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サートラの処置は?

 何もしなくても彼女の余命は長くはないのだろうが、それでもやはり厳密に取り調べて、正式な判決を下してほしいというのが俺の意見だ。


 そうすることがトーマの祖父や父など、裏工作によって地位を貶められた人たちを再興させることに繋がるのだろうと考えている。


 カンヌール王やカンアツ王が、どのような裁定を下されるかはわからないが、俺は俺の意見を述べて、最終的な方向性を決めていただけばいい。ナーミにはナーミの考えがあるだろうし、エーミの気持ちだって汲んでやる必要性があるだろう。


 トオルはサートラから直接被害を受けてはいないが、俺たちと一緒に生活しているからな・・・それなりの意見は持っているはずだ。


 さらにトークやセーレ、セーキ姉弟たちに加え、もっとも最近犠牲となったサーギ大佐達だって、犯罪に加担していたとはいえ家族がいただろうから、彼らの気持ちにだって寄り添った処遇にしてほしい。


『ガチャッ』「とりあえず当面の間、この船の中でお前の身柄を預かってもらうことにした。


 お前の処遇をどうするかは、一旦戻って協議させてもらうことにする。お前が多重人格ということは、こちらも認識している。それによってどのような裁量が下されるかは、俺にはわからないがね。シュッポン大陸側とシュブドー大陸側での考え方の相違もありそうだ。


 さらにお前は、シュブドー大陸では神にも等しい存在のようだから、余計に気を使わなければならないだろう。十分協議させていただくはずだ。


 お前が打ち明けてくれた、この世界へ転生してきてからの人生を語った様子はビデオに収めてあるから、ダビングしてもらって、まずは王宮に戻って皆に見てもらうことにするよ。


 それでは、本日の尋問は終了だ・・・拘束服は使用しないから、ゆっくり休んでくれ。」

 営倉へ入り、ナガセカオルに今後の対応がどうなるか簡単に説明すると、本日の取り調べは終了したと告げる。


「そうか・・・別人格が犯した罪・・・サートラが犯罪行為に走るなど、ちょっと信じられないことではあるのじゃが、証拠があるというのであれば言い逃れは出来んな・・・同じ一つの体を共有しているのだから・・・我にも責任がないとは言えん・・・。


 どのような裁きが下されようと、従うつもりじゃ。例えそれが、死刑であったとしてもな・・・我はどうせ、永く生きすぎているのじゃから、今更死刑でもないしな・・・。それまでは、この営倉で拘束服なしで過ごせるというわけか・・・有難い・・・感謝する。」


 ナガセカオルはそう言って頭を下げた。別人格に責任を押し付けないのは、さすが王者の風格というか、人間の大きさを感じる。



「これが、尋問の様子を撮影したビデオテープです。」


 空母の最下層にある営倉から、長い長い階段を上がっていき甲板へ達すると、セーレが出口付近にあった連絡箱のようなものから、一本のビデオカセットを取り出して渡してくれた。

 映像をダビングしたテープを届けてくれていたのだろう。


「じゃあ、俺たちはいったんサーケヒヤー王宮へ戻る。サートラをどうするのかは、本国とも問い合わせをする必要性があるし、ある程度方針が出てから戻ってくることになるだろう。


 数日かかるかもしれないが、その間はよろしく頼む。」

 セーレに、数日間は戻ってこられないことを告げて、その間のサートラの面倒をお願いしておく。


「承知いたしました。とりあえず取り調べは終了したのですから、当面食事時など必要な場合以外は、営倉で過ごしていただきます。催眠という、人を操る技を持っておいでのようですから、極力長時間接することは避けたほうがいいでしょうからね。


 長時間のコンタクトが必要な場合は、大人数で対応するよう、営倉担当者にも伝えておきます。

 では、また・・・。」


 セーレが十分にサートラの危険性は承知していると、神妙な面持ちで答える。彼らだって超一流の冒険者だったわけだし、そうそうサートラに後れを取ることはないだろう。



「サートラは、別の世界からやってきたのだと言い出したのですか?」


 サーケヒヤー王宮へ戻り、ジュート王子とホーリ王子にビデオテープを渡しながら、ナガセカオルの主張を簡単に説明したら、2人とも大層驚かれた様子だ。それはそうだろう・・・そんな突拍子もない話・・・俺以外の人間には、信じられるはずもない。


「正確には、サートラと同じ体を共有している、ナガセカオルという別人格が主張しているだけで、サートラの人格に関しては、こちらの世界の出身ということのようです。


 多重人格というわけではなく、全く別の世界で生活していた2人の人物の人格が、一つの体に宿っているということのようです。


 さらに、サーラという性格までも現れていて、こちらこそはサートラに変わる別人格かも知れません。そういった意味では、多重人格であることも想定されます。


 彼女は約千年前にこの世界へやってきて、南の大陸を統一した皇帝の後を引き継ぎ女帝として長く君臨し、文明の発展に寄与したということのようです。


 あくまでも彼女の一方的な主張でしかありませんが、南の大陸の乗員の反応からも、大筋は合っているのだろうと推定しております。

 まずは一緒に、ナガセカオルなる人物に変わったサートラの、取り調べの様子のビデオを見ましょう。」


 とりあえず、サートラとナガセカオルは多重人格というより、はなから別だった人間であることを説明しておく。一寸信じがたいことではあるのだが、俺の体にトーマの人格も残っていて、時々入れ替わるのだということであれば、あながち無理ともいえないだろう。


 元々、この体はトーマのものなのだからな。トーマの場合は、完全に死んでしまっていて、その肉体に俺が転生してきたから、今では俺の人格しか残ってはいないが、サートラの場合は仮死状態か何かだったのかもしれない。医療の発達していない時代で意識不明の状態で呼吸が弱ければ、死んだと診断された可能性がある。


 ナガセカオルが転生してきた後で、サートラが蘇生した可能性は否定できるものではないのだ。


「では・・・謁見室へ参りましょう。」

 すぐに、ビデオ設備が整っている謁見室へ急ぐ。



「はあ・・・彼女の証言が事実であるとするならば、ナガセカオルなる人物は、それこそシュブドー大陸を今のような近代国家へと導いた、恩人ということになりますな。


 さらに、初代カンヌール王やその兵士たちを鍛えあげ、国としての礎を築いたばかりか、サーケヒヤー国建国にも深く関与していたとは・・・こうなると、シュッポン大陸でも英雄と祭り上げられることを行ったと言えますな・・・そんな彼女が、どうしてまた犯罪行為を・・・。」


 ナガセの供述ビデオを途中までじっと見ていたホーリ王子が、腕組みをして考え始める。確かにそうなのだ・・・権力が欲しくて不正な行為をしたというのであれば、そもそも当初から自身で国を興していれば、王国の一つや二つ・・・というよりシュッポン大陸をも制定していたかもしれない。


 そんな彼女が、犯罪行為に走る理由が見当たらないことは見当たらないのだ。


「彼女が犯罪行為に走ったのは、養殖のために使用する精霊球の数を増やすためでしょう。元々は南の大陸から彼女が研究に使用する装置の部品を大量に輸入する見返りとして養殖していたのでしょうが、ダンジョンが崩壊してしまい、今度は自分が生き続けるための生命石までもが多く必要となった。


 いくら養殖しても大半は輝照石に変換してしまい、生命石などの希少石はごくまれにしかできないと言っていましたからね。


 その為より大量の精霊球が必要となり、カンアツ国やカンヌールの軍に精霊球の使用期限を偽って廃棄数量を増加させる必要性があった、その為には軍内部にまで入り込み、将軍たちを抱き込む必要性があったわけです。政府役人たちにも大量の裏金で買収していたと考えられます。


 元々は彼女がこの世界へやってきたダンジョン内にあった、台座でリフレッシュすることにより、千年もの永い年月を生きながらえてくることができたのが、ダンジョンが崩壊してしまい、台座が使えなくなってしまったことから、生命石の供給を確保しようと焦ったのだろうと考えます。


 元の世界へ帰ることだけが目的だったナガセカオルにとって、この世界での地位や金など不要だったので、自ら女帝として君臨することは南の大陸で懲りたことから、あくまでも陰で関わる程度で、サーケヒヤー国内部まで入り込むことは避けていたのでしょうが、それが不幸のもとだったと言えるでしょう。


 今更サーケヒヤー王族と深い関係となって、シュッポン大陸統一王朝擁立ともできなかったため、サートラン商社を使ってカンヌールとカンアツ国へ出向いたのだろうと考えます。」


 トオルが、自らカンヌールへ出向いた理由を説明する。そうなのだろうな・・・平和な世の中が長く続き、今更兵を起こしてこの大陸を統一することもできなかったので、商売として大量の精霊球を手に入れる作戦に出たのだ。


「そうして犯罪行為に手を染めて・・・金で政府役人や軍の将軍たちを懐柔し、精霊球を大量に横流ししていたというわけでしょうね。そうしてそのことに気づいた臣下達を裏から手をまわして貶め、逆に犯罪者として処罰する・・・このころのサートラは完全な犯罪者・・・サーラとなっていたと考えられます。」


 トオルの言葉に付随しておく。トーマの父親を経理不正の背任行為の犯人に仕立て上げたばかりでなく、自分の後ろ盾となっているサーキュ王妃のために、トーマの祖父までをも巻き込んで、側室であったジュート王子の母君を暗殺することに加担したのだからな。


「・・・やはり実験の失敗が、心にダメージを負わせたのでしょう。千年待ってようやく元の世界へ帰れるくらいの科学力にまで発展したのですからね。ところが大失敗して、大切な協力者と帰るためのルートといえるダンジョンを失ってしまった・・・さらに生き永らえるための術も一緒に・・・。


 同情の余地はないとは言えませんが、だからと言ってこれまで彼女が犯してきたであろう犯罪行為を、見逃すことにはなりえません。


 母う・・・サーキュ元王妃は、今朝がたカンヌールに向け彼女の船で出港させました。監視兵を20名つけ、船を引く水竜は玉璽を使ってこの地へ呼び寄せた、野生の水竜に変えてあります。


 3日もあればカンヌールへ到着して、裁判を受けることになります。その時の証言で、サートラがどの程度サーキュ元王妃が行った犯罪行為に加担していたのかも、明らかになってくると考えております。

 一方的な、本人からの証言だけでは信憑性にかけますからね。


 判決が出次第、それを南の大陸側にも伝えることになるでしょうが、カンヌールには死刑制度がありません。

その為、深い恨みなどを抱いている場合には決闘となる場合がほとんどで、犯罪行為に対して訴え出て、裁判へ持ち込まれることは、ほとんどないのが現状です。


 それでも囚人を服役させるための牢獄は、王宮内にも存在しますから、永い永い禁固刑となるのではないかと、推察しております。その場合、サートラの身柄をどこで刑に服させるかも、南の大陸側と交渉していくこととなるでしょう。」


 ジュート王子がため息交じりに話す。彼だって、サートラやサーキュ元王妃の犯罪行為の被害者の一人だからな。何せ生みの母親を殺されているのだ。


 本来なら自らの手で・・・と思っても仕方がないくらいなのだが、カンヌール王同様、温厚な性格をしていて、感情を押さえているのであろう。恐らく犯した罪からかんがみると、サーキュ元王妃の罪も重いのだが、その数や悪質さから考えて、サートラのほうが重い判決となるだろう。


 それでもナガセカオルという別人格が宿っていることから、極刑は俺も望まない。終身刑にでもして、生命石を与えずにしておけば、どうせ永くは持たないはずだ。それがいい・・・。


「世継ぎの命を狙った犯罪者として、カンアツで裁判となれば間違いなく死刑でしょうが・・・カンヌール王の裁定に従いますよ。重大な犯罪行為は圧倒的に、カンヌール国内で発生しておりますからね。


 カンヌールで裁判が行われることに、異存はありません。これは、カンアツ王の承認もいただいております。

 ですが・・・禁錮ということになったとして、サートラを如何にして閉じ込めておくかということを、検討する必要性がありますな・・・いつまでも南の大陸側に軍艦を提供して頂く訳にもいかないでしょうからね。


 いっそのこと・・・ここサーケヒヤーに収容施設を建設してしまいましょうか?どうせ、サーケヒヤー軍は解体せざるを得ません。十万からの兵士を雇っていくような余裕は、新生サーケヒヤー国にはありませんからね。


 凄腕の剣豪たちに関しましては、冒険者には年がいっているため、ギルドの守備隊へ転身させることとしました。砲兵たちと一緒にね・・・人買いなどの犯罪者組織への対抗手段として、ギルドも本格的に防衛力を強化するようです。


 彼らだってそのほうが稼げるでしょうし、その他の兵士たちは警察機構への転職を勧めています。


 元々、軍事大国であったサーケヒヤー国では、有事の際は軍が出てきて鎮圧していたようで、犯罪行為に対する警察機構は弱いので、その補給として十分役立つはずです。勿論カンヌールやカンアツに関しても、警察機構はないと言ってもいいくらいですので、十万の兵士たちの十分な就職先として成り立ちます。


 現在大陸中に派出所を建築中で、元兵士たちを警察官として派遣予定でおります。


 そうなると巨大な軍の基地は不要となりますから、そこの一部を使って刑務所を建築しましょう。軍の施設だけあって塀も高く警備は厳重ですからね。サートラといえども、簡単には逃げ出すことはできないはずです。

 南の大陸にも技術協力いただいて、軍艦同様のセキュリティシステムとやらを導入してもよいですしね。」


 ホーリ王子が、サートラの収容施設に関して提案する。そうか・・・サーケヒヤー軍は解体か・・・十万人だものな・・・平和な世の中には不要な軍だし・・・トーマよりも腕が立つ剣豪もごろごろいたが、彼らがギルドの守備隊・・・甲冑兵士だな・・・名案だ。残りの兵を警察機構へ組み入れるというのも、大賛成だ・・・。


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