッ』『シュッシュッシュッ』『ドサッドサッドサッ』前方から羽音がしたと思った瞬間、すぐさまナーミは矢を3発発射し、全弾命中したようで黒い影は地上へ落下した。鮮やかな手並みだ。


「ホーン蝙蝠よ……まあこれくらいは、あなた達でも問題なかったわね。」

 撃ち落とした魔物たちから竹でできた矢を回収して、ナーミは進んでいく。

 まだほかにも多くの魔物が出てくるだろうから、トオルが死骸を回収しようとするのは止めた。


「おおっと……ここに落とし穴があるから気を付けてね。」

 ナーミがバランスを崩しそうになるのを何とかこらえ、俺たちの方へ振り返ってからまた歩き出す。


 近づいてみると、直径1mほどの深い穴が洞窟の真ん中に開いていた。恐らくナーミがカムフラージュ用の天板を踏み抜いたのだろう。足を踏み出して全体重をかけてしまったら、そのまま落ちてお陀仏のところだ。


「わっ……きゃっ……ここも危ないから気を付けてね。」

 その後もナーミは罠を後続の俺たちに教えながら、にぎやかに分岐を右に左にと進んでいく。


 途中ブラックゴリラやホーン蝙蝠が襲い掛かってきたが、ナーミが瞬殺した。ブラックゴリラの毛皮は高値で売れるそうなので、トオルが毛皮を剥いで冒険者の袋に収納した。魔物もアイテムの一つなので、冒険者の袋に入れられるのは便利だ。ナーミの借金返済の一助にでもなればいいというので、俺も手伝うことにした。


『ドドドドドドドッ』『シュシュシュシュシュッ』『ドドドドドッ』さらに奥へ進んでいくと、一段と激しい地響きがして、ナーミが矢を射かけるが一向に地響きは止まらない。


「まずいっ!猛進イノシシだ。皮が厚いから竹の矢では簡単には射殺せないし、射殺して心臓が止まっても、その勢いで突っ込んでくると言われている。ナーミ、左右どちらかに飛んで躱せ!」

 すぐにナーミに逃げるよう叫ぶ。


『タッ……』『ドドドッ』『ズッパァーンッ』『ジャボンッ』ナーミが飛びのき、俺は大上段に構えた剣を、突進してくる影に向かって、勢いよく振り下ろす。『ザッパーンッ』猛進イノシシは、ものすごい血しぶきを噴き上げながら、衝突前に左右真っ二つに斬り割かれた。やった……。


「ここにも毒沼があるから気を付けてね……。」

 ナーミが両手の人差し指で地面を指さし、下を見るとナーミのブーツがくるぶしまで、真っ赤な液体の中に浸かっていた。


「なっ……大丈夫か?すぐに解毒薬を……。」

 ナーミのところへと駆け寄る。


「大丈夫よ……問題ないわ……。」

 ナーミは何事もなかったかのように、そのまま歩き始める。防水耐毒性のブーツか……。


 トオルがどうしてもというので、一緒に猛進イノシシの肉を切り分けて、俺の冒険者の袋に入れる。

 居酒屋へもっていけば、待遇がよくなるからな……持ち帰ったほうがいい。


「ふうっ……こっちね……。」

 その後もナーミの指示で分岐を進んでいくが、まだまだ先の見通しがつかないくらい、広いダンジョンだ。


『バサバサバサバサッ』『シュシュシュシュ』『ドサドサッ』またもや羽音がした瞬間、ナーミの手から矢が放たれる。瞬殺だ。


「うわっ」

『シュッシュッ』あれっ?なぜか2匹のホーン蝙蝠が攻撃を逃れて俺たちの方へ飛んできた。すぐにトオルがクナイを投げて撃ち落とす。トオルは自分の獲物とばかりに、さっそく自分の冒険者の袋に入れた。


「上手の手から水が漏れると言ったところか?油断していたのか?それとも疲れたか?」

 俺が放った地震魔法でさえも狙いを外さなかった腕も、長いダンジョンで疲労して鈍ってきたのだろうか?


「そ……そんな……ところ……よ……。」

 先頭を歩くナーミは、そういいながら洞窟の壁に手をついてもたれかかり、あろうことかそのままうずくまってしまった。


「おいっ……どうした?大丈夫か?おいっ……。」

 ナーミの体を起こして揺り動かすが、目をつぶったまま反応がない。意識を失っている様子だ。


「ぶっ……ブーツを脱がしてやってください。」

 すぐにトオルがやってきて、真っ赤な毒沼の色が残ったままのブーツを脱がしにかかる。


「やっぱり……。」

 先ほど毒沼に浸かったナーミの両足は、つま先から青黒く変色し、すでに膝辺りまで蝕んでいた。


「毒にやられているようだが、どうして解毒薬を使わなかったんだ?」

 と、聞いてもナーミは意識がない状態だ。すぐに俺の袋から解毒薬を取り出し、ナーミに飲ませようとする。


「だめだ……こうなりゃ仕方がない。」

 苦い解毒薬を口に含み、ナーミの柔らかな唇と重ね、解毒薬をナーミの口の中に押し込む。

『ゴキュッ』ナーミの喉が鳴り、解毒薬を飲み込んだ様子だ。さらにもう一口。『ゴキュッ』おおいいぞ……。


「うっ……うーん……。」

「おお……意識を取り戻したか?ほらっ、解毒薬を飲め!」

 解毒薬が効き始め、うっすらと目を開けたので、解毒薬の竹筒から直接ナーミに飲ませてやる。


「口移しが上手ですね……。」

 突然トオルがつぶやく……。


「なっ……何を言っているんだ?緊急時だったから仕方がないだろ?」


「ふーん……そうですかね……。」

 そういや、ナーミはトオルのお気に入りかもしれなかったんだ。トオルがナーミをチームに入れたがったのだからな、悪いことをしたかもしれん。次からこう言った場合は、トオルに譲ろう。


『バシャバシャ』ナーミの足とブーツを水筒の水で洗ってやる。ひざ下まで青黒かったのが、血色がだいぶ戻ってきた様子だ。


「どうしてさっき毒沼に浸かった時、解毒薬を飲まなかったんだ?」


「解毒薬を持っていないからよ。言ったでしょ、借金しているって。解毒薬を買いそろえる余裕なんてなかったのよ。それに、替えのブーツもね。飛び出しナイフを仕込んだから、防水機能は犠牲になったのよね。


 このクエストをこなせば借金を完済して余裕ができるから、そうしたら装備を買いそろえるつもりだったの。

 もうじきダンジョンの最下部へ到達するころでしょ?なんとか持つと思ったんだけどなー……無理だったか……悪いわね、お手間とらせちゃったみたいで。このお詫びはきっとするわ。」


 ナーミは悪びれずに笑顔で答える。

『パシッ』その態度に腹を立て、ナーミのほほに軽くビンタを食らわせる。


「馬鹿を言うな……こんな無理して……死んだらどうするんだ?俺たちは何だ?仲間だろ?


 困ったときは、どうして俺たちに頼らない?何のためにパーティを組んで、一緒にダンジョンに来てると考えている?一人当たりの魔物割り当てが減るから楽出来るなんて、そんな考えからじゃないだろ?

 お互い助け合い補い合うためだろ?違うか?」


 なんだかなー……恐らくナーミのこれまでのチームメイトとは、助け合うといった関係ではなかったのかもしれない。お互いがお互いの役割分担を、ただただこなしてクエストを完遂するといった、完全分業制とでもいえるような関係だったのだろう。


 だからこそ自分の弱みを見せるわけにはいかないし、頼ることもできなかった。ナーミのこれまでの態度から、何とはなしに分っていたが、ここまで徹底しているとは……だが、これからは……。

『バギッ』いいこと言ったぁー……なんて考えていたら、左ほほにものすごい衝撃が……。


「何すんのよ、痛いじゃない!いいじゃないのよ、無事だったんだから……それとも何?助けていただきありがとうございましたって、ここで土下座でもしろっていうの?」


 ナーミの鉄拳がさく裂していた……何もグーで殴らなくても……首を支点にあごが回転し脳が揺れたのか、目の前を星がぐるぐると回っている。全く無警戒の上、自分で自分に感動して目を閉じてしまったため、まともに食らってしまった。


「そ……そうじゃな……」


『バシンッ』「人の話をちゃんと聞きなさい!」

 そうじゃないだろ?といおうとしたら、横からナーミのほほに平手が飛ぶ。音からして、これはかなり痛そうだ・・・。


「ワタルは別にあなたに謝ってほしくて言っているのではないのですよ!仲間同士の助け合いということに、気付いてほしいと言っているだけです。恩着せがましく助けたとか助けられたとかではなく、互いを補完し合って協力して目的を果たすのがチームなんだと、そういうことを理解してほしいだけです。


 なんでもできる完璧な人はいません。お互い助け合って補おうということです。そうですよね?」

 トオルが俺の前に割り込んできて、ふいに振り返る。


「はっ……はあ……そういうことです。」

 思わずへりくだって丁寧語で答える。


 俺だってこんな偉そうなことを言える立場ではない。家族とだって助け合おうとか理解し合おうとか考えようともしないで、迷惑だけを一方的にかけ続けた。


 そんな俺に対してでも、家族はできる限り手を差し伸べてくれていたのだが、態度が冷たいとか、厄介ばらいで俺だけを遠ざけようとしているとか、細かなことにいちいち腹を立て誤解して逆恨みしていた。


 この体に転生し、トーマの記憶をもらい、家族とか仲間とかいう人間同士の関係を改めて思い知った。

 ナーミには、元の俺のようにねじれ曲がった目で人を見てほしくない。


「わ……わかったわよ……。これからはちゃんと、助けてほしい時はお願いするわよ……。」

 ナーミは手の跡が付いたほほを膨らませながらも、小さくうなずいた。


「じゃあ、これに履き替えてくれ。ブーツは乾かさなきゃ使えないだろ?」

『ゴトッ』スートのブーツを冒険者の袋から取り出し、ナーミの前に置く。中古で申し訳ないが、かなりの上物だ。昨日ナーミを下着姿にした後で着替えさせたから、サイズはあっているのを確認済みだ。


 ナーミにくれてやるつもりだったが、宿に戻ってから律儀にも返しにきたのだ。装備が満タンで冒険者の袋に入りきらないのだろうと理解したのだが、どうやら違ったようだ。


「それと、弓もこっちを使ったほうがいい。こっちのほうが上級者向けのようだし、小さいから狭い洞窟内では有利なはずだ。ブーツも弓も俺は使えないから、ナーミが使ってくれ。


 他にも昨日着替えさせた装備も全て渡すつもりだが、それは帰ってからでいいな?

 そのまま使うもいいし、中古が嫌なら売ってから買い替えても、高値で引き取ってくれるんじゃないかな?」


 ナーミの弓は防御も兼ねているため、かなり幅が広いしでかい。そのため狭い洞窟内では不利だ。

 特に鍾乳石や石筍が入り組んでいるこの環境で、ここまでやってきたこと自体を感心するくらいだ。


「わかった……有難く頂戴するわ……。」

 トオルのビンタが効いたのか、意外と素直にナーミは装備を変更し、ドデカ弓を冒険者の袋にしまった。


「それから……」

「なによ……まだなんかあるの?」


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